読書記録2000年一覧へトップページへ


読書記録2000年5月


『王たちの行進』
落合信彦(集英社)/小説/★★

中途退職した超エリート商社マンが、あるきっかけで旧東ドイツから3500人の亡命をビジネスとして手掛ける…というストーリー。

友人に勧められたので読んでみた。諜報機関とかマフィアとか、劇画的で展開が強引なような気もするが、そういう小説なんだ、と思って読めばグイグイ引き込まれる。ワクワクしながら一気に読み終えてしまった。

集英社といえば『少年ジャンプ』、そのキーワードは「努力・友情・勝利」だが、それを思い出して思わず笑ってしまった。そんな内容だ。後に残るものは特になかった。


『チェ・ゲバラ伝』
三好徹(文藝春秋)/伝記/★★★★

キューバ革命の英雄、ゲバラの伝記。以前にも他の本で簡単な伝記を読んだことがあるが、改めてより詳しいものを。

革命で権力を持った後、それに固執して豹変する人物が多いが、彼はキューバで国造りに全力で取り組んだ後その地位を捨て、ボリビアの革命軍に身を投じ最期を遂げる。この本では当時の南米諸国のアメリカ資本による搾取の実体や、なぜ武器を手に戦わざるを得なかったのか、なぜキューバは社会主義陣営になったのか、など社会背景、歴史も詳しく語られている。

ゲバラは私の最も尊敬する人物の一人。理想に燃えたロマンチスト、その実行力、努力、誠実さ、献身ぶり。どれを見ても自分とは正反対。女性問題は困ったものがあるんだが、これはラテン文化らしい…う〜ん、そうなのか?

一時期、アメリカ企業の作ったゲバラの顔がプリントされたTシャツが、何も知らない日本の若者にただカッコイイからという理由で売れている、と新聞で知ったときは本当に悲しくなったものだ。そんな若者やキューバに意味も無く偏見を持っている人、アメリカの良い面しか知らず、裏の汚さを知らない人には、是非ゲバラのことを知って欲しい。

* * * * * * * * * * * *

2001/3 追記
写真集(『エルネスト・チェ・ゲバラ』)まであるんで驚いた。彼には人を惹き付ける魅力がある。


『「死の医学」への序章』
柳田邦男(新潮社)/ノンフィクション・末期医療/★★★★

癌に罹った一人の精神科医を中心に、末期医療のあり方、そして「死」と「生」を見つめるノンフィクション。

死を目前にした人間は世界が光り輝いて見える(死刑囚も!本当だろうか?)という。私は二年間入院生活をしたが、その中では今までいた世間が外界のように感じられ、ひどくせわしない、しがらみだらけの面倒な世界に見えた。それは「死」を目の前にしていなかったから。癌患者を死刑囚に例えるなら自分はやる気のない無期囚だ。

今、「死」を宣告されたらどういう反応をするだろう?ギャーギャー騒がないまでも今以上に全てにおいて投げやりになり、この医師のように死ぬ前になにかを成そう、残された時間を精一杯生きよう、などとはとても思えないだろう。

この障害を負ってから、死んだ方が良かったなどと思うことが何度もあった。でもそれは軽い。なんて自分は弱いのだろう。「死」を考えるにはやはり「生」についても自分なりの答えを探さなくてはいけないようだ。その逆もしかり。が、残念ながら、無能な身体障害者である私にとっての「生」の意味を知るきっかけになるものは見つけられなかった。

「死」と「生」をわかりやすく説いてくれ、考えさせてくれた。


『フェミニズム』
リウス,訳:西沢茂子、山崎満喜子(晶文社)/共産主義・風刺マンガ/★★

メキシコの風刺漫画家の本。簡単に読める風刺漫画。タイトルを見るとバリバリフェミニストの本かと思うがそうではない。むしろ世間一般のフェミニストを批判する。そしてなぜか話は真の女性解放は資本主義社会ではあり得ず、社会主義の中で実現する、という展開に。

確かに男女平等を叫ぶ女性にはちょっと違うんじゃない、という人も多いけどだからと言って社会主義とはねぇ…。結局リウスさんはなんでもかんでもそっちへもっていくんだな。


『エコロジー』
リウス,訳:山崎カヲル、斎藤純一(晶文社)/共産主義・風刺マンガ/★

メキシコの風刺漫画家の本。簡単に読める風刺漫画。人口増加、環境、騒音、ドラッグ問題など、高度消費社会の過激な風刺。タバコを吸うのが恐くなる内容。

あまりに大袈裟すぎて、例に挙げられる事実もどこまで信用していいのか疑わしい。微妙。で、なんだか強引にハナシは進み、最後は社会主義が善、という結論に…。結局それを言いたかったのか。この人は本当に資本主義、先進国が嫌いなんだな。社会主義国の環境破壊も凄まじいものがあるんだが。


