ピコ通信/第95号
発行日2006年7月26日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 群馬県が有機リンの無人ヘリ空中散布自粛を要請
  2. 経産省化学物質政策基本問題小委員会
    第3回のトピックスと当会の意見

  3. PRTR法(化管法)に関する懇談会
    第1回、第2回に出された委員の意見
  4. NHK『ためしてガッテン 環境ホルモンを覚えていますか?』を観ましたか
  5. 欧州委員会プレスリリース 2006年7月12日
    欧州委員会がより安全な農薬使用に関する戦略を提案/空中散布は原則禁止
  6. 化学物質問題の動き(06.06.27〜06.07.25)
  7. お知らせ・編集後記「ロハス」


群馬県が有機リンの無人ヘリ空中散布自粛を要請

 群馬県は6月6日、県産業用無人ヘリコプター適正利用推進協議会(JAなど15団体で構成)会員に対して、全国で初めて有機リン系農薬の空中散布の自粛要請を発表しました。
 これは、化学物質過敏症(CS)等の患者・支援者の団体である環境病患者会の要請に応えて出されたものです。
 「有機リン系農薬の空中散布による人体への危険性について、慢性毒性の可能性が否定できないことから、有機リン系農薬に代わる薬剤の使用が可能なこともあり使用を自粛してほしい」としています。
 これまで、有機リン農薬については、CSの主要原因の一つであり、きわめて微量で作用し、しかも長期に症状を残し、精神症状を呈しやすいと言われています。また、農薬の空中散布については、高濃度で使われること、ガスとなって広範囲に拡散することから、影響が深刻であるとして患者団体や環境団体等は有機リンの使用と農薬空中散布の中止を行政や業界に繰り返し要求してきました。
 今回は有機リンに限定しての自粛要請ですが、有機リンの深刻な影響を認めての措置という点で高く評価できます。

【群馬県要請文】
蚕園第736-5号
平成18年6月6日
群馬県産業用無人ヘリコプター適正利用推進協議会会員 様
群馬県理事 田中 修(蚕糸園芸課)
有機リン系農薬の空中散布の自粛要請について
(前略)
 さて、有機リン系農薬は、残留性の少ない殺虫剤等として、無人ヘリコプターによる空中散布においても利用されているところですが、近年では有機リン系化合物の慢性毒性の可能性について指摘する研究結果も出てきております。
 現在のところ、有機リン系農薬の空中散布による人体への危険性について、慢性毒性の可能性が完全に否定できないことから、有機リン系農薬に代わる薬剤の使用が可能なこともあり、群馬県として、有機リン系農薬の空中散布について自粛を要請することといたしました。
 貴職におかれましては、本要請の趣旨をご理解頂き、有機リン系農薬の空中散布について自粛してくださるようお願いいたします。
問い合わせ先:蚕糸園芸課生産環境室植物防疫グループ   電話 027-226-3136

■環境病患者会と52賛同団体が知事へ手紙
 今回の群馬県の措置に対して、環境病患者会の呼びかけによって、53団体で賛同の手紙を出し、当会も賛同しました。
「ぐんま広報7月号に掲載された手紙抜粋」
平成18年6月20日
群馬県知事 小寺弘之殿
 このたびは、全国に先駆けた「無人ヘリコプターによる有機リン系農薬散布の自粛要請」に深く感謝御礼申し上げます。このことを支持する団体や全国で苦しんでいる人たちから、喜びの声が届きましたので御礼のご報告をさせていただきます。
 全国の患者、団体から「有機リンによる症状は、他の有害化学物質と比べてもけた外れに強く、生活を脅かされてきました。家族にすらこの病気を理解してもらえなかったのが、このたびの自粛要請による記事やテレビで初めて理解してもらえました」などの声が寄せられ、皆大変喜んでおります。
 国際的には、特に欧州連合(EU)で、多くの有機リン系殺虫剤は禁止もしくは厳しい規制がかかってきており、その中でもイギリスでは特に強い規制がとられております。
 国の第三次環境基本計画第三節、研究の充実と予防的な考え方も活用した施策決定や脳科学をはじめとした最先端の研究成果に基づき、国際的なレベルに一歩を踏み出してくださった知事のご英断に感動しております。
環境病患者会一同 全国の賛同団体(52)

