ピコ通信/第94号
発行日2006年6月28日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 6/10環境ホルモン講演会&交流会開催
    環境ホルモン問題は今どうなっているのか/環境ホルモン学会会長・森田昌敏さん

  2. 経産省化学物質政策基本問題小委員会
    第1回及び第2回のトピックスと当会の意見

  3. 産業構造審議会化学・バイオ部会第2回化学物質政策基本問題小委員会
    中地重晴委員提出資料

  4. 集合住宅の補修工事で一時避難
    今度は近くのバラ園の農薬散布に苦しむCS家族

  5. 化学物質問題の動き(06.05.23〜06.06.26)
  6. お知らせ・編集後記


6/10環境ホルモン講演会&交流会開催
環境ホルモン問題は今どうなっているのか


 6月10日、東京・豊島区"ECOとしま"において、当研究会主催の環境ホルモン講演会&購読者交流会を開きました。環境ホルモン問題については、国もマスコミも、「環境ホルモン問題は終わった」かのような対応に変わってきています。
 「環境ホルモン問題は今どうなっているのか」をテーマに、環境ホルモン学会(正式名称 日本内分泌撹乱化学物質学会)会長の森田昌敏さんを講師にお招きしての講演会には100名近くの参加者があり、この問題は市民にとって決して"終わっていない"ことを実感しました。
 講演会に続く購読者交流会は初めての試みでしたが、30名近い参加者があり、各自が係わっている問題について話されました。
 今号では、森田さんの講演要旨を紹介します。

環境ホルモン問題の現状と課題
日本内分泌撹乱化学物質学会会長 森田昌敏さん

(文責 化学物質問題市民研究会)

■我々の社会の現状は?
 我々の社会がどうなっているのかという話から始めます。1970年にローマクラブが出した「成長の限界」で、資源エネルギーの枯渇、人口増と食料供給不足、そして環境汚染が加わって、2050年に人類は破局点に至ると予測されたことは、多少の時間の幅はあっても、ほぼその通りに進んでいます。最大の課題である地球温暖化への対策にしても、エネルギー資源の転換を行えば、それが別の問題を引き起こす可能性もあります。地球の総人口はまだ増大していますが、一方で日本を含む多くの先進国や中進国で、再生産力が極端に低くなってきています。その原因の一つとして環境ホルモン問題が提起されていると思われます。
 人的資源の問題は、人口だけでなく、知能の低下という問題もあります。アメリカで環境ホルモン問題の主要な関心は、知能の発達への影響という側面におかれています。知能の低下は、社会的負担の増大や、国力の低下を招きます。ある種の汚染物質が知能発達に影響することは分かっていますが、それと現在私達の社会に起きている現象との関連はまだ科学的には明らかになっていません。
 化学物質汚染の問題は、古くからのものと、新しいものがあります。重金属のような古くから問題とされたものも、新しい見地から見直しが必要となっています。発ガン物質についても、もっと厳しく考えなければならなくなっています。新しい汚染としては、環境ホルモン、その他の有機ハロゲン系化合物、ナノテク材料、新しい金属(レアメタル)、農薬の非農薬的使用(家庭内など)などが挙げられます。自動車では、ディーゼル排ガスのナノ粒子の作用が問題となっています。ブレーキのアスベストは、90年代半ばに切り替えられました。
 化学物質に関わる法律体系は各省庁にまたがって膨大なものですが、発生源サイド(生産サイド)からみてコントロールする傾向が強く、日常生活の中で総体として化学物質を受けている側からみて不十分ではないかという気がします。それぞれの役所が規制値を決めても、受けて側の人から見た安全が完全には担保されていない可能性があります。例えば、一つの農薬の基準が守られていても、人は総体として何百もの物質を浴びているという現実の中で、果たして大丈夫なのかという危惧が残ります。

