ACT.76 モノローグ・オブ・上京物語 (2000.02.28)

 先々週に申し込んだ引越し先の審査に見事に落ちてしまった。
 この事態はさすがに想像していなかったため、慌てて再度上京する羽目となってしまった。給料日前という非常事態の中にありながらも、パチンコのおかげで懐は暖かかったため、身支度もそこそこに出発したのであった。
 朝一の列車に飛び乗り、新幹線へと乗り換える。しかしどういう訳か席は喫煙席しか空いてなく、煙草を吸わない私はタバコの匂いに気分が悪くなり、吐き気をもよおす始末。この先に間違いなく暗雲が垂れ込めているのが分かるエピソードである。いや、そんなナレーションみたいに流されても困るのだが。本当に気持ち悪くて洒落にならなかったんだから。
 さて、何とかリバースすることもなく東京へと到着。ともかく食事をして、宿泊先を探すことにした。いつもであれば、きちんとホテルの予約をしてから出かけるのだが、今回はそんな余裕もない。まあ、今までも何とかなっていたし、大丈夫だろうという根拠のない自信を胸にいつも予約しているホテルへと電話をした。
「申し訳ありませんが、全室予約で一杯となっております」
 おや、珍しい。いつも空室のほうが目立っているホテルなのに。仕方ない別のホテルにするか。
「あいにく、本日はお部屋は一杯でございます」
 なんと、ここもか!珍しいことは続くのであるな。では、次のホテル。
「すいませんが……」
 次は……
「今日は……」
 おいおい……
「満室です」
 どういうことだ、一体!予約をしていないときに限って、なぜどこも満室なのだ!仕方ない。びゅうプラザ辺りでホテルを手配してもらうことにしよう。何せ私は早く引っ越し先を見つけなければいけないのだ。こんなことに時間を取られている場合ではない。しかし、ここでも待たされることとなる。ちょうどスキーシーズンということもあってか、カップルがあれこれ相談しながら従業員と共に計画を練っている。ここから別の場所に移動することもできず並べられている旅行パンフレットなどを見て時間をつぶす。
 待つことおよそ30分。ようやく私の順番になった。用件を述べると対応してくれた職員さんは明らかに難しいといった表情を浮かべる。それを咄嗟に見抜いた私はいくつものホテルが満室で部屋を取れなかったことを話した。
「まあ、そうでしょうねぇ」
 職員さんはオンラインで予約状況を見ることができるのであろう、ノートパソコンを操作しながら答える。
 どうしてでしょうとここは素直に質問してみる。いや、いつも素直だよ。
「そりゃ、受験シーズンですからねぇ」
 この突然のドタバタですっかり忘れていた。そうだ、受験シーズン真っ只中であったのだ。
「う〜ん、やはりどこも予約で一杯ですねぇ…」
 まずい、このまま宿が取れないということになると引越し先がどうこう言ってられなくなってしまう。
 どこもダメですか?都内でなくてもいいですし、多少値が張っても構わないんですが…と付け加え、なおをも検索を続けてもらう。
「ああ、1軒だけありましたが、少々お値段が高くなりますねぇ」
 こんなときにわがままは言ってられない。カウンター越しにかぶりつくかのように値段を聞く。
「1泊、15000円ですね」
 15000円!?それは本当に高い!私がいつも泊まるホテルはせいぜい7千円台の安ホテルだ。最近よく使っているホテルなんかは、割引券を使っているので5千円で済む。つまり、いつもの3倍の値段だ。そんなに手持ちの金があるわけではないのだが、ここは仕方ない。涙を飲んで、そこにお願いすることにした。ところで、そのホテルの所在地はどこなのであろう?
「羽田ですね」
 は、羽田ぁ?あの空港がある羽田?げ、メチャメチャ中途半端なところじゃねぇか。まあ、ここで文句を言っても仕方ない。私はそのホテルを手配してもらうよう伝えた。職員さんは明らかに私が肩を落としていることに気づいたことであろう。
 びゅうプラザを出たときには時計は4時を回っていた。ともかく、ホテルに向かってチェックインをすることにしよう。私は荷物を置いて、少し横になりたかったのだ。
 渡された案内図を見ると最寄駅は天空橋という駅らしい。東京モノレールと京浜急行が止まるようだ。京浜急行はまだ乗ったことがなかったので、行きは東京モノレールを使うことにした。そういえば、モノレールに乗るのも久しぶりだ。なにせ普段私は国内旅行に飛行機を足に使うことはほとんどない。羽田空港を使ったのは会社の出張で使ったのが最後だ。ちなみに4年も前の話だ。おかげでどこからモノレールに乗れるのかすら覚えていないことに気づいた。まあ、これは路線図をチェックすれば大丈夫な話だが。
 山手線を使い浜松町へ。モノレールの車内は羽田空港へ向かうお客さんでごった返していた。15分ほどで目的地の天空橋駅へと到着。しかし、下車したのは私だけ。改札を抜け、階段を上り地上へ出たとき、そのあまりの殺風景な景色に驚愕した。駅の後ろには広大な空港の敷地が広がっている。目の前には道路が走っている。それだけ。本当にそれだけの場所であった。障害物がないので風がよく通るせいか、体にはやけに強く当たっている気がする。おかげで非常に寒い。などと素直に感想を述べている間も寒い。ていうか寒い。何とかしてくれ。凍えること約5分。ホテルに向かうマイクロバスが到着。バスは走ること約3分でホテルへと到着。かなり歴史のある建物なのか概観はお世辞にもきれいとは言いづらい。チェックインを済ますとなんとポーターが部屋に案内してくれると言う。日本でポーターのいるホテルに泊まるのは一体いつ以来だ。ていうか、記憶にないんだけど。で、ポーターに言われるままひとつしかないリュックも運んでもらう。これはこれで意外と恥ずかしいものだと言うことを学んだ。
 ポーターが部屋を出たのを確認するや否やベッドへと飛び込む。色んな関節が音を立てる。いかんなぁ、こんなことで年を感じたくはないが、爺くさいぞ、俺。
 しばらく体を休めた私は再び新宿へと戻り早速部屋探しを開始したのだが、その辺の話はつづく。

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