|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
『忍』とは 『SHINOBI 忍』は、1987年にセガのアーケード用システムボード「システム16」で発売された横スクロールアクションゲームである。時は現代、所はA国(というかアメリカ)。犯罪シンジケート「ZEED(ズィード)」にさらわれた子供忍者たちを救い出し、組織を殲滅するため、若き天才忍者ジョー・ムサシが走る! まるで当時ブームだった「ショー・コスギのニンジャ映画」みたいだが、はっきり言ってそのまんまである。 全部で5つのミッションがあり、ミッション1のみ3つ、以降のミッションは4つの短いステージに分かれている。舞台は都会の街並みから、メカニカルな基地、はたまた純和風の忍者屋敷まで、さまざま。待ち受ける敵の忍者軍団も、二刀流のいかにもな忍者から、銃やナイフを持ったチンピラ、『北斗』ばりのモヒカンにジャンキー、果てはバズーカ装備のシュワやスパイダーマンまで、というかこいつら忍者なのか? とにかく、これらの敵を倒しながらステージ中に捕らわれている子供忍者をすべて助け出し、出口までたどり着くとステージクリア。各ミッション最後のステージはボスとの一騎打ちとなっている。ミッションとミッションの間にはボーナスステージがある。 さまざまな家庭用ゲーム機に移植され、1989年にはアーケードで続編『シャドー・ダンサー』が発売されている。また、家庭用オリジナルの続編も数多く作られ、セガの看板アクションのひとつと言えるまでに成長。日本のみならず、海外でも非常に高い人気を誇った。
ゲームシステム 操作は8方向レバー3ボタン(攻撃、ジャンプ、忍術)。画面に上の段と下の段(または、奥と手前)という概念があるのが特徴的で、レバー上下入れジャンプを使って行き来する。通常攻撃は手裏剣だが、敵が近くにいるときは自動的にパンチ・キックといった近接攻撃になる。近接攻撃は、刀で手裏剣を弾き返す敵にも貫通してヒットするので、使いこなせば非常に強力。そして、特定の子供忍者を助けてパワーアップすると、手裏剣の代わりにピストルが、パンチ・キックの代わりに刀が使えるようになり、攻撃力は通常の2倍、当たり判定も大きくなる。てか、忍なのになんでチャカ持っとんねん。 また、1ステージに1回だけ、必殺の忍術を使用することができる。「稲妻の術」、「竜巻の術」、「分身の術」の3種類があり、どれが使えるかはステージによって決まっている。使用すると、それぞれにド派手なエフェクトが楽しめるが、効果はどれもまったく同じで、通常ステージでは画面上の敵を全滅、ボスステージではボスに大ダメージを与える。いわゆるボンバーである。 『忍』の基本システムや操作感は、上の段と下の段を行き来するところをはじめ、前年にナムコから発売された『ローリングサンダー』によく似ている。ただし、本作では手裏剣を無制限に投げることができたり、敵の体に触れるだけならミスにならないなど、より遊びやすい仕様になっている。また、強力な忍術や近接攻撃も『ローリングサンダー』にはなかった要素で、これらを使い分けながら進んでいく点が、『忍』独特のゲーム性といえるだろう。
ボーナスステージ ミッションとミッションの間には印象的なボーナスステージがある。視点は擬似3Dで、今で言うFPS風味。画面手前の手を左右に動かし、次々に現れては変な台(?)の上を走り回る敵忍者を手裏剣で撃ちまくる、というものである。後ろの壁には「心」「義」とか書いてあり、意味不明度倍増。敵忍者は放っておくとこちらに近づいてきて、デドンと目の前まで来られると終了。手裏剣は超連射はできないので、それなりに狙って撃つ必要があり、結構難しい。実力勝負である。見事パーフェクトを達成すると、「忍」と書かれた扇子がどこからともなく雨あられと降り注ぎ、画面中を跳ね回った後、1UPする。はっきり言って異様な光景である。 実は『忍』は当初、手裏剣型の特殊なコントローラを使ったゲームとして開発されていた。まさに手裏剣を投げるような手つきで操作するコントローラを生かすべく、まず最初にこのボーナスステージが作られたのである。しかしながら、このコントローラは通常のアクションステージの操作に不向き過ぎたため、最終的には汎用的なジョイスティックが使用されることになった。ちなみに、ボーナスステージ失敗時に大写しになる忍者は、当時セガの新人デザイナーで、現在は忍者漫画の大家として有名な「せがわまさき」によるものである。