■科学的予見には限界
 1970年代前半に『沈黙の春』や『複合汚染』、公害問題に代表される第一次化学物質ブームがありました。このときに現在の環境関連法規の原型ができましたが、先送りされた課題があって、それが現在の問題として顕在化しています。第二期は1990年代から2000年代初にかけてです。発ガン性物質は前進をみたのですが、ダイオキシン、環境ホルモン問題が出てきました。子どもの健康、複合汚染効果、化学物質過敏症などの新たな疾病などの課題が残されています。
 化学物質の総数は2,470万種で、年150万種が増えています。産業利用されているのは10万種で、年1,500種の増加です。そのうち規制されているのは数千だけで、問題となる物質はその十倍はあります。
 被害が起きてから規制するというのではなく、予防的に対策をとるには、汚染が警戒レベルを超えた段階で対策をとるのがいいのですが、警戒レベルの線をどこに引くかは、安全を強く求める側と、生産者などのコストや利益/損失などとのせめぎあいとなります。
 化学物質問題は、それを便利に使っている私達の生活の反映として根本的対策がとれず、常に問題であり続けます。リスクの科学が未成熟で、危険を予知できないことに問題があります。安全性や有害性の科学的証明というのは永遠の課題です。科学的予見に限界があるなかで、予防原則をどのように運営できるか、どこかで政策的判断をしなければなりません。
 アスベスト対策では、中皮腫は全部救済の対象となっていますが、中皮腫にしてもどれくらいがアスベスト由来かは、科学的には分かっていません。政治的判断による対策です。肺ガンは、アスベストが原因であるかどうかは、判断が困難であり、救済を求めることは容易ではありません。

■環境ホルモンの悪影響
 環境ホルモンは、生殖系、脳神経系、免疫系に悪影響を与えます。脳神経系には、脳の性分化や知能の発達の遅れに影響しています。環境省のSPEED'98では、『奪われし未来』やWWFのリストをベースにリストアップしました。分類すると、有機塩素系(POPs物質が多い)、芳香族工業化化合物、農薬(殺虫剤系が多い)、重金属、その他、などになります。
 環境影響の例として、有機スズによるイボニシ貝のインポセックスを挙げます。いくつかの貝類の生産が落ち込んでいます。鉛の毒性も、子どもの知能への影響から再評価されています。PCBによって鳥の卵の殻ができなくなることも実験から確かめられ、産卵機能が低下することも明らかになっています。
 人の出生力低下は、主要には女性の晩婚化があり、それに加えて多様な原因が考えられます。不妊カップルは、以前は10組に1組だったのに対し、最近は7組に1組に増えています。性比については、セベソのダイオキシン汚染では、女児の割合が増加しました。ビスフェノールAを取り扱う職場の労働者の子供に女児が多いというので調べましたが、統計的に有意といえるだけの数の事例が集まりませんでした。メカニズムは簡単には分からないとしても、このような統計だけでもきちんと調べる必要があります。

■ビスフェノールAとフタル酸の問題
 ビスフェノールAの低用量問題とは、毒性が非常に弱いといわれたビスフェノールAがごく少ない量で作用するということが、フォン・サールによって提起されたものです。様々な追試によって、低用量でなんらかの作用が起こるということははっきりしてきました。現在は、その作用が人に対して悪影響があるかどうかが、議論となっています。
 規制値を決める時に使う「無作用量」という言葉と、「無毒性量」という言葉があって、ここにグレーゾーンが存在します。無毒性といっても、生化学的な反応の累積が、長い時間積み重なるとなんらかの有害性をもつのでは、という学者もいます。
 フタル酸エステルの生殖系への影響も、科学的知見は着実に蓄積されてきています。それをどう評価するのかというのが問題です。フタル酸エステルは、毒性は低いのですが、大量に生産されて、環境中どこでも検出されますし、かなり多量に摂取する機会もあると思われます。体内で分解して反男性ホルモン作用を示します。
 反男性ホルモン的な影響があるという疫学論文もでてきています。疫学的結果は人への影響を直接みているという点で、無視すべきではない事態です。ヨーロッパ議会は子ども用玩具への使用中止を決議しましたが、むしろ妊娠中の女性への規制の方が必要かもしれません。フタル酸エステルについては、ちょうどアスベストの80年代の議論が思い出されます。
 私達はMRIで測れる脳の変化から環境ホルモンの作用を観察できないかという実験をしています。脳梁という右脳・左脳を結びつける器官は、女性の方が発達しているので、脳の性分化をそれによって観察できないかという実験です。

