奇妙な格好をした男は、寡黙だった。
「…来須 銀河(くるす ぎんが)。」
それ以上、何も言わず、何も語らず。
ただ帽子を被り直した。
来須は、風の音を聞いているようだ。
寂しげな目で、なにか見えないものを見ているようだ。
「目に見えるものだけが真実ではない。
音に聞こえるものだけが真実ではない。
真実は自分の思いや声で、たやすくかき消される。
重要なのは、沈黙すること。
そして見えたことを、そのまま認識することだ。
…俺達が知る真実は、案外狭く、声を出すが故に、かき消されているかもしれん。そうは思わないか。
…俺は…、
萌や、ののみや、あの猫を見ていると、そう思うときがある。」
[選択1-1]
(…猫か。)
「…二本足で歩いているところを、見たことがある。」
[選択1-2]
(詩人だね。)
「…俺は、歌が歌えない。」
来須は、猫とののみが話している様を見て、少しだけ、優しく口の端を動かした。
「…。」
こちらの視線に気付いて、来須は帽子を深く被り直した。
[選択1-1]
(堂々と微笑んだら?)
「…俺には、似合わない。」
[選択1-2]
(照れ屋だね。)
「…ほっとけ。」
「お前は、俺の友だ。
そして友情とは、ただ行動でのみ示される。
お前の敵は俺の敵だ。いつでも呼べ。
死せる時、生きる時、かならずお前のために俺の拳は振るわれるだろう。
俺は非力で、歌も歌えないが、勇気はある。
そして勇気が役に立つ時は、案外多いものだ。
立ち向かう心があれば、どうにかなる。
忘れるな。
お前の困難は、お前だけが立ち向かうものじゃない。
俺達で立ち向かうものだ。」
「…。
俺が言うことじゃないがな。
今のお前は、強い。
人が本当に強くなるのは、弱点を含めた自分と他人の全部を信頼できた時だ。
お前は、強いな。
…俺は、お前とは戦いたくない。」
「お前も、そうなのか。」
来須は、青い光を出した。
自分の周りを浮遊させている。
「これは、かつて人や動物や、植物だった光だ。
かつて大切にされたものの光だ。
…精霊という。
あまりにも強すぎるか、純過ぎる故に人の境界線を越えた者が、この光を武器にして、扱えるようになる。
全ての死者の代理人として、地上世界に…運命に介入するためだ。
人類決戦存在HERO。最後の精霊手。
お前は強すぎたのだ。多くの死者の魂がお前を代理人として歴史を変えようとしている。
…もう、この戦いを終らせたいと。そう言っている。あの竜を、許せと。
…教えよう。その光を、どうやって武器にするかを。」
来須「…だから言ったろう…。
…友のために、俺の拳は振るわれると…!」
死んだ友の言った言葉が、脳裏にひらめいた。
気付けば士魂号のパワーが急回復している。
武器を、捨てた。
○○/来須「お前の困難は、俺達で立ち向かうものだ。」
戦闘コマンド 精霊手が使用可能になりました。
来須は帽子を深くかぶりなおした。
夜の中で、燐光が、ゆっくりと輝き始めた。
小さな光の珠達が、来須を、めぐりはじめる。
淡い光に照らされる来須。
その姿を見た瞬間、胸が高鳴った。
来須「お前には、これが見えるのか。」
○○は、小さくうなずいた。
来須「…
この光は、想いだ。 かつて生きていて、遠い未来を夢見ている。死してもなお俺を守り、青につくす数多の願いだ」
来須は、手をゆっくりとさし伸ばすと、天に帰した。
光が、なごり惜しそうに来須をめぐると、天に帰っていく。
来須の無表情な横顔が、ひどく悲しく思えた。
高い背に、広い肩。誰もが頼る程大きいが故に、人に見えない悲しみを負った人。
来須「…いつか、俺もこの光になるだろう。」
○○「私が死んだら、光になるよ。あなたを守ってあげる。」
来須「…。」
※最後のプレイヤーのセリフの1人称は、変わります。
田代=「俺」、ののみ=「ののみ」、加藤=「ウチ」、新井木=「僕」になる、というご報告を頂きました。
なお、数多を「あまた」ではなく「すうた」と読んでいる件ですが、どうも漢語的表現ではそう読むこともあるようです。