ChemSec News 2018年1月
ハザード対リスク: 化学物質法の展望から誰が恩恵を受けるか? 情報源:Chemsec, January 2018 Hazard vs. Risk: Who's the winner from a chemicals legislation perspective? chemsec.org/publication/chemicals-business,general-chemsec,reach/hazard-vs-risk/ 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2018年2月16日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu/ngo/ 180100_ChemSec_Hazard_vs_Risk.html 化学物質法におけるハザードとリスク ハザードとリスクの概念は化学物質法の根幹であり、それは化学物質規制へのアプローチの仕方のための全体的な基礎をなす。 欧州連合(EU)の化学物質規則 REACH は、特定の状況の下ではあるリスクを許容するが、基本的にはハザードを除去することをべースに構築されている。まず最初に、ある化学物質は純粋にそれらのハザード特性に基づき、”非常に高い懸念のある物質(高懸念物質)”として同定される。そのメッセージは、これらの有害な(hazardous)化学物質は可能な限り避けるべきということである。それらを(より安全な物質に)代替することがまだ可能でない場合には、そしてその使用の継続の便益がリスクを上回る場合には、特定の用途に対する認可が与えられる。 しかし産業界の一部は、政策策定者に対してこのハザードベースのアプローチをやめて、専らリスク評価に基づく法律−ほぼ 20年前には大多数の人々により有効であると見なされていた様式−を再導入するよう圧力をかけ続けている。この様な変更は、今日、その市民を有害化学物質から保護するヨーロッパのやり方から根本的に逸脱している。 リスク・アプローチとハザード・アプローチの要点 リスクベース・アプローチの推進者らは、もし有害化学物質への暴露を制限すれば、その化学物質は問題を起さないと主張する。確かに他から切り離された環境の中ではそれは可能である。しかし、世界の市場は切り離された環境からは程遠い。ある化学物質の全ライフサイクルを通じて、すなわち製造に関わる労働者から製品の耐用年限までそれに暴露する使用者、そして廃棄からリサイクルに関わる全ての人々まで、ある化学物質への可能性ある暴露を正確に見積もることは極めて難しいことである。 したがってリスク評価は非常に複雑であり、多くのリソースが必要となるので、法律で使用する場合には効果的なアプローチではない。それらは化学物質が及ぼすリスクについての一部始終を決して画くことはない。 一方、ハザードベース・アプローチは人と環境を保護するうえでより良い仕事をするというだけではない。それはまた、より安全な新しい化学物質の革新のために非常に効果的な原動力である。我々は、今後強化されるであろう化学物質の規制を先取りすることが市場に安全な代替物質の需要を創造し、そのことにより革新的な化学物質製造者らがその需要を満たすということを何度も見てきた。 化粧品を例にとる 両方の推進者がしばしば用いる主張の例は化粧品産業である。化学物質法がリスクベースのアメリカでは約11(*)の化粧品物質が規制されている。化学物質法がリスクベースとハザードベースの混合である欧州連合(EU)では、1,379(*)物質が規制されている。(*):2017年1月現在。 ハザードベース・アプローチの推進者らは、このことは、これらの化学物質を規制することにより、消費者と環境を保護するための明確な理由があるので、システムは機能していることを示す証拠であると言う。一方、リスクベース・アプローチの推進者らは、このことは法律がいかに手あたり次第に禁止して、やりたい放題であることの完全な例であると主張する。 あなたが正しいと思う方を、そしてあなたの体に、そしてあなたの愛する人の体に使用する製品にあなたが望む予防と安全のレベルを、あなた自身で決めてほしい。しかしその前に、あなたはアメリカに比べて欧州連合では化粧品が手に入れにくいかどうか自問してほしい。ヨーロッパの人々は化粧品の使用が少ないであろうか? そして欧州連合の化粧品法がもし煩雑というなら、なぜヨーロッパに多くの大きな化粧品会社があるのであろうか?
