Top浮世絵文献資料館浮世絵師総覧
 
窪 俊満(くぼ しゅんまん) 全狂歌その他-江戸
〔一節千杖(ひとふしのちつえ)・左尚堂(さしょうどう)〕
   ☆ 天明三年(1784)
 ◯『巴人集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方赤良詠・天明三年(1784)   〝一トふしのちつえにおくる      一ふしにちよをこめたる竹の子の比はしゆんかんお名は俊満〟    ☆ 天明四年(1784)
 ◯『狂歌すまひ草』〔江戸狂歌・第二巻〕天明四年(1784)刊   〝大和巡   斑鳩やせみ川草履ふみきれてたびの日あしも西の大寺     一節千杖〟   〝社頭雨売  神垣のかた野のみせのさくら飴こなの雪吹(ママ)に暖簾はる風  一節千杖〟   〝柳原こは飯 盛る形りはあたちはかりのこはめしや目もしほしりにこし柳原 一節千杖〟   〝中田甫虫音 虫の音のこゝにいつこと白露はおほかる稲の中たんぼかな   一節千杖〟   〝せり出し  蒼木のもゆる思ひにせり出してみえは二重の帯引の所作    一節千杖〟   〝道哲月   馬道をこへたる土手の紅葉はや月のさんこの鞭に照そふ    一節千杖〟   〝菫     むらさきの帽子の色をすみれとはくろにゆかりの位なるべし  一節千杖〟    ☆ 天明五年(1785)
 ◯『徳和哥後万載集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方山人(赤良)編・天明五年(1785)刊   〝寄生酔神祇  かくかゝんのんではくらす生酔のつみてふつみもなかとみの友 一節千杖〟    ☆ 天明七年(1787)
 ◯『狂歌才蔵集』〔江戸狂歌・第三巻〕四方赤良編・天明七年(1787)刊   〝題しらず  かよふ神なけれどぬしをたのむ身は客をまろめてくれよとの文 一節千杖〟
 ◯『狂歌千里同風』〔江戸狂歌・第三巻〕四方山人序・天明七年(1787)刊   〝歳旦  きのうまでせはしかりつる女さへしろく明ゆく遠山のまゆ 一ふし千杖〟    ☆ 天明八年(1788)
 ◯『鸚鵡盃』〔江戸狂歌・第三巻〕朱楽菅江編・天明八年(1788)刊   〝立春  わりなにて結ひし去年の昆布巻を春たつけふやとく若のさい 窪俊満〟      〈窪俊満が狂歌名を一節千杖から窪俊満にかえたのは天明八年からか〉    ☆ 寛政三年(1891)
 ◯『狂歌部領使』〔江戸狂歌・第三巻〕つふり光序・寛政三年(1891)   〝恋   うき人をみちひく文の封めにぼさつののりをたのむ也けり  窪俊満〟   〝恋   くどけども四角四面なあいさつに百夜も同じ丸寝するなり  窪俊満〟   〝更衣  くれて行春のかたみの花色を袷の裏に見る斗也       窪俊満〟   〝五月雨 ゆく水のそのはげしさは見よりもわけておとます五月雨の跡 窪俊満〟   〝恋   弘法にわびても今はくどかなん石ほどかたきいもが心を   窪俊満〟   〝納涼  深みゐて秋の夕きり思なり吹かよふ風のかほる今宵は    窪俊満〟   〝荒和祓 神前の御燈の油二あらしみたらし川に名を更たり      窪俊満〟   〝初秋  けさは早鳩ふく秋となりぬれば豆粒ほどに露のをくらん   窪俊満〟   〝萩   もろ人のわたらぬ先に玉河をきて見よ秋の七くさの萩    窪俊満〟   〝(秋)恋 労咳といひ立られて胸のみ歟四火のやいとにせもごがすなり 窪俊満〟   〝雁   山田寺僧都は数珠を持ねども祈と見へてをつる雁かね    窪俊満〟   〝老後恋 清水のちかひもなくて恋風の吹は飛ほど身はやせにけり   窪俊満〟   〝九月尽 とりこみし綿の手わさにつみてゆく秋のひと日を打のばしたき 窪俊満〟   〝(秋)恋 やる文の百にひとつは実を結べ冬瓜の花のむだ書にせで   窪俊満〟   〝雪   信濃路や賤がおもての蕎麦かすを隠す化粧かつもるしら雪  窪俊満〟   〝歳暮  松風や春のしたくのかざり藁なう拍子さへさつ/\の声   窪俊満〟   〝雪   月花のさてもその後ふる雪はみなおしなべてかんしこそすれ 窪俊満〟
