AIR編。…今までのは巨大な前置きだったのか? ひょっとして。
7/16。…観鈴に背中を触られている。
逃げないって、何が。
ついて来るかって? えーと、ついてってみる。
…肩に乗せられた?
…え?
あー。なるほど。主人公、カラスなんだ。「まだ空には行けない」って言っているということは、飛べないのか、巣立ち前の子供なのか…。
観鈴の肩に乗せられて観鈴の部屋へ連れて来られた。窓は開けておくから好きにしたらいいと言ってくれる。カラス本人は窓が何なのかも知りませんが。
夕方、再び肩に乗せられてお出かけ。武田商店でお菓子やジュースを買いつつ、カラスに向けて色々話を。お菓子おいしいとか、ジュース「どろり濃厚」シリーズの販売機のこととか。
堤防で休憩した後、家に帰る。
夜になり、帰って来た晴子はカラスを見て「不吉だ」と敵意丸出し。従ってカラスの側も相手を敵と認識して、目を突こうと攻撃態勢。
つつかれた晴子、カラスの首掴んで振り回す(笑)。怒って去って行った後に残されたカラスは「敵を追い払った」と思っていたのだが、観鈴に「あんなことしちゃダメ」と怒られる。意味が判らず悲しいらしい。
夜、相変わらず窓を開けて、「好きにしていいよ」とカラスに言ってから観鈴は寝た。
7/17。学校の前で観鈴待ち。…やっぱり、このカラス飛べないらしい。「とぶって何だろう」とか思ってるし。
観鈴が出て来た。カラスを肩に乗せる。その時、堤防で眠っている往人を発見。つついてみるが起きゃしない。夕方になってしまう。
浜辺で遊ぶ子供たちを眺めてから、帰宅。
帰って来た晴子、観鈴がカラスを連れて歩いていると聞き、変な噂が立つといい顔をしない。観鈴は何とか認めて貰いたいと必死のようだ。
観鈴が寝た後、窓から外に出てみたら、外から窓には跳び上がれなかった。別の入口を探して居間から家の中へ。晴子に見つかってしまった。
逃げよう。…と思ったけど捕まった。「どないしたろー」とかにやつかれてしまったので、恐ろしくなって、目に向けて攻撃。
騒ぎで起きて来た観鈴。晴子がどうしてもカラスを受け入れないのを知り、家出を決意してしまう。
勢いで飛び出したけど観鈴は困っていた。ジュースでも買おうかと思っていたが財布がない。しょげていると、晴子が探しに来てくれた。捜索願いを出すのは恥ずかしいから、許す方がマシと思ったらしい。
晴子に訊かれて、まだ名前をつけてないことを思い出した観鈴、空からの贈り物だから、という理由で「そら」と名づける。
7/18。肩に乗せられ学校へ。授業、結局遅刻。ジュース飲みつつ堤防で過ごす。
観鈴は、今日こそ友達を誘ってみると決意していた。夏休み中、補習を終わった午後から遊ぶ約束がしたいと。そらは練習台に使われている。
またお昼にと言い残して観鈴は学校に。
昼になって、校門から出て来た観鈴に走り寄るが、彼女は泣いていた。結局、誰とも約束出来なかったらしい。みんな観鈴が変だと知っているからだと彼女は言う。
この夏も1人で過ごすことを決めかけていた観鈴の視線が往人を見つけた。
観鈴は彼に話しかけてみると言う。この街の人じゃないから、観鈴のことも普通の女の子と見てくれるかも知れない。話してみていい人そうなら、一緒に遊ぼうと誘ってみる。もう1度だけ、友達を作ろうとしてみてもいいよね、とそらに語りかけている。
そして堤防。大きいおむすび食べている目つきの悪い男(笑)に話しかけて、飲み物買って来ますねーと1度離れる。
第一印象どうだったかなとしきりに髪とか気にしながらジュース持って行く。
ジュースはお気に召さなかった模様。突っ返されて2つとも観鈴が飲むはめに。
おむすび食べ終えて去ろうとする往人を引き止めて、浜辺で遊びたいと言う観鈴。男は探し物をしているからと断る。
一緒に探す観鈴。からかわれてバス停まで行っちゃったりするけど探している。
夕方になってやっと木に引っかかってるのを発見。これで一緒に遊べると言う観鈴に、別の用事があると逃げようとする往人。手伝うと言う観鈴。
