まるまミステリーツアー「まほろば」編


<甘樫の丘>
近鉄名古屋駅(06:30発)―→大和八木駅乗り換え(08:34)―→橿原神宮前駅着―→甘樫の丘(タクシーで5分)

秋の朝のほんのわずかに冷気を感じる陽射しと、朝露に濡れた木々から立ち上る緑の芳香が、甘樫の丘をやわらく包んでいるようでした。「飛鳥を見るなら、まず甘樫の丘へ行け」と教えられたのは、学生時代のもう二十年以上も前のこと。天香具山、耳成山畝傍山に囲まれるような小高い甘樫の丘に上れば、眼下を飛鳥川が流れ、ニ十年前のあの日をほぼ再現するように、懐かしい景色が広がっていました。私が、飛鳥で一番好きな場所です。あれから一度も飛鳥を訪れることはなかったけれど、この風景はずっとずっと忘れることができませんでした。

最初は、飛鳥駅からスタートする予定でした。けれども個人的な思い入れから、同行のTONKOさんにわがままを言って、予定に入ってなかった「甘樫の丘」を朝一番に訪れたのです。万葉集を好む人には、甘樫の丘に対する特別な思いは、多くを語らずとも理解していただけるでしょうか。思えば今年の初め、普段あまり夢を見ることがない私が、甘樫の丘から大和三山を見渡す夢を見たのは、この予兆だったのでしょうか。万葉研究者の犬養孝先生が亡くなったということも、少なからず関係していたのかも知れません。あのとき夢の中では、朗々と万葉集の一首を読み上げる犬養先生のお声が聞こえていました。もちろん、犬養先生とは一面識もなかったのですが。
まさしさんのコンサートトークにある森敦先生の「魂が帰りたがる場所、それが自分のふるさと」という言葉を借りるならば、この丘は私にとってずっと帰りたかった場所、奈良は「日本人の心のふるさと」という以上に意味のある特別な場所のような気がしています。

時の流れを感じるところは確かにいくつかあって、丘への上り道が整備されていたり、遠くに高層の建物が見えたり、それでもこうして見渡せば、透き通った空気の中で、何世紀も前の麗しき大和を想像することができるのです。たぶん、まさしさんも一度は訪れたはずのこの丘の上から、次の行き先の明日香村を望み、思い出に後押しされるようにしてまるまミステリーツアーが始まりました。

<飛鳥駅>
甘樫の丘―(バス5分)―→近鉄橿原神宮前駅―→飛鳥駅

明日香村はすぐ向こうに見えるけれど、直接行くバス便がないので、橿原神宮前駅に戻ることにします。見晴らし場所で10分ほど過ごし、バスの時間に合わせ甘樫の丘を下ります。
近鉄橿原神宮前駅から飛鳥駅までは2駅、所要時間5分ほどです。飛鳥駅前の総合案内所へ寄って「鶴瓶の家族に乾杯」(1998.2.17収録)の中でまさしさんが買っていた「飛鳥王国」のパスポート(100円)を買いました。そう、今回のテーマは「家族乾杯・飛鳥疑似体験」がメインなのです(笑) パスポートには、観光モデルコースや観光ポイントが紹介され、各所の拝観割引券がついていました。まさしさんが借りた「レンタサイクル古都」の、田仲玉野おばあちゃんの姿も見えました。あのとき91歳でした。お元気そうでちょっと嬉しくなりました。

飛鳥総合案内所・・・地図などの各種資料のほか、絵葉書やお土産も売っています。職員の方から、飛鳥について詳しいお話も聞けそうです。私は絵葉書を買いました(笑)

<高松塚古墳>
飛鳥駅から徒歩15分

枚方のきりんさんとお子さん二人、こびとさんが到着して、まずはテレビの放送どおりに高松塚古墳へ向かいます。竹林に囲まれた予想よりもずいぶん小さな塚でした。当時は、竹ではなくて松が生えていたので「高松塚」と呼ばれているのだそうです。残念ながら国宝なので、中を見ることはできません。代わりに、すぐ横にある「高松塚壁画館」に寄りました。まさしさんは、休館日に当って(2月中は閉館)見られなくて口惜しがっていましたが(笑) 中は古墳石室内部の彩色壁画(7〜8世紀)の実物大の複製で、赤、青、金、銀も使って、男女の人物群像と四神(東西南北を護る、青龍(東)朱雀(南)白虎(西)玄武(北))が色彩豊かに描かれていました。石室の天井に描かれているという星宿図が珍しく、豪華な海獣葡萄鏡などの副装品の展示もあり、皇族か権力者の墓だろうということでした。(入館料210円)

