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TonightIV

オープニング・テーマ流れる
タイトル
ダイジェスト映像入る
スーパーインポーズ「今、女が群がる次世代の遊び!」
映像変わる
スーパーインポーズ「この秋登場、インタラクティヴCGのすべて」
映像スタジオへ
岩川次郎
「こんばんわ」
雨野智世
「こんばんわ」
岩川次郎
「さて今週のトゥナイトVIですが、前世紀後半から騒がれ始めていたマルチメディアの発展版とも言うべきスーパーマルチメディアと呼ばれる現象を特集してお送りします。ということで乱さん」
乱三世
「そうなんですよ岩川さん。その1回目の今夜は、今起きている新しい動きを2つ取り上げてご紹介します。まずはかすみちゃん」
せがわかすみ
「はい。今回は、インタラクティヴCGとそれを作り上げるための道具である新発売のプログラミング言語について取材して来ました」
岩川次郎
「プログラミング言語?」
せがわかすみ
「そうなんです。いわば、コンピュータに対しての命令を書いて行く説明書のようなものというか……ね(と乱に助けを求める目)」
乱三世
「そうですね(笑)って私にもその仕組みはよく判らないんですが」
せがわかすみ
「まとにかく、そういうものを使って、女の子たちが様々なものを作り出しています。ちょっと私もびっくりしてしまったんですけど」
雨野智世
「そんなに凄いんですか」
せがわかすみ
「凄いです。まあ見てみて下さい」
岩川次郎
「楽しみですね。で、もう1つは?」
乱三世
「もう1つはインタラクティヴCGと呼ばれるものです。これは、かすみちゃんが取材するプログラミング言語、ですか、その上に開発されたCGでして、今までバーチャルリアリティと呼ばれていたようなものの一歩上を行く、これまた凄い世界です。赤木愛ちゃんと一緒に行って来ました」
赤木愛
「はい。もう、凄かったんです。こんなことが出来て当たり前になっちゃったら世の中どうなっちゃうんだろうって思いました」
雨野智世
「何か今日は2つとも『凄い』ばっかり連発してますが(笑)、どう凄いのか早速コマーシャルの後はインタランティヴCGの世界へご案内します」
CMジングル
CM

薄暗い部屋の中で何やら裸の女性らしき物体がもぞもぞ動いている
カメラが引くと乱三世の頭
振り返った彼はマイクを持って呟くように
乱三世
「い、いいんでしょうかねーこういうのは。ちょっとよく判らない世界になって来たなあ……」
スーパーインポーズ「この秋登場、インタラクティヴCGのすべて」
映像変わり、閑静な住宅街を歩く赤木愛
赤木愛
「ここは都内のある住宅地です。本当に静かなところです。ここに住むあるOLの方のアパートにこれから行くところです」
歩く赤木愛、とあるアパートの一室に足を止める
赤木愛
「あ、ここですね」
呼び鈴を鳴らす
背の高い女性が現れる
スーパーインポーズ「高橋桂子さん(29)」
赤木愛
「お邪魔しまーす、トゥナイトVIです」
部屋に入る
8畳ほどのごく普通の部屋で、内装はかなりシンプル
赤木愛
「シンプルな部屋ですねー」
高橋桂子
「そうですね。最近ICGにハマってるんで余計なものはなるべく置かないようにしています。その方が楽しいので」
スーパーインポーズ「※ICG…インタラクティヴCGの略」
赤木愛
「はあ、そうなんですか……じゃ早速、そのICGのの世界を見せて戴けますか?」
高橋桂子
「はい」
パソコンに向かう桂子、それを見ている愛
その映像をバックに、スタジオからの声
岩川次郎
「愛ちゃん、これは何をしているんですか?」
赤木愛