■複合影響と合計評価、総量規制
 複合効果というのは、汚染物質についての現在の最大の課題の一つです。現在の政策は、無作用量をもとに上流にあたる発生源で規制していますが、規制値以下の物質が数十あったときに、それだけで下流部の受け手の人や野生生物は大丈夫かという危惧があります。規制の仕組みが、受け手を中心に設定されていないのです。蓄積されてきている研究成果を見ると、例えば環境ホルモンのように、メカニズムが共通の物質は、合計で評価する必要はあると思います。天然のホルモン物質の作用が90%あると、そこに人工のものを10%足すだけで、何かが起きる可能性があり、その場合、総量で規制する必要も出てきます。
 対策としては、東京都が子どもの健康影響を考えた鉛対策のガイドラインを作っています。貿易がらみでは、欧州でプレイステーションが輸入禁止になったように、日本の企業が外圧型で自主規制をするよう迫られています。

■法的規制までには20年かかる?
 環境ホルモンの最近の動きの一つとして、臭素系難燃剤の体内蓄積や、フッ素系化合物の蓄積が問題となり、一部物質は使用中止や生産中止にいたりました。
 環境ホルモンの問題は、提起されて時間が経つにつれてマスコミにも登場しなくなり、市民の間で忘れられた感がありますが、現在の生命科学の最大課題の一つです。発ガン性物質の問題が提起されてから、科学的知見が集積され、産業界も合意して、法的規制の枠組みができるまで20から25年かかったことを考えると、環境ホルモンも20年後には政策的に動いているでしょう。政治状況によっては、もっと短縮するか、あるいはもっと時間がかかるかもしれません。いずれにしても、科学的知見をしっかりと蓄積していく必要があります。環境省の姿勢も、担当者に左右されることもあります。


質疑応答

 缶コーヒーの内側にビスフェノールAが使われている。最近内股の男性が増えている。日本の自動車メーカーは、欧州へはノンアスベストの車を輸出しているが、国内では対応していない。
 男性の女性化を示唆するものはたくさんあるが、それとビスフェノールAとの因果関係を証明するのは非常にむずかしい。ビスフェノールAの暴露量は最近急激に減っている。ブレーキ中のアスベストは代替化されている。ただし、代替のアンチモン化合物の大気濃度が増えていることをどう考えるか。ヨーロッパ市場とのダブルスタンダードの問題だが、今はヨーロッパの基準がグロバールスタンダードとなって、それが遅れて日本に波及する。日本の環境省にも、日本が世界を牽引するような政策をとるべきで、それが日本の経済的利益にもなると考えている役人もいる。

 XY染色体をもっていて、外見は女の子という例があると考えるが、そういう調査はされているか? 最近、環境ホルモンはウソだといっている人たちがいるが、学会長としてどう考えるか?
 性比のゆがみが発生する仕組みはよく分かっていない。来年9月のダイオキシン国際会議でこのあたりの議論をしたいと思っている。環境ホルモンへの批判的意見に適切な反論をしていないのでは、という指摘だが、学会としては学問的でない議論への参加は避けている。学会は生物系の研究者が多いが、批判の多くは、生物学や毒性学の科学的な議論ではなく、政策選択の問題として展開されている。議論の場を考えてやらないとかみ合わない。

 神栖市のヒ素汚染で、汚染土壌を焼却場で焼く試験をしようとしている。焼いたらヒ素はどうなるのか。処理の最良の方法は?
 無機ヒ素化合物はセメントで固めると融合して溶出しないが、神栖市の例は、ジフェニールヒ酸という特殊な化合物で、アルカリにあうと溶け出す。汚染の全体像はまだ完全には分かっていない。井戸の水が農業用水にも使われて土壌汚染が広がった。とりあえず高濃度の土壌の対策をしようということで、それには焼却して無機化して管理型処分場で保管するのが考えられる一番安全な方法だ。そのための焼却試験をしている。ヒ素焼却は実績もあるし、回収装置もあるので、飛散の恐れはない。

 発ガン物質の問題は解決したかのように発言されたが、納得がいかない。EPAで発ガン性の試験を、動物実験からもっとベーシックなメカニズムに落としてやることになったが、望ましい動きなのかどうか?
 発ガン物質については、70年から80年代に試験方法を含めた科学的知見が集積され、規制の中にこのコンセプトが入り始めたということをお話した。これで終わりということではなく、厳しい規制を設定する仕組みができたということだ。官庁も、部署によって同じ物質を発ガン物質としたり、しなかったりで、まだ混乱がある。IARCのリストの40種も、アルコールやニッケルをどう考えればいいか。日常的に出回っているものをどうするのか、暴露量も考えないと対策をとれない。毒性学では、動物愛護の見地もあり、動物実験から細胞レベルの試験へとアプローチが変わりつつある。