<飛鳥藍染織館>
高松塚からタクシーで5分

高松塚を後にした私達は、TONKOさんの手配でタクシーに乗って「藍染織館」を目指します。(飛鳥駅からはバスが出ていません。)他にも聖徳太子の生誕の地とも言われる「橘寺」(鶴瓶さんがニ面石見たところです)や「亀石」、有名な「石舞台」など見どころはいろいろあるのですが、この後を考えるととても見て回る余裕はありません。20年前に見たから、よしとしましょう(A^^;)

藍染織館は、まさしさんが藍染めをしたところです。当然、私達も藍染めしました(笑) お店の裏にある染め場は、放送と全く同じで、違ったのはビニール手袋の厚みぐらい。おそらくまさしさんのときは一番寒い2月だったから、ベンケーシーみたいな白い厚みのある手袋だったのかなと思います。ハンカチ染が1,000円。それぞれに手法を変えて、思い思いの作品が出来あがりました。
ちょうどお昼だったこともあり、入り口横のどっしりとした1枚木を使った大きなテーブルで「そば定食」(1,500円)をいただくことに。箸やすめに出てきたのは「いなごの佃煮」、ところが誰一人食べたことがなくて。きりんさんのお子さんの提案で、誰が先に味見をするかジャンケンで決めました(笑) 1回で負けてしまったのは、こびとさん。勇気をふりしぼって(笑)の検食でした。もちろん、皆も食べましたよ。もう2度と食べる機会はないだろうということで・・・。私は、想像よりも美味しかったと思ったけれど、やっぱりなるべく姿がわからないほうがいいなぁ。でもたぶん、またどこかで出されても、食べられる自信がつきました(笑)

お店は結構繁盛していて、館長で元NHKアナウンサーの渡辺誠弥(のぶや)さんは、厨房で忙しく立ち働いていらっしゃっいました。1階は、中央に喫茶カウンターがあり、他に食事ができる小部屋?が3つあり、藍染めの古布のコレクションの展示と藍染作品の販売、お香なども売っていました。2階は、国文学者鈴木正彦さんの収集した土鈴が部屋いっぱいに展示されていました。元は旧家の造り酒屋だったそうで、どことはなく懐かしく古き良さが漂う感じです。放送の中で、渡辺さんがまさしさんに説明していた家紋の布は、2階に展示されていました。渡辺さんが、その家紋によってこの土地に呼ばれたのではないかという因縁のお向かいの家の瓦の家紋の写真を撮ってみましたが、ちょっとわかりづらいですね。お店の中に、まさしさんのサインがかかってないかと見まわしたけれど、残念ながら見つけられませんでした。

飛鳥藍染織館・・・明日香観光会館前バス停すぐ、9時30分〜16時まで、無休、入館料500円(食事をすると半額になる)TEL&FAX 0744-54-2003

<脇本酒造>
高松塚古墳からタクシーで2分ほど

まさしさんが利き酒をした脇本酒造へ行きました。私はここを見落としてしまって半ば諦めていたんですが、高松塚からタクシーに乗ってすぐに「利き酒できます」と看板があったのを、きりんさん、こびとさんが見つけていてくれたので、飛鳥駅へ戻るついでに寄り道しました。最初、写真だけ撮るつもりでタクシーを待たせていたのですが、利き酒をしている先客に釣られて、ついついフラフラと入りこんでしまいました(笑)
玄関を入ってすぐ右にある利き酒用の部屋の欄干には、あの日のまさしさんのサインが! (お酒造りに使う?)布の袋に書いてありました。
私達がサインを撮していると、奥さん(脇本須美さん)がテレビと同じはにかむような笑顔で「さださんのファンの方ですか。あの放送の翌日、さださんのファンの方がたくさん見えましたよ」とお話してくださいました。「これが、さださんが利き酒したお酒です」とお猪口についでくださったのが「しぼりたて原酒」美味しかったです(笑) 他にも「にごり酒」なども飲ませていただきました。
それから、ご自分もグレープ時代からさだファンだということ、「あのときは「まさか」と思っていたから、ほんとに最後までNHKの人だと思いこんでいたんです。次の日スタッフの人が見えて、さださんだったと聞いてびっくりしました」とお話してくださいました。ご主人も出てきてくださって、みんなで記念撮影をしました。
「脇本酒造」の紹介をHPに載せることを了解していただきました。ありがとうございます!>須美さん

