10月14日 曇りのち晴れ

朝食はこの日もお茶漬け。が、前室での調理もためらわれるほどの強風で、風でコンロが倒れてテントに燃え移ったりしたら一大事と思い、火は使わないことにした。前夜に沸かしてテルモスに入れておいたお湯は、シュラフに入れて一緒に寝たにもかかわらずとてもぬるくなっていて、冷え冷えになった前夜の残りご飯にかけて出来上がったお茶漬けはヒンヤリとしていた。
そうこうしているうちに風はますます強くなってきて、テントが揺すられる。これも帰宅後に山荘の気象記録を見たら、6時の風速は14.2m/sとなっていた。そんな強風の中をテント撤収開始。夜が明けてから強まった風のせいか、フライ内側の結露が消え去っていたのはラッキーだった。また、昨夜の霰から雨か雪を心配したが曇天で降水はなく、撤収は意外とスムーズにすんだ。テントの底は自分たち自身の熱で結露し、凍り付いていた。
予報が好転
空は曇ってはいるが高曇り。視界はよく、富士山や昨日山頂からは見えなかった頸城や浅間もきっちりと見えた。山頂に三脚を構えている人が数人いるのがテント場からも見えた。日の出は見られなかったが、太陽が上がりきってから雲間から日が差して常念が黒く浮かび上がったさまは素敵な光景だった。きれいな普通のご来光よりも、ずっと感動的な眺めだった。西の空も雲が流れているが、悪さをしそうな雲が見当たらない。もちろん白山もよく見えて、ホントに雨が降るのか疑わしく思えた。相棒がトイレに寄っている間に小屋で今朝の天気予報をチェック。するとなんと予報は一転して晴れになっていた。今日はどこも寄らずに槍沢を下りて帰宅するつもりでいたが、そんなこと言ってる場合じゃない。昨日あまり展望のよくなかった山頂に再びアタックするか、当初の予定通りに南岳まで歩くか。我々は縦走好きということもあって、南岳縦走に決定。やはり往きと帰りは違う道の方がおもしろい。
ババ平まで水が得られないので、念のため小屋でペットボトルを1本と、缶ポカリ2本を購入した。
7:24 槍岳山荘発(3065m, 1.3℃)


南岳方面へはテント場の中を下っていく。正面の大喰岳がなかなか立派な姿だ。朝一番でまだまだ寒さにこわばっている体には高度差80mの登りが少しつらかったが、右に優美な笠ヶ岳、左には凛々しい常念岳が見えて気持ちよい。少し振り返ると黒部の山々も見えた。薬師岳がでっかい。
7:56 大喰岳(3090m, 1.7℃)


8:41 中岳(3080m, 2.9℃)

ガレた道を登り、ハシゴを通過すると中岳山頂が見え、数分で登頂。北は大喰岳が槍の前に立ちふさがっているが、南の穂高はいよいよ近く大きくなってきた。南岳へと続く稜線の下の岩屑が凄い。昨日登ってきた槍沢を覗き込むと黄葉がきれいだった。ちょっぴり空腹を感じたのを理由に、またもや大休止と相成った。
9:04 中岳発(3075m, 4.4℃)


だらだらと進み、2986mピークを過ぎて岩場を信州側に巻くとようやく天狗原への分岐が見えた。
9:53 分岐(2985m, 6.3℃)

10:13 南岳(3030m, 5.5℃)

山頂からは素晴らしい展望が広がっていた(ぐるぐる写真)。黒部・後立山・頚城・浅間・八ツ・南ア・富士山など、そうそうたるメンツが勢ぞろいしていた。しかしここでは穂高が最大の主役だった。まさしく要塞の趣。逆光で薄暗く見えるのも迫力を増している要素かもしれない。
10:40 南岳発

10:57 分岐着(2990m, 7.5℃)
日本国内では数えるほどしかない3,000mの縦走路はこれでおしまい。高曇りではあったが大展望の稜線歩きは実に気分が良かった。これより天狗原を目指して横尾尾根を下る。東斜面に入れば西風はなくなり、暑くなるだろう。
11:08 分岐発(2995m, 11.8℃)


難所のあとは、巨岩の上を飛びうつるようにして下っていく道。昨日歩いた、北ア的に完璧なまでに整備された槍沢の登りと比べると、この道はかなりの悪路だ。ただ、紅葉真っ盛りの横尾右俣に向かって下りていくので眺めはすこぶる良い。屏風岩の基部には横尾と涸沢を結ぶ道が見えて、あっちもさぞかしきれいだろうなあと思う。左手は天狗原が一望のもと。
12:05 横尾尾根のコル(2720m, 9.0℃)

コルは小さな広場になっている。
コルで左(北)に折れて天狗原へと下っていく。美しい横尾右俣の眺めを目に焼き付けてから歩き始める。天狗原は別名を氷河公園ともいう。見下ろした斜面はいかにも氷河の跡らしく、モレーンのような地形の底に残雪がたまっていた。この下り道も巨岩の間を縫うようにしていくが、岩は尾根のものよりもはるかに大きくて、ささやかな住宅ぐらいはありそうなものまで転がっていた。これらの岩も氷河によって運ばれた岩なのだろう。
氷河公園

この氷河公園あたりからの槍の穂先は完璧な形で、見事というほかない。
13:00 天狗池(2555m, 13.5℃)

あとから天狗池に着いた人たちが「今日はこれなら○時までに小屋に着く」みたいな話をしているのが聞こえて、はっと我に返った。あまりに気持ちよく歩いていて、一日のペース配分を全く考えていなかったのだ(←登山者失格)。徳沢まで行くつもりでいたが、あらためて計算してみるとそれはちょっと無理なようだった。稜線が気持ちよくてのんびりしすぎたせいだ。横尾まで行けるかもあやしいことに気付き、ちょっと焦る。
13:30 天狗池発(2555m, 13.5℃)


昨日美しかったナナカマドの帯は日陰に入っていた。あの色を味わうには午前中に来なければならないのだ。だが逆に、見下ろした西岳斜面は順光を浴びて美しかった。昨日・今日と違う時間の光で見られたのは、偶然だがよかった。
14:14 天狗原分岐(2420m, 8.9℃)

15:19 槍沢キャンプ場(2050m, 10.3℃)

15:49 槍沢ロッヂ(1880m, 10.1℃)
ロッヂのすぐ手前の「槍見」と大書された岩からの槍は遠く、そしてすでに色褪せていた。風呂に入れる槍沢ロッヂに泊まるというのも魅力的な案だったが、ここはぐっと堪える。3分ほど休んですぐに出発。
16:25 一の俣(1760m, 9.6℃)
橋のたもとに大きな岩があって、休憩にはもってこい。ここもまた数分休んで出発する。5時過ぎには横尾にたどりつけるだろう。17:13 横尾(1675m, 9.2℃)
できれば徳沢でキャンプがしたかったが、今日はもうタイムオーバーだ。横尾山荘は今シーズンは改築のためにすでに小屋の営業が終了していて、キャンプの登山者しかいないために閑散としていた。夕食を終えたら19時を過ぎていた。
テントは10張ほどだった。ババ平・槍の肩もそうだったが、ここでも単独か2人のパーティばかりで北アルプスとは思えないほど静かだった。