International Business Times 2016年6月22日
TSCA 改正:これらの有害化学物質は
それでも EPA の化学物質法の下で許される

マリア・ガルーチ

情報源:International Business Times, June 22, 2016
TSCA Reform: These Toxic Chemicals Are Still Allowed Under The EPA’s Chemicals Law
By Maria Gallucci
http://www.ibtimes.com/tsca-reform-these-toxic-chemicals-are-
still-allowed-under-epas-chemicals-law-2385455


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年6月25日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/articles/160622_IBT_Toxic_Reform.html

 アスベスト、C8、スチレン、そしてビスフェノールA−アメリカの規制当局は長年、これらの化学物質が人の健康と環境にリスクを及ぼすことを知っていた。しかし、制限的で40年前の古い化学物質法は、多くの消費者製品や工業製品中でのそのような化合物の使用を規制当局が制限することを阻んできた。

 ”規制は、情報の分析に時間をかけ過ぎて、決断を下せない状態に陥っている(paralysis by analysis)ことを証明した”と、ワシントンの環境防衛基金(EDF)の首席科学者リチャード・デニソンは述べた。

 今後、環境保護庁は、アスベストのようながんを引き起こすことが知られている化学物質、又はビスフェノールAのような人の発達と生殖を脅かす化学物質の規制にもっと余裕を持つことになるであろう。バラク・オバマ大統領は、水曜日(6月22日)に、この20年以上の間に初めて米国環境法の実質的な改正となる 1976年有害物質規制法の全面的な改正案に署名した。”ここアメリカで民衆は、我々が購入する洗濯用洗剤は我々を病気にするようなことはないし、我々の赤ちゃんが眠るマットレスは赤ちゃんを損ねることはないということを確信すべきである”と、オバマ大統領はワシントンでの署名式典で述べた。

 規制当局、産業団体、及び公衆健康活動家らの間での10年にわたる議論と論争の後に採択されたこの化学物質安全法の改正は、EPA の権限に対するある制限を取り除き、我々が日常的に使用する衣類、家庭用洗浄製品、家具、おもちゃ、その他の製品中の化学物質を EPA が調査するのを阻んできたやっかいな要求を緩和するであろう。過去 40年間、EPA は、アメリカで使用されている 8万種以上の化学物質のうち、わずか 5種類を禁止しただけである。概略 3,000種の高生産量化学物質のうち、その安全性をテストされたのはわずか7%だけである。

 ”この法案は、化学物質のリスクから人の健康と環境を保護するEPAの能力を妨げてきた基本的な欠陥に対応している”と、EPA 報道官モニカ・リーは e-メールで述べた。”我々はこれらの新たな改正を実施するために働く用意ができている”。

アスベスト問題

 元の有害物質規制法(TSCA)は、それによって年間 15,000人のアメリカ人が死亡しているアスベストに対する EPA の証拠は法的に十分ではないとするような高い科学的な立証責任を設定している。アスベストはかつて、コンクリート、天井断熱材、耐火被覆のような建築資材中で一般的によく見られた繊維である。それはまた肺がんと、肺と腹部を覆う保護的組織上に形成されるアスベスト特有のがんである中皮腫を引き起こすことができる。

 EPA は1970年代と80年代を TSCA 第6条の下に、アスベストの大部分の使用を廃絶する規制の開発に費やした。しかし連邦裁判所は、アスベストが健康又は環境に対する不合理なリスクを呈することを EPA は証明しなかったと主張して、その規制を退けた(訳注1)。EPA はそれ以来25年間、ただひとつの有害化学物質も禁止する試みをしていない。

 ”EPA は、10年後にアスベストのような物質が出てきても、第6条を適用させることができないのだから、他のどの様な物質をも適用させることができないであろうと結論付けていた”と、法律事務所 Beveridge & Diamond P.C. の所長マーク・デュヴァルは述べた。

有害な調理器具

 アスベストでの挫折の後 EPA はそれに代わり、C8 として知られているペルフルオロオクタン酸(PFOA)のようなある化合物の自主的な制限又は廃止を確立しようとした。この合成ポリマーは数十年間、デュポン社のテフロン調理器具中の重要な成分として使われ、現在でも数百種の焦げ付き防止ポットや鍋で使用されている。

 このコーティングは卵を焼いたりケサディーヤ(メキシコ料理)をひっくり返すのに非常に役に立つ一方で、 C8 は多くの健康問題に関連している。2011年と2012年、ある科学者委員会が C8 はおそらく潰瘍性大腸炎、高コレストロール、妊娠高血圧症候群、甲状腺障害、精巣がん、腎臓がんに関連していることを発見した。科学者らは C8 の影響は、たとえ低暴露であっても体全体に広がることを発見した。

 C8 及び類似の過フッ素化合物類は、調理器具中及びデュポンが多年にわたり廃棄した環境中のいたる所に存在するので、アメリカ人の 99.7%はその血液中に C8 を持っていることを米・疾病予防管理センターは2007年の分析で発見した。

