
91. 留学について想うこと
私がフラメンコを習い始めた当時は、今のように
頻繁にスペイン人のクルシージョはなかったし、
公演も少なく、フラメンコのバイレビデオもそう
売っていなかった。とにかく、スペイン人のフラ
メンコに触れる機会が、今程なかったのだ。私は
地方に住んでいたこともあって、スペインに留学
してフラメンコを学ぶことに、すごく憧れた。ス
ペインに行くと、自分が変るんじゃないか、すご
く上手くなるんじゃないか、そんな夢みたいな妄
想しか私の頭にはなかった。
しかし、憧れと現実は天と地ほどの差があることに、
経験して始めて知ることになる。
実際に留学してみて、それから何度もスペインに渡
る度に想うのだが、振付けをもらう分には、日本で
行われるスペイン人のクルシージョを受講するのと、
そう大差はないように感じる。もちろんそれは自分
の師事したい人が日本に来ればの話だし、スペイン
ではカンテ付きの稽古がけっこうあるから、それは
それで日本では得られない収穫になる。
私が言いたいのは、スペインに行って、誰に習って
いいか分からない人は、東京などで行われるクルシー
ジョを受講した方が、はるかに効率がいいのでは?
ということである。何故なら、最近はスペインのク
ラスに、たくさんの日本人留学生がいるため、時に
は生徒全員が日本人ということもあるので、日本で
受講しているのと何ら変わりない現実があるからだ。
だから、どうせスペインまで留学しに行くのなら、
踊りのレッスンを受講することに躍起になるより、
日本では習得が難しいスペイン語を学んだり、日本
ではなかなか聴けないカンテコンサートや、ペーニャ
に行ったり、スペイン人の友達と一緒に遊んだり、
日本では体験できないようなことをする方が、実りの
多い留学になると私は思う。
スペインに初めて留学される方に、私からアドバイ
ス出来ることは、まず第1に最低レベルのスペイン
語を習得すること。レッスンの最中、先生がスペイ
ン語でかなり重要なことを説明してくれても、スペ
イン語が分からないと、理解することが出来ないし、
先生とコミュニケーションをはかることも出来ない。
フラメンコをきちんと学びたいと思ったら、スペイ
ン語は必須だ。英語なら、日本にいても、テレビや
ラジオで英語放送を聞くことができるので教材に困
ることはないし、語学学校も充実しているので事欠
かないが、スペイン語の場合その量が極端に少ない
ので、日本でスペイン語をある程度のレベルまで習
得するのは至難の業だと私は思う。スペイン語をモ
ノにするには、やはり現地で学ぶことが絶対に効果
的だ。だから、スペインに留学するんだったら、最
初にスペイン語をモノにする方が、将来的にはとて
も近道になると思う。語学留学すれば、ホームステ
イの手配をしてもらえるし、そこで生きたスペイン
語を学ぶことが出来る上、スペイン人の習慣や考え
方なんかも知ることが出来、収穫が大きいのは間違
いない。
第2に、公演をたくさん観ること。踊りだけではな
く、フラメンコの源であるカンテ(歌)コンサートは、
日本ではほとんど聴けないので、お金の許す限り聴い
て欲しい。観客の反応や空気も、日本とはぜんぜん違
うので、そこからたくさんのことを学ぶことができる。
そして、ペーニャにも、是非足を運んで欲しい。地元
の情報紙や、スタジオの掲示板などに、ライブの情報
が載っていたら、要チェックだ。
第3に、目的意識を明確にすること。そして、失敗を
恐れず、何ごとにもチャレンジすること。
何をしにスペインに行くのか、目的をはっきり持つこ
とで次の行動力につながるし、余計な悩みが生じるこ
となく留学生活を満喫出来ると私は思う。
道を切り開くのは、先生ではなく、友達でもなく、
自分しかいない。 要は、自分次第。積極的に動かなけ
れば、得るものは少ないし、誰も助けてはくれない。
スペインに留学しようと、自分を奮い立たすことが出
来たなら、その勇気をスペインでも持続させて頑張っ
て欲しい。
みなさんの幸運を願って。
2002.09.27.
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