その一方で、ひとりで生計をたてなければいけません。
和郎はなんばのアパートで勉強しながら、昼間の時間を有効に使うことが出来る、アンケート調査員のバイトを始めました。
アンケート調査とは、企業の商品の使い心地とか、こんな商品を使ったことがありますか?どんな印象ですか?などの質問事項に答えてもらう仕事です。
たくさん歩き、知らない人の家を訪ねていく仕事なので、
とてもハードでしたが、
和郎はその「1件1500円」と「交通費支給」というそのアルバイトにすぐさま飛びつきました。
そのバイトに必要だったのは「好感度」と「怪しまれない格好」
和郎は朝起きるとすぐに縦じまのオーバーオールに着替え
、いかにも「学費のためにお金を稼いでいるんです」といった素振りを
大袈裟に見せながら、
何十件ものアンケートをゲットしていきます。
そんな働きぶりを見て、そのバイト先のボスがあるときこう言いました。
「正社員になってくれないか?」
和郎は少し迷いましたが、やはり、ピアノを自分の職業にしたい、
という思いがありました。
「音大を受験するので、アルバイトでお願いします」
和郎はそう答えました。