
86. 新人公演ドキュメント3
一番つらかったのは、公演1週間前のエンサージョ
だった。パルメロも加わり、厳しく接して欲しいと
いう私の願い通り、難しい注文を要求してくるのだ。
「そこに、もっと違うリズムを!」「違う振りを!」
「違うセンティードを!」 思い付く限りの振りを
試すのだが、彼らの満足するレベルにはなかなか
達しなかったので、
「次のエンサージョまでに考えてきます。」と逃げ
ようとしたら、
「いつもそういって逃げるから先に進まないんだよ。
次にするんじゃなくて、今するんだ!」と怒られて
しまった。
どうしよう・・・。突然頭が真っ白になった。自分
の未熟さに、恥ずかしい気持ちと悔しさに襲われた。
逃げたくても逃げられない。泣きたくても泣けない。
誰にも頼ることは出来ないのだ。
どれくらいかかったか覚えてないが、私は弱気に
なっている自分と戦いながら、バックアーティスト
達の助けを借り、何とか大きな壁を乗り越えること
に成功した。
今思い出しても、とてもつらい数時間だったが、
その壁を乗り越えた達成感は言葉では表現できな
い程、嬉しいものだった。
だからといって、次のエンサージョが楽かといえば、
そんなことはなかった。どんな要求にもへこたれな
い私を前に、バックアーティスト達の要求はエスカ
レートしていった。
「踊りにキレがない。」「フラメンコっぽくない。」
「リズムが単調すぎる。」「粋じゃない。」「表情が
良くない。」etc,,,,。
そこまで言うか!と思うくらいすごかったので、気
付くと笑いが起こるようになっていた。時には大爆
笑がおこって、エンサージョの雰囲気そのものは
いい感じになっていった。 そして、大きな壁を乗り
越えた私は、踊りのイメージがどんどん広がってき
て、広がれば広がる程振付けをどんどん変えていき
たくなり、結局前日のエンサージョまで、振付けが
決ることはなかった。時間がいくらあっても足りな
くて、あっという間に公演当日を迎えることになっ
てしまったのだ。
2002.08.13.
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