マザージョーンズ 2016年5月27日
”考えを根本から変える”研究が
携帯電話からの高周波放射とがんを関連付ける

ジョシ・ハーキンソン
情報源:Mother Jones, May 27, 2016
“Game-Changing” Study Links Cellphone Radiation to Cancer
An increased incidence of brain and heart tumors was seen in rats. By Josh Harkinson
http://www.motherjones.com/environment/2016/05/
federal-study-links-cell-phone-radiation-cancer


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年6月2日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/sick_school/emf/
160527_Mother_Jones_Study_Links_Cellphone_Radiation_to_Cancer.html


 それは、我々みなが、恐れていた瞬間である。木曜日(5月26日)に発表された大規模な連邦政府の調査の最初の結果が、携帯電話から送られるタイプの高周波(RF)放射はがんを引き起こすことがあり得ることを示唆している。

 米・国家毒性計画((NTP)によって2年半以上かけて実施された 2,500万ドル(約27億5,000万円)の研究の調査結果は、2種類の高周波放射を受けたオスのラットは暴露を受けていないラットに比べてはっきりと神経膠腫(グリオーマ)と呼ばれるある種の脳腫瘍を発症しやすく、また神経鞘腫(シュワン腫)と呼ばれる心臓の腫瘍のうち稀な悪性種を発現する可能性が高いことを示した。これらの影響はメスのラットには見られなかった。

” ラットが受けた放射レベルは、人間が携帯電話を使用するときに暴露するものと”非常に異なるというものではなかった。”
 ラットが受けた放射レベルは、人間が携帯電話を使用するときに暴露するものと”非常に異なるというものではなかった”と、この研究を委託した NTP の前の準ディレクター、クリス・ポルティエは述べた。

 放射強度が増大すると、ラットのがん発症が増大した。(最大放射レベルは、人間が通常携帯電話を使用する時に典型的に受ける強度の5〜7倍であった。)ガンマ線及びエックス線を含む電離放射線は発がん性があることを広く認められていたにもかかわらず、無線機器産業は長い間、高周波放射ががんを引き起こすメカニズムはわからないと述べてきた。研究者らは、研究の結果は高周波放射は実際に発がん性があるという結論を”支持するように見える”と書いた。

 現在は NGO である環境防衛基金(EDF)の専門科学者であるポルティエによれば、その発見は科学界への警鐘とならなくてはならない。”私は、これは考えを根本から変えるものだと思う”と彼は述べた。”我々は詳細にこの問題をもう一度真剣に見なくてはならない”。

 ”NTP は世界で最良の動物テストを行っている”と、ポルティエは付け加えた。”彼らの評判は傑出している。だから、もし彼らがこの研究の中で、このことははっきりしていると我々に伝えているなら、それは心配なことである”。

 過去の動物での研究は決定的ではなかった。携帯電話放射とがんの関連性を示唆しているこれらのほとんどは、腫瘍を誘発させるために、まず最初にげっ歯類を有害物質に暴露させ、その後、放射暴露に応じて腫瘍は成長することを示した。しかし、新たな研究は動物のがんを活性化するよう何かを事前にするというようなことはしていなかった。

 NTP は、一部分には神経膠腫(グリオーマ)と携帯電話使用との間の相関性を示す複数の疫学的調査に対応して、2001年に初めて携帯電話からの放射による発がん性を調査することを決定した。それら関連性があるとする調査のうちのあるものは、がんは同側性がある、すなわち、使用者が携帯電話をあてる頭の同じ側に腫瘍が生じる傾向があるということすら示していた。しかし他の疫学的調査はがんと携帯電話の関連を見出していなかった

 消費者製品の健康面を規制することに責任を負う米・食品医薬品局(FDA)はそのウェブサイトで、”携帯電話使用と脳腫瘍のリスクとの関連性を示す証拠はない”と述べている。同局は携帯電話を体に近づけ過ぎるとあるリスクが生じることを認めているが、それは携帯電話の熱効果によるものであるとした。