「はい、実はですね、あるパソコン通信に今アクセスしているところなんですよ」
雨野智世
「パソコン通信ですか」
赤木愛
「そうなんです。今、パソコン通信サービスの一環としてICGによる街が作られているんです」
雨野智世
「街??」
映像変わり、桂子の部屋
今までパソコンのあった机がパソコンごといきなり消え失せる
そこに、大きな門が現れる
赤木愛
「(悲鳴に近い声)うわーっ、何なんですかこれは?!き、消えちゃいましたよぉ?!」
高橋桂子
「(全然驚いてない)『街』にやって来たんです。入ってみましょうか?」
赤木愛
「は、はい……(カメラに向かって)い、行きましょう(意を決したように頷きを繰り返す)」
2人、門をくぐりカメラも後に続く……ブラックアウト

フェイドイン
とあるオフィスビルの廊下を歩く乱三世
乱三世
「ここはあるビジネスビルの中です。ここに(と近くのドアを指す「有限会社メディアV」)ICGを使ってゲームを開発している会社があると聞いてやって来ました。早速見てみましょう」
三世、ノックすると中から小太りの男が現れる
スーパーインポーズ「佐藤正さん(32)」
佐藤正
「やあどうもどうも」
乱三世
「こんにちは、トゥナイトVIです。お邪魔します」
佐藤正
「どうぞこちらへ」
映像変わり、応接室にいる2人
乱三世
「今、佐藤さんのプロジェクトチームではICGを使ったゲームを開発中だとおうかがいいしたんですが」
佐藤正
「そうです。今作っているのは、いわばまあデートシミュレーションですね」
乱三世
「業界初のICGソフトだそうですが、実際作っている側としてはどんな感じですか?」
佐藤正
「そうですね。今までのキーボートとマウスで操作するコンピュータの世界と違って、ユーザーが何をしでかすか予想がつかないところがちょっと大変ですかねぇ」
乱三世
「なるほどねぇ」
画面変わり、あるスタジオのような部屋の前で
乱三世
「では早速そのゲームのサワリの部分を実際にプレイしてみたいと思います」
スタジオのような部屋に入る
中には女性が5人並んでいる
乱三世がキョロキョロしていると、音楽が鳴り出す
5人の後ろからバニーガールの格好をした別の女性が現れる
バニーちゃん
「ようこそクラブ・ヴィーナスへ」
乱三世、些かおたおたしている
スタジオの外にいる正に助けを求めるような目をするが、にこにこしたまま取り合わない
仕方なくまたバニーガールに向き直り
乱三世
「あ、どうも、その、初めまして」
バニーちゃん
「初めてのご来店ですか?」
乱三世
「あ、はい、そうです」
VTRではそのままバニーガールがにこやかに喋りながら、音楽が被る
スタジオの声
乱三世
「まぁ要するに今までにもあったデートシミュレーションと方法は変わらない訳です。名前を入れて、自分の職業を選んで、相手の女の子を選んで、ゲームスタートと。ただ決定的なのはICGですから、実際にそれを自分がほぼそっくりそのまま擬似体験出来てしまう訳ですよ」
映像変わり、乱三世の周りがいきなりオフィスになる
上司らしき男が書類を渡し、何かを指示している模様
岩川次郎
「これはCGなんですか?」
乱三世
「CGなんです。私は普通のサラリーマンを選択したのでこうなっている訳ですね。今、残業を頼まれているところです」
映像変わり、シンとした夜のオフィス
雨野智世
「あ、なるほど、1人で残ってやってる訳ですね」
乱三世
「そうなんです。そこに先程の5人から私が選んだ女の子がやって来ました。彼女は私と同じ課の新人OLという設定なんですね」
VTR、清純そうな女の子がにこやかに紙コップのコーヒーを差し出す
雨野智世
「あっ、コーヒーを入れてくれたんですね」
乱三世