  ◇「狂歌とこりつかひ 附録」   〝恋   返事せし君か手形のしるしありて恋やせし身に肉はつきけり 窪俊満〟   〝祈恋  いかつちの加茂にいのりしかひあらばふみはづしても落よあだ人 窪俊満〟   〝落葉  吹たつる風の力は唐獅子か谷へ木の葉をおとすはげしさ   窪俊満〟    ☆ 寛政四年(1792)
 ◯『狂歌四本柱』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵あるじ(つふり光)序・寛政四年(1792)刊   〝時鳥 都ほどまちまうけねど郭公聞山里はくらしよきかな   窪俊満〟   〝恋  精進と昼はにげてもうき人よ七つ下りは落て給はれ   窪俊満〟   〝鹿  なく鹿のあいだに一ッ鉄炮の音に哀をますらおのわさ  窪俊満〟   〝擣衣 あたたかに人はきよとてから衣うち明しけり賤は夜寒を 窪俊満〟
 ◯『狂歌桑之弓』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵光編・寛政四年(1792)刊   〝空よりぞくだし給へる春雨のめぐみにめぐむ野への若草  窪俊満〟   (奥付)「華渓稲貞隆書/雪山堤等琳画/尚左堂窪俊満画/彫工藤亀水」    ☆ 寛政五年(1793)
 ◯『太郎殿犬百首』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵光編・寛政五年(1793)刊   〝霞   かちん染ひくはけよりも春霞しかまの海のかたきぬに立つ   窪俊満〟   〝鶯   村竹になく鶯を杖にして春やたてると思ふやまざと      窪俊満〟   〝梅   をみなのみすむ嶋ならでみんなみにむかひてはらむ梅の花びら 窪俊満〟   〝柳   見惚つゝをぢ坊主さへ立とまる雨の柳の洗髪には       窪俊満   〝苗代  せきいるゝ苗代水をへらさじとあら田の烏芋ほり捨るなり   窪俊満〟   〝菫   とふ火野の土は素焼か手遊のつぼ/\すみれ摘るおさな子   窪俊満〟   〝三月尽 行春はしきりにおしくいつもよりはやめと思ふけふの汐時   窪俊満〟   〝卯花  うの花の雪のはしゐに縁先の青すだれをぞかゝげては見る   窪俊満〟   〝葵   神山のあふひのかつらとてこふと未明に出る中の酉の日    窪俊満〟   〝時鳥  小鳥香二三とつゝく手記録に書く子規四月にぞきく      窪俊満〟   〝早苗  暦ほとこまかに植よはしこ田の中段の日ははんけしやうとて  窪俊満〟   〝蛍   池水にほたるのあかりてら/\と灯心になる藺もみゆるなり  窪俊満〟   〝荒和祓 かけそめるきりこ灯籠のあさの葉に肩をなてゝやみそぎするらし  窪俊満〟   〝初恋  涙雨ふると社(こそ)しれおもふ事けふはつせんのはじめよりして 窪俊満〟    ◯『狂歌上段集』〔江戸狂歌・第四巻〕桑楊庵頭光・尚左堂俊満等編・寛政五年(1793)   〝元日  井のふたを結ひしよべは去年となりて若水桶にけさはとく汲  窪俊満〟   〝牡丹  手いれせし牡丹は園のうちばにて春と夏とのきをかねてさく  窪俊満〟   〝首夏  あふひ草からねばけさも春かとて夏のくるまをあらそひやする         茶坊主が着たる袷のひとつもんむかふ卯月とけさはなりにき  窪俊満〟   〝早苗  人まねに早苗の唄をはりあげて声をからすの水呑百性(ママ)            田にうつる雲かきわけてりやうの手にとる玉苗のいきほひぞよき 窪俊満〟   〝七夕  鞠垣の紅葉のはしに七夕のおはこびなさる沓音やせん              織姫の機の糸ほど日をへつゝあふ夜はわづかさをなくる間ぞ  窪俊満〟   〝砧   砧うつ雨だれ拍子ほと/\と耳にもる家の寝つかれもせぬ   窪俊満〟   〝菊   星合のそらとも花を詠めなん名によぶあまのかはらよもぎに         