 有機リン中毒で過敏症を発症した。子供たちも、学校でアスベスト除去工事をして天井を張り替えたため学校へ行けなくなった。家でプレイステーションをやっていて、奇声を発する。私もそれがある部屋では、筋肉が硬直する。有機リンと同じような物質が使われているのか? 医療器具にも反応するので、過敏症の人は医療も受けられず、医者も認識がない。
 化学物質過敏症については、存在するというコンセンサスは学者の間でできつつあるが、臨床例がまだ整理されていない。原因物質との関係があいまいで定義づけがむずかしい。MRIで脳内血流の変化として診断できないか研究をしている途中だ。免疫系よりは、脳神経系が強く関与している問題である可能性が強い。いろいろな化学物質に囲まれている生活からは、なかなかそれを避けるための解決策は出ないが、暴露を減らすことと、そのための科学的知見と技を蓄積していくこと、これをやっていくしかない。
(まとめ 花岡邦明)


経産省化学物質政策基本問題小委員会
第1回及び第2回のトピックスと当会の意見

 経済産業省が設置した日本の化学物質政策のあり方を検討する小委員会は、下記スケジュールで5月から9月まで7回開催されます。その概要についてはピコ通信第93号(前号)で報告しました。
 当会は、REACHの理念/東京宣言(ピコ通信第77号(2005年1月) 参照)の理念に基づく化学物質政策の実現を推進するNGO委員をバックアップしています。
 小委員会の議事録・資料等は経済産業省・小委員会のホームページをご覧ください。
http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/07/a25.htm

■審議スケジュールと検討テーマ
 第1回:5月25日(目的説明・概論)
 第2回:6月26日(安全性情報の整備等)
 第3回:7月20日(リスク評価体制等)
 第4回:8月上旬(情報伝達の仕組み等)
 第5回:8月下旬(リスク管理等)
 第6回:9月上旬(人材育成・基盤整備・リスクコミュニケーション・国際対応等)
 第7回:9月下旬 (化学物質管理の在るべき姿の整理)
 パブリックコメント手続き(予定)

1. 第1回(5月25日)のトピックスと意見
■自主管理と法規制
(1) 産業側は企業の自主管理がまずあり、法規制はそれを補完するものであると主張した。
(2)当会の意見
 水俣病、カネミ油症、そして最近のアスベスト問題等で得た教訓は、人の健康と安全に関するような重要なことがらは、企業の"自主性"に頼るのではなく、国がきちんと"規制"しなくてはならないということである。データの提出に関して企業の自主性に期待してもうまくいかないことは、Japan チャレンジプログラムですでに明らかである。
 既存化学物質のテスト及びデータの提出は、企業の自主的なものではなく、法規制により行うべきである。

■ハザード・ベースからリスク・ベースへの移行
(1) リスク・ベースを科学的アプローチであるとして今後の化学物質政策の基本とするとの方針が示された。
(2) 当会の意見
・現状のリスク評価は本当に科学的か?
・データはあるのか?
・暴露シナリオ及びモデルは現実を反映しているか?(例えば、複合暴露)
・リスク=ハザード × 暴露 において、ハザードはある条件下で実験により得られるが、暴露の評価は本当に科学的か?
・リスク評価するキャパシティはあるのか?
・リスク評価のスピードはどうか?
・被害が出るまではその物質は安全であるという論理は正しくない。
・人間の健康又は環境に危害を与える恐れがある場合には、リスク評価が完了していなくても予防的措置がとられなくてはならない。
・少なくともCMR(発がん性・変異原性・生殖毒性)、PBT(残留性・生体蓄積性・有毒性)、vPvB、(高残留性・高蓄積性)、ED(内分泌かく乱性)の恐れのある物質はハザード・ベースで管理すべきである。


2. 第2回(6月26日)のトピックスと意見
■既存化学物質のデータ欠如の問題認識
(1) 第1回会議の目的説明・概論の中で、既存化学物質のデータ欠如の問題指摘はなく、第2回会議では中西座長が、「日本には意外にも有害性データが(多く)ある」と発言した。
(2) これには他の委員の中から異論が出て、ある委員はGHSの実施のための有害性データはそれ程はない。データがないことをもって安全とみなすと事故が起きると指摘した。
(3) 当会はこの委員の意見に同感である。既存化学物質のデータの欠如が現在の化学物質政策における最大の問題のひとつである。

