お金が続かなくなってきた頃,ドラマーのUさんが新たにまた別のジャズクラブのレギュラーを獲得してきました。

和郎は急いでタキシードをあつらえ、また仕事を始める日々が続きます。

そのお店は2ヶ月単位でアメリカ人のジャズシンガーがレギュラー出演する所で、
毎日夜8時からおよそ40分のステージを4回演奏します。
終了するのは夜中の1時半でした。

和郎は英語がわからず,しかも常識的なスタンダードジャズの知識というものを
まったく持っていませんでした。
マニアックなマイルスデイビス、ハービーハンコックばかり練習していた和郎は、あるときメンバーにこんなことを聴いてしまいます。

「グレンミラーオーケストラって何ですか?」
「茶色の小瓶って?」
和郎はメンバーに笑われてしまいます。
ほとんど失笑です。

こうして和郎はその日知らなかった曲をメモして、家で翌日の仕事の時間までに必
死に覚える日々が続きます。
さらに、和郎はお客さんに
「あの曲をオスカーピーターソン風に弾いてくれ」
といった、マニアックなリクエストをされることも多く,
自分が全然好きではなかったピアニストのプレイも勉強したのでした。

 

 

 

 



2度目には「知りません」とはいえなかったこのプロの世界で,
和郎は次第に成長していき,当時覚えたスタンダードジャズは底知れず,
そうしていくことが、後の和郎の財産となっていったのでした。

さて、再度就職口を見つけ、スタンダードジャズを頭に叩き込む生活が続いていた和郎。
ハードな毎日ながら、なんとか頑張っていました。

しかし、そのお店は4ヶ月で経営不振になり、
予算の関係で生バンドを雇うことはもう出来ない、
ということになってしまいました。

和郎は仕方なく,北新地の街のナイトクラブを転々とする生活を続けます。
あるときは佐川満夫さんの経営するお店。
あるときはコンパニオンが全員テニスウェアを着衣しているお店。
またまたある時は・・・

そのころの和郎はすっかり元の「夜のナイトクラブの伴奏」に
舞い戻ってしまいました。

「これではいけない・・・」
そう思った和郎はあちこちに自分を売り込み歩きます。