そんな日々を送りつづけていたある日、
他の高級クラブのショーからも声がかかるようになります、
その中で、和郎の興味をそそったのは、
ピアノだけでなく、バンドで演奏できるナイトクラブ「ダーリン」というお店からの誘いでした。

「もうお客さんの伴奏を、しなくてもいいんだ!」
そう思った和郎、すぐさまそちらのお店で働くことを決意します。
そこには、プロの世界がありました。


初めて、有名歌手「園まり」さんのバックを担当した時は、すごく緊張しました。
15歳の和郎を見て、園まりさんは一言。
「あら、今日のピアノの先生、かわいいわね」
と言ったのが、和郎にとってとっても恥ずかしい出来事でした。


さて、高校を卒業すると、和郎は母に黙って家を出てしまいます。
母にとって、和郎がクラブでピアノを弾いていることがとても嫌なことだったのです。
しかし、和郎にとってみれば、家計を助けるために始めたこと。

そんな二人の考えのすれ違いから、諍いが何日も続き、和郎はとうとう家を出て行ってしまいました。


ひとりで生活を始めた和郎。でも、やはり母の願いはかなえてあげたい、
と思いました。和郎は母が望んでいた音大への入学のために、夜のバイトを辞め。
受験勉強をはじめます。

 

 

 

その一方で、ひとりで生計をたてなければいけません。

和郎はなんばのアパートで勉強しながら、昼間の時間を有効に使うことが出来る、アンケート調査員のバイトを始めました。

アンケート調査とは、企業の商品の使い心地とか、こんな商品を使ったことがありますか?どんな印象ですか?などの質問事項に答えてもらう仕事です。

たくさん歩き、知らない人の家を訪ねていく仕事なので、
とてもハードでしたが、
和郎はその「1件1500円」と「交通費支給」というそのアルバイトにすぐさま飛びつきました。

そのバイトに必要だったのは「好感度」と「怪しまれない格好」
和郎は朝起きるとすぐに縦じまのオーバーオールに着替え
、いかにも「学費のためにお金を稼いでいるんです」といった素振りを
大袈裟に見せながら、
何十件ものアンケートをゲットしていきます。

そんな働きぶりを見て、そのバイト先のボスがあるときこう言いました。
「正社員になってくれないか?」

和郎は少し迷いましたが、やはり、ピアノを自分の職業にしたい、
という思いがありました。
「音大を受験するので、アルバイトでお願いします」
和郎はそう答えました。