『資本主義ってなんだろうか』
リウス,訳:山崎カヲル(晶文社)/共産主義・風刺マンガ/★★★

メキシコの風刺漫画家の本。簡単に読める風刺漫画。資本主義の歴史を振り返り強烈に批判する。

この屈折した考えにはとても全面的には同感できない。20年以上前に書かれたものだからか、資本主義はこんなに悪いんだ、そして共産主義はこんなに素晴らしい、と言うが現状を見るともう、ね…。しかし資本主義の問題点は、なるほどそうだな、と思わせてくれるものが多い。貿易自由化、会社内での能力主義、ネット成金、資本の集中など、形を変えて悪い歴史を再現してはいないだろうか。

資本主義こそ自由で公平だ、どこが悪いと言う人は読むといいかも。面白かった。


『深夜特急 第二便 ペルシャの風』
沢木耕太郎(新潮社)/紀行・アジア/★★★★

インドのカルカッタからイランの「王のモスク」まで、シルクロードをバスや列車を乗り継いでの気まま?な旅の記録。混沌としたアジア世界が描かれる。

国内ならともかく、この地域をこんなやり方で旅をするのは凄い。色々なものがリアルに見られて感じられて、健康だったら一度はツアーの旅行なんかではない現地の人々と直接触れ合うことのできる、こういう貧乏旅行をするのもいいかもしれない。とても心に深く伝わってくるものがあって…。

カースト制度は思っていたより凄まじいもののようだ。ヒッピー、私の世代ではどうもピンとこないがこういうものなのか…。ヒッチハイクもしたら電波少年みたい、などと思ったが、あれはまさにこういったヒッピー的価値観への憧れが多くの人に支持された結果として人気が出たのだろうか?

雑多な町や生活の様子がルポ的に描かれ、ナマの異国の文化が伝わってきた。特に中央アジアに関しては全くの無知だったのでとても興味深かった。やっぱりそうなんだ、えっそうなの、へ〜そうなのか、などなど。


『わしらは怪しい探検隊』
椎名誠(角川書店)/エッセイ・アウトドア/★★

筆者のキャンプ活動がユーモアあふれる表現で綴られたエッセイ。

大人になっても子供心を忘れずにいることは楽しい。アウトドア好きな人には共感できることが多く楽しめるだろう。最後メンバーがなんとなくバラバラになってしまう寂しさはあるが…特に記憶に残るものはなく、あ〜面白かった、で終わってしまった。


『現代の批判』
セーレン・キルケゴール,訳:飯島宗享(白水社・キルケゴール著作集11)/哲学・実存主義/★★★

「現代」と言ってもキルケゴールの時代、19世紀頃のデンマークへのメッセージ。悪い意味で知恵をつけ情熱をなくした反省の時代、個が個を失い、いつの間にかその世代、社会全体で個となってしまう…。

これってそのまま現在の日本へのメッセージとしても充分通用するように思う。現在の日本、例えば…ガングロの女の子たちは自分たちを個性的と思っているようだが、そういう子たち三人並んだら区別がつかないくらい似てる。TVの情報だけでこんなこと言うのは悪いが、顔も言うことも考えてることもやってることも、こいつらみ〜んな同じじゃねぇか、とまで思ってしまう。政治家も配役が違うだけでみんなそう見える。傲慢ですいません。

個性的に、なんて簡単に言うけれど、その個性も「情熱」がその土台になければなんの意味もない、と彼は言う。そのために、やっぱりキリスト教が出てきてしまうんだな。内面性の裏付けがある社会性……結局は、神の前にただ一人単独者として立つ、ということか…。確かに、他者の視線や心に自らの拠り所を求めてそれに左右されふらつくより、超越した存在に拠り所を求めた方が個性的でいられるかもしれない。

個が個としてなることの難しさを考えさせてくれた。


『死に至る病』
セーレン・キルケゴール,訳:松浪信三郎(白水社・キルケゴール著作集11)/哲学・実存主義/★★★★

実存哲学のハシリ。初めて真面目に読んだ原典。立花隆著『脳を鍛える』の中で引用されていて興味を持ち読んでみた。が、なんじゃこりゃぁさっぱりわからん、という具合。もう一度『脳を鍛える』の関連部分数ページの解説を読み再挑戦。そうしたらなんとなく見えてきた。で、高校の倫理の資料(これが意外に内容濃い!)も探して実存主義、キルケゴールの部分を参照しながら読む。そしたら難しいようでもけっこう読めるものだ。