 それなのに EPA は C8 を禁止しなかった。2006年に EPA は、デュポンを含む米国の化学会社 8 社と、特殊物質で表面加工された消費者製品から実質的に C8 を除去することについて合意に達した。この自主的な協定は公衆の健康と環境のために大きな進展であるとして歓迎された。C8 を含む製品から数十億ドル(数千億円)を稼いできた会社は、およそ数年で彼らの製造手法を変えることに同意した。

 しかし過フッ素化合物は特殊加工用ポリマーとして防水ジャケットや運動靴からポップコーン用容器、ピザ用箱に至るまで多くの製品で使用されている。2015年に、世界中から200人以上の科学者らが、C8 と同様に有毒かもしれないポリ及びパーフルオロアルキル物質(PFASs)について消費者に警告する声明に署名した(訳注2)。

EPA にもっと権限を与える

 今回の有害物質規制法の改正の賛同者らは、改正法は EPA に力を与え、その結果、もっと迅速にそして強力に、C8 やアスベスト、そしてその他の有害な化合物のような化学物質を規制するであろうと述べた。

 環境防衛基金(EDF)、全米野生生物連盟、マーチ・オブ・ダイムズ(小児麻痺まひ救済募金運動)、及びヒューメイン・ソサイエティー(動物福祉団体)を含むアメリカの公衆健康と環境団体は、この改正は現状の制度の著しい改善を示すものであると述べた(訳注3)、(訳注4)。化学物質製造者らもまた、この変更を大々的に支持し、消費者に EPA の化学物質評価に信頼をもたらすであろうと述べた。(産業団体の支持はまた、重要な環境法改正が激しく対立する議会内でどの様にして超党派の支持を得ることができたかを説明するのに役立つ。)

 この法律は、”もっと予測可能で一様な規制プログラムを達成し、アメリカ人の健康と環境をよりよく保護し、新たな仕事の機会を創生しつつ、我々の経済を支えるであろう”と、主要な産業団体である米国化学工業協会は e-メール でなされた声明中で述べた。化学会社は EPA の数千種の化学物質の見直しの費用を支援するために1年間2,500ドル(約25億円)を最初に支払うであろう。

 しかし EPA は現在、対象となる数万種の化学物質を見直すのに大きな障害に直面している。米国公益研究団体(U.S. Public Interest Research Group)及び社会的責任を果たすための医師団(Physicians for Social Responsibility)は次のように述べた。改正された法律は元のものより良いが、EPA が潜在的に有害な化学物質を見直すために十分な資金供給や職員を確保することを保証していない。新たな法律はまた、州の規制当局がある場合に州自身の制限を有害物質に課し、連邦政府レベルの遅い動きとお役所仕事に州政府が力を集中することを難しくしている。

 米国公益研究団体の有害物質キャンペーンディレクターであるカーリ・ジェンセンは、アメリカ人が有害物質規制法改正の利益を見るのにまる一世代の時間がかかるかもしれないと述べた。”我々が新たな改正法の下で安全であると感じることができるまでに長い期間が必要であろう”と彼女は述べた。


訳注1
U.S. Federal Bans on Asbestos / EPA
Regulatory history of asbestos bans
  • In 1973, EPA banned spray-applied surfacing asbestos-containing material for fireproofing/insulating purposes. See National Emission Standards for Hazardous Air Pollutants (NESHAP) at 40 CFR Part 61, Subpart M
  • In 1975, EPA banned installation of asbestos pipe insulation and asbestos block insulation on facility components, such as boilers and hot water tanks, if the materials are either pre-formed (molded) and friable or wet-applied and friable after drying. See National Emission Standards for Hazardous Air Pollutants (NESHAP) at 40 CFR Part 61, Subpart M
  • In 1978, EPA banned spray-applied surfacing materials for purposes not already banned. See National Emission Standards for Hazardous Air Pollutants (NESHAP) at 40 CFR Part 61, Subpart M
  • In 1977, the Consumer Product Safety Commission (CPSC) banned the use of asbestos in artificial fireplace embers and wall patching compounds. (See 16 CFR Part 1305 and 16 CFR 1304)
  • In 1989, the EPA issued a final rule under Section 6 of Toxic Substances Control Act (TSCA) banning most asbestos-containing products. However, in 1991, this rule was vacated and remanded by the Fifth Circuit Court of Appeals. As a result, most of the original ban on the manufacture, importation, processing, or distribution in commerce for the majority of the asbestos-containing products originally covered in the 1989 final rule was overturned.
See 40 CFR 763 Subpart I.See 40 CFR 763 Subpart I.

訳注2
Green Science Policy Institute 2015年5月1日 ポリ及びパーフルオロアルキル物質(PFASs)に関するマドリード声明

訳注3:改正に好意的な環境防衛基金(EDF)の記事
訳注4:改正に批判的な NGOs の記事
訳注:関連記事



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