■群馬県知事から返信
 これに対して6月27日、返事が届きました。
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 知事への手紙をお送りいただき、ありがとうございました。
 今回、群馬県が行った有機リン系農薬の空中散布自粛要請につきまして、 多くの皆様から賛同のお手紙をいただきました。
 有機リン系農薬と慢性毒性との関係については、国会においても慢性毒性の危険性が議論されておりますが、まだ科学的に完全には解明されていないのが現状です。しかし、無人ヘリによる空中散布は、地上散布で使用するときよりも高い濃度の農薬を使用するために健康被害が出る可能性があるとの指摘があります。
 いろいろな意見がある中で、群馬県では、有機リン系農薬の扱いについて、関係職員とさまざまな意見や議論、これまでの研究機関の研究成果などを元に真剣に協議・検討を行ってきました。私としても、農業者の労働過重や費用、患者さんの健康のことなどいろいろ考え悩みました。いろいろ考えた末、県民の健康、安全を守ること、安全な農産物の供給が最も大切であると考え、関係者に自粛を要請することといたしました。
 これからも県民の安全・安心を確保することを基本に、県政に積極的に取り組んでまいりたいと思います。
 なお、群馬県広報紙「ぐんま広報」7月号に、今回の自粛要請をテーマとした特集を掲載しましたので、ぜひお読みください。
(後略)。
 平成18年6月27日
群馬県知事 小寺弘之

 農薬工業会からはすぐに抗議が来ました。(末尾資料参照)
 「今回の自粛要請は、安全性が確認されて登録が認められている有機リン系農薬に対して、科学的・毒性学的事実を考慮しない極めて遺憾な措置と言わざるを得ません。(農薬工業会)」「ぐんま広報」7月号より
 今回の要請を受け、6月16日時点で、昨年度実施した面積のおよそ9割が自粛される予定だということです。
 EUでは、先頃、より安全な農薬使用に関する戦略を提案。空中散布は原則禁止とすると発表されました(10頁参照)。
 私たちも今回の措置がさらに地上散布へと拡大し、全国へ広がっていくよう活動していきましょう。(安間 節子)


〈参考資料〉
平成18年6月2日
農薬工業会
有機リン系農薬の群馬県による散布自粛 要請に対する当会の見解(抜粋)

1.厚生労働省健康局長の国会答弁について
 議事録によれば、慢性の障害を引き起こすおそれがあるとした研究報告の存在を認めたものであり、有機リン化合物による慢性障害のおそれを認めたものではありません。また、当該報告書に対する厚生労働省の見解は現在のところ公表されていません。

2.農林水産省消費・安全局長の国会答弁について
 農林水産省の消費・安全局長は、「有機リン系農薬の特徴的な毒性である神経毒性については、平成12 年に登録に必要な毒性試験項目として拡充を図り、新規あるいは3年ごとの再登録の際にその安全性の確認を実施している」旨を答弁しています。

3.予算委員会で取り上げられた研究報告について
 当該研究報告書は、各種の投稿された論文をまとめたもので、有機リン化合物による情動や精神活動に対する慢性毒性に関しては、あくまで一研究者としての意見であり、そのような実験結果を当該研究者が示した事実はありません。

4.有機リン系農薬の安全性について
 農薬の登録のためには、使用者、周辺住民、あるいは消費者の健康に対する悪影響を防止するために、その時々で科学的・毒性学的に考え得るあらゆる毒性試験成績(急性毒性、刺激性、アレルギー性、慢性毒性、発がん性、催奇形性、繁殖性、神経毒性、薬理など)が要求されています。
 登録が認められている有機リン系農薬については、一般行動を含め神経系に対する影響が調べられています。さらに、繁殖性試験では、親・子・孫動物まで農薬を摂取させ、繁殖・生殖性、子動物の成長や、動物の授乳・哺乳行動など高度な情動や精神活動に係るような影響も調べられています。
 以上のように、当会としては、有機リン系農薬を含め登録されている農薬について使用方法に従って適正に使用いただければ、農薬の使用者、周辺住民、あるいは消費者の皆様の健康に対して悪影響を及ぼすことはないと確信しております。また、当会は、農薬に対する漠然とした不安が存在することも事実と認識しており、今回の情動や精神活動に係る問題についても積極的に取り組み、今後とも皆様に対して「安全・安心」を提供するために邁進して行く所存です。



経産省化学物質政策基本問題小委員会
第3回のトピックスと当会の意見

 2006年7月20日に開催された第3回小委員会を傍聴したので、委員の発言内容を紹介するとともに、当会の意見を述べます。第1回と2回については、94号(06年6月発行)をご覧ください。
 今回の議題は下記の3項目でしたが、必ずしも議題通りの展開ではなかったので、委員の発言内容で項目をまとめました。
 発言委員は(産業)、(識者)、(NGO)、(座長)(事務局)等で示しています。