■企業が提出するデータの公開
(1) 企業が提出するデータで一般的に公開できないものとして次のものが挙げられた。
・テストデータ等で作成に金がかかっているもの。(公開すると"ただ乗り"が起きる)
・調剤中の成分レシピなど企業秘密に関わるもの。
(2)これに対し、安全に関わる情報は全て開示すべきとの意見が何人かの委員から出た。
(3)当会はこの意見に賛成である。

■(Q)SAR(定量的構造活性相関)
(1) 既知の化学物質の物理化学的・化学的・生物学的性質等から、データ未知の化学物質の性質を定量的に推算する手法で、実験動物数の削減、試験期間の短縮、低コスト化をはかり、細胞利用や遺伝子発現解析などの利用による代替試験法として我が国でも取り組んでいるとの説明があり、アメリカ、カナダ、デンマークでの活用事例が紹介された。
(2) (Q)SARに取り組んでいる委員から、(Q)SARにはデータが必要であり、単体化学物質はかなりの精度であるが、混合物、反応生成物には限界があるとの指摘があった。
(3) 当会の意見
・実際には有害なのに有害ではないという判定(False Negative)が出ないことが担保されない限り、使用すべきではない。
・米会計検査院(GAO)報告書 (2005年6月)は、"このようなモデルは化学物質の特性と毒性、特に一般的な健康影響について必ずしも正確ではないので、新規化学物質が上市される前に十分に評価されることを保証するものではない"と指摘している。

■REACHの評価
(1) 座長はREACHではデータが公開されないと発言し、また産業側のある委員は、EUの産業からのヒアリング情報として、データ提出にあたり、REACHには企業側につらい思いをさせない調整機能があり、日本の方がむしろ厳しいという意味の発言をした。また、ある委員は、REACHのような規制は日本では現実的ではないと述べた。
(2) 当会の意見
・座長の発言内容は正しくない。
・ 欧州委員会資料やその他公表されている資料でREACHの調整機能という説明など読んだことがない。追加(06/07/01)(注:但し、REACHが後退させられて抜け穴があるという意味なら NGOs が多くの資料で指摘している。)
・座長の「日本には意外にも有害性データがある」発言と合わせて、座長及び産業側委員は、REACHはそれほどよいものではなく、また、日本の現状はそれほど悪くないという印象を与えようとしているように見える。
(文責:安間 武)


産業構造審議会化学・バイオ部会
第2回化学物質政策基本問題小委員会
中地重晴委員(※)提出資料

※有害化学物質削減ネットワーク代表


検討すべき論点等の整理について

1.化学物質政策をめぐる国際的な動き
 1992年の地球環境サミットにおいて採択された「環境と開発に関するリオ宣言」では、持続可能性、世代間の公平、生態系保全、先進国の義務、市民参加、被害者救済、予防原則、汚染者負担の原則など、重要な原則とこれに対する先進国としての責任を明らかにしています。また、2002年に開催されたWSSDでは、国際化学物質管理への戦略的アプローチ(SAICM)が採択され、日本においても国内実施計画を策定する作業が行われています。 一方、本年12月からは労働安全衛生法で国連勧告に基づくGHS制度の導入を控え、新たな化学物質管理政策が必要な時期に来ているといえます。
 我国の化学物質管理制度も、このような諸原則を基礎として、特に、水俣病やアスベストによる健康被害の教訓を踏まえ、予防的取り組み以上の予防原則をふまえた取り組みの重要性を認識し、その上で、化学物質管理のための達成目標を定め、総合的かつ計画的に施策を行なっていくことが大切であると考えます。

2.化学物質管理政策に関する共通認識について
 本委員会ではハザードベースの規制からリスクベースへの管理を行うという政策領域の拡大ということを論点とされていますが、新規か既存かの区別なく毒性データ等安全情報が不明な化学物質に関しては予防的な観点から厳しく規制することは原則だと考えます。 本委員会での議論の前提として、Japanチャレンジプログラムなど事業者の自主的な取組みが円滑に効果を挙げているかどうか、きちんと評価する必要があると思います。安全情報が少なく、リスクが評価できない物質の取扱いはハザードベースで規制する原則は維持すべきです。