そして、ご飯はどうするのかと観鈴が訊いた。良かったら食べて行って、と言ったら…目が光ってる(笑)。ちょっと怖い。でもまあ、そんなこんなで観鈴宅へ。
その道すがら、やっと観鈴の肩にいるそらのことを尋ねて来た。そんなものを肩に乗せるのが流行ってるのか? って(笑)。
夕飯の間はそらは同席出来なかった模様(それはそうか)。
夜、晴子さん帰って来てさらに揉めてる。さんざん揉めてカラス飼うのを許したのに次は人間の男だもんなあ。
晴子さんに納屋行きを宣告されて素直に従う往人と、それに続いて行く観鈴。
しばらくして、そらと観鈴は観鈴の部屋に。今日は楽しかったと観鈴は上機嫌だ。
こんな私でも仲良くしてくれるから往人さんはいい人なんだそうだ。たくさんの思い出を作るんだと張り切っていた。
7/19。往人と観鈴とそらで学校へ。
校門の所で観鈴と別れて、往人に付いて行ってみることにする。
武田商店前で商売しようとして、アイスに敗れ去っているのを見物する(笑)。
家に戻る。栗まんじゅうでおやつタイムなどしてから。
夜、晴子さん帰って来る。いきなり隠し芸大会が始まってしまい、観鈴がせがんで往人が人形芸を見せるが、ウケなくて落ち込んでる。
観鈴はそらを連れて外に涼みに行く。そしてそらに向けて、明るい笑顔でいられてるかなと話しかけている。往人は学校での観鈴を知らないから、彼の前では普通の女の子でいたいと観鈴は思っているらしい。
夜、観鈴が寝た後で外に出る。星空を少し見上げてから、中に入ろうとするのだが…居間通るしかないのよねえ。
また晴子さんに捕まった。酔っ払った晴子さん、そらに酒を飲ませて恋愛の自慢話を1人で語りまくっている…。
そらも酔って来て倒れてしまったのを見て、観鈴の部屋に運んでくれた。
7/20。観鈴がまだ起きないので、退屈凌ぎに外に散歩しに行く。
…って、往人が牛乳盗んでいる現場を目撃してしまった…(笑)。
朝、そらを連れて2人と1羽で学校へ。遅刻なので1時間堤防で時間を潰してから観鈴は校内へ入り、そらは校門で観鈴を待つ。
その間に美凪さんが出て来た。逃げないことを不思議に思っていたみたいだけど、やがて、そらが飛べないことに気付いたらしい。「あなたはがんばって下さいね」と少し悲しげに言い残して去って行く。
観鈴が出て来て、一緒に帰る。宿題するからしばらく外で遊んでて、と窓を示されたので、そらは外に出た。
往人が暑さ凌ぎに人形芸をやろうとして、晴子さんのバイクがそれをはねていた…(笑)。
そらが部屋に戻ると、ちょうど観鈴も宿題を終えたところらしい。居間にやって来て、往人と遊ぼうとしていたらしいが、本人がいないので、そらを連れて外に散歩しに行くことに。
思いついて、そらに飛ぶ練習をさせることにしたらしい。神社に来ると、羽を使わせようと放り投げられたりするが、一向に羽ばたかない。
観鈴は見本を見せるべく手で羽ばたきながら走り回った。やっとそらも理解して来たらしく、跳ねつつ羽を動かすと、少しだけだが空を飛んだ。すぐに落ちたけど。
その時、そらの中で少しだけ思い出されたことがある。昔からその場所を目指していた気がする。空の高みを。見たこともない光景が浮かんでは消えて。
家に帰って来た。夕飯の支度している観鈴のそばで、窓に切り取られた空を見ながら、ふと思い出しかけている。もう1人の自分がいるような感覚。
夜、帰って来た晴子さんはナマケモノを往人に押し付けて人形を人質に取ってった。
観鈴は部屋で貯金箱とにらめっこしつつ、晴子さんが往人のためにぬいぐるみを買って来る気になったのを不思議がっている。確かにねえ…。
観鈴が寝た後、窓の中の四角い空を見て、胸騒ぎを感じているそら。確かめるために外に出る。
酔い冷ましに涼んでいたという晴子と会う。今回は逃げない。晴子が少しだけ寂しそうな目をしていたから。晴子は、そらが逃げないことを訝りつつも、人の心が読めるのか、だから観鈴のそばにいるのか? などと訊いて来た。