■議題
1. ハザードベースの規制からリスクベースへの管理への移行についてどう考えるか
2. リスク評価に必要な情報とは何か
3.リスクベースの管理・リスク評価を化学物質管理政策にどのように取り入れるのか

■事務局説明
1.前回(第2回)議事録概要説明
2.ハザードベースの規制からリスクベースへの世界的流れ
3.海外におけるリスク評価の現状
 OECD、アメリカ、EU、日本

■委員の書面による意見説明  佐藤委員、林委員(代理説明)

■委員の発言内容
1. 個体、混合物、廃棄物のリスクアセスメント
▼(産業1):製品(固体)及び廃棄物中の(混合)化学物質に関するリスクアセスメントはどうなっているか?
▼(産業2):上流企業は素材データの情報を出すが、下流企業は用途・製品情報を出しにくい。サプライチェーンを通じて情報が共有できるような仕組が必要。
▼(産業3):廃棄物中の化学物質情報は上流企業だけではなく、下流企業や消費者も含めて共通の問題としての議論が必要。固体中の化学物質のリスク評価は可能。
▼(座長):混合物の評価は必要。どのような体制でどうやるかが課題。製品評価技術基盤機構が単体で150物質の初期リスク評価を行っているが、混合物のリスク評価はこれから。

2. 情報伝達、データの信頼性
▼(識者1):暴露データは正しいのか?(EUではリスクベースが)破綻した場合を考えて、RoHS規制のようにハザードベースも取り入れている。上流から下流への情報伝達は難しい。危険なものはハザードベースで管理することを検討すべき。
▼(NGO):PRTR届出データのチェック機能が組み込まれていない。
▼(座長):環境データとチェックしたことがある。一部、おかしなデータもあったが、基本的にはあっている。
▼(産業1):暴露データはどの位あるのか? データの正しさは担保されているか?
▼(座長):暴露データはあり、評価はむずかしくない。幅は小さい。数年で終わってしまう。検証できる(体内汚染/環境モニタリング)。
▼(産業3):ハザードデータはGLP(優良試験所基準)に基づいてやっている。
▼(識者1):通常の使用状況でない場合の暴露への対応はどうするか。

3. アスベストの教訓
▼(NGO):アスベストのハザードは分っていたのに、「管理使用」でリスクは管理できるとされたが、現実にはこのような大きな問題を生じた。このことを「リスクベースの管理」ではどのように説明するのか?
▼(座長):次回に事務局が説明する。
▼(事務局1):ハザードの大きなものについてはどうするのか議論が必要。

4. 小委員会の検討範囲
▼(識者1):化審法であると理解している。
▼(識者2):労働安全衛生法も含め、現実に起きている事故・疾病について議論しないのか?
▼(識者3):化審法はすでにリスクベースになっている。なぜ、さらにリスクベースに変える必要があるのか?

5. ナノ技術
▼(NGO):ナノ製品が市場に出ているが法規制はどうなっているか? リスクがあると分ったら、どこの責任か?
▼(事務局2):新規物質なら化審法である。現在20物質程度。粒子サイズによる対応はない。化審法(で許可したもの)については経済産業省の責任である。
▼(座長):商品として150種くらいある。多くは既存化学物質。小さいだけ。どういう法律体系ならば目こぼしがないかも含めて検討しなくてはならない。

■当会の意見
1.リスクベースへの流れが下記のように誘導されているように見える。
▼ハザードベースからリスクベースは世界の流れであり必然である。
▼ハザードベースは問題がある。
 ▽リスクは小さいのにハザードだけで評価される▽ハザードが一人歩きする▽企業に情報を出しにくくしている
▼リスク評価の実施に問題はない。
 ▽データはある▽データは信頼できる▽評価はむずかしくない▽(誤差の)幅は小さい▽数年で終わってしまう▽検証できる

2.事務局資料の現状認識
▼化審法は規制的色彩が強かったが、二度にわたる改正でリスクの概念を取り入れた。
▼製造・輸入データの調査法はアンケート方式で、事業者の自主性に依存している。

3.当会の考えるリスクベース管理の問題点
▼リスク評価に基づく管理だけでは、想定外の暴露等、必ずしも対応できない場合があり得る。ハザードの高い物質、残留性・生体蓄積性の高い物質、及び安全情報が十分でない物質については、予防的な観点からハザードベースで規制すべきである。
▼ハザードをリスク管理したつもりでも、常に現実のリスクを小さくできるとは限らない。例えば、現在起きているアスベストの問題は、リスク管理の限界を示すものである。
▼暴露シナリオには用途毎の製造時、使用時、廃棄時(後)の暴露とともに、事故時等の暴露も考慮されるべきである。
▼現実世界での暴露は、単一の化学物質による暴露ではなく、多くの化学物質による 複合暴露である。しかし複合暴露のリスク評価はほとんど行われていない。
▼用量−反応曲線はリニア(直線)だけではなく、低用量暴露ではU字曲線であると主張されている化学物質もある。
▼リスク評価が必要と考えられる物質の数はどの位を想定し、いつまでに完了させる予定なのか?
▼その数とスケジュールに見合うリスク評価のためのリソースは検討しているか?

