The Intercept 2019年2月1日
ケマーズ社は、ヨーロッパの有害 GenX 廃棄物について 規制のない投棄場所としてアメリカを利用している シャロン・ラーナー 情報源:The Intercept, February 1 2019 Chemours Is Using the U.S. as an Unregulated Dump for Europe's Toxic GenX Waste By Sharon Lerner https://theintercept.com/2019/02/01/chemours-genx-north-carolina-netherlands/ 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2019年3月22日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/190201_The_Intercept_Chemours_ Is_Using_the_US_as_an_Unregulated_Dump_for_Europes_Toxic_GenX_Waste.html
オランダとは異なり、アメリカは現在までの所 GenX 廃棄物を規制していないので、その廃棄物をアメリカで処分することは比較的、容易である。 先週明らかにされた、ノースカロライナ州の政策監視団体 (Progressive Pulse) により初めて報告された文書によれば、ケマーズ社は GenX 廃棄物をオランダのドルトレヒトにある同社の施設からアメリカのノースカロライナ州ファイエットビルに輸送していた。12月に、米・環境保護庁(EPA)は、暫定的にその廃棄物の輸入に異議を唱え、その廃棄物は正確にはどこに送られようとしていたのか明らかにするよう求める一通の手紙をオランダ人間環境・輸送査察局の代表に送付した。 その EPA の手紙によれば、”基本合意書(letter of intent)”を引用しつつ、ケマーズ社のオランダからの GenX 廃棄物の一部は、多分、 クリーン・ハーバーズ(Clean Harbors)と呼ばれる会社によって運営されているアーカンサス州エル・ドレードの焼却設備に向けられていた。しかし、クリーン・ハーバーズ社の上席副社長フィリップ・レタラックは、彼の会社はその物質を受け取っていないと述べた。”我々は、ファイエットビルの施設からの廃棄物の回収にどのような形でも関わっていない”と、レタラックは言った。 今週、ザ・インターセプトが報告した通り、 GenX が属する PFAS 化合物類(パーフルオロアルキルスルホン酸類)の焼却は安全性の懸念を引き起こすかもしれない。 EPA の手紙はまた、ファイエットビルの施設は、テキサス州ディアパークにあるテキサス・モレキュラー社によって運営されている深井戸投棄施設に廃棄物を送っていることを示していた。1950年代にデュポン社によって開発された深井戸投棄技術は、有害廃棄物を地下奥深くに埋めることを伴う技術である。深井戸は繰り返し漏洩し、その結果、地下水及び飲料水を汚染した。 GenX を受け取っていたかどうかを問われた時に、テキサス・モレキュラー社の社長フランク・マリンは答えることを断った。テキサス・モレキュラー社のウェブサイトによれば、社の理念を”深い約束(deep commitment)”とする同社は、”最も難しい産業有害水成廃棄物や廃水であっても、責任ある安全な処理と処分の解決”を提供する。 デュポンは PFOA の代替物として 2009 年に GenX を開発し導入したが、 PFOA は環境中にいつまでも永続し、がんやその他の疾病と関連付けられている。GenX も同様な多くの健康及び環境問題を示しており、2016年に ザ・インターセプト が報告したように、実験室の動物にがんを引き起こす。 2014年から少なくとも2017年まで、ケマーズ社は、イタリアのヴェネト地域にある会社 Miteni SpA に、オランダから GenX 廃棄物のあるものを送っていた。昨年、テストによりイタリアの施設の近くの地下水と井戸に GenX が存在することを同社は明らかにしたが、それはすでに健康影響をもたらしていた。そこで地域の当局者らは、同社の操業の一部を停止させた。すでに大規模な PFOA 汚染を引き起こしたことで非難を受けていた Miteni SpA 社は10月に破産を申請し、操業を停止した。 ケマーズ社は、ここれらの経緯についてコメントを求める多くの要求や、どのくらいの廃棄物をアメリカや世界中の他の場所で輸入したのかについての ザ・インターセプト の質問への回答に応じなかった。