「そうなんですね、ここから主人公である私は、段階を追って彼女を口説きにかかる訳です(笑)」
VTR、話している2人。どうやら食事の約束をしているようだ
乱三世
「徐々にお近づきになるように、デートを重ねたりプレゼントを贈ったりするんです。喧嘩もします」
その間に映像は、指輪を眺める2人、彼女に頬を引っぱたかれている乱三世、親しげに肩を寄せ合い海を見る2人など目まぐるしく変わる
岩川次郎
「時間がかかりそうですね」
乱三世
「実際はかかります。現実の女性を相手にしているのと同じですから。でも今回は取材ということでだいぶ端折らせて貰ってますが」
雨野智世
「で、最終的な目標というのは」
乱三世
「ま一応、ベッドということで」
雨野智世
「結婚ではないんですね(笑)」
乱三世
「そのようですね(笑)」

薄暗い部屋の中で何やら裸の女性らしき物体がもぞもぞ動いている
カメラが引くと乱三世の頭
振り返った彼はマイクを持って呟くように
乱三世
「い、いいんでしょうかねーこういうのは。ちょっとよく判らない世界になって来たなあ……」
ベットの中に先程のOL
乱三世の方を潤んだ瞳で見ている
OL
「乱さん、私……ごめんなさい、でも、何だか今夜は1人でいたくなかったの……だから……」
乱三世
「(カメラを振り返りつつ)ど、どうしましょうかね?(正の方を見るが相変わらずにこやかなだけ)いや佐藤さぁん、これは……しかし……」
OL
「誰と話してるの?……来て……」
乱三世
「あ、……あ、いや、そのォ……(カメラと正とOLとを交互に見て困り果てている)」
VTRからスタジオへ 雨野智世の眉をひそめた顔がアップで映る
雨野智世
「何度も同じこと聞いて申し訳ないんですけど、ほんっっとにCGですか?」
乱三世
ほんっっとにCGなんです」
岩川次郎
「しかし、ホントに入り込んじゃった男性とかは、あー言われてあのCGの女の子とセックスしたりする訳ですか?」
乱三世
「だそうです」
雨野智世
「だっ、でもCGなんですよね?!」
乱三世
「今のICGの世界は触感でさえ再現可能なんですよ。ですので本当はCG、つまりコンピュータ・グラフィックという言葉は相応しくないんですけどね」
雨野智世
「触感も再現するんですか(ヘンな事を想像したらしく顔を歪ませて頭を振る)。いや、じゃつまりそこで停電が起きたりしたら」
乱三世
「あははっ、そうですねぇ、女の子を抱いてるつもりの男の子が部屋の中に1人で茫然と寝ている、という事になるんだと思いますけど」
岩川次郎
「(かなり不気味そうに)何だか妙な世の中になって来ましたね……」
乱三世
「全くその通りです。……ではCMの後は、先程愛ちゃんがくぐった門の先にあるものをご紹介します」
CMジングル
CM

下町の商店街のようなところを歩く愛と桂子
店の殆どは閉まっていて、唯一遠くの方にコンビニらしい看板
「24 hours」とネオンが光る建物に近づく2人
赤木愛
「すいません、あの、状況が今イチ掴めてないんですけど、ここは何処なんですか?」
高橋桂子
「ここはパソコン通信の中に出来た街なんです。そこに入って来たところです」
赤木愛
「あ、……はあ、そうなんですか」
映像は続いたまま音楽流れ、スタジオの声
赤木愛
「えー、パソコン通信の運営会社に後で聞いたんですが、つまりですね、今までのパソコン通信は電話回線を通じて文字や静止画像を送るというのが主だった訳ですよね。ケーブルTVなどの専用回線を使った動く映像を送るサービスも既にありますし、専用の機械の中に入ると上下左右に映像を投射してまるで別な場所にいるような気分になれるというようなバーチャルリアリティのものはあったんですけど、まあこれはそのような既存のサービスを電話回線上で行い、更に触感や匂いも扱えるICGを使うことによってこのようなサービスを作ったということなんですね。ICGの映像がホストから送られて来ていて、またこちらからも、自分達の映像や、歩いたという距離の情報など、あらゆる情報をあのパソコンから送って、リアルタイムでやり取りしている訳です」