3.ナノテクへの取組について
▼産総研)などが、平成18年度から、5年間で計約20億円をかけ、「ナノ粒子特性評価手法開発」を実施するとのことである。
▼ナノのリスク評価は非常に重要であるが、それはナノ技術に関する安全評価基準や安全のための法規制を含む国の総合的ナノ政策の一部として位置づけられるべきである。
▼そのような政策は国民に示されておらず、ナノ技術の安全政策に責任を持つ省庁がどこなのかも明確にされていない。
(文責:安間 武)



NHK 『ためしてガッテン 環境ホルモンを覚えていますか?』を観ましたか

 2006年6月28日夜8時から NHK テレビで 『ためしてガッテン 環境ホルモンを覚えていますか? ▽新報告続々 この現実をどう見る? 胎児影響?』 が放映されました。ご覧になりましたか?
 そこでは、"環境省が 「人間への明確な影響はなかった」と報告したことで安心感が広がり、その結果からか、環境ホルモンは生物の生殖をかく乱したのではなく、「人心」 をかく乱したのではないかということすら言われました。しかし環境ホルモンの問題はようやく研究テーマが定まってきたところで、世界中で着々と進んでいるところです" "環境ホルモン対策は予防原則で"−と全く妥当な説明をしています。
 この番組の紹介は NHK のウェブページ で見ることができます。
 http://www3.nhk.or.jp/gatten/archive/2006q2/20060628.html (現在は、この番組紹介はみあたらず、分削除されていると思われる。)
 番組内容については、塩ビ工業・環境協会が「塩ビと環境のメールマガジン NO.087 7/13号」で「視聴者をいたずらに不安に陥れて、偏った関心を持たせる。火のないところに煙を起こす、マスメディアの商法のように見えてしまう」などと批判しています。また、「環境ホルモンについて詳しい情報は、『チビコト(Lohas/環境ホルモン学)』(環境省)をご覧ください」とも書いています。

■番組の内容概要
 番組の内容の概要を紹介します。

「一般的な毒性と環境ホルモンの影響の違い」
これまでの一般的な毒性:
 生死に関わるような影響が、高濃度の場合に起こると考えられています。
環境ホルモンの影響:
 種の存続、生活の質、世代を超えて影響し、微量でも起こるのではないかと考えられています。

「国の環境ホルモン対策」
 環境ホルモン問題に対して、国は迅速に対策を開始しました。当時の環境庁は「SPEED98」というプロジェクトを立ち上げ、環境中の環境ホルモンの濃度を調べたり、魚類や哺乳類に対する影響を調べました。プロジェクト開始から8年たって今、調査した36物質について「人間への明確な悪影響はなかった」と環境省は結論付けています。

「SPEED'98の哺乳類試験」
 環境省は、ラットを使って哺乳類に対する影響を調べました。胎児の段階で物質を投与し、生まれた後にどのような影響が出るか、生後120日間程度調べました。当時リストアップされた67物質のうち、36物質で影響が調べられています(2006年6月現在)。
 環境省は「環境中に存在する濃度では、ほ乳類に対して明確な影響はない」という結論を出しています。

「環境ホルモン 調べは続くよ、どこまでも」
 環境ホルモンである合成女性ホルモンをネズミに与える実験では、生後4日目で与えた場合は、その後の生殖機能に影響は見られませんでした。一方、生後3日目で与えた場合は、そのネズミは大人になってから生殖器にガンが見つかりました。環境ホルモンは、それが与えられたタイミングの微妙な違いで作用したり作用しなかったりするのです。
 一方、性が成熟した後についても影響の有無をもっと長く調べたほうがよいという研究が出てきています。たとえば、胎児の段階で環境ホルモンを与えると、大人になった後にメスの閉経が早まることがわかってきました。

