ACT.75 燃える枕木 (2000.02.20)
てなわけで、相変わらず引越し先を探す旅が続いている。まあ、目星はだいぶついているので、後は審査を通りさえすれば契約というところにいるのではあるが。 今回の話は物件を見た帰りの話。今日は約束があり、8時前には新宿にいなければいけなかった。ちなみに今いる場所は横浜市の鶴見という場所。一度神田に寄らなければいけないが、京浜東北線と中央線を使えば寄り道の時間を合わせても1時間もあれば着く。今は6時。ぜんぜん余裕がある。そういえば今日は朝の11時ぐらいに食事をしてから何も食べていなかった。うん、食事をする時間もあるな。こうして、私のタイムスケジュールはほぼ完成していた。 切符を買い、ホームにちょうど着いた京浜東北線へと乗り込む。ついさっき見てきた物件の間取り図を取り出し再検討をはじめる。この時点で2箇所にまで絞っていた私は、頭の中で色々なシミュレーションをしてみる。まあ、簡単に言えば二つの部屋が土俵上で相撲をとっているようなものを想像していただければいい。って、どんなシミュレーションしているのだ、私は。 どちらの物件も甲乙つけがたく、頭の中の大相撲は水入りに入ったところだ。と、ここで電車のドアが開きっぱなしであることに気づく。おや、と思い外を眺めればまだそこは鶴見駅。時計を見ると電車に乗ってから10分近く経過している。普段なかなか集中しない私ではあるが、こういうどうでもいいことには簡単に集中する上、集中した途端自分の世界に入ることができるのだ。のだとか言っても、威張れない話だな。 そこに社内放送が流れる。 『鶴見、川崎間で枕木が燃えております。ただいま消火活動を行っておりますので、今しばらくお待ちください』 なんと、枕木が燃えているとな。一体何が原因なのであろうか?まず考えられるのは放火であろう。京浜東北線に恨みを持つ者の犯行であろう。にしても、京浜東北線への恨みとは何であろうか。騒音か?乗り遅れて遅刻でもしたのだろうか?娘が襲われたのかもしれない。当然電車ではなく車掌にだ。変な想像をするではない。にしても、わざわざ枕木に火をつけるという遠回りな手を使わなくても直接車両に火をつければいいじゃないか、って何物騒なことを言っておる。となると、自然発火であろうか。にしても今日はかなり寒いのだ。勝手に火がつくのは考えづらい。それこそ、すぐそこにいるデブのおばさんが発火してくれたほうが暖かくなって助かるのだが、ってやめなさい。 「Train!T・r・a・i・n!Train!!」 おっと、私の後ろにいた外人が何やら携帯電話に向かって叫んでおる。よくよく聞いていると何やら待ち合わせがあるらしいのだが、この電車の遅れのせいで間に合いそうもないと伝えたいようだ。電車が動かないと色々な単語を使い説明しているのを聞き、ほう、ただ電車が動かないということをこんなにも数多くの言い方があるとは知らなかった。これは勉強になるなと思い聞いていたのだが、今になって全く思い出せないことに気づいた。勉強になってないじゃん。 とか何とかしている間にも時間は過ぎていく。時計を見れば20分以上過ぎている。社内アナウンスでは復旧時間は分からないと繰り返し放送をしている。そしてゾロゾロと乗客も電車を降り始めている。降りてどうするのかと思って見ていたのだが、そういえばここから数分のところに京浜急行の鶴見駅があるのを思い出した。京浜急行は品川まで走っていたではないか。このままでは食事の時間がなくなるとようやく気づいた私は電車を下り京浜急行方面へと歩き始めた。 改札口はものすごい混雑であった。京浜急行への乗換え券を求める客の大洪水である。たった1枚の切符を求めて、人々が群がる姿はオイルショック時にトイレットペーパーを求める主婦の群れのようであった。って、よくは知らないんだけど。 体を押しつ押されつつ、足を踏みつ踏まれつつ、関節を極めつ極められつつ、頬を張りつつ張られつつ、胸を揉みつつ揉まれつつ、いい加減にしなさい。ようやく乗り換え券を手に入れたときには色々なところが痛み、ただでさえ疲れていた体は悲鳴を通り越して断末魔の声をあげていた。死んでちゃまずいな、おい。 京浜急行へと乗り換えると今度はラッシュアワーのような大混雑が待ち構えていた。ただでさえ、夕方というのは乗車率が高くなるのだ。そこにあわせて京浜東北線の乗客まで詰め込まれた日にゃ混雑しないわけがない。私が見るに乗車率は250%は超えていたものと思われる。ところで、乗車率ってどうやって測るの? 乗換え券のために体を痛めつけられ、京浜急行の混雑で心を痛めつけられた。品川に着いたときには真っ白に燃えつきかけていたといっても過言ではないだろう。って、こんな調子でこっちに引っ越しても大丈夫なのか俺は。 余談であるが、京浜急行線が復旧したのは私が電車を降りた5分後であったそうだ。電車は空いており快適な移動ができたとも聞いた。今度は私が枕木に火をつけることになりそうだ。 |