99/2/2掲載


フォーレ/レクイエム(1900年版)
デュリュフレ/レクイエム(第1稿)
チョン・ミョンフン指揮
サンタ・チェチリア音楽院合唱団・管弦楽団
DG 459 365-2

 昨年9月にN響の定期を指揮したチョン・ミョンフン(NHKやレコード会社では「ミュンフン」と表記していますが、こちらの方が元の発音に近いそうです)ですが、その時に演奏されたヴェルディのレクイエムは、まさに息をのむような素晴らしいものでした。だから、私の大好きなデュリュフレとフォーレのレクイエムがレコーディングされたというニュースを聞いたときは、とてもうれしくなりました。特にデュリュフレは、今までは第2稿(オルガン伴奏版)や第3稿(縮小オーケストラ版)では理想的な演奏があったものの、大オーケストラのための第1稿ではこれといった決定盤が無かったため、大いに期待をしたのです。
 ほどなくして、国内盤にさきがけて輸入盤が出回りはじめたので、早速聴いてみました。お目当てのデュリュフレはイマイチの出来でしたが、それほど期待をしていなかったフォーレの方は、冒頭からただならぬ緊張感に支配されていて、とても素晴らしい演奏でした。以前申し上げたように、私個人としてはこの1900年版というのは、作曲者の意図が歪められてしまったヴァージョンだと思っており、あまり評価はしたくないのですが、そんな偏見も忘れさせてくれる程の説得力を持った名演といえるでしょう。ぜひ皆さんにも聴いていただきたいと思います。
ところで、この演奏でチョンは、他の1900年版の演奏では聴けないようなことをやっています。詳しく見てみますと、Introit et Kyrieで1ヶ所、Libera Meで3ヶ所に新たにティンパニが、そしてAgnus DeiLux aeternaにはハープが追加されています。ところが、実は彼がティンパニやハープを加えた場所というのは、J・M・ネクトゥーによって復元された1893年の第2稿の中にあるものと全く同じ場所なのです。ということは、チョンは明かにこのネクトゥー版を参考にした上で1900年版に手を入れたと言えるのです。つまりフルオーケストラ版を使ってはいるものの、ネクトゥー版がめざすところの本来教会で行われるようなこぢんまりとした演奏へのアプローチを試みた結果だといえるのではないでしょうか。(ネクトゥー版については、最近さる大物指揮者がこの版での録音を行ったという情報があります。近いうちに現物のCDが発売になりますので、入手したらさっそくお伝えします。)
 ところが、このCDの国内盤の月評を「レコード芸術」誌上で担当した畑中良輔氏は、この演奏があまりお気に召さなかったようで、「極彩色の、ゴテゴテした演奏」とこきおろしています。さらに畑中氏は「ゴテゴテした演奏」の根拠として「ティンパニの強奏」を挙げています。しかしこの場合の「ティンパニの強奏」は、今見てきたように畑中氏の指摘とは全く逆の方向性をめざしたものだったのですよね。表面的なものに惑わされて、その先にあるもっと凄いものを見落としてしまうというもったいない過ちを、この高名な声楽家はおかしてしまったのです。

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