黄と白のその花足袋の庭もせをはかせていとふ菊の霜やけ   窪俊満〟   〝炭竃  みやま木をてゝにこらせて焼かゝはあつはれ炭の竃将軍    窪俊満   〝追儺  四方拝ちかき追儺に雲の上は星ととなへん数の灯台         しばしでもとめたき年の丑の月追儺の弓の桃につなかれ    窪俊満〟   〝別   人形の腰をれとなる別路はみやこの手ふり思ひ出にせよ       〝旅   たべ付ぬ道中すればことさらに箱根の山はむねにつかへる   窪俊満〟        大井川さかまく水に蓮台をおりてやう/\うかみあかれり   窪俊満〟   〝無常  たれ人も不沙汰はならぬかりの宿すむ帳面のきゆるものとて  尚左堂俊満〟   〝恋   ひちかさのうちより落る涙雨それと人目にえもりこそすれ   窪俊満〟   〝神祇  そり橋はいくよへの字をかんなにてかける筆意のすみよしの神 尚左堂俊満〟   〝万歳  雨風をうけ負ならば万歳にことしの花の頃をたのまん     窪俊満〟
 ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕狂歌堂真顔編・寛政五年(1795)刊(推定)   〝取合す料理も春の色なれや和布は蛙をこはうぐひす  尚左堂俊満〟    ☆ 寛政七年(1795)
 ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕鹿津部真顔編・寛政七年(1795)刊   (四方赤良(後の蜀山人)が狂歌堂鹿津部真顔に古今伝授めかして判者をゆずるを寿ぐ狂歌集の詠)   〝春たてばつくれるまゆの玉柳にたるを既に糸といふらん  尚左堂俊満〟
 ◯『二妙集』〔江戸狂歌・第四巻〕唐衣橘洲序・寛政七年(1797)刊   〝松魚(かつお) はつものゝ中にもひての松の魚ふしに油はまだのらねども 窪俊満〟    ☆ 寛政八年(1796)
 ◯『狂歌晴天闘歌集』〔江戸狂歌・第四巻〕後巴人亭つむりの光編・寛政八年(1796)刊   〝桃の花 手折るゝ事をきにして中央の土に咲たるにか桃の花     尚左堂〟   〝更衣  はや夏へこせのあふみよ梅壺の絵合をめす女中周も有    尚左堂〟   〝余花  新かつほくれはそ春にわかれ霜しもふりの句はなき桜花   尚左堂〟   〝神楽  夜もすがら神をはすかし登す也てん/\太鼓にきにきてにて 尚左堂〟    ☆ 寛政九年(1797)
 ◯『よものはる』〔江戸狂歌・第四巻〕四方歌垣編・寛政九年(1797)刊(一説に同八年)   〝梅がもとかをりに酔ふてこち風の顔にさはるもよい心地也 尚左堂〟
 ◯『芦荻集』〔江戸狂歌・第十巻〕紀真顔著・文化十三年(1816)刊   (紀真顔詠)   〝後巴人亭光が三回の忌に集つくるとて俊満がよませければ      三廻りの月日は夢の沢渡のいでゆゝしくもわく涙かな〟    〈つぶり光が亡くなったのは寛政八年四月十二日。その翌年の寛政九年、窪俊満は三回忌にあたって光の追善集を企画     したようである〉    ☆ 寛政十一年(1799)
 ◯『狂歌東西集』〔江戸狂歌・第五巻〕千秋庵三陀羅法師編・寛政十一年(1799)刊   〝雪   住吉の雪はながめの一の宮松に津守の社家もましろに 尚左堂俊満〟   〝納涼  祇園会の頃は四条へ天神のおやまもいづる夕涼哉   尚左堂〟   〝七夕  機やめて星のあふ夜は一とせに一葉の桐生風の西陣  尚左堂俊満〟   〝五月雨 五月雨はさうふ刀の鮫鞘にほち/\はねる軒の玉水  尚左堂〟
 ◯『狂歌東来集』初編〔江戸狂歌・第五巻〕酒月米人編・寛政十一年(1799)刊   〝梅が香もとめる姿のわか菜つみふりの袂を帯へはさめば  尚左堂〟
 ◯『狂歌杓子栗』〔江戸狂歌・第五巻〕便々館湖鯉鮒編・寛政十一年(1799)序、文化五年(1808)刊   ◇巻之上   〝夜梅  夜の梅みて戻りしと女房にいひわけくらき袖のうつり香   尚左堂俊満〟   〝更衣  くれて行春のかたみの花いろを袷のうらにみるばかりなり  俊満〟   〝関月  てる月のかゞみにむかふ関守はなかめなからに髭やぬくらん 俊満〟   〝氷   さめて又百度も寝る寒き夜のいらふさつきの鏡ほとにて   俊満〟