しかし同社の報道担当はノースカロライナ州の NPO である NC PolicyWatch に対して、オランダからの廃棄物をリサイクルしていたヨーロッパの会社が破産したので、”我々は GenXの大半のリサイクルの継続を確保するために、責任ある行動をとることが求められている”と述べた。 ザ・インターセプト が入手し、ノースカロライナ州環境品質局(DEQ)の報道官が確認した、同局と EPA との間の廃棄物についての電話メモの文書によれば、ケマーズ社は 2019年に、濃度不明の約20の船積みで 90トンという上限値を報告している。その文書は、その GenX は、同社が”GenX 塩”を除去する”スラリー状液体”としてファイエットビルの施設に到着すると述べているが、これらの化合物に何が起きるのかについては触れていない。 ノースカロライナ州環境品質局(DEQ)の文書は、その物質がファイエットビルの施設の近くの川に放出されるかもしれないこと、及びケマーズ社は”ヨーロッパの規制を回避するために”それを輸入しているかもしれないことを含んで、その廃棄物についてのいくつかの懸念を提起している。 ノースカロライナ DEQ のリンダ・カルペッパーは 2月18日に、その廃棄物についてもっと多くの情報を求める手紙をケマーズ社に送った。ケマーズ社は翌週応答し、同社が輸入している物質は法律によれば有害ではなく、ケマーズ社(及びそれより前にデュポン社)はこれらの再生のための回収行動について、米・環境保護局(EPA)に何度も通知したと述べた。ケマーズ社の手紙は、同社は 2月5日に EPA 及びノースカロライナ DEQBR の両方にもっと多くの情報を送ることを計画したと述べた。 PFAS について何もしないことに対する激しい怒りが高まる ケマーズ社がどのようにしてこの廃棄物を輸入したのか、及び正確には何が起きたのかについて知るべきことがたくさん残っているが、同社はなぜその有害な化学物質をオランダの施設で処理しないで、ノースカロライナに送ったのかにつては、ほとんど疑問はない。PFAS 廃棄物はヨーロッパでは規制されているが、アメリカでは規制されていないからである。 GenX それ自体は連邦環境機関等により有害であると宣言されていないので、アメリカにおける唯一の制限は、ザ・インターセプト が 2016年に FOIA(Freedom of Information Act 米国の情報公開法)を通じて入手した EPA との 2009年同意命令に依拠する(訳注1:同意命令)。”同意命令はどのように GenX を処分するか、又はリサイクルするか制限がないので、それには大きく口を開けた穴がある”と Earthjustice の弁護士エバ・ガートナーは述べた。さらに、その同意はケマーズ社だけに適用される。”だからケマーズ社は焼却炉会社と契約を結ぶことができる”とガートナーは指摘した。”しかし焼却が GenX を破壊する保障はない”。 EPA との同意命令はまだ有効であるが、ノースカロライナ州はケマーズ社との独自の同意命令を協議中である。 EPA は最もよく知られた 二つの PFAS 化合物である PFOA と PFOS の安全基準を制定するために安全飲料水法を使用することを検討していたが、 Politico の報道記事によれば、現在はこれらの計画は棚上げされている。このような経緯は環境活動家と上院議員からの怒りを買ったが、彼らは、EPA を率いるべきアンドリュー・ウィーラー長官を承認するプロセスの中で、これらの化学物質に関する EPA の不作為について彼に質問していた。 ”これらの化学物質に関する規制上の研究が開始してからすでに 18、19年経過しているのに、この件がまだアメリカで問題となっているということは正直に言って恥ずかしいことである”と、デュポンに対する集団訴訟で初めて PFOA に光を当てた弁護士ロブ・ビロットは述べた。飲料水が PFOA で汚染されたウェストバージニア州とオハイオ州の住民を代表するビロットは、規制がなければ、他の人々も PFAS 化学物質に危険なレベルで暴露し続けるであろうと述べた。 いくつかの州はこれらの化学物質を独自に規制することを始めている。”私が懸念することは、連邦政府が行動するのを待って、自身で行動することを拒否する州の住民のことである”と、ビロットは述べた。 ザ・インターセプト に示した声明の中で EPA は、 PFOA と PFOS の規制についてひとつの決定がなされているということを否定した。”報告されているにもかかわらず、 EPA はその PFAS 管理計画を完成させることなく公的に発表をせず、その計画中に何が含まれているかを推測させるどのような情報をも早すぎた。EPA は新たな飲料水基準を評価するために安全飲料水法プロセスに従うと約束している。それは、現在、内部のレビューが行われている計画案の多くの要素のうちの一つに過ぎない”。 