ダブルドラゴン アドバンスへの道
The Way of Double Dragon Advance
[ Part 1 ]




海老沼 宗樹 Muneki Ebinuma (EBINUMA LEE)
GBA版『ダブルドラゴン アドバンス』の企画を担当。1991年にテクノスジャパンに入社。SFC版『リターン・オブ・ダブルドラゴン』を担当する。その後、AC版『シャドーフォース』のプレイヤーのアクション案出しやSFC版『ハイブリッドレスラー』の企画補佐、ネオジオ版『ダブルドラゴン』の技案などを担当。テクノス退社後もPSやACのタイトルの企画補佐を担当する。映画アクションのスタントチームに所属していた経験から、Xbox版『DEAD OR ALIVE 3』の「ジャン・リー」の追加モーションのモーションアクターや、Xbox版『NINJA GAIDEN』の「あるキャラクター」のモーションアクターなども務めている。現在、(株)ミリオンの契約社員。

はじめに

 私自身『ダブルドラゴン』に惚れ込んで、1988年当時売っていたAC版サントラカセットの中の開発者コメントを読んで感動し、テクノスに就職したほど! ダブドラが引き金で業界入りしたという思い出深いタイトルであり、またSFC版やネオジオ版の無念のしみついた因縁の深いタイトルでもありました。

 プロジェクトに呼ばれた時点で、GBAの最低容量32メガであること(USAでの販売価格をなるべく下げるために)を提示されていまして、残念ながらこの容量は変わっていないために、限られた範囲内で取ったり入れたりしてもがきながら開発しました。これはパズルゲーム並みの容量で、一般的には次の64メガがスタンダードであり、最近はその上の256メガが良く使われるらしいです(うらやましい)。
 本作はその32メガしかない! という時点で、約半分以上のネタをカットせざるを得ませんでした。でも最低、これだけは入れよう! という部分はギリギリ入れられたと思っています。

 厳しい制約はありながらも無事に完成し、デキには納得しております。確かな手応えにまで、時間と容量のある限り粘って調整しました。今こうして商品化されたソフトを遊んで感動している自分を思うと、このゲームに逢えて、惚れ込んで良かったなぁとしみじみ思います。

コンセプト

 本作の依頼は瀧邦夫さん(元テクノス社長)からお話をいただきました。確か昨年の今頃でした。その時から「『リターン』の無念を晴らす」というだけでなく、「ダブドラシリーズ1から4までの魅力を1本にまとめて現在に伝えたい!」という目的がありました。

 ダブドラはFC版はすでに生産していませんし、AC版はレトロゲーセンのフロアでも見ない時代になりました。これをAC版もFC版も知らない世代に何とか伝えて後の世に残したい! ということや、ダブドラを懐かしい思い出として大切にしてくれている皆さんに楽しんでもらいたい! ということがあったので、テクノスらしい重要なポイントを優先してまとめました。

 そのため、『ストII』のコマンドを入れろ! とか『ファイナルファイト』みたいにしろ! などのリクエストもありましたが、なるべくダブドラらしい泥臭いバイオレンスアクションの世界を大切にして、コンセプトに沿わない意見には抵抗しました(この私の方向性を理解して守ってくれたのは瀧さんと吉田さんという『ダウンタウン熱血物語』担当の先輩でした)。
 それからシリーズ1、2、3、4で分散された「格闘システム」をどのようにまとめるかも重要でした。今見直すとつめが甘く、直したい部分だらけですが。

プレイヤー

 プレイヤーについては、まずAC版『DD1』の雰囲気を大事にしました。一度、髪型もリーゼントで描いてもらったのですが、あまりにも雰囲気が80年代的すぎるのと「敵キャラ」っぽかったので、『リターン』の髪型を短くして年齢的にも若く見えるように描き直してもらいました。

 どうしても再現したい! とこだわったのはテクノスアーケード伝統の「左右パンチ」でした。それに伴うリアクションの「左右首振り」も絶対に必要でした。過去の移植版は容量もあってできなかったのではなく、やろうとしなかったので、テクノス伝統の映画的な殺陣「AC版左右パンチ」をうまく再現した作品はあまりありませんでした。
 それから「背中歩き」をどうしても入れることにこだわりました。そして「つかみ膝蹴り」の奇妙なコマ数も、どうしてもあのままワサワサとアニメさせることにこだわりました。

