10月13日 曇りときどき晴れ
4時起床。テント内の温度は8.5℃と、思ったほど寒くはなかった。前夜の残りご飯をお茶漬けにして朝食。日の出は6時ごろなのでまだ真っ暗なのだが、そんな中を槍沢ロッヂを早出してきた単独のおじさん(声のようすからはおじいさんという感じだった)が灯りのついているテントに「すいません、登山道はどっちですか」とでかい声で尋ねたもんだから、それで他の人たちもみんな目が覚めてしまったようだ。徐々に明るくなってきて、高曇りの天気であることを知ったときはちょっぴりショックだった。
6:08 キャンプ場発(2015m, 5.3℃)

沢の左岸をゆるゆると歩いていく。道は北アルプスの超人気コースだけあって、よく踏まれていてなにしろ歩きやすい。空が青くなくては紅葉も映えないが、それでも見ごろの紅葉は美しく、二人して写真を撮りまくりながらきれいだきれいだと連呼しつつ歩く。しかしそのうち上の方が雲に包まれてきた。単なる朝霧だといいのだが。
6:32 水俣分岐(2095m, 3.9℃)


小石の歩きやすい道をジグザグを切って登っていく。
7:34 天狗原分岐(2385m, 6.4℃)


続いて、谷の中央を流れるナナカマドの帯に到達。この赤色がとても美しく、バックに槍の穂先がそびえるさまは絵ハガキそのものだった。
8:24 天狗池(2525m, 14.0℃)

8:51 天狗池発(2535m, 16.6℃)

9:32 天狗池分岐(2385m, 8.2℃)
9:44 天狗原分岐発(2390m, 9.6℃)


いくつかの小沢を渡って道が平坦になり、いかにもモレーンなグリーンバンドを横切ると、いよいよ槍を眺めながらの岩くずの道になる。しかしなにしろ歩きやすい。これほどの急斜面なのに、完璧にジグザグが切ってあってしかもよく踏まれているため、段差らしい段差もない。
10:41 ヒュッテ大槍分岐(2670m, 9.5℃)


坊主の岩小屋の近くで休憩をとってからまた歩き出す。岩くずの、しかし歩きやすい登りがひたすら続く。
11:24 殺生ヒュッテ分岐(2815m, 8.3℃)


肩の小屋へと続くジグザグの道が見えて、やるせない気持ちになる。フラットなジグザグ道がひたすら続く。途中の岩に白ペンキで書かれた「1300」の数字が見えて、なんじゃこりゃと思っていたら、次に「1200」が出現。しばし悩んだが、どうやら小屋または山頂への残り距離のようだ。
12:21 槍岳山荘着(3085m, 8.7℃)


サイト選びにたっぷり30分もかけたがこれが裏目に出て、雲が湧いてきてしまった。取り急ぎ、陣地にザックを置いてサブザックに水筒などを入れて出発。
13:00 槍岳山荘発(3080m, 9.9℃)


13:20 槍ヶ岳登頂(3165m, 7.4℃)

展望はまあまあ。槍から延びる4本の鎌尾根に挟まれた4本の谷は、そのいずれもが見事に紅葉していた。北は遠く立山・後立山から東は常念山脈までよく見えた。東鎌尾根の背後に聳える常念がりりしい。一方、西の黒部の山々は見えたり見えなかったりで、南の穂高はとうとう姿を見せなかった。これが心残りといえば心残りだが、時とともに雲が増えてきたような気がしてきたので下りることにした。
14:06 山頂発(3175m, 11.7℃)

14:24 槍岳山荘着(3075m, 8.2℃)
下りきってから穂先を振り返ると、登山者がロード・オブ・ザ・リングのスメアゴルのようにわらわらと登っているさまが見えた。山頂から下りてきてすぐにテントを張って中に入ったが、15時を過ぎてみるみるうちに気温が下がってきた。
予報が悪化
テント内の温度は、朝のババ平で8.5℃だったのに、ここでは夕方5時ですでに5℃まで下がっていた。夕食後、トイレに行こうと外に出るが、Tシャツ・ウールシャツ・セーターにカッパまで着てもまだ寒い。トイレの建物の暖かさがじんわりと身にしみた。小屋の玄関にはスカパーの天気予報チャンネルが垂れ流しになっていて、それを見ると明日はなんと雨という。明日の行程は翌朝までに決めるとしても、早めに下山する方が賢明だろうと思われた。テントに帰る途中、顔に何かの粒がばちばちと当たった。砂ぼこりかと思ったが、ライトの光に浮かぶそれを見ると色が白い。まさか、雪? テントにたどりつくと、ブルーのフライの上に白い金平糖のようなものがばらばらと散らばっていた。それはまさしくあられだった。テントに入ってあらためてラジオの天気予報を聴くと、岐阜や長野では午後からところにより雨が降るという予報だった。しかたない、素直に下山するか。
3,000m稜線の寒い夜
この夜のテントは全部で10張なかったようだ。ソロか2人のパーティばかりで、我々のテントが一番大きかったかもしれない。寝る頃には気温は3℃まで下がった。水が凍るとヤバいので、水筒類はすべてシュラフに入れて寝た。そして風がかなり強くなってきた。ソロテントは岩と岩の間に張るスペースがあってかなり恩恵を受けていたと思われるが、我々のテントはそうはいかなかった。寒さと風の轟音とで熟睡できず、うとうとしては目が覚めた。その都度枕もとのプロトレックを確認したが、夜中の1時には1.2℃まで気温が下がった。帰宅後、槍岳山荘のウェブサイトで気象の記録を見たら、この時間の気温は-4.5℃となっていた。ダウンのヴェストを着込んで寝たが袖がないので腕が寒く、フリースのセーターに替えてダウンは布団のようにして寝た。寒がりの相棒は毛糸の帽子をかぶって頭までシュラフの中にもぐっていた。足先に使い捨てカイロを入れたが不良品だったようで、すぐに冷えてしまって使い物にならなかった。