” 携帯電話による”病気の発症の増加は非常に小さくても”、それは公衆の健康に広範な影響を及ぼすかも知れない。”
 今回の NTP の発見は FDA の熱影響という結論に疑いを投げかける。NTP の研究は、暴露ラットの体温上昇が1度C 以上にはならないよう熱影響が調節される設計であった。”誰もが、この NTP 研究の結論は否定的である(訳注:リスクはない)と予想した”と、政府の上席放射担当官はマイクロウェーブ・ニュースに告げたが、同ニュースは今週のはじめ(5月22日)に研究の結果の一部の情報を得ていた。”熱影響を除外することができる方法で暴露が行われたとすれば、そのような[発がん性]影響が発見されることはありえないと言う人は間違っている”。

 研究は、数千匹のマウスとラットが標準化された何十という放射を受けることができる様にするために特別の構造をした暴露チャンバーが必要なので、ある程度高価になる。一日約 9時間、2か月から動物が持つ寿命までの範囲にわたる期間、動物は、この研究が実施された当時の標準であった第2世代(2G))携帯電話による高周波数放射の暴露を受けた。

 現在までの所、ラットについての結果だけが発表されている。メスのラットは通常より特に高いというがん発症率は示さなかった。しかし最も高い放射を受けたオスのラットのうち、用いられた放射のタイプによって、2〜3%は神経膠腫(グリオーマ)になり、6〜7%は心臓に神経鞘腫(シュワン腫)になった。参照群中のどのオス ラットも、これらのがんを発症しなかった。

 もしかしたらこの結果が混乱させるのは、放射を受けたラットは概して放射を受けなかったラットより長く生きたということである。ある外部のレビュー者らは、この研究の著者らはそのことをもっと重視すべきであったと主張した。レビュー者らはまた、暴露を受けなかった参照群のラットは脳腫瘍の通常の発症数を示さなかったことに困惑した。”私は著者らの結論を受け入れることはできない”と、国立健康研究所(NIH)の外部研究室の副ディレクターであるマイケル・ラウアーは書いた

 アメリカで毎年、悪性脳腫瘍と診断される約 25,000人のうち、80%は神経膠腫(グリオーマ)である。悪性脳腫瘍は思春期及び15歳から39歳までの成人のがん死亡の中で最も普通の原因である。

 NTP 研究の著者らは、彼らの研究結果が人間のがんリスクに対してどのように解釈されるのかについえ何も言っていない。しかし、”無線通信機器を使用する人の数は極めて多いのだから、これらの機器からの高周波数放射への暴露により生じる疾病の発症率がたとえ非常に小さくても、公衆の健康に広範な影響を及ぼすことになる”と彼らは書いた。

 無線機器産業及び多くの報道機関、特に広告のためにこの産業に依存している技術系サイトは、携帯電話の安全性に関する科学は確立されていると自信をもって宣言している。”真実を信じるにあたり、それらはよく確立されているのだから、選択肢はない”とチャーリー・ソーレルは、携帯電話の使用とがんとの間に関連性はないことを示すデンマークの疫学的研究の結果を詳細に述べた後に、2011年に雑誌『 Wired 』に書いた。”それでいい。最後にはダサい Bluetooth のヘッドセットに逃げることもできる。あなたの脳は少しも電磁波で損なわれてなどいない”。

 しかしポルティエは、この件を解決済みとするにはデータはまだ十分ではないと言う。”我々は、がんの疫学の入口にいるということの主張が文献中にある”と彼は私に述べた。”それに反論する主張もある。どれが正しいのかはっきりしない。私はそれを一通り調べてきた。それはごたまぜである”。

 ”我々は、携帯電話使用の研究に、数十億ドル(数千億円)というぞっとするようなを国家のお金を使用している”と彼は付け加えた。”我々は日常的に相当な暴露を受けているが、この分野における研究に関して殆ど何もお金を使っていない。何が起きているのかを理解したいと望むのであれば、そして幸いなことにまだ時間があるためにそれを防ぐことができるなら、我々は研究資金の投入を必要としている”。

 この記事は、外部の研究者らによるこの研究の結論への批判を反映するために更新された。


訳注:当研究会が紹介した携帯電話電磁波関連情報




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