 ※米タフツ大学アナ・ソト教授などの最新研究による。ほかに、日本の研究機関でも同様の研究結果を出しているところもある。こうした状況を子細に研究するために、厚生労働省は、胎児の段階で影響を受けたネズミをその一生にわたって検査する「一生涯試験」という試験方法の必要性を提唱している。
 また、米ワシントン州立大学マイケル・スキナー博士らの研究によれば、環境ホルモンである農薬を高濃度で与えた妊娠中のメスネズミから生まれたオスの子ネズミは、その後4世代に渡って、精子を作る能力が低下していました。(

「コンピューターで環境ホルモンを探せ!」
 コンピューターで環境ホルモンを探す研究が始まっています。厚生労働省の最新研究では、実に2000種類もの合成化学物質に、環境ホルモンである可能性(女性ホルモンの受容体にくっつくかどうか)があるという解析結果が出ました。

「複合影響」
 アメリカ・環境保護庁(EPA)アール・グレイ博士の研究によると、1つ1つの物質では影響が出ない量に調整した環境ホルモンを、7種類あわせてネズミに与えると、成長したあと、オスの精巣が大きく発育しないという影響が出ました。
 これまで環境ホルモンの影響について調べられてきたのは、1種類ずつの影響です。これらの物質が体内に同時に複数取り込まれたときに、実際にどのような影響をもたらすかは、濃度や種類の組み合わせが無限大にあり実験がきわめて大変であるため、ほとんど調べられていません。研究者としても、環境ホルモンに悪影響があるかどうか、明言できない「わからない」段階なのです。
 こうした状況を解き明かすために、世界でさまざまな研究が盛んに行われています。ここ数年で雑誌などの報道は激減しましたが、一方で研究論文数は急増しています。

「環境ホルモン対策は予防原則で」
 かつて、プラスチックの給食食器や缶詰など、身近なものから環境ホルモンが溶け出すのではないかと心配されました。しかし日本では、環境ホルモンの影響がまだわからない段階ですでに企業の中には自主的に、製造段階でさまざまなものを環境ホルモンが溶け出さない材質のものにかえていたところもありました。
 専門家は危険性について、まだはっきりしないものは「予防原則」で日常生活から排除することが大切だといいます。

「予防原則」とは
 予防原則とは、問題がありそうな可能性がある場合、安全であることが確認されるまで、予防的に使うことをやめようという考え方です。EUでは予防原則を用いた新規化学物質規制を導入しようとしています。
 日本では、企業が自主的に材料をかえていたり、法律で規制したものもあります。小さい子どもや妊婦は、できるだけ、影響のよくわからない合成化学物質を体内摂取するような状況はさけたほうがよいのではないかと専門家の多くは考えています。
(注):当会ウェブサイトを参照して下さい:
環境ホルモンのページ その他の海外記事・論文紹介 2005年8月14日掲載 EHP2005年8月号 NIEHS News 米国内分泌学会でのワークショップ/内分泌かく乱化学物質の認識が高まる



編集後記 「ロハス」

 昨年10月のピコ通信86号の編集後記で、「ロハス」について書いた。日本における「ロハス」の旗振り役の『ソトコト』が1月号の別冊付録「チビコト・ロハス的環境ホルモン学」なるものを出したのは既報の通り。「環境ホルモンは問題なかった」と言いたい環境省と、「付加価値としての環境とたわむれる消費生活」を推奨する「ロハス」との見事なコラボレーションだった。▼両者に共通するのは、環境問題は既存の「消費・生産拡大路線」の微調整で解決可能だという超楽観主義で、「環境問題は深刻で、社会や生活のあり方の大きな変革なしには根本的な解決はできない」という多くの環境団体の意識と真っ向から対立する。▼「ロハス」のいう「広く浅く」、「入りやすさ」ということの重要さは否定しない。しかし日本での使われ方としては、「ディープさや危機感はかっこ悪い、おしゃれじゃないよ」、「少しだけ環境を考えれば、今までの消費・生活態度でいいんだよ」と、むしろ消費者を押しとどめようとするメッセージとして機能している気がする。▼ところで、「ロハス」という言葉、広告では意外と目にしないと思っていたら、その理由が、6月14日の朝日新聞に出ていた。ソトコトを編集しているトド・プレスと三井物産が2年前にいち早く、「ロハス」を商標登録し、他社が広告で「ロハス」という言葉を使用することも厳しく制限した。このため「ロハス」を流行させるビジネスチャンスを逸してしまったらしい。今年5月には商標使用料もとらないと、自由化を打ち出したものの遅きに失し、「ロハス」も言葉としての鮮度も落ちて、「賞味期限も今年いっぱいかも」だとか。「ロハス」騒動も、一時の流行語(にもなりそこねた?−として、消費社会のあだ花として終わりそうだ。(花岡邦明)

化学物質問題市民研究会
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