客観的世界、主観的世界、そして今まで意識しなかった三つ目の視点、自己の中へ入って行って見る、自己自身の内部世界。その中でありとあらゆる絶望の形を突き詰めていく。そして絶望は罪であり、罪もまた絶望であるという結論を導く。その解消、自己実現には無限性と有限性との、時間的なものと永遠なものとの、自由と必然の「総合」、この関わりに積極的に関わること、つまり神の前に一人で立つことが必要になる。絶対的に質の異なる、永遠の神、そして神の子でありながら人間の姿をした、有限のイエス…この絶対的な逆説。贖罪など、キリストの前では何度も躓きの危険にさらされる。最終的には無条件の信仰しかしかなくなってしまう…いかにしてキリスト者になるか、か…。

とにかく頭がくたびれた。全く理解できていない。弁証法、聖書を少しは理解してからもう一度挑戦したい。


『沈黙』
遠藤周作(新潮社)/小説・キリスト教/★★★

切支丹弾圧下で布教を試みるポルトガル司祭の、事実をもとにしたフィクション。神への信仰心と、それを疑う司祭の心情…。「転んだ」あとも信仰心を貫きたい気持ちと踏み絵を踏んだ自分をなんとかして両立させたい気持ち…。信仰と弾圧の間で葛藤に揺れる司祭が描かれる。

『砂の城』を読んでガッカリさせられた直後なので疑いながらも、遠藤周作さんはクリスチャンというから信仰がテーマのこの本を期待して読んだ。スラスラ読めたし訴えるものがあったが信仰心ゼロ、むしろ否定的な私には、わかったつもりになってもわかってないことだらけだと思う。やっぱりいつかは聖書読まなくては。

* * * * * * * * * * * *

2001/4 追記
犬養道子さんは『聖書のことば』で、聖書のごく一部だけを見て物事を論じるのは一番やってはいけないこと、だと言っていた。しかしあえてやってみたい。

マタイの福音書10章…生前のイエスが「狼の群れに羊を送り込むようなもの」と比喩して、十二使徒を伝道に送るとき(この伝道は実際には行われなかったようだが)に語った言葉…この章の前後に特になにかヒントがあるかと思ったが、彼の言葉はどう受け取ればいいのか…私にはどっちにも解釈できてしまう。解釈できない。

ここについての、ある真摯な聖書講解を読んだが…ほとんど理解不能だった。それでは、弟子として生きるからには師と同じ最期を覚悟せねばならないとイエスは求めている、とあった。その、人の姿をした神の子は、迫害のために命を落とした。身を以て信仰のために死ぬ姿を示した。…その一方で、どういう選択をしようが神は全てを知っているのだから、その神にそれを委ねよ、と受け取れる部分もある。その神は愛の、許しの神だ。…が、ここは微妙だ。

キリスト教を悪い意味合いを込めて「奴隷宗教」と呼ぶ人がいる。反論は難しい。う〜ん…ただの人間は神の子イエスとは違う。この小説の主人公は迫害に屈したが、イエスを「拒んだ」わけではない。信仰の形はどうあれ主人公の選択は…分からないがでも、OKだと思うが…難しい。全然わからない。それにしても人の世は理不尽だ。


『ぼくはこんな本を読んできた』
立花隆(文藝春秋)/エッセイ・書評/★★★

内容はタイトル通りの書評、プラス、彼の読書論や書斎整理術などなど。

立花さんの本にしてはわかりやすくすらすら読めた。書斎整理術は私には関係ないことで参考にはならなかったが、まさに本に埋もれるこの状況、立花さんの知識欲にはひたすら感嘆。勉強法も凄い、できる人には理由がある。

『脳を鍛える』を読んで思ったことだが改めて、まったくこの人の頭はどうなっているんだろう。中学時代の作文も載っているが、すでに化け物。図書館にある本半分は読んだろう、て…。専門書や論文などは自分の手に負えるものではないが、紹介されている本にたくさん面白そうなものを見つけた。少しずつ挑戦しようか。


『脳を鍛える』
立花隆(新潮社)/一般教養・学問全般・大学講義/★★★★★

東大の教養学部で行われた講義を一般向けに書き下ろしたもの。学問へ取り組む姿勢から始まり、歴史、哲学、文学、宗教、数学、サイエンスなどなど、恐ろしく幅の広い分野から「人の知」を見つめる。文系理系、偏りすぎて他が見えなくなるのは良くない、マクロな視野を持つべき…。

学生相手の講義だから、まったく、というわけではないが、難しくて正直ほとんど(特に数学やサイエンスは)ついていけなかった。でも、もう読みたくない、ウンザリ、というんじゃなくて、いつかちゃんと理解したいと思うような内容。自分がいかになにも知らないかをおもいしらせてくれた。この本はこれから良い教科書代わりになってくれるかもしれない。しかし東大の学生はこんな講義が聞くだけでよく頭に入るもんだ。

* * * * * * * * * * * *

2000/12 追記
このとき思ったとおり、この本は私の世界をグンと広げてくれた。この講義の一部と関連する本を読んでこれを読み返すと、立花さんは本当に凄い人だ、と改めて思う。


読書記録2000年一覧へトップページへ