雨野智世
「じゃあこの今見ている街の風景はホストから送られた情報の再現と考えていい訳ですね?」
赤木愛
「そうです。こんな風にしてますけど、私達は彼女のあのシンプルな部屋から一歩も外に出ていないんです」
VTRの2人はコンビニへ入る
店の中には数人の客と店員
店員1
「いらっしゃいませぇ」
高橋桂子
「あ、珍しい、店長来てますね」
赤木愛
「あ、店長って、ここの?」
高橋桂子
「(当たり前じゃないか、という顔で)ええ」
胸に「MASTER」と書かれたバッチを着けた女性が桂子に手を振る
高橋桂子
「店長〜、こんばんは〜」
店長
「あ、桂ちゃん、はろお、久し振り〜」
高橋桂子
「今日はショートなんですか?(と髪の毛を触る)」
店長
「そうそう」
赤木愛
「あの、『今日は』ショートって……」
店長
「なぁに、新人さんなの?ふーん(愛を上から下までじっくり見る)。そのまんま?」
高橋桂子
「そのまんまですよ。今日、取材で来てるんです。トゥナイトの」
店長
「あ、何、ホンモノなの。へぇ」
赤木愛
「ホンモノって、あの、何がどうなって(混乱して泣きそうになっている)」
VTR流れているバックでスタジオの声
赤木愛
「あのですね、先程自分達の映像も送れると言いましたが、実は自分のそのまの映像でなくてもいいんですよ。仮の自画像を作れるというんですかね、で、ここでは自分の姿をそのまま使っている桂子さんみたいな人は寧ろ珍しくって、店長もそうなんですけど、自分で作ったり、まあホストが用意した中から選んだりして使っている人が殆どなんですよ」
岩川次郎
「仮面を着けて来ているようなものですね」
赤木愛
「そうですね」
VTRでは人々がワイワイと老若男女様々な人々が喋っている光景
そこへ1人の優しそうな老婆が現れる
高橋桂子
「あ、宮沢えりさんだ」
赤木愛
「……はぁ?! えりさんって、あのえりさんですか?!」
高橋桂子
「(事もなげに)ええ、彼女もここの常連さんの1人なんです」
宮沢えり
「あ、店長さんですねぇ、いらっしゃるなんて珍しい」
店長
「どうもぉ、宮沢さん」
客1
「あっ宮沢えりだ」
客の数人が騒ぎ出す。眉をひそめる桂子
高橋桂子
「嫌ですねー、ミーハーって。ここではみんな1人のお客さんに過ぎないのに」
宮沢えり
「いいんですよお、こんなお婆ちゃんでも騒いでくれるなんて有難いことじゃないですか」
何人かにサインを求められているえり、だがことごとく断っている
だが客は不満そうな様子もなく、みんな笑いながら戻って行く
赤木愛
「あの、何故断るんです?」
宮沢えり
「ここはICGの世界なんですよ? ここで実際にサインしてあげたって、ログアウトしちゃったら消えてしまうんですもの。意味がないでしょう?」
赤木愛
「あ、そうなんですか?はぁ、なるほどねぇ……」
1人の客として他の客達とお喋りしているえり
後からまた客が来てその輪に加わる
和気あいあいとしている一団に複雑な表情の愛
赤木愛
「ここは、一体何なんでしょうかね……なんっか、初対面の人でも平気で入ってくんです……何か新手のデートクラブみたいですね……」
映像スタジオへ。びっくりしている雨野智世のアップ
雨野智世
「宮沢さんですか、ホンモノの?! 自分で作った映像で出て来られるんですよね?偽者じゃなくって?」
