[第2稿の復元] [「ラッター版」と「ネクトゥー/ドラージュ版」との違い] [第3稿の校訂]
ガブリエル・フォーレの「レクイエム」で、現在普通に使われている楽譜は、「第3稿」あるいは「1900年版」と呼ばれるものですが、そこに至るまでの作曲の経過は次の通りです。(J.-M.Nectouxによる)
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ところが、この「第3稿」のオーケストレーションには、フォーレ自身は全くかかわっていないということが、最近の研究で明らかになっているのです。フォーレはこの曲をもっぱら“個人的な喜び”のために書いたため、もともと出版する意志はありませんでした。ところが、彼の作品をこれまで出版してきたパリのアメル社は、この曲も出版しようと考えます。そして、ヴァイオリンと木管が無いというきわめて特殊な楽器編成である「第2稿」を、もっと需要があって売れそうな「普通の」編成に書き直すようにフォーレに進言します。しかし、フォーレは最初から乗り気ではありませんから、実際のオーケストレーション作業は彼の弟子のジャン・ロジェ=デュカスが行ったのです。この、フォーレが望んだものとは程遠い形で出版されてしまった第3稿、いわゆる1900年版が、以後1世紀近くにわたって、この曲の唯一の出版稿として流布することになるわけです。(このフレーズ、どこかで見たことがありません?そう、1年以上前の本紙Nr75でブルックナーの版の話のときに使った文そ のままなのですね。この曲の出版にあたっては、ブルックナーの交響曲の場合と同じことが起こっていたわけです。)