しかし、アメリカは PFAS 化学物質の規制においてすでにヨーロッパの後塵を拝している。そしてその遅れのために、この国で PFAS 廃棄物の処分を行うことは当然の選択となる。”皮肉なことである”と、会社がノースカロライナ州で GenX に関してデュポン社とケマーズ社に対する集団訴訟を行っている弁護士ケビン・ハノンは述べた。”第三世界の方が安いので、我々は我々の廃棄物をそこに送り込み、そこで子どもたちを汚染してきた”とハノンは言った。”そして今、我々はケマーズ社によってこれらの第三世界諸国のように扱われている”。 ヨーロッパでは、 GenX とその関連化合物の処分に対して怒りが向けられている。6月にオランダの基盤・水管理省はケマーズ社の処分プロセスの調査を発表し、”ケマーズ社は”GenX 関連物質が廃棄物中にあるかどうかを調べるための措置を何もとっておらず”、”その結果同物質は一連の様々な場所で環境中に放出されている”と結論付けた。同報告書はまた、”十分に高温での”キルン(炉)での焼却だけが同物質を破壊することができるが、GenX 関連物質の全てが焼却炉で処分されているわけではないと言及した。 PFOA と GenX の両方による彼らの飲料水汚染と戦わなくてはならないドルトレヒトの住民らは、同社に対する不満を繰り返し述べた。9月に、ケマーズ社は、ドルトレヒトの施設からの GenX 排出を削減するために 7,500万ユーロを投資すると述べた。 一方、イタリア政府は昨年、 PFAS 汚染に関して非常事態宣言を発し、 Miteni SpA の調査の結果、同社を起訴した。オランダが GenX 廃棄物を同社に送っていたことが最近判明して、怒りの抗議と二番目の調査の導火線となり、その調査は現在実施されている。 オランダからアメリカへの GenX 廃棄物の輸送は国際法の違反かもしれない。アメリカは、有害廃棄物の輸送を管理する国際条約であるバーゼル条約の締約国ではないので、 GenX の輸入は、リサイクルは許すが処分は許さないヨーロッパの法律が適用されるべきであろう。そして EPA の手紙によれば、ケマーズ社の廃棄物のおよそ55%は処分に向けられており、そのことは違法となる。”これは適法なリサイクルプロセスではないと言えるであろう”と有害化学物質の国際的な移動を監視するバーゼル・アクション・ネットワークのディレクターであるジム・パケットは述べた。”これは実際にオランダでの処分を回避しようとする誰かの企みのように見える”。 これは PFAS 産業が国際的な環境保護における弱点を利用した初めてのことではない。2006年に8社がアメリカで PFOA と PFOS の製造を廃止することに 8社が合意した後、中国がこれらの有害な化学物質の世界の拠点になった。 アメリカが化学物質規制で後れを取ったのも初めてのことではない。ヨーロッパでは禁止されているがアメリカではまだ使用が許されている製品をいくつか例に挙げると、アトラジン、遺伝子組み換えウシ成長ホルモン、臭素化植物油、ブタ生産に使用される有害ホルモン、発がん性食品添加物、そして化粧品中で使用されている1,000以上の化学物質等がある。 更新:2019年2月2日、 2:54 p.m EST この記事は、有害廃棄物の国際的輸送w管理する法的枠組みを明確にするために更新された。 更新:2019年2月1日、 1:43 p.m. EST この記事の発表後、EPA は ザ・インターセプト によって提起された質問に答えて、EPA は GenX 廃棄物のオランダからの輸入について、2014年以来、知っていたことを明らかにした。 GenX はまた FRD-902 としても知られている(訳注:GenX (FRD-902・・・/ EPA)。 ”FRD-902 NL-Recovered”をオランダからアメリカに輸入するための最初の意思通知書(Notice of Intent)を EPA は2014年1月3日に受領した。当時、ケマーズ社によって提供された、又は通知書にリストされていた”FRD-902 NL-Recovered”に関する情報の分析に基づき、EPA は、その廃棄物は RCRA (Resource Conservation and Recovery Act (RCRA) )廃棄物の規制上の定義には該当しないと決定した後、その通知に反対しなかった。同様の意思通知書がオランダからアメリカに毎年送付された。 EPA は最新の意思通知書を2018年10月26日に受領した。 訳注1:GenX 関連情報
TSCA第5条(e)による EPA規制、同意命令は届出者のみを規制の対象とするものであり、EPAと届出者とで話し合いを行い、追加情報の提出、規制の遵守、届出の取下げ等のうちのいずれかを届出者に選択させるものである。 |