The Intercept 2017年6月17日
新たなテフロン有害物質、GenX が
ノースカロライナ州の飲料水中で見つかる

シャロン・ラーナー
情報源:The Intercept, June 17, 2017
The Teflon Toxin Part 12
New Teflon Toxin Found in North Carolina Drinking Water
By Sharon Lerner
https://theintercept.com/2017/06/17/new-teflon-toxin-
found-in-north-carolina-drinking-water/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2017年8月16日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_17/
170617_New_Teflon_Toxin_Found_in_North_Carolina_Drinking_Water.html

テフロン有害物質 パート 12
 このシリーズでは、PFOA 又は C8 として知られる化学物質及び PFOS や GenX のような関連する化合物がもたらす健康への重大危害のデュポンによる数十年にわたる隠蔽をシャロン・ラーナーが明らかにする。
 残留性と有害性を持つ GenX として知られる工業化学物質がノースカロライナ州ウィルミントンの飲料水中、及びオハイオ州とウェストバージニア州の地表水中で検出された。

 デュポンは、テフロン並びに防汚カーペット、防水衣料、及びその他の多くの消費者製品のためのコーティング材を製造するために使用された化合物、PFOA を代替するために、2009年に GenX を導入した。C8 としても知られる PFOA は、デュポンが健康と環境への懸念のために集団訴訟を起された後に廃止された。それにもかかわらず、ザ・インターセプト(The Intercept)が昨年報告したように、GenX はがんや生殖障害を含んで、PFOA と同じ健康問題のあるものと関連している。

 ケープ・フィアー公共事業体のひとつノースカロライナ州水道局の飲料水中の GenX のレベルは、2016年に Environmental Science & Technology Letters に発表された調査によれば、平均 631 ppt であった。研究者らは、同じケープ・フィアー川のケマーズ社(Chemours)の放流地点の下流から取水している他の二つの飲料水供給者の水はテストしなかったが、同調査の著者の一人デトレフ・クナッペによれば、約 250,000 の人々の飲料水供給源であるその流域全体の水もまた汚染されているらしい。

 ノースイースタン大学における今週の会議で発表された研究は、ノースカロライナ州とオハイオ州の水中における GenX の存在を詳細に示した。両方のケースで、その化学物質はデュポンが所有し、2015年以来デュポンから分離したケマーズ社が操業するプラントの近くの水中で検出された。GenX と PFOA の両方とも パーフルオロアルキルスルホン酸類(PFAS) として知られるより大きな化学物質グループに属し、それらは構造的に類似しており、自然界で極めて長期間、残留すると信じられている。

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ウェストバージニア州パーカーズバーグのオハイオ川沿いのケマーズ社(元デュポン)ワシントン・ワークス工場 Photo: The Marietta Times/AP
 オハイオでは、会議で発表した大学生ジェイソン・ガロウェイが、ケマーズ社のプラントから20マイル(約32キロ)ほど離れたウェストバージニア州のパーカーズバーグでオハイオ川から分岐する地表水中でその化学物質を検出した。その化学物質についてザ・インターセプトの記事を読んだ後、ガロウェイはプラント近くで水を採取し GenX の存在についてテストした。ガロウェイは同地域の様々な小川や流れで 100 ppt 以上に達するレベルでその化学物質を発見した。彼は、その化学物質のあるものはプラントから遠くで風により堆積しているようであったと説明した。

 ノースカロライナでは GenX は水中でもっと高い濃度で検出され、最も高いサンプルの濃度は 4,500 ppt を測定した。EPA はこのクラスのどの化学物質に関しても法的に拘束力のある規制をしていないが、同庁は昨年、 PFOA とそれに関連する化学物質 PFOS について飲料水中の基準を 70 ppt と規定した。いくつかの州も PFOA について州独自の飲料水レベルを規定している。バーモンド州は現在までのところ最も低い 20 ppt を設定し、ニュージャージー州の水専門家らはもっと低い14 ppt を提案しているが、それはまだ最終的に決まったわけではない。

 ザ・インターセプトによる問合せに対して、EPA は書面で次の様に回答した。

 EPA は、飲料水中の GenX の存在に対応するための適切な措置が決定されれば、公衆の健康の保護と州及び公共の水供給システムの支援に尽力する。安全飲料水法の下に、EPA は、汚染物質の広範な評価を実施し、汚染を特定し、規制するために利用可能な最良のピアレビューされた科学を使用するが、そのことは健康リスク削減のための意味のある機会を提供するものである。EPA は、飲料水中の GenX のための飲料水規則、健康勧告又は健康に基づくベンチマークを確立していないが、公衆の健康保護を確実にするための次なる措置を決定するために、州および公共水事業体と密に連携して働いている。