3.検討すべき論点
 以下の論点に関する検討を提案します。

(1)「国民の知る権利」の確立、市民参加の観点から
 化学物質政策を論じるうえで、「国民の知る権利」の確立を明記すべきです。単に化学物質の有害性情報のみならず、化学物質管理政策の立案、化学物質管理の実施の全ての面において、国民への情報公開、決定への参加を保証することを基本に据えるべきです。

(2)発展途上国に対する先進国としての義務の観点から

 発展途上国において、日本企業及びその関連企業、技術提携先等において製造・販売している化学物質によって発展途上国内で健康被害や環境影響を最小限にするため、関連企業での化学物質の取り扱いについて、PRTRデータなどの情報の公開義務、化学物質管理の統一的な方針及び目標の明確化などを推進するよう義務付けるべきです。
 直接規制を超えた自主的取り組みの推進が社会的責任の要だと考えます。特に日本のグローバルな企業が他国の企業以上にCSRを果たし、率先して化学物質の適正管理の取り組みを果たせるような総合的な政策を考慮していくべきです。また、自主的取り組みに熱心な企業が市場で競争優位になるような産業政策も併せて検討することが望ましいと考えます。

(3)予防原則の観点から
 EUの化学物質政策を参考に、既存の化学物質で毒性データ等安全情報が不明なものに関しては予防的な観点から厳しく規制すべきです。本委員会では、リスクベースの化学物質管理のあり方を議論するとのことですが、安全情報が少なく、リスクが評価できない物質の取扱いはハザードベースで規制する原則は維持すべきです。

(4)横断的かつ国際的な情報の共有の必要性
 化学物質審査法、薬事法、農薬取締法など省庁縦割りによる化学物質規制によって同じ化学物質によっても使用用途によって管理監督する法規が違うということをなくすために、化学物質管理基本法を制定し、統一的な化学物質管理を行う法体系に整理すべきです。 たとえば、MSDSの作成が義務付けられている化学物質の種類が労働安全衛生法、劇物毒物取締法、化学物質排出把握管理促進法で異なるようなことにせず、統一した管理方針のもとで、整理すべきです。
 化学物質安全情報に関しては、国際的な情報を整理し、共有化してデーターベース化を図るべきです。そのため、各国で実施、収集している安全性試験情報の効率化を図り、だれにでも利用できるようにすべきです。
 GHS制度については、労働安全衛生法だけで規制するのではなく、消費財など市民生活で使用される商品にも表示が義務付けられるよう統一した制度にするべきです。

(5)規制対象とする化学物質について
 上市された化学物質だけでなく、化学物質の製造工程での非意図的生成物に関して、人や生態系に有害な影響を与える物質の場合には規制できるような制度にすべきです。

(6)新たな課題に対する対応について
 技術革新によって生み出されたナノ粒子による健康への影響など安全性試験が確立していない問題に対応できるような化学物質規制のあり方を検討すべきです。
 現在、健康及び環境への影響が確認されないままにナノ粒子/ナノ技術関連製品の開発、及び市場への投入が行われています。
 国は早急に、これらナノ粒子/ナノ技術 関連製品に関する(1)評価基準の確立、(2)管理基準の確立、(3)安全性評価の実施、(4)安全管理の実施−を行う責任があります。
 安全性に懸念があるものは予防原則に基づき、市場への投入をやめるべきです。
 さらに国には、ナノ粒子/ナノ技術関連製品のリスクに関する情報とそのリスク管理について国民にきちんとした説明を行う義務があります。ナノ技術及びそのリスクに関する国民への情報公開と意思決定への国民参加なしには健全なナノ技術の発展はあり得ません。
 どこまでリスク評価できうるのか、到達点を明らかにした上で、不明な点は予防原則に基づいて規制すべきです。