右近橘醸造元 脇本酒造株式会社・・・〒634-0145 奈良県高市郡明日香村野口5-1
                   TEL 0744-54-2025 FAX 0744-54-3825

これが右近橘の酒造りです
大寒のころ、手の切れるような水を私と蔵人が汲みに行きます。私たちの酒造りは、まず水汲みから始まるんです。行き先は、明日香村を流れる残雪の飛鳥川。チョロチョロ流れる源流までどんどんさかのぼってゆくんです。うれしいことに、この「飛鳥川源流水」が力となってみなぎり、私達の酒造りを支えてくれます。不思議なことです。
それから、この明日香に合った酵母を使って、私と蔵人がひとつひとつ、ゆっくり、ていねいに醸した酒が、この右近橘です。やっと数年前美しい明日香の山、川、風景がそのまま味にとけこんだ自分達に納得できる酒が出来るようになりました。今年もまた、風土そのままといってもいいような、素朴で力強く古代ロマンを彷彿とさせる味に仕上がりました。代表取締役 脇本元靖

脇本酒造では、発送もしてくれます。私は、しぼりたて原酒、たちばな、にごり酒、各900mlを注文しました。届くのは1ヶ月先ぐらいということです。お正月休みの楽しみにとっておきます(笑)

*まさしさんは飛鳥大仏も見に行かれていましたが、今回はパスしました。

<秋篠寺>
飛鳥駅―→橿原神宮前・乗り換え―→大和西大寺駅―→秋篠寺(タクシー5分)

橿原神宮前駅から大和西大寺までは急行で30分。秋篠寺へは、大和西大寺からバスも出ています。

秋篠寺の「伎芸天」は、私の大好きな仏像です。二十年前に彼女に会ったときから、憧れつづけてきました。作家の堀辰雄が「東洋のミューズ」と賛えたその微笑みは、見る者すべてを惹きつけずにはおかないようで、まさしさんも「夢しだれ」(アルバム「あの頃について」)の中で、〜昼閑なる秋篠の伎芸天女の面影を 君の横顔に写し〜と歌っていらっしゃいますが、他にこんな記述も残っています。

国鉄奈良駅前のホテルの和室をとって、一日目は何もせずにごろごろして、ギターを弾いて遊んで過ごした。二日目に西大寺北の秋篠寺へ行った。名にし負う伎芸天女像は、すばらしいものだった。右下から見上げた時の、厳しく端正なお顔は、恋人に冷淡にされた時の様なショックを受けるほど。又、芸についての内面を示される様な苦悩を教えられる。
正面から見上げたお顔はまた、おだやかでふっくらとした、優しいお顔で、何やら観る者の心を安らげ、抱擁される錯覚すら覚えた。最後に左下からお顔を見上げた時に、おそらく万人は恋をするであろうと思う。アルカイック・スマイルなどという言葉があるけれども、じれったい位、的からはずれた言い方だ。慈悲という言葉や、愛情という言葉を並べて、一気にその禁欲的な響を解放してしまって、むしろ情欲の能動を付加した程の、つまり、極めて、人間的なお姿である。(中略)
これほど、色々な事を考えさせてもらえたのは久し振りである。それこそ、真の芸術作品だから、と言えるのかもしれぬが、もっと、人間としての底の底にある、あらゆる悩みの根っ子について、伎芸天は語ってくれたのかも知れない。自分の欲や見栄やうぬぼれや、楽しみ苦しみについても語ってくれたのかも知れない。哀しいかな、まだ俺には、そのメッセージを正確に受け取れるだけの力など無いが、だからこそ伎芸天は、今後も自分にとって大切な人になるだろう確信を抱いた。すばらしい人に出会った。(昭和57年7月、まさしんぐWORLD)


実は、私も伎芸天について文章を書き、校内の国文学会の会誌に載ったのです。私が、伎芸天に会ったのは、まさしさんより3年も前。まさしさんより先に彼女を知っていたことが、ちょっとした自慢なんです(笑) ついでに私の文も載せておきます。気が向いたら読んでみてくださいませ。

伎芸天は、その名のとおり芸能を主宰しています。まさしさんのお仕事がうまく行きますようにと、お祈りしました。ささやかですが、私にできることと言えばこういうことぐらいですもの(A^^;)
伎芸天女とくれば、お次は法隆寺・夢殿と行きたいところですが、こちらもまた時間の関係で寄れませんでした。機会があれば、桜の時期に行って「夢しだれ」を見てみたいなぁ。
さて次はいよいよ、私が一番好きな名曲「まほろば」の舞台、奈良へ入ります。
つづく