まるまミステリーツアー「まほろば」編

「まほろば」は、400曲におよぶまさしさんの曲の中で、私が一番好きな曲です。
ほかにも素晴らしい曲はたくさんあるけれど、自分なりの「さだ歌べスト10」を上げるならずっと1位を譲ったことはありません。それは、歌詩の中に万葉集を引用していて文学的香りがするからというわけではないのです。
「例えば此処で死ねると 叫んだ君の言葉は必ず嘘ではない。けれど必ず本当でもない」と歌ったところが、いまだに私の心をとらえて離さないのでしょう。人の心は自分ではそうとは知らず、移ろいゆくもの。恋人であれ、誰であれ、自分すらそれを止めることはできなくて。それでも悠久の歴史の中では、短い命の営みにしかすぎないのです。


秋篠寺の伎芸天女に別れを告げ、大和西大寺駅から奈良駅へ。2駅で4分ほどです。途中車窓の向こうに、鮮やかな朱色の「朱雀門」が見えました。「青丹よし奈良の都」のここが最後の都の名残り。二十年前「朱雀門」は、まだ復元されていなかったけれど、平城京の碁盤の目のどこかに確かに私は立っていたのです。あの日初夏の風に乗って、あえかに聞こえたように思えた大路を行き交う人々の沓音が一瞬蘇ってくるようでした。

<興福寺>
近鉄大和西大寺駅―→近鉄奈良駅

近鉄奈良駅から東に向かって歩けば、ほどなくして奈良公園に着きます。約5Kuの広さの大きな公園の中に、興福寺、東大寺、春日大社が含まれています。まずは手前の興福寺へ。興福寺は、国宝の伽藍が多く五重塔(国宝)は、東大寺大仏殿とともに奈良のシンボルと言われ、高さ50.1mは京都の東寺五重塔についで日本で二番目の高さだそうです。五重塔まえを右に下って行くと、有名な猿沢の池。ここは立ち寄りませんでしたが、池ごしに五重塔を仰ぎみるのもまた趣深いと思います。

まさしさんが「まほろば」を作ったいきさつは、「噺歌集」などに書いてありましたが、興福寺をコースに選んだのは、こんな記述があったからです。

ぶらぶら歩いて夕方になったし、疲れたから、興福寺の山門のところに一人でぼーっとすわってたら、芥川の世界に入っていったんです。羅生門、杜子春、蜘蛛の糸、いろんな芥川の作品が思い出されてきて、もしあの蜘蛛の糸を切ったかん陀多が恋人の姿を見つけたら果たして糸を切っただろうか、いっそ二人で落ちようかと思ったんじゃないだろうか、そんなことを思ってたらちょうど夕陽が落ちていくところで、真っ赤な、大きな柿のような夕陽がきれいだった。この世のものとは思われない光景でしたね。(「噺歌集4」の備考より)

夕暮れの迫る奈良公園では、角切りが済んだ牡鹿たちが道ばたに座りこみ、せわしなく行きすぎる観光客をしり目にくつろぐ姿がありました。武甕槌命(タケミカヅチノミコト/春日大社の祭神)が、白鹿に乗って現れたという伝説から、奈良では鹿を大切にしているのだそうです。

<東大寺>
近鉄奈良駅より徒歩15分

まるまなら絶対にはずせないのが、「東大寺」ですね(笑) 公園に沿った歩道を進みながら、途中左手にしだれ桜が美しいと言われる氷室神社を行き過ぎ(シーズンオフですから(A^^;))左折すると東大寺への参道。右折すると「飛火野」があるけれど、今回はとても行けませんでした。
高さ25メートルの歴史を感じさせる東大寺南大門を入ると、正面に大仏殿が見えます。ちょうど「閉門(16時半)を30分延長します」というアナウンスが・・・よかった〜!! そこでまっとうな観光客なら、ここで「奈良の大仏さん」を拝観するはずなのに、まるまツアーの私達は奥の二月堂に行かなければならないので、中門越しに見るだけでした(A^^;) だいぶっさん、ごめんなさい。もちろん時間があれば、すみずみまで拝観したかったけれど。
落慶法要コンサート(昭和55年10月17日)は3人とも見ていないので、「まさしさんは、あの辺りで歌っていたんだね」なんて確認しあいました。まさしさんが寄付した瓦もあるんですよね(笑)



二月堂は大仏殿からさらに10分ほど上がったところに、国宝の三月堂と並ぶように立っていました。斜面に立てられた様式は、懸崖造りというそうです。堂下は、お水取りの香水を汲み上げる非公開の閼伽井屋(あかいや)があります。回廊からは奈良市街を見渡せ、ちょうど向かいの山(生駒山?)に夕陽が沈むところでした。落ちていく夕陽のスピードはとても早く、眺めていたのはほんの短い時間でしたが、「まほろば」の歌の雰囲気をじゅうぶんに堪能しました。日が沈むのを見届けた壮年のご夫婦が、そっと手を合わせ拝んでいたのがとても印象的でした。この次ここに来るときは「修二会」の頃がいいなぁ。凍えるに違いないけれど(A^^;)

まさしさんの足跡をたどる短い旅は、こうしてまるで駆け足で終わりました。秋冬は日の暮れがとても早く(寺社の閉門も早いため)、1日でどれだけ見て回れるか時間との戦いでもありました。ミステリーツアーと題したのは、古代にタイムスリップしたようにさえ感じる旅だったことを振り返ると、なかなかのネーミングだと思います。(ネーミングありがとう!>TONKOさん)おおまかなコースを決めてあるだけの、なりゆきの旅ということもあるけれど(A^^;) 
「夢しだれ」の法隆寺、「まほろば」は、春日大社、万葉植物園、ささやきの小径、飛火野、行き残したところがまだまだあります。当尾の岩船寺、浄瑠璃寺は、ずっと昔に行ったことはあるけれど、まさしさんにゆかりの場所として、もう一度出かけてみたいところです。それから毎日放送の山の辺の道散策・・・元気に長生きして、これからも「まるまツアー」を続けなきゃ(笑)
もちろんまさしさんもお元気で頑張ってもらって、新しい課題を出してもらわないとね(笑)

すっかり日が落ちて本当に泥むような夕暮れの中に、鹿の鋭い鳴き声が聞こえてきました。鹿の鳴き声を聞いたのは初めてです。お互いを呼び合うような、どことなく寂しげな鳴き声が、背後の若草山(三笠山)にこだましているようにも感じられ、ふと見上げると、空に満月・・・

日は昇り 日は沈み振り向けば 何もかも移ろい去って 青丹よし平城山の 空に満月

終わり   BACK