
87. 新人公演ドキュメント4
2002年7月27日、新人公演当日の朝を迎えた。
蒸し暑いカンカン照りのお天気だ。前日からぜん
ぜん眠れなくて、ずっと心臓がばくばく鳴って
いた。泊めさせてくれた友達がブランチを用意し
てくれたので、世間話をしながら食事をした。
この時だけ、新人公演のことを忘れてリラックス
することができた。
食事を終えた私は、ゲネ(照明合わせをふくめた
リハーサル)の2時間前に、中野ゼロホールに楽
屋入りした。楽屋でヘアセットをして、メイクを
していたら、スタッフの方が来られて、予定より
順番が早くなっているから、もうそろそろスタン
バイして下さいと言う。時計を見ると、予定より
30分以上早い。ちょうどその時、ギタリストから
電話がかかってきた。
「まだ新宿の手前なんだけど、どんな感じ?」
「えっ、まだ来てないんですか?順番が早まって、
もうスタンバイしてって言われたので、早く来て
下さい!」
どうもギタリストは、ゲネの予定時間ぎりぎりに
来るつもりでいたらしい。昨日は、時間より早く
来ると言っていたのに!
私は去年のことを鮮明に思い出した。去年も、
ゲネの5分前ぎりぎりにスペイン人カンタオールが
到着したことを。何だか嫌な予感がした。 慌てて
舞台袖のスタッフのところにいって、まだギタリ
ストが来ていないので、順番を変えて欲しいと
お願いした。
「照明の関係で、順番を変えるのは無理です。
ギターなしでするか、ゲネなしか、どちらかに
して下さい。」
場当たりもせずゲネもせず本番に望むなんて考え
られないことだから、私に残された道はただひと
つだった。
「ギターが来なくても、ギターなしでやります。」
そうは言ったものの、不安になって、カンタオーラ
とパルメロの人に、ギタリストがまだ来ていない
ことを告げた。その時点では大丈夫だろうという
気持ちがどこかにあった。
舞台袖から、何度も廊下にでて、ギタリストの到
着を待った。しかし、いくら待っても、ギタリス
トの姿は現れなかった。私の順番の5分前になって、
カンタオーラの人が不安げにこう言ってきた。
「ギターなしじゃ音響が分からないし、誰かに弾い
てもらった方がいいんじゃない?誰かに頼もうよ。」
そんなことを言われても、東京に知り合いのギタ
リストはぜんぜんいないし、細かい決めごとを説
明している時間はもうないのだ。私はギターなしで
ゲネに望む覚悟をした。
「今さら他の人に頼めないし、ギターなしでやり
ます。ファルセ−タのところはパルマを下さい。」
それでも、まだギタリストが来ると信じて待って
いた。そんな私の気持ちを裏切るかのように、ゲネ
の出番がやってきた。今年は本番前に余計な神経を
使わなくていいよう日本人アーティストにお願い
したのに、まさか裏切られるなんて信じられなかった。
私は怒りに震えて舞台に立った。
2002.08.20.
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