晴子が空を見上げるのに釣られて空を見る。昔、そこを目指していたのだということをはっきりと思い出していた。いつか確かめられる気がする、と思うそら。
晴子さん、お酒モードに切り替わり。そらを連れて家に。嫌な予感がする。
7/21。朝、眠い。そらを心配しつつも準備。出がけに往人のバイトを河原崎さんから紹介してもらってから、2人と1匹で学校へ。
今回は校門の前で待っててみた。
観鈴が出て来て、1度家に帰る。掃除機をかけてから堤防へ戻ると、往人がさいかちゃんに手を焼いているところだった。
さいかちゃんを家に送り届けてから自分たちの家に。
夜、給料を眺めている往人は観鈴に話しかけられても無視している。それが気になったそらは…その紙きれが悪いと思ってつつきまくってしまいました。ああ。真っ白に燃え尽きてる往人…(笑)。
7/22。学校に向かいつつ、往人が突然、観鈴に翼があるかと訊いている。そらはその言葉に何故か引っかかる。観鈴に翼がないのは判っているはずなのに。
家に戻って、食後にトランプすることになる。往人は嫌々ながらも付き合うことになった。
しかし…。泣き出してしまう観鈴。
往人は家を出て、そらと観鈴だけが残される。
しばらくして落ち着いた観鈴は、そらに自分の癇癪のことを説明する。このせいで誰とも仲良くなれず、教室でもいつも1人でいたことを話してくれる。往人とも、友達になろうなんてしなければ嫌われることもなかったのに…と呟いて。
やがて笑いながら、この夏もやっぱり1人でいることにする、と言った。最初からそうしていれば良かったのだと。
そらを連れて散歩に出る。往人がいるのも気付いているが声をかけずに帰ろうとしたら、向こうから声をかけて来た。一緒に帰る。
往人といると彼女が笑顔になる。それは自分には出来ないことだ、と思っているそら。
夜、観鈴が寝ている隣で、空を追っていた遠い日のことを思い出してみる。
遠い空を追っていたもう1人の自分。悲しみを感じる。自分が消えてしまうような感じ。何かが頭の中で膨らみかけて…すぐしぼんでしまった。うーん。
7/23。観鈴は洗濯を終えて、そらと2人きり。時間があるからと観鈴はそらを連れて神社に来た。しかし今日のそらは、空に近づこうとしていた過去と、おぼろげながら感じていた悲しみと、自分が消えてしまうといううっすらした記憶のせいで、空を飛ぶことが少し怖くなっている。空を飛ぶよりも、観鈴のそばにいる方がいいと。それだけで幸せだから、と。
全く動かないそら。観鈴は諦めて戻る。
堤防に来ると、往人がいた。隣に座った観鈴は夢の話を始めた。空にいる夢。その話を聞いた往人は何かを考え込んでいる。
家に戻って、観鈴は居眠りしながら宿題。ちょっと休憩して、往人の持ち帰って来たケーキを食べてから掃除を始めた。そらは邪魔になるので離れていて、と言うので大人しく離れる。右へ右へ。
観鈴の部屋。同じく追い出された往人がトランプ占いの真っ最中…(笑)。
彼が出て行った後に観鈴が来た。布団を干すからとそこからも追い出されて、外へ。
外にいたのは晴子。いつもと違って寂しそうな雰囲気なので、手招きに応じて近づいてみた。バイクで散歩に付き合って欲しいらしい。
晴子はどうしようか考えた挙句、そらをリュックに詰めてしまった。ひいー。
発進。凄い勢いでがたんごとん言っていたと思ったら、勢い余って階段に乗り上げた、賽銭箱壊したって…おいおいおい。
やっと出された。やっぱり神社。
晴子はそらに向けて、夏祭りの思い出話を始めた。
小さかった観鈴といた夏祭り。浴衣も着せて貰えず。ひよこに向けて「がおー」と話しかけていた。成長すれば恐竜になると信じていたから。
縁日のひよこなんて長くは生きないからと、晴子は買い与えずに連れて帰ろうとする。観鈴は、大抵の同年代の子がそうするように、駄々をこねてねだることはしなかった。ただ本当にすまなそうに、控えめに「欲しいな」と言っただけで。