赤木愛
「ホンモノみたいです。何かそこの常連さんみたいで。ICGじゃなくって実際に、オフっていうんですか? それで会った人達もいますし」
岩川次郎
「でも時間はいつでもいし、部屋にいながら出来る訳だから、忙しい芸能人の方々でも手軽に出来ていいですね」
赤木愛
「そうですね。他にも有名人の方はかなりいらっしゃるようです。常連じゃなくても、ぶらっと立ち寄られる方もいるそうです。外国人のアーティストの方が来た事もあるそうです。翻訳システムと連動出来るので全部日本語に翻訳されて会話をしていたらしいですが」
岩川次郎
「何だか、人とのコミュニケイシュンの質が変化しそうな感じがしますね。ホントに凄い世界ですねぇ」
赤木愛
「ええ、全くその通りだと思います」
CMジングル
CM

パステルカラーの淡いトーンの部屋にソファ
その上に座るせがわかすみ、隣を凝視している
隣にカメラがパンすると、そこに1人の青年が腰掛けている
青年はせがわかすみに向かってにこにこと愛想よく笑っている
かすみ、言葉を失ってただその青年を眺めているだけ

スーパーインポーズ「今、女が群がる次世代の遊び!」

映像変わり、住宅街を歩くせがわかすみ
せがわかすみ
「さて、今日は『次世代の遊び』と題しまして、あるプログラミング言語を使っているOLの方のお宅へお邪魔しようと思ってます。こちらです」
淡い色合いのアパートを指し、そこへ入るかすみ
映像変わり、かすみはソファにとある女性と共に座っている
スーパーインポーズ「鈴木今日子さん(27)」
せがわかすみ
「こんにちは」
鈴木今日子
「こんにちは」
せがわかすみ
「えー、今日は、インタラクティヴVCという言語を使って凄いものをお作りになったそうなんですが……」
鈴木今日子
「ええ、まあ、凄い……んでしょうかねぇ」
せがわかすみ
「凄くないんですか?」
鈴木今日子
「うーん、周りでは割と作っている人多いので……入門編としてはいいみたいですよ」
せがわかすみ
「にゅ、入門編ですか」
鈴木今日子
「はい」
せがわかすみ
「そうですか……では早速、その『作品』を見せて戴く事にしましょう。お願いします」
鈴木今日子
「判りました。(ソファからキッチンの方に向かって)マコトくぅーん」
マコト
「ん?何?」
キッチンからグレープフルーツジュースの紙パックを持った背の高い青年が現れる
鈴木今日子
「あ、ジュース注いでくれてたんだ。彼女(かすみを指す)の分もお願い」
マコト
「いいよ。(かすみに微笑んで)待ってて下さいね」
キッチンへ戻るマコト
かすみ、目を見開いたままその背中を見送る
せがわかすみ
「あの……もしかして、今のが……」
鈴木今日子
「私の『作品』です。バージョンでもう8.5くらいでしょうか。まだ外に出したことはないんですけどねー」
やがてジュースを2つ持ったマコトが現れて2人の前に置く
マコト
「どうぞ」
鈴木今日子
「有難う」
せがわかすみ
「あ、どうも有難う」
鈴木今日子
「あなたの取材に来たのよ。ここ座って(と隣を指す)」
マコト
「取材?」
鈴木今日子
「そう。TVに出るのよ。ほら、カメラ(とカメラを指す)」
マコト、カメラをしげしげ見つめている
突然、にぃっと笑ってピースサインを出す
後ろで大ウケしている今日子
鈴木今日子
「カメラに対してそんな事するように作ったっけかなぁ」
せがわかすみ
「するように作った……??」
鈴木今日子
「ええ、私が作ったんです」
せがわかすみ
「この人を?!」
鈴木今日子
「人じゃないですよ。ICGです。プログラムなんですよ、ただの」
映像続きながら、声はスタジオ
雨野智世
