欧・米の環境NGO
REACH高懸念物質候補リストを発表 全267物質

安全な物質への代替、市場に出ることの抑止、消費者の情報に基づく選択の促進を求めて

安間 武 (化学物質問題市民研究会)
情報源:ピコ通信第121号(2008年9月22日発行)掲載記事
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年10月27日
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 9月17日にブリュッセルで開催された 環境NGOの国際会議で、スウェーデンのケムセック(ChemSec)を中心とするヨーロッパとアメリカの NGOは、高懸念物質(SVHC)の候補リスト『REACH SIN List 1.0』を発表し、同時にケムセックのウェブサイトに掲載しました。当研究会は同ウェブサイトに掲載された『
REACH SIN List 1.0 に含まれる物質の選択方法』と『SIN List 1.0』を日本語訳したので、その概要を紹介します。詳しくは当研究会のウェブサイトのREACHのページをご覧ください。
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu_master.html

■REACHの高懸念物質リスト
 REACHでは第57条に高懸念物質が定義されており、高懸念物質としてリストに記載された物質は、REACHの認可プロセスで最も厳しい審査の対象となります。製造者/輸入者はこれらの高懸念物質を市場に出す前に代替品の検討を求められ、代替品がなければ、これらの高懸念物質を市場に出すことについて欧州委員会の認可を受けなくてはなりません。
 また消費者は、製品中に含まれる高懸念物質について小売業者に問い合わせる法的権利があり、そのことによって消費者は製品の購入にあたり、情報に基づく選択をすることができるようになります。
 このように高懸念物質リストは、有害物質のより安全な物質への代替、市場に出すことの抑止、そして消費者の情報に基づく選択を促進することを狙った非常に重要なリストです。
 REACHでは、欧州委員会が高懸念物質リストを作ることになっており、本年6月30日に欧州化学物質庁(ECHA)が最初の候補リスト(16物質)を提案したことは、前号のピコ通信(第120号)でお伝えしたとおりです。

■NGOの高懸念物質リスト
 スウェーデンの環境NGOであるケムセックは、欧州委員会が作成する高懸念物質リストは、既に毒性の分っている少数の物質しか含まず、消費者製品に含まれる多くの有害物質が見逃されることを懸念して、廃止しなくてはならないとNGOが考える"高懸念物質"のリストの作成を世界のNGOに呼びかけました(2007年6月)。
 このケムセックの呼びかけに応えたヨーロッパとアメリカのNGOの協力を得て、ケムセックは『REACH SIN List 1.0』を作成し、9月17日に発表しました。
 SIN は "Substitute It Now"の頭文字で、「今すぐに代替を!」という意味ですが、一方、英語のsinには"罪"という意味があり、「罪なリスト」という裏の意味があるようです。
 この初版リスト(1.0)では、CMR 物質:220、PBT/vPvB 物質:17、同等の懸念ある物質:30 の合計267物質を挙げていますが、ケムセックは今後さらに検討を重ね、改訂版リスト(2.0)を出すとしています。

■ リストに含まれる物質の選択手順
 以下は『REACH SIN List 1.0 に含まれる物質の選択方法』の要約です。

▼高懸念物質の区分
 REACHでは第57条で高懸念物質のカテゴリー(a〜f))とその基準を示しているので、これに対応して下記6つのカテゴリーを設定した。
  a) 発がん性(区分1又は2)(C)(訳注1
  b) 変異原性(区分1又は2)(M)(訳注1
  c) 生殖毒性(区分1又は2)(R)(訳注1
  d) 難分解性、生体蓄積性及び毒性を有する物質(PBT)
  e) 極めて難分解性で高い生体蓄積性を有する物質(vPvB)
  f) 上記a)〜f)の物質と同等なレベルの懸念物質(例えば、内分泌かく乱性物質)

