
88. 新人公演ドキュメント5
今年の新人公演の心配ごとは、照明だった。照明も
作品のひとつだから、振付けと一緒に全体のコンセ
プトをたてて、自分で考えなくてはいけない。舞台
経験の浅い私は、舞台経験の多い友達に相談にのっ
てもらいながら、かなり細かく考えてみた。どんな
コンセプトをたてるのかと言うと、例えばこんな感
じだ。
”最初のサリーダ(出だし)のコンセプトは「失望」、
深い海の底をイメージした色で、シルエットで体を
浮き出させ、ギターのメロディーが始まると同時に
サス(スポット)をゆっくり当てて・・・。”
コンセプトが決まって、公演の数日前に、照明担当
者の方と電話で打ち合わせをし、立ち位置の指示を
いただいたので、それを意識して稽古をしたが、本
番できちんと合うかはゲネにかかっていた。
その重要なゲネに、ギタリストがおらず、照明と踊り
が上手く合うか心配しながら踊ることになってしまっ
た。照明の心配もさることながら、ゲネの最中、ギ
ターに頼らず踊ることの難しさを実感した。踊りな
がら空間を把握し、照明を意識したが、私が想像し
ていたように上手く合わず、問題が山積みになって
終わってしまった。
私が舞台袖に戻ったら、スタッフの方が来られて、
「今から休憩に入るから、その間にギタリストが
来れば、もう一度やりましょう。」と言って下さっ
た。ギターなしで音響が分からない上、照明合わせ
が上手くいかなかったから、さすがのスタッフも可
哀相に思ってくれたようだ。 私は嬉しくなって、
慌ててギタリストに電話したが、通じなかった。
気付くと留守番メッセージがはいっていたので、
それを聞いて愕然とした。
「ゲネに間に合わないみたいなので、本番まで時間
もあるし、一度家に帰ります。」
ギタリストのそのメッセージを聞いて、血の気が引
いた。自分の身に何が起こっているのか、よく分か
らなくなってしまった。
スタッフの方が「ギタリストはまだ来ないの?」と
尋ねに来て下さったが、彼は本番まで来ないからゲネ
はもういいですと丁重にお断りした。
楽屋に戻ってぼっーとしていると、ギタリストから
電話がかかってきた。
「何で順番が早まっているって早く連絡をくれなかっ
たんだ。」
彼は電話の向こうで怒っている。ゲネが予定時間よ
り早まることは本人も知っているはずなのに、何故
怒りを私にぶつけるのか理解できず、私も怒りで頭の
血管が切れそうになった。しばらく言い合いをしたが、
感情を押さえて「本番前に一度だけ通しておきたいの
で6時(本番の2時間前)には来て下さい。」とお願
いした。しかし、彼は怒ったまま電話を切った。
信じられなかった。私は怒りと悲しみと不安に襲わ
れ、突然号泣した。
2002.08.24.
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