ステージ構成 ミッションの最初にボスの手配書が表示される。そしてボスを倒すと、手配書の上にドカンと「済」のハンコが押される。意味はよく分からないが、素晴らしい演出。本作は1ステージが短めで、テンポよく場面が切り替わっていくのが楽しい。 MISSION 1 「テロリストを追え!」 舞台はスラム街。ボスは「ケンオー」。通常ステージの最後にも顔見せでちょろっと現れ、1発だけ撃って逃げていく演出が秀逸。 MISSION 2 「アジトに潜入せよ!」 舞台は港。ボスは大型ヘリ「ブラックタートル」。なぜかこのボスだけ他とBGMが違う。 MISSION 3 「補給基地を叩け!」 舞台は基地。ボスは数列数段に組まれた仏像「マンダラ」と、その奥に潜む本体、火を吐く巨顔「マンダラマスター」。 MISSION 4 「ニンジャ部隊を打ち破れ!」 舞台は訓練所。ボスは「ロブスター」。ちなみに後のメガドライブ版にも「ブルーロブスター」や「ガードロブスター」が登場。 MISSION 5 「黒幕ニンジャを倒せ!」 舞台は屋敷。このミッションに限り、コンティニューはできない。ボスは黒幕「マスクドニンジャ」。「稲妻の術」、「竜巻の術」、「分身の術」、「忍タックル」の4つの大技で攻撃してくる。こいつを倒すとエンディング。2周目はなし。 エンディングでは、マスクドニンジャの正体が実はジョー・ムサシに忍術を教えた師匠「ナカハラ」であったことが明かされる。ナカハラは、忍者が重要な役割を担っていた封建時代を再現するという野望にとりつかれ、テロ組織を作り上げたのだった。 主人公ジョー・ムサシの名前がショー・コスギを意識しているのは明白だが、直接にはプランナーの菅野豊が当時住んでいた社員寮がJR南武線の「武蔵新城」駅にあったことに由来する。そしてナカハラの名前は、武蔵新城の隣駅「武蔵中原」から取られている。つまりナカハラもフルネームは「ナカハラ・ムサシ」となるため、同じ名字ということはきっと親子、実は『スター・ウォーズ』のようなドラマが裏に秘められている、といった妄想を菅野自身は膨らませていたという。ちなみに、武蔵中原の隣駅は「武蔵小杉」である。
『忍』の魅力 手裏剣をシュシュシュッ、と投げる、素早く敵の懐に近づいて刀で両断する、鋭くジャンプして上の段に飛び移る。そして画面中を覆い尽くす、ド派手な忍術で敵を一掃する。「デェッ」「フゥッ」「アオォッ」「トリャァーッ」妙にアメリカンなムサシのボイスも相まって、ひとつひとつのニンジャ・アクションが、操作していてとにかく気持ちいい。アクションゲームにおいてまず重要な点を、本作は十分にクリアしている。個性的で多彩なステージ、敵キャラクターはプレイヤーを退屈させないし、川上泰広による印象的でノリのいいBGMも素晴らしい。 難易度的には、ライフ制ではなく一発死なので、力押しが通用せず、最初はつらく感じるかもしれない。しかし実は、一度攻略パターンができてしまえば1コインクリアはそんなに難しくない。敵の出現パターンは完全に決まっているので、位置を覚え、出会い頭に攻撃を食わないよう慎重に進む。厳しいシーン、危ないシーンでは迷わず忍術を使っていく。アドリブやシビアな操作はそれほど要求されず、いわゆる「覚えゲー」的要素が強いので、プレイするたびにどんどん先に進めるようになっていくのが楽しい。 ただし、そこからさらにハイスコアを目指すとなると話は別。ステージクリア時、残りタイムがスコアに加算されるが、これに加えて、忍術を使わずにクリアすると5千点のボーナス、さらに手裏剣を一切使わずにクリアすると2万点ものボーナス、通称「忍ボーナス」が入るのである。前述のように一発死の上、敵は飛び道具をどんどん撃ってくるのだから、これを達成するのは至難の業。高得点を得るには、緻密な攻略と高度なテクニック、そして集中力が要求される。このように、初心者から上級者まで幅広く楽しめるゲーム性が、本作が人気を博した要因のひとつといえよう。 なお、『忍』の企画を担当した菅野豊は後に『クラックダウン』を開発しているが、これは『忍』のゲーム性を発展させた作品で、「忍ボーナス」と同様の要素も受け継がれている。また、菅野以外のスタッフも「チーム・シノビ」として、『獣王記』や『ゴールデンアックス』など、セガを代表するゲームをいくつも生み出している。
『忍』シリーズ 先にも述べたように、『忍』はさまざまな家庭用ゲーム機に移植されている。見た目がアーケード版に最も近いのは、1989年にアスミックから発売されたPCエンジン版だろう。ただ容量の問題により、アーケード版のミッション2と、印象的なボーナスステージがカットされてしまっているのが痛い。また近接攻撃やパワーアップがないなど、ゲームバランスにもかなりの違いがある。 1987年に発売された本家セガ・マークIII版は、マシンスペックの問題からグラフィックやサウンドは劣るものの、その分ライフ制の導入や、パワーアップ、忍術の追加など、システム面での大幅な強化が特徴的であった。特に新しい忍術は、無敵や浮遊など、それぞれに異なる効果を持っていた。これにより、ゲームの戦略性がアップしたといえよう。 また、『忍』は海外で特に高い人気を博し、アミガ、アタリST、コモドール64、アムストラッドCPC、ZXスペクトラムなど、さまざまなコンピュータにも移植されている。さらに海外では、テンゲンからNES(海外ファミコン)版も発売されたが、これは任天堂のライセンスを受けていない。 『忍』の世界的なヒットを受け、1989年にはアーケードで『シャドー・ダンサー』、メガドライブで『ザ・スーパー忍』が発売された。そして、その後も家庭用ゲーム機を中心に、数多くの続編が登場することになる。かくしてアクションゲームの歴史上、最も偉大なシリーズのひとつである『忍』シリーズが生まれたのだ。
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Back Next Main |