「先程のを見ていたせいか何となく飲み込めるような気がするんですが、つまり個人がICGで男性を作る事が可能だという事なんですね?」
せがわかすみ
「ええ、可能どころか、人間を作るなんていうのは『入門編』らしいです。彼女の周りでも、作れる人が最初に手をつけるのは異性の人間らしいですね。自分で好きなように性格や容姿を作れるんだそうです」
岩川次郎
「何だかクローンみたいですね……」
映像変わり、ソファにかすみとマコト
かすみがどうしようかと暫く迷いながらマコトを見ている
マコトは愛想よくにこにこ
せがわかすみ
「ど、どうも、こんにちは」
マコト
「こんにちは」
せがわかすみ
「質問してもいいでしょうか」
マコト
「どうぞ」
せがわかすみ
「ご自分がICGであるという事はご存じなんですよね?」
マコト
「ええ、知ってます」
せがわかすみ
「自分の存在についてはどんな風に」
マコト
「うーん、基本的に自分の存在意義とか考えないようになってますからねー。生身の人間ってそんな事で悩んだりするんですよね、それに比べたらもしかしたら幸せかも知れないですね、自分のやるべき事が何なのかは全部判ってますし、やりたくない事なんて殆どないですしねー」
せがわかすみ
「鈴木さんにとってマコトさんって何なんでしょう」
マコト
「『作品』じゃないですか?」
せがわかすみ
「……あ、そうですね……はあ。じゃあマコトさんにとって鈴木さんは」
マコト
「彼女の望んだ通りの存在です(にっこり)」
せがわかすみ
「……(何を想像したのかちょっと赤面して下を向く)」
映像スタジオへ
雨野智世
「こんな……(暫し絶句)じゃあ、これを使う人達は自分の理想の恋人を作れる訳ですね?」
せがわかすみ
「そういう用途が多いみたいですね」
雨野智世
「……じゃ、生身の他人と付き合う必要なんかなくなっちゃうじゃないですか。その、外出て一緒に歩いてたって全然違和感ないでしょう?」
せがわかすみ
「そうですね。でも人間1人作る訳ですし、あくまでプログラムですから、人間が全て組み込んであげないといけない訳ですよ。単純な話、信号は赤なら止れ青なら渡れとか、買い物の仕方とか、もう何から何まで。で、鈴木さんが『まだ外に出してない』と言ってたのはその辺なんです。外界に出る為のプログラムをまだしてないと」
雨野智世
「あ、なるほどねぇ……何か子供育ててるみたい」
せがわかすみ
「に近いものはあるかも知れません……さて、鈴木さんの作ったその他の作品や、その仲間達の集まりで見せて貰った他の人の作品も見せて貰いましたのでご覧下さい」
映像変わり、今日子がかなり小さいパームトップ型パソコンの前に立つ
画面ではマックライクのカラーGUIが走っている
側に置かれていたペンで画面を触ると終了ダイアログが出る
鈴木今日子
「マコトくん、いいかな?」
マコト
「いつでもどうぞ」
「はい」ボタンを押す今日子、一瞬にしてマコトの姿が消え失せる
せがわかすみ
「ほんっとにプログラムなんですね……」
鈴木今日子
「ええ。じゃあ他のも起動してみましょうか」
せがわかすみ
「お願いします」
今日子が画面を操作すると、柴犬の小犬が現れる
せがわかすみ
「うっわー!可愛いっ!」
思わず駆け寄るかすみ、だが犬は後ずさる
大きな目を見開いて今日子を見て
「ご主人さまあ、この方誰ですかぁ?」
駆け寄りかけて凍るかすみ、にこにこと今日子は犬を抱き上げる
鈴木今日子
「心配しなくていいのよぉ、せがわかすみさんっていうテレビのリポーターの方よぉ、悪い人じゃないよぉ」
「そうなんですかぁ? ぼくびっくりしちゃいましたぁ」
犬に頬ずりする今日子、犬も尻尾を振って喜んでいる様子