  ◇巻之下   〝逢恋  たきつけはさてやはらかな君がはだ今まで情のこはきには似ず  尚左堂俊満〟   〝片思  わが思ひかた野のみのゝかたうつらふに落ぬ人のかりにたにこす 俊満〟   〝魚   夜かつをやまだ蚊は出ねど夏めきてさしみにほうをたゝく初もの 俊満〟
 ◯『古寿恵のゆき』〔江戸狂歌・第六巻〕朱楽菅江門人編・寛政十一年(1799)序   (朱楽菅江一周忌追悼集)   〝同じこといふておなかせ申よりはたゝそう/\の供にたつなり 尚左堂俊満〟    ☆ 寛政十二年(1800)
 ◯『狂歌東来集』二編〔江戸狂歌・第五巻〕吾友軒米人編・寛政十二年(1800)刊   〝野遊  しるしらぬ野に汲かはす瓢酒きじのほろ酔雲雀舞しつ 尚左堂俊満〟
 ◯『狂歌左鞆絵』〔江戸狂歌・第六巻〕尚左堂俊満・享和二年(1802)序    〈書名の「左鞆絵」は「左巴(ともゑ)」に同じ。「巴」は四方赤良が使用した印章。俊満はこの書名で自らが四方赤     良の門流であることを示したのである。また「左」としたのは自身左利きのためと序にいう〉   (序)「此さき神風の伊勢の国に出たつ馬のはなむけとて、五十々々集といへるを、大人のたまひし其奥       書にも、桑楊の薪継火ひろこり巴字のなかれをくむ尚左堂にあたふと書給へば、やかてましりな       しと四方の赤の一本気を請つたへたるしるしにもなさばと、巻の題名にかふゝらせし事とはなり       ぬ        享和二のとし六月 尚左堂俊満かいふ」    〈序文にある伊勢行きは寛政八年十一月。本居宣長の『来訪諸子姓名住国并聞名諸子』「寛政八」十一月の項に「同月     十三日来ル 一、江戸小伝馬町 窪易(ヤス)兵衛 尚左堂俊満 画工 狂歌師」とある由。(岩切信一郎氏論文「本居     宣長の来訪者記録にみる」『浮世絵芸術』89号)桑楊庵光は寛政八年四月十二日没。この序によると、その当時、     光の跡を継ぐのは俊満だと、四方赤良(後の蜀山人)は考えていたというのである。「五十々々集」は未詳〉    (挿絵)三巻、合計九十四図、すべて俊満画。但し署名はなし   (挿絵)三巻、合計九十四図、すべて俊満画。但し署名はなし    〝題元日  としの朝十より上の雛ごとを笑へる山にかすむ紫          ふるとしに〆て置たる下帯のみつのあしたはゆるむゆたけさ  尚左堂俊満〟    〝春神祇  けんにもる梅は花貝ふたみ潟なますもそれとみゆる伊勢構(ママ) 尚左堂俊満〟    〝初桜   西行忌とむらふころに白かねのねこして植し庭の初花          よしの山こゝろみの桜さく日より名所香ほときいてくる人   尚左堂俊満〟    〝雛祭   ありかたうかさる延喜の古今雛御衣をぬかする京細工人    尚左堂俊満〟    〝夜鰹   高くともねにうなされぬはつ松魚けして胸には手をおかで買ふ           晋子にも見せたし夏の月に又畳へ影のさす松の魚          夜かつをやまた蚊は出ねと夏めきてさし身に頬をたゝく初物  尚左堂俊満〟    〝茶摘   手ぬくひを腰にはさみてしつのをか茶をつむ手つき手前めてみゆ          しほらしや鬼も十六うちむれて山茶もにはな百茶まで摘          今につむ葉上僧正背振山ふりにしよゝに匂ふ茶どころ     尚左堂俊満〟    〝時鳥   仲景を本尊とさけふほとゝきすうの花下しきいて気味よし           ひち笠もつゞかぬ雨のほとゝきす声はほね身にしみるうれしさ          郭公てう左の耳のあか堀の小舟に心よくきく         尚左堂俊満〟