質問と回答 1. ハザードベース・アプローチはなぜ化学物質だけを制限するのか? 他の多くのもの、例えば、車、そして水すら危険である。毎年交通事故で数千人が死亡し、多くの人々が溺死している。 もちろん、部品から成る車のような製品と個々の化学物質とを比べることには真の関連性はない。ChemSec は製品中の高懸念物質(SVHCs)としての基準に合致する有害な化学物質をより安全な化学物質に代替することを望む。ChemSec は製品全体(訳注:例えば車そのもの)を禁止することを望んでいない。 水の事例は、本質的なハザード特性とリスクの他のタイプとの間の相違を示している。溺死は、水の存在というより、むしろ酸素の欠如の結果である。 2. ハザードベース・アプローチは化学物質にもっと多くの制限をもたらす。我々は、産業側ビジネスをもっと複雑にすることにより、我々自身の産業を妨害しているのではないか? ビジネスはまた、この地球の一部である。ほとんどの会社は今日、このことを認識しており、健康と環境に及ぼすそれらの影響を制限するという意図を持っている。これは地球にとって、そして製品を購入する人々にとって良いことである。 しかし、短期的には確かに環境規制はビジネスにとって邪魔であるように見えるかもしれない。しかし世界中で環境法が強い国や地域を見れば、これらはまた明らかに最も高い革新とビジネスの繁栄のある地域であることがわかる。 3. 分かった。それならこの化学物質は有害である。しかし我々はその化学物質をほんの少量使用しているだけである。なぜ、その化学物質は許されないのか? ある場合には有害な化学物質を使用する以外に他の方法がないことがある。それは実行可能な代替物質がないか、又は社会経済的便益がその有害な化学物質を使用するリスクに勝ると見なされためである。この規則の適用除外はすでに REACH で確立されている。それは認可プロセスと呼ばれており、それに ChemSec は反対するものではない。それどころか ChemSec は良く機能する認可プロセスは、EU の化学物質法の中で非常に重要一部であると考えている。 ChemSec が懸念することは、より安全な代替物質が利用可能なのに、有害な化学物質を使用するための認可が授与されることである。 4. もし我々がリスクを管理することができるなら、リスクはないのではないか? それはライオンを檻に入れるようなものである。したがって、なぜ我々はハザードを見る必要があるのか? リスク管理は、例えば職場で有害物質への暴露を避けるための重要なツールである。しかしリスク評価は仮定の上に構築され、したがって決して完全な保護を提供することはできない。たとえ不確実係数が考慮されていても、例えば、漏えい、予測していない暴露又は事故、または意図しない又は予測しない使用など、予測していないことがらから我々を完全に守ることは決してできない。ある製品の全ライフサイクルを通じて可能性ある全ての使用を予見することは不可能である。 明らかな事例をあげれば、子どもたちは”おもちゃ”と認定できるものだけでなく、身の回りのどのようなものとでも遊ぶことである。ますます多くのものをリサイクルするという我々の積極的な努力の中で、例えば我々は車の古いタイヤを遊び場に持ちこみ、又は野菜を栽培するための容器として使用することがある。 ハザードベース・アプローチの下では、最も有害な物質は経済から除去されるので、我々は全ての暴露シナリオを予測しようとする必要はなく、リサイクル物質を価値のある資源として自由に利用することができる。 5. リスクベース・アプローチはより論理的でより利用しやすく見える。我々がもしその使用範囲を広げれば、規制はもっと効果的になるのではないか? 問題は、リスクベース・アプローチは、理屈の上では非常に論理的であるが、実施においては非常に複雑であるということである。多くの場合、必要とする多くのデータは入手できない。そこでリスク評価に基づく決定は多くの時間とリソースを必要とする傾向があるが、その結果にはまだ不確実性がある。そして結局、ある化学物質を使用するための決定は常に政治的決定となり、科学的な”真実”ではない。 我々はどちらのリスクを取りたいか? クロムメッキの化粧品容器を使用し続けるために、我々はどのくらい多くのがん発症を容認するのか? もしその答えがゼロなら、そのように時間を浪費するリスク評価は必要なく、その代わり我々は、その本質的な発がん性ハザードだけに基づき、この物質を禁止することができる。 訳注:当研究会が紹介した関連記事
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