観鈴は望まれずに生まれた子だった。晴子の姉が、結婚もしないまま、さんざんの揉め事の後に産んだ子供。だがその母である晴子の姉は亡くなってしまい、その夫・観鈴の父は観鈴を他人(晴子)に押し付けてしまった。
最初は嫌で、義兄がいつ子供を引き取りに来てくれるか、それだけを考えて暮らしていた。だが長く暮らすうちに、観鈴のことを可愛いと思えるようになって来ていた。いつも笑顔でいるその明るさに惹かれるようになっていた。
そうなってしまうと、今度は逆の不安が生まれる。いつ義兄に観鈴を奪われるか判らない。正式な親でない以上、手放したくなくても、義兄が連れて帰ると言えば渡さなければならない立場なのが、辛いと感じるようになって来た。
だからあえて観鈴と距離を置いているのだそうだ。別れが辛くならないように。
誕生日プレゼントすら渡したことがない。いつも忘れているフリで酔って家に戻っていた。
と言いながら、リュックから取り出したのは恐竜のぬいぐるみ。今年こそはと考えていたらしい。でも、今まで守り通して来たその距離を、今年も守ることにしたらしい。ぬいぐるみを草の中に放り投げた。
そのまま、1人でバイクにまたがる。ありゃ。そら、置いてかれた…。
観鈴の恐竜好きを知っているそらは、ぬいぐるみを助け出そうと孤軍奮闘するが、すぐに晴子が戻って来て捕まってしまった。
7/24。日が昇ると同時に神社へ向かい、恐竜救出作戦を再開するが、なかなかうまく行かない。その間に、一組の親子が神社にお参りに来ていた。
午後。晴子に連れられて観鈴が帰って来た。学校で癇癪起こして呼び出されたらしい。
家に戻って落ち着いて、往人との待ち合わせに出かけようとして、晴子に怒られた。病気で早退した人間が外に出歩いてたらまずいだろうと。仕方なく家で待つことに。
晴子が仕事に戻って、観鈴はそらと話している。お母さん凄い速さで学校に来てくれた、とか、往人には嫌われたくないから、癇癪の件を悟られないようにしなきゃ、とか。
昼食作っていると往人が帰る。待ち合わせのことを出されるが「忘れてた」で逃げる観鈴。
それから毎朝、そらは朝になると神社へ来てぬいぐるみを引っ張り出した。ようやく社の近くにまで来た。観鈴が来ればそれに気付いてくれるだろうとそらは考えていた。
ただ、彼らの生活に変化が1つ。往人と観鈴は空を見上げて話をすることが多くなっていた。空にいる少女の悲しみのことを。
同時に、そらの中にも悲しい予感が。2人がこれから向かう未来を何となく感じていた。そして「自分が消える」ことも(…何だろう?…)。
そして予感は現実になる。観鈴の足が動かなくなり、海に行く約束だけが空回りする。
往人は晴子を責める。母親なのに、観鈴は晴子に甘えることも出来ないと。
往人が出て行った後、薄暗い台所で晴子はそらを相手に溜息をつく。本当は観鈴の具合が悪いなら、そばにいて励ましてやりたい。誕生日プレゼントに喜ぶ顔が見たい。もうこんな風に怯えたまま暮らすのは嫌だ、と。
晴子は、橘家(義兄の実家?)に直談判しに行くと決意した。預かっている叔母さんではなく、本当の親になるために。
晴子は家を出た。観鈴たちには温泉に行くと偽って。
そらは相変わらず神社で恐竜人形を動かそうとしていた。
その時、また親子が参拝しに来る。毎日のように来ている親子。
女の子はまいかというらしい。姉が病気で、その快癒を祈りに来ているらしいのだが、効果がないのか「かみさまなんているの?」と母に訊いている。
母は「いる」と断言している。まいかが頑張れば願いは届くと。
まいかはきょろきょろしている。そらは草の中に自分とぬいぐるみを隠そうとして、逆に見つけられてしまった。
まいかはぬいぐるみの中に神様が隠れた、と主張している。だからぬいぐるみなのに動いたのだと。