  「狂歌ひたり巴 前編 毛」    〝端伍   呑はやな仙家にいるときくからにこゝの節ぎの石菖のみき   尚左堂俊満〟    〝富士詣  参けいの笠はならひか岡なして法師もみゆる吉田口哉     同〟    〝山伏峰入 泥川を越ても清し俗ながら法に心のそみかくたとて      同〟    〝蚊やり火 すたく蚊はあらおそろしの般若声たちされとたくけふり護摩ほと 同〟    〝短夜   のみに蚊にせめられてねぬ其上に水鶏は口をたゝくみしか夜  同    〝鵜川   夜を丸てうのみにさせつ鵜にはかすねん魚に何の念も夏川   同    〝夏虫   鶏は舌をやすめてゐれとともし火の丁子に夏のむしのとらるゝ 同    〝葛水   涼しさは茶碗の水の浄御原これもよしのゝくすのはたらき   同    〝橋辺納涼 蝋そくのしんら百済百匁かけ高麗はしの夕すゝみ茶屋     同    〝扇    日をよけてすゝめははたか百官名扇をかなめ風をちからに   同    〝納涼   はしゐしてひとへのうへにうちかけの小袖に夏のみへぬすゝしさ          涼しさは露の巻葉や蝋燭のはすに流るゝ池の夕風       尚左堂俊満    〝七夕   こよひきく七夕香の記録にも御の手からのふたつ星かな          機やめてほしの逢夜は一とせに一葉の桐生風の西陣      尚左堂俊満〟    〝月    とり合せす浜にかさる趣向さへ丸めおほせしけふの月影    尚左堂俊満〟    〝重陽   其花はすくに肴歟けふ給ふ氷魚とも御酒にうかふしら菊          舞鶴とみる白菊の上の蝶費長房かと思ふ重陽          盃も庭も九月の九日やかしこの香まてみな菊にして      尚左堂俊満    〝秋菊花  むらさきの花は下緒の結びにてぶしのかはりを烏頭はつとむる 同     〝◎(いしぶし)水にすむ蛙河鹿のあらそひの其いしぶしをやめて音をきく〟    〝紅葉   丹波鍛冶焼やかけゝん焔めく山の紅葉はのこきり刃にて 尚左堂俊満〟    〝秋のくさ/\のうた 露をすふ虫に盛りかふけるかとあぶ/\思ふしらきくの花               御遷宮のおはします日はにきやかに涙こほるゝ秋の夕暮                心なき柿の梢に弓はれはついはむ鳥も秋もとまらす 尚左堂俊満〟    〝初冬   秋作とふりかはりたる鄙のさま冬菜の畑に今朝のしも◎    同〟〈「菌」の「禾」が「必」〉    〝残菊   初冬の発句合に淋しくもさきのこりたるふくろもちきく   同〟    〝会式   お命講かさる桜は焼香に花くもりする小春月かな      同〟    〝山時雨  冬来ても桧原は青く枯やらてしくれにけふるまき向の山   同〟    〝峰雪   名にも似す紅葉の後の雪に又をくらの山のみねのあかるさ  同〟    〝野雪   玉たれのこすの大野ゝ白妙に小便をして雪な黄にせそ    同〟    〝海辺雪  つめたさや雪に同行二見潟かたにかけたるこりもとられす            鳥のあとふみる(ママ)るはかりともし火のあかしの浦の雪をつかねて 同〟    〝月照銀砂 降やみてさへわたる影は月の中のうさきを雪てつくりもやせん 同〟    〝鴛鴦   ねはりあふ油にやにのちやんとして水も漏らさぬをし鳥の中 同〟    〝鷹狩  くるゝのもしらす拳に鷹居てはりしかたのゝ月をみる哉    同〟    〝神楽  宮つこかきる白丁の一徳利はや明ちかくふる鈴のおと     同〟    〝しくれ 傘をさす嶋原駕も江戸目にはぬかるみてみゆる時雨みち哉   尚左堂俊満〟