「ご主人様ぁ、暫くお会い出来なくって淋しかったですぅ」
鈴木今日子
「御免ねぇ、お仕事忙しくってねぇ」
かすみ、レポートどころではない、口をあんぐり開けたまま
ふっと思い出したようにがばっとマイクを持ち直して
せがわかすみ
「プ、プログラムですからねぇ、い、犬の格好してても日本語話せるように作ればいいんですよね、だから犬が喋る訳ですよね?」
うんうん、と1人で頷きながらちらちらと今日子&犬を見て首を傾げる
ブラックアウト

フェイドイン
カラオケボックスの一室に、男女7,8人が集まっている
机にはパームトップのパソコンが幾つか無造作に置かれている
せがわかすみ
「えー、ここは都内のあるカラオケボックスの一室です。ここに集まっているのは鈴木さんの入っているパソコン通信の仲間達だそうで(周りで「いえー!」だの「ひゅー!」だの声が上がる)きゃっ!あ、その、つまり仲間達なんですっ!(周りまた大騒ぎ)」
暫くは歌ったり飲んだり食べたりの普通の場面が続く
やがて、今日子がマイクを手に立ち上がる
鈴木今日子
「さて、じゃあそろそろ、トゥナイトVIの取材の為に持ち寄って下さったICGの方を披露して戴きましょうっ」
再び大騒ぎ
今日子が1人の男性を指名し、彼は自分のパソコンを操作する
そこに、20歳くらいのかなりセクシーな体型の女性が現れる
男1
「出たぁ……『ダークナイト』さんの彼女だ」
せがわかすみ
「ハ、ハンドルですね、『ダークナイト』っていうのは」
ダークナイト
「そうです(ちょっと照れてる)」
せがわかすみ
「彼女の名前は?」
男2
「マリちゃんだよー」
せがわかすみ
「マリちゃんですか……」
鈴木今日子
「もう3年の付き合いになるよねぇ、マリちゃん、はろー」
マリ
「やー、もう、言ってくれないと困るぅ、カメラあるなんてマリ、知らなかったんだもぉん」
かすみ、外見と話し方のギャップに凍っている
せがわかすみ
「(今日子に)『ダークナイト』さんはこういうタイプが好みなんでしょうかね」
鈴木今日子
「そうそう。体は大人でも彼は二次元オタクだったから。それも美少女系。体が成熟しているのは多分……」
せがわかすみ
「あ、いいですもう、それ以上は(眉をひそめる)」
鈴木今日子
「あはははっ」
次々と色々な人間がICGで飛び出して来る
様々なタイプの女性や男性に混じって、TVのキャラクターなどもちらほらと
せがわかすみ
「(カメラに向かって)これ、どう収拾つけるんですか? 何か凄い人数になって来ちゃったんですけど……」
わきゃわきゃと乱れ飛ぶ男女
マイクを今日子から奪ってステージに立ったのは月野うさぎ
月野うさぎ
「久し振りに外に出たんだから歌って歌って歌いまくるわよーっ!」
おーっ! と答える男性諸氏
月野うさぎ
「わぴー!(注・出した人のハンドル)他の連中も出してっ」
わぴー
「はいはい」
更に増える人数……呆れかえっているかすみ……ブラックアウト
映像スタジオへ
せがわかすみ
「とにかくこれは、まさに次世代の遊びという感じがしました」
岩川次郎
「遊びという域を超えている感じがしますね。ホントにこんな事が出来るんですか?」
せがわかすみ
「そうです。私も実際に鈴木さんに教えて貰ってちょっとやってみたんですけど、コツ覚えると簡単に出来ちゃうんですよ」
雨野智世
「簡単に出来ちゃうって、人間が?」
せがわかすみ
「そうです。インタラクティヴVCのユーザーさんは圧倒的に人間を最初に作るんだそです。それで、もう予め基本的な部分を作ってあるサンプルプログラムみたいなのがあって、ちょこちょこと手を加えるだけで或る程度のものは出来ちゃうんです」
岩川次郎
「で、勿論性格や行動は自分の思う通りになるんですよね」