母親は、ぬいぐるみを「ここが神様のお家だから」と社の階段に。持ち帰りたがるまいかも最後には納得したようだ。2人は人形に願いを込める。人形は何もしていないが、2人は笑顔になった。
その姿を見て、これはここにあるべきものなのだろう、と何故かそらは感じている。
そして、自分は、何処にいるべきなのかを考えていた。
観鈴は段々悪くなって行き、往人はあらゆる手を尽くそうとする。だがそうすればするほど、往人もまた病んで行き、往人はついに出て行くと観鈴に告げた。
観鈴は一緒に行きたいと往人の後を追ったが、もちろん断られる。
部屋に戻った観鈴は、「ひとりでもがんばらないと」と自分に言い聞かせている。そして「次に生まれて来る私が、もう悲しむことがないように」(…って…何?)。
生きる意欲を完全に失っていた観鈴はただ眠るだけの無為な時を過ごし、そらはただそばにいた。
突然往人が帰って来る。観鈴を人形芸で笑わせようとする。何度も。
ただそばにいて笑って欲しいと繰り返して。
やがて人形は光に包まれて、往人は消える。人形の中から溢れて来る声はそらの中にも響いていた。やり直せるなら…観鈴と出会った頃に戻って…。
観鈴は目を覚ます。そしてそらは思った。往人は自分の身を犠牲にして彼女を死から救ったのだと。
8/1。1人でトランプをする観鈴。昼過ぎから何処かが痛み出したらしく苦しんでいた。
8/2。1人で「がんばらないと」と言い続けながらトランプ。
夜になって観鈴はとうとう泣き出してしまった。そらにだけ見せる涙。
自分の存在は人に迷惑かけるだけだと。だから「今までの私たちは迷惑かけないように死んで来た」と。
誰も好きになんてならずに、自分が1人で苦しんでいれば良かったんだ。
そう言って観鈴は大声で泣き出した。そのまま一生泣き続けるのではないかと思うほど。
涙の涸れた観鈴は、もう二度と起きなくてもいい、と1人で眠りにつく。
8/3。目覚めることもない観鈴。
夜になって苦しみ出して、このまま眠れば終われると観鈴は全てを諦めていた。
その時に何故かそらは思う。また繰り返すのか、と。
遠い日の記憶。思い出すと自分が消えてしまうと感じていた昔の日々。片方で嫌だと思いながら、もう自分の中で膨らんで行くそれを止められそうもなかった。
時を遡り、空から落ちる前。生まれる前。その先にあった光景は。
観鈴より高い目線。人形を動かしている自分。
かつて自分が人の形を持っていた頃の記憶。
その日々が終わったのは、命を賭したから。彼女のために。そして願ったからだ。もう1度彼女のそばにいたいと…。
そしてこうなった。
観鈴の唯一の友達で、笑いかけてくれる存在で。
でも、あの時のような存在ではない。今の姿はあまりに無力だ。彼女のために何も出来ない。そばにいること以外に何も出来ない。笑わせてあげることさえも。
人であった頃の記憶なんて思い出さなければ良かったと思う一方で、このまま諦め切れないという思いが持ち上がる。
そらは----その中の往人の意志が、観鈴を笑わせようとする。かつては人形を動かしたが、今使えるのは己の体だけ。
床を歩き回っているうちに人形を見つけた。それをくわえてもう1度動かそうとする。
必死の努力を薄目で見ていた観鈴は、微かではあるけれど笑ってくれた。
願いが叶ったその時から、再びそらの中で人の記憶が消えて行く。思い出した端から忘れて行く。それでもいいとそらは思う。観鈴が笑っていてそばにいてくれさえしたら。
最後にと思って伸ばした腕が突然現実になる。観鈴を抱きしめている腕。行かないでと泣いている観鈴に、ただ語りかける。人の姿はしていなくても、ずっとそばにいるから。
夢を見ていたと観鈴は言う。最後に往人は戻って来てくれたと。1人で頑張れる勇気をくれたと。目に輝きが戻っていた。
そらはまた、ただのカラス。観鈴の肩に乗って一緒にお散歩。
ジュースの販売機で、いつものようにジュースを買おうとしていたら。
横から手が伸びて来た。…晴子さんだ!