▼CMR(区分 1 又は 2)として分類された物質の選択基準
 REACH第57条 a, b, c に対応
  1. CMR物質は、欧州委員会指令67/548/EEC (分類と表示)のAnnex I に既に記載されているのでこれをベースとする。
  2. Annex I は、CMR (区分 1 又は 2)の基準を満たす合計905物質を含んでいる。
  3. そのうち、CAS番号及びEC番号が欠落しているもの、REACH認可手続きから免除されているもの、石油製品の流れの中でのみ生じる複合炭化水素蒸留物(燃料)、農薬、などを除外すると、最終的に226物質が残った。
  4. これらのうち6物質は同時にPBTs / vPvBsとして分類されているので、実質220物質となった。

▼EU PBT 作業部会によりに PBT/vPvB として分類された物質の選択基準
 REACH第57条 d,e に対応
  1. 欧州連合の新規既存化学物質技術委員会PBT作業部会が、PBTとvPvB基準を満たす物質を特定しているので、これをベースとする。
  2. PBT作業部会は、PBTとvPvBを区分せずに27物質を選定した。
  3. REACHはPBTとvPvBの基準を分けているが(訳注2)、基準の相異は小さいので、とりあえずこの27物質を選定対象とした。
  4. この中から農薬(2物質)、炭化水素蒸留物質(5物質)、POPs条約の下で禁止されている物質(3物質)を除外すると、17物質が残った。このうち6物質は同時にCMRsとして分類されている。

▼同等の懸念に関するREACH基準をおそらく満たす物質の選択基準
 REACH第57条 f に対応
  1. REACHの同等レベルの懸念条項は今までにない概念であり、EU当局も環境団体もこのような異質なカテゴリーを用いた経験がない。そこで、"同等レベルの懸念"物質に関する公式指針である2007年の"高懸念物質の特定に関する Annex XV 書類の準備のための指針"に従うことにした。
  2. OSPARリスト、EU水枠組み指令、スェーデン化学物質検査院(KEMI)、アメリカやカナダの環境機関、協力会社等の様々な文書から約4000物質を抜き出し、概略リストを作成した。
  3. 重複する物質、CAS番号 又は EC番号のない物質、スウェーデンの"製品登録"とつき合わせて消費者製品に含まれない物質、高生産量物質(年間1000トン以上)、既知の有害特性が主に物理的特性(腐食性、爆発性、可燃性、など)の物質などを除外すると35物質が残った。
  4. ヒトのバイオ・モニタリング調査でしばしば見出されるハイプロファイル15物質をリストに加えた。
  5. 内分泌かく乱化学物質(EDCs)については、コンサルタント会社であるBKHが、EDCsに関する欧州委員会報告書(COM (2001/262)8)の高又は中程度の懸念物質(58物質)を評価し、10物質をリストに加えた。
    (備考):PCB類、DDT類、ダイオキシン類/フラン類、CMRs、及び農薬などは、REACHの対象ではないか、あるいは既に分類されたCMRsとして整理されているので、除外した。
  6. 上記(2)〜(5)を統合したリストを作り、これらの物質がREACHの高懸念物質に該当するかどうかを調べるために詳細な評価を実施した。その結果非常に高い懸念のある物質(高懸念物質)というREACH基準を満たすものとして30物質が残った。



■日本で我々市民がなすべきこと
 日本では現在、化審法の見直しが行われています。この"NGO高懸念物質リスト"に示されるような物質は、管理して使用すればよいとする"リスクベース"の考え方ではなく、高い懸念のある物質は"ハザードベース"に立ち、代替又は廃止すべきとして、我々、市民や消費者は国や企業に働きかけていかなくてはならないと考えます。
(安間 武)

訳注1:CMRの区分1と2について
 ・区分1:ヒトへの有害性が知られている
 ・区分2:ヒトへの有害性があるとみなされ、十分なデータがある

訳注2:REACHの(P)と(vP)について
  ・難分解性(P):土中の半減期120日以上
  ・非常に難分解性(vP):180日以上


化学物質問題市民研究会
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