せがわかすみ
「そうです」
雨野智世
「何かさっきの『マリ』ちゃんですか、あれはあの方の『彼女』と紹介されてましたけど……」
せがわかすみ
「……ですねー、正直よく判らない世界なんですけど、あの方は『マリちゃん』を作って3年になるそうですが結構……親しく、お付き合いをしているみたいで(どう表現していいか困った風に無意味に頷く)……ええ」
雨野智世
「(不気味そうに眉をひそめる)」
せがわかすみ
「(空気を変えるがごとく)で、鈴木さんから私も教えて貰ったのでここで1つ、実際に起動してみようと思います」
かすみ、用意していたパームトップを出して来る
カメラ、ぐーっと寄ってディスプレイを映したり外観を映したり
雨野智世
「小さいんですねー! そんなんで出来ちゃうんですか?」
せがわかすみ
「(操作しつつ)そうなんです……じゃあ、出します」
やがて、机の上にぬいぐるみのような小さな人間が現れる
雨野智世
「(絶句している)」
岩川次郎
「(同じく絶句している)」
せがわかすみ
「一応、みわちゃんと名付けてみたんですが(笑)」
みわちゃん、物珍しそうにスタジオを見回している
雨野智世と岩川次郎の2人は自然と体が引いてしまっている
乱三世と赤木愛はICG体験済だけあって多少落ち着いている
みわちゃん
「(アニメ声)こんばんわぁ(と岩川次郎に)」
岩川次郎
「こ、こんばんわ(声がひっくり返っている)」
みわちゃん
「こんばんわぁ(と雨野智世に)」
雨野智世
「こんばんわ(多少落ち着いた様子)」
みわちゃん、とことこ机上を歩き回り、ペンや原稿を面白そうに覗く
ディレクターの巻きの合図をみたかすみが慌てたように姿勢を正す
せがわかすみ
「私はプログラミングもコンピュータも素人なんですけど、こんな風に作れてしまうんですね。これは、ホントに凄い事だなーと思いました」
みわちゃん、何故か岩川次郎のスーツが気に入ったようで、ポケットに手を突っ込むやら懐に頭突っ込むやら大はしゃぎ
岩川次郎は困り切ってかすみに助けを求めるような目
CMジングル
CM

雨野智世
「さて今夜も番組をご覧の皆様にプレゼントがあります。今週は特集にちなんだプレゼントを用意しています」
映像、「今週のプレゼント」かすみの使っていたパームトップが1台
雨野智世
「今週のプレゼントとしまして縦川HPより世界最小最軽量のカラーパームトップHP6969ZXを1名様に」
映像、「今日のプレゼント」着物の帯が1つ
雨野智世
「今日のプレゼントとしまして、着物の丸晶より130種類の形を記憶し自在に結ばせる事の出来る今話題のバイオチップ入りの帯を1名様に」
映像、「今日のプレゼント」勉強机が1つ
雨野智世
「外田洋行よりお子様の背丈をセンサーが察知して、常に最適の高さに自動調節する勉強机を1名様にプレゼントします。番組ホームページからご応募下さい」
映像、ホームページアドレスが1つ
その下に、「当選はメールでご案内します。受信フィルタを設定されている方は、xxx.xx.jpを受信出来るように設定して下さい。」

映像スタジオに戻り
岩川次郎
「えー、みわちゃんは僕のスーツが気に入ったようですね」
みわちゃん
「(襟から顔を出して)みわ、こういう色好きですぅ」
雨野智世
「(苦笑)そのようですね」
岩川次郎
「スーパーマルチメディア特集、初日から凄い事になっちゃいましたが、明日からの展開が楽しみですね」
雨野智世
「そうですね。ではまた明晩」
一同、礼
エンディング
スタッフクレジット

(end.)

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