集合住宅の補修工事で一時避難
今度は近くのバラ園の農薬散布に苦しむCS家族

 梅雨の時期は虫たちや菌類の活動が活発なため、公園や街路樹、空き地、庭などで農薬散布が頻繁に行われます。そのため、化学物質過敏症(CS)の患者さんたちは逃げ惑い、体調を崩します。
 東京都練馬区の光が丘団地にある四季の香公園内バラ園の農薬散布に苦しむ一家について報告します。  Kさん一家は4人家族。そのうちKさん(母)、子ども2人が化学物質過敏症です。光が丘団地の居住棟が大規模補修工事に入るために、使われる塗料等に含まれる様々な化学物質の影響から逃れるために避難を余儀なくされました。都市再生機構に紹介された代替住宅十数戸のうち、住宅の中に入れるかどうかを判断基準にして調べた結果、何とか中に入れた今の住まいに昨年夏、一時避難入居しました。やがて1年が経ちますが、元の住宅には塗料など使用した材料に反応するために未だ戻れません。
 代替住宅から300mくらいの所にバラ園があることは、入る前から分かっていましたが、他に入れる住宅が無かったので、やむなく入居を決めました。このバラ園の農薬散布のことで、昨年から練馬区と交渉が続いています。
 バラ園は広さが約770u、27種類約500株のバラが植えられています。管理をしている花とみどりの相談所によれば、区民の人気が高いとのことです。
 しかし、恐れていた通り、農薬散布による体調への影響が出てきました。体調の悪化した4月12日北里研究所病院を受診し、転居前の8月に比較して3人とも症状が悪化している、と診断されています。
 主な症状は、筋肉の硬縮、息苦しさ、咳、頭痛です。6月は特に散布回数と薬剤数が多くて、ほぼ毎週散布があるので、散布されるとしばらくこれらの状態が続き、少し楽になってきたかなと思うと、また次の散布が行われるという状態でした。
 これらのことから、昨年9月の交渉に続いて、6月21日、練馬区議会民主党議員控え室において、菅田誠区議のコーディネートで話し合いを持ちました。出席者は練馬区土木課公園緑地課長、花とみどりの相談所長、係員の3人。こちら側は、菅田区議、Kさん、当会・安間の3人です。その場で、要望書を提出したところ、回答は後日文書で送るとの答えでした。

2006年6月21日

練馬区長 殿
練馬区光が丘 K
化学物質問題市民研究会 代表 藤原寿和
四季の香公園内のバラ園の農薬散布に関する要望書

 私共は、四季の香公園内バラ園近くに住む化学物質過敏症を持つ住民家族3人と支援の団体です。昨年より、バラ園の農薬散布についてお願いしてきましたが、改めて要望いたします。

1.バラ園の農薬散布をやめて、安全な管理法に切り替えてください。  (病害虫に強い種類への切り替えや土作りも含めて)

 昨年9月22日付けで「ご要望のありましたバラ園の病害虫防除については、現在検討を進めており、今後薬剤の変更をしていきたいと考えております」等の回答をいただいていますが、その結果についてもうかがいたい。

2.要望1が実現するまで、バラ園の農薬散布の回数と散布量を減らしてください。
 昨年度と今年度の病害虫防除予定表を見ると、農薬の種類は変わっているようですが、散布回数は減っていません。5月、6月は逆に増えています。また、散布量については分かりません。
 散布回数が多いため、散布の影響からようやく立ち直りかけると、また散布の繰り返しで、だんだん体調が悪化しています。
 5月には、有機リン中毒の疑いという新たな診断を有機リン専門医から受けています。3月、4月に使用したオルトラン粒剤各7Kgが、影響しているのではないかと考えています。

3.バラ園の管理に関しては、農林水産省通知15農安第1714号「住宅地等における農薬使用について」(平成15年9月16日付け)(添付資料)を遵守してください。

4.要望1が実現するまで、バラ園の農薬散布後、その影響が軽減し家に戻ることができるまで、区の避難住宅を使用させてください。
以上


 今年度は、有機リンはやめて他の薬剤に切り替えたこと、こちらから要望したジックニーム(注)の試験使用も始めたこと、こちらから影響の少ない防除法について提案してほしい(ただし、バラの状態が保てることの条件つき)との話がありました。したがって、安全なバラの管理法についてこちら側でも研究する必要があります。
 また、散布の日、バラ園の2箇所の木に農薬散布のお知らせが貼ってありましたが、探さないとわからない場所でした。周辺には学童保育所、子育て支援センターや学校もあり、周知徹底についてもっと徹底してもらわなければなりません。
 CSの患者にとって比較的安全なバラの管理法について情報をお持ちの方は、提供してください。
(安間節子)

注:ニームとは、インドセンダンの英語名。ジックニームは特許商品名。植物の活性と伸張を助け、植物を守り土壌改良できるとうたっている。CS患者も影響がほとんどないらしい。

化学物質問題市民研究会
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