 2007年に、 PFOA の使用を止めたので、デュポンはその排出許可を更新することをウェストバージニア州環境保護局に申請した。2011年の同社と州当局との間の同意指令(consent order)の結果、同社は最高 17,500 ppt までの GenX を含む排水をプラントの近くの流れに放流することを許可されたが、それは PFOA と PFOS のための EPA 飲料水基準の 250倍の濃度であった。

 ”健康的な環境を推進”というタグラインのある便箋に、ウェストバージニア州の文書は、デュポンがその排水をオハイオ川とその支流に放流すること許す許可条件を記載している。その同意で、デュポンは、様々な”環境的放出と暴露を削減する環境制御技術”を実施することを約束した。ザ・インターセプトが情報公開法の下に入手した 2009年のデュポンと EPA との間の同意指令は、同社は、製造する GenX の 99%を回収するか、破壊することに同意したことを示している。

 デュポンが意図する GenX の製造量は企業秘密であると同意指令の中で宣言していることもあり、ケマーズ社が GenX 廃棄物の1%だけを放流するというデュポンの約束を守っているかどうかは不明である。デュポンの報道担当は、”全てのことは彼らに渡されている”と述べて、ケマーズ社への疑問に言及した。ケマーズ社は、どのくらい GenX を製造しているのか、そしてどのくらい GenX を放流しているのかという、この記事のための問合せには応えなかった。

 eメールの中でウェストバージニア州環境保護局の報道担当ジェイコブ・グランスは、デュポンとケマーズ社は許可条件にしたがい監視報告書を提出しているが、環境保護局は水中の GenX の存在は監視しないと述べた。

 ウェストバージニア州の同意指令の中で、デュポンは GenX を”好ましい毒性学的特徴”を持っていると述べ、ケマーズ社もまた営業用資料の中で同様な言い回しをしている。しかし、デュポン自身の研究はその特徴に疑問を投げかけている。同社は、2006 年から 2013 年の間に GenX に関連する有害な事象に関して、この化学物質に暴露した実験動物が、良性腫瘍はもちろん、肝臓がん、すい臓がん、精巣がんを発症したとする実験を記述する 16 の報告書を提出した。デュポンの研究はまた GenX をラットの低出生体重と妊娠期間の短縮、及び免疫反応の変化を含む生殖障害と関連付けた。

 月曜日に、ノースカロライナ州のウィルミントンの飲料水中に GenX が見いだされたことについての現地報道に応えて、ノースカロライナ州の公衆健康当局は、”2013年から 2014年に検出された GenX のレベルが人間の健康に及ぼすリスクは低いと予測される”と請け合う声明を発表した。その声明は、70,909 ppt という高い安全閾値を持つ欧州の調査について言及したが、その引用元を示さなかった。一方、最近のオランダの報告は GenX の有害影響は PFOA と同様であるということを発見した。そして、スウェーデンの尊敬される研究グループによる 2017年報告は GenX は PFOA より毒性が強いことを発見した。

 ケマーズとデュポンの両社はまた、 GenX は PFOA より速く人の体から排出されると強調した。しかし国立環境健康科学研究所のディレクター、リンダ・バーンバウムは、最近の会議でその相違を重要視しなかった。”調査されたどのパーフルオロアルキルスルホン酸類(PFAS)も問題を引き起こしている”と、彼女の研究所がそれらの化学物質への科学的研究に資金を出しているバーンバウムは述べた。”たとえ、それらがより短い半減期を持っていても、もしそれが30日なら、それは体内に蓄積するであろう”。

 ノースカロライナにおける飲料水についての研究の共著者であるクナッペは、それは矛盾する情報なのだから、州の環境当局はその極めて高いレベルの GenX を摂取しても安全であると言うべきではなかったと感じた。”私は実際に、 71,000 ppt という数字に胸が痛くなる”と、ノースカロライナ州立大学環境工学部の教授クナッペは述べた。”そのような数値を出して、それらのレベルでも水は安全であると人々に言うことができるとうそぶくのは無責任である”。

 その地域の多くの人々はまた、汚染について危惧し、混乱している。デボラ・ブキャナンは彼女が利用する飲料水中の GenX のことについて聞いて以来、彼女が 2015年になぜ甲状腺がんと甲状腺機能障害を患ったのかを説明するのに役立つかどうか、いぶかっている。GenX がどのように人の甲状腺に影響を及ぼすのかに関して利用可能な研究はないが、Google のクイック検索は、ノースカロライナ州リーランドに住むはブキャナンに PFOA は甲状腺の疾病に関係していることを示した。”私は、どの様にして私がその病気になったのかよくわからないが、それは私を驚かせた”。