 「ジャンプキック」はAC版の「ジャンプキック」のフォームがどうしても嫌いだったので、私の大好きな映画『ブルース・リー死亡遊戯』の大男ジャバールへの飛び蹴りの写真をデザイナーに見てもらって描いてもらいました。初めて見た時は嬉しくて嬉しくて大爆笑でした。
 敵がかがみの時の「ラウンドハウスキック」もAC版の蹴りのフォームには不満がありまして、自称蹴りオタクの私は力強く振りぬくアニメと、決め絵の時の後ろの腕の開き加減にこだわりました。
 正面のブルース・リーポーズと背面のブルース・リーポーズを、ビリーとジミーで背中合わせで右向きと左向きで行わせると、仮面ライダーの1号と2号みたいでカッコイイと思い用意しました。

 「馬乗りパンチ」はAC版『くにおくん』やFC版『DD1』から。「ダッシュパンチ」もAC版『くにおくん』から。「ストンピング」はAC版『コンバットライブス』からのチョイスですが、全てテクノスアクションゲームらしいテイストとして入れました。こんな形で先輩方に敬意を残したつもりでおります。

 そしてFC版『DD2』の3大必殺技「龍尾嵐風脚」「天殺龍神拳」「爆魔龍神脚」も初めから復帰させたかったのですが、旧作の操作方法には不満があったので、思い切って新しい操作に変えてしまい、それにより「膝つき」という新しい動作を操作で出せるようにしました。
 今の感覚で遊んでみて、残す部分と大胆に一新させる部分とをズカズカと捌いてきましたが、今回のシステムは個人的にもかなり気に入っております。

 それからAC版の「髪つかみ」の絵は、モロにわしづかみしているような手で描かれているので、GBA版では頭をロックしているように、似た雰囲気でパターン数は同じように描いてもらいました。
 とにかくアボボやブルノフ、リンダ、チンなどが、旧作ではつかめなかったはずなのに今回はつかめる! という微妙な感動を、旧作を知っていて覚えていてくれている方々のために入れたかったのでした。もちろんゲームとしてのオリジナリティーも狙っております。

隠し技

 昔のアーケードゲームやファミコンの時代のゲームには「隠しコマンド」や「隠れキャラ」、1UPやボーナスなどの「フィーチャー」と呼ばれる要素がありまして、雑誌をにぎわせておりました。今回はそんな懐かしい要素をなるべくたくさん用意したかったのですが(もちろん後半の時間と容量の空きがあれば)……隠し技としてなごりで残ったのが3つの蹴り技「アッパーキック」「後ろ蹴り」「テコンドーキック」でした。

 「アッパーキック」は、操作もしやすく調整するべきだったと気にしている部分です(言い訳無用で良くありません)。やられも本当は蹴り上げた敵が画面外に高く飛んでいって、落下時の体に当たりがあり他の敵にヒットするようにしたかったのでした。
 「後ろ蹴り」も同様で、あまりにも出しにくく調整不足です。この技は敵の思考も専用に用意してゲームにするはずでしたが、後半の苦闘の中でなごりとしてしか入れられませんでした。

 「テコンドーキック」は専用に絵を持って、ブルノフ戦で連打すると『北斗の拳』のケン対ハート戦のようになる! とか、足癖が悪いビリーと手癖の悪いジミー、みたいにしてみたかったのでした(ジミーのパンチ連打は作れませんでした。なので従来通り全く同じになってます)。
 絵が入れられないのと、描く時間がないのでカットになる予定でしたが、「素材でできる!」ということで試したら意外にカッコ良かったんで入れました。私自身が足技好きなので、『リターン』の「腕つかみ蹴り」が今回ない分、このような形で蹴りが入っております。

ステージトラップ

 このゲームは打撃系の技が主流ですが、ステージがスクロールし、移り変わっていくその地形が様々なトラップになっています。その地形をうまく利用してたくさんの敵を倒していく部分が、このゲームの大きな特徴でもあります。

 今回はAC版名物のトラップ「張り出し岩」や「串刺しの槍」も、AC版のような凶悪な博打トラップではなく「覚えゲー」的なトラップにアレンジして、攻略を探し見抜ければノーダメージで通り抜けられるように調整しました。
 また本作では「ダッシュ」も可能なので、「ダッシュジャンプ」を使わなければ進めない場所も用意しました。

 ただ落ちるのではなく、水の中に落としたり、針の床に落ちて串刺しになったり! すごく残酷なのに爆笑してしまう演出が、いかにもテクノスらしくダブドラらしい面白さなので強調しました。このあたりはスクロールゲームならではの面白さだと思います。



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