  「狂歌ともゑ 前編 ゑ」    〝十月のくさ/\  尚左堂俊満        観念のねんにもあらす十夜にはたゝ法然のねんに念仏        いろさめし花野はよるのにしきにて残れる菊をほし入とみん〟    〝雪  頭痛さへわすれて見てし松の葉の針にいたゝく雪のまつしま 尚左堂俊満〟    〝冬のくさ/\のうた  尚左堂俊満        きゝがたの左正宗お火たきにみかんよりまづ燗の湯かげん        小夜ふけて縄手をもとる足音や木履ぼく/\ひさこ聞ゆる〟    〝師走之雑歌  尚左堂俊満        一とせもとゞのつまりとなりにけり名よしの頭門にさしては        樽ほとに腹へは酒をつめ置てそとから縄に巻る寒ごり        さなきたにせはしき暮に玉まつるむかしはさそな盆と正月〟    〝冬神祇  尚左堂俊満        たつ春はこかねの田丸越せんとみちをかせきて伊勢のつこもり        おはらひを袖にうけたる煤とりの妹は其まゝ倭ひめかも〟    ☆ 文化元年(享和四年・1804)
 ◯『狂歌茅花集』〔江戸狂歌・第六巻〕四方歌垣(真顔)編・享和四年(文化元年・1804)刊   〝四方先生判 春のくさ/\のうた  尚左堂      あらそふて通へる虎にみけむかふみなふち猫のつまいとみして〟    ☆ 文化六年(1809)
 ◯『新撰狂歌百人一首』〔江戸狂歌・第七巻〕六樹園宿屋飯盛編・文化六年(1809)刊   〝紅毛もめづらん花の江戸桜いりあひをしむ石町の鐘  俊満〟    ☆ 文化九年(1812)
 ◯『万代狂歌集』〔江戸狂歌・第八巻〕宿屋飯盛編・文化九年(1812)刊   〝梅をよめる  女のみすむ島ならでみんなみに向ひてはらむうめの花ひら  窪春満〟   〝夜梅を    浪華津にさくや此花一昨夜さくやこよひかにほふ只中    窪春満           よるのうめ見てもどりしと女房にいひわけくらき袖の移り香〟   〝梅有喜色をいふを 姫桃の台にほさきえんつけて親木のうめのよろこひの顔 窪春満〟   〝江戸花を   紅毛もめづらん花の江戸さくらいりあひをしむ石町の鐘   窪俊満〟   〝郭公を    ほとゝきす初声きけば大隅のなげきの森の中のよろこび   窪春満〟   〝洛外蛍を   夕すゝの宮川町をゆくほたる尻の光りぞ何ま(ママ)花     窪春満〟   〝盆踊りを   あしなかを長刀なりにふみ出して巴にめぐる木曽の輪をどり 窪春満〟   〝鹿を     春日山鹿はつまこふ外に又せんべいねだる音もあはれなり  窪春満〟   〝旅館聞鹿といふことを  旅は目のうるみ椀なるゆふけ時鹿のねころをきくにつけても 窪春満〟   〝報恩講を   いわしにた鍋までかりてなまくさい中のお寺もまねく報恩  窪春満〟   〝吹革祭を   きゝかたの左正宗御火焚にみかんより先(酉+間)の湯加減  窪春満〟   〝箱根の湯治にまかりて  かまかりて勝手元するたのしさは若衆まじりの底倉の宿 窪春満〟   〝柳原向がもとにて尾上松助が玉藻の前に出たちたる姿を俊満がかけるを見て めしもり    中々に人は狐と化にけりこや九つの尾上松助〟    〈尾上松助が玉藻の前を演じた「三国妖婦伝」は文化四年六月の市村座公演〉    ☆ 文化十年(1813)
 ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「尚左堂」   〝七夕 はたやめて星のあふ夜は一とせにひとはの桐生風のにし陣 尚左堂〟   〝秋夕 御遷宮におはします日は賑やかに泪こぼるゝ秋の夕暮   尚左堂春満〟
 ◯『狂歌あきの野ら』〔江戸狂歌・第八巻〕萩の屋裏住編・文化十年(1813)刊   〝花   吸筒のさゝをかついて隅田川気違水も花の一興      尚左堂〟   〝蚊遣火 すだく蚊はあらおそろしの般若声立されとたく煙は護摩程 尚左堂俊満〟   〝寄蛍恋 狩といふ名を借る夜るの弁当も蛍をだしに恋のうまこと          狩といふ名を借る夜るの弁当も蛍をだしに恋のうまこと  尚左堂〟   〝寄蝶恋 はつとたつなの葉はまゝのかはひらこあふての後はとまれかくまれ 左尚堂春満〟   〝寄蚤恋 愛敬のこぼれる君に喰つかんむねをこかしの蚤となりても 尚左堂〟
 ◯『狂歌水薦集』〔江戸狂歌・第九巻〕四方瀧水楼米人編・文化十一年(1814)序    挿絵署名「尚左堂俊満写」「俊満写」
  
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