 その地域の親は特に心配した。そのニュースが報道されるとすぐに、”我々のグループのがんの子どもをもつ母親らはフェイスブックに投稿し始めた”と、2012年に息子が白血病を発症した後、がんの子どもを持つ地域の親たちの会を組織したアミー・ヘルマンは述べた。”私が最初に考えたことは、彼にがんを発症させたかも知れない何を私たちは彼に暴露させたのか”とヘルマンは述べた。”私がその次に考えたことは、 私たちにはまだほかに3人の子どもがいる。どの様にして彼らを守ればよいのか?”。

 ヘルマンのグループ、ウィルミントン子どもかん支援グループには、何人かの白血病の子どもを持つ家族、及び珍しいタイプの肝臓がんの子どもを持つ3家族を含んで、 50家族が参加している。人間における GenX と肝臓がんの関連を示す研究は発表されていないが、 PFOA は人間の肝臓がんと関連がある。当初は”企業秘密情報”として分類されていた情報を使用して EPA のウェブサイト上に掲載されている産業側の研究以外には、 GenX の健康影響に関して入手できる研究は非常にわずかしかない。

 研究者らがケープ・フィアー川で発見した他の化学物質についてはほとんど知られていない。 GenX に加えて、科学者らはその川の水から6種類の他のパーフルオロアルキルスルホン酸(PFAS)化合物を検出したが、あるものは GenX の100倍のレベルであった。専門家らは合計で3,000 から 6,000 の異なる PFAS 化合物があるかもしれないと見積っている。

 ”私は、異なる化合物の数と多様性を見て衝撃を受けた”と、EPA の国立暴露研究試験所の研究科学者であり、ノースカロライナ調査の共著者であるアンドリュー・リンドストロームは会議で聴衆に告げた。”あなた方は自身に問いかけなくてはならない:下流側にある水処理施設は大丈夫なのか? そして非常にしばしば、その答えは非常に良いというわけではない”。

 実際に、ノースカロライナ調査の対象となった水を供給するケープ・フィアー公共事業当局により、先進的な水処理システムが使用されても、その化学物質を除去することはできない。”我々は、それは広範な汚染物質に対して非常に効果的であろうと期待するが、実際にはこれらの汚染物質はその水処理施設を通り抜けていくだけである”。

 それらの化学物質は規制されていないので、州当局も水供給者もそれらをテストしたり、除去する法的な義務がないか、ほとんどない。そしてニューヨーク州のフージック・フォールズ、ペンシルベニア州のウォーミンスター、ニューハンプシャー州のピーズ、ミシガン州のオスコーダ、そして飲料水が PFAS 汚染されたその他の地域のいらだった住民らは、自ら問題の解決に臨み、地域の抵抗組織を立ち上げ、議員に要求し、汚染者に圧力をかけている。ウィルミントンでは、いくつかの団体が GenX と戦うためにすでに立ち上がっている。そして法律事務所レビン・パパントニオは、その化学物質について訴訟を起こしていると発表した。

 しかし法的戦略では、限定された成果しか期待できない。 PFOA に関する集団訴訟は 2月の和解で歴史的な 6億7,100万ドル(約 740億円)を勝ち取ったが(訳注1)、裁判を起こすのに 10年以上かかった。その事業の一部からコマーズを独立させたデュポンは、木曜日にダウとの経営統合を条件付きで認められ(訳注2)、損失を止めた。そしてその裁判が結論を出すより十分前にデュポンはすでに代替物質 GenX の使用と放出を開始していた。  2013年から2016年に実施された EPA の監視は、数千のパーフルオロアルキルスルホン酸(PFAS)化合物のうち、わずか6種類だけをテストしたものであったが、27州の 1,500万のアメリカ人が汚染された飲料水を飲んでいることを示した。現在政府は、これらの化学物質について飲料水を監視していない。

 政府の監視の欠如が、オハイオ州の学生ジェイソン・ガロウェイに GenX のテストを自分自身で実施することを動機づけさせた。ガロウェイは化学者ではない。彼は泳ぐこともできない。それでも彼は、局所的な水のサンプルを採取するためにカヤックに乗って出かけた。”私は見まわしたところ、誰もそれをやっていないことが分かった。私はそれをすべき当局が、共謀しているのか、あるいは資金不足であることをしった。だからそれを自分自身でやった”と、ガロウェイは述べた。

 この記事は The Nation Institute(訳注:非営利団体)のThe Investigative Fund と共同で報告された。


訳注:関連情報
訳注1:デュポン C8 訴訟解決 訳注2:ダウとデュポンの合併

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