晴子は観鈴に付き合って自分もどろり濃厚を買って飲んでいた。おいしくないらしいが(笑)。
1人にして悪かったと晴子。これからは一緒にいると。
全ての事情を観鈴に打ち明ける。いつか橘の家に連れ戻されると思ったのでわざと距離を置いていたこと。それに耐えられなくなって、連れ戻されない約束をしに橘の家に乗り込んで行ったこと。でも家には入れて貰えず、10日も外で土下座を続けたのだそうだ。向こうがそれに折れてくれたらしい。
これからは、友達いなくても自分が遊んでやると笑う晴子を、観鈴は拒絶する。1人で、誰にも迷惑かけないで生きて行くって決めたのに、と。
観鈴はまた倒れてしまう。動かない足。
部屋に戻って、観鈴は何とか事情を説明しようとする。でも晴子には理解出来ない。理解出来ないながらも、観鈴が何かを探して頑張ろうとしていることは判ったらしい。それを応援することは出来る、だから2人で頑張ろうと言う晴子。
観鈴は再び拒絶する。気持ちは泣きたいほど嬉しいけれど、今まで通りすれ違いの暮らしをしたいと言う。自分にとって晴子が「大切な人」になってしまったら、晴子もまた苦しむことになるから。かつての往人のように。
晴子はそれを覚悟の上でそばにいることを願っていた。もし苦しむことになったら、、それは観鈴の一番近しい存在になれたということだ。そうなってみたいのだと。
観鈴は顔を背けてしまった。対話すら拒否して。
晴子が去った部屋で、観鈴は泣きそうな顔で(そらの中の)『往人』に語りかける。本当は受け入れたいけど、でも晴子を好きならないようにしなければ、と。晴子のためにも。
そらは理解していない。ただ言葉を聞いているだけ。
晴子はしばらくして雑炊を作って持って来た。一口食べて観鈴は「おいしくない」と。「いつもおいしくないから、もう作ってくれなくていい」と。
そう言いながらぐずり出してしまった観鈴。ついに耐えられずに本音が出て来てしまった。おいししくてもまずいって言わなきゃならない、大好きだから嫌いにならなきゃいけないと。
晴子は、母親にとっては自分の命より娘の命の方が大切だと観鈴に語りかけた。だから娘に頼りにされたい。たとえそれで自分の人生が短いものになってしまっても、それだけ輝いていたと思えるから。
すすり泣きだった観鈴の声が大泣きになる。謝り続けながら観鈴は言った。「一緒にいたい」と。
翌朝。観鈴の髪が伸びたという話になった。晴子が「切ってやろうか?」と訊いて、観鈴も「切って欲しい」と答えた。
居間に即席の美容院が誕生する。落ち着かない性格の観鈴のために恐竜のぬいぐるみ持って来て。
恐竜には昔のロマンがあると観鈴は言う。今はもういなくなってしまった生き物たち(…っていう言い方は「翼人」を思い出させるな…)。
そのうち観鈴はうたた寝。
晴子の手元が何だか怪しい(笑)。で、仕上がってみたら…すげー短くなっている(笑)。少し幼く見えるけど、これはこれでいいと観鈴も満足そう。
夕方、晴子に夢の話をしている観鈴。夢なんか忘れろと言う晴子に、説明しようとしている。夢と向かい合わなければ、また繰り返してしまう。夢の中の自分は1人ではなく、何人も何人も受け継がれてしまっている。悲しみは、続いてしまう。
観鈴は、自分がその悲しみを終わらせたいと決意していた。不幸なのは私で終わり、次からは幸せになれるように頑張る。
夢の内容自体は観鈴は話そうとしなかった。
晴子は理解はしてないけれど、それでも観鈴の意志を尊重する約束だけはしてくれた。
晴子が出て行った後、(そらの中の)『往人』に向けて観鈴は夢の話をしてくれた。夢はそれからもどんどん昔に遡り、過去の「わたしたち」がどれだけ悲しい思いをして来たのか、判って来たそうだ。
だからもうすぐ、空にいる自分を助けてあげられる。観鈴はそう思っているようだ。
そらも気付いたようだ。最早晴子さんは「敵」ではないということに。
夜、晴子と観鈴は話をしている。眠る前に晴子の笑顔が見たいと言った観鈴のために、何か楽しいこと思い出して笑おうとした晴子は、観鈴の小さい頃の失態を思い出して大笑いしていた。かりんとうと何かを間違えたらしいが…(苦笑)。
8/5。そらにだけ向けられる観鈴の呟き。夢の内容は、もう誰にも打ち明けないことに決めたそうだ。もちろんそらにも。2人の心が近づけば2人とも病んでしまう----夢を共有しないことで、少しでも近づかなくて済むようにしたらしい。
往人がここを去ろうとした時の気持ちか今なら判ると観鈴は言った。自分も母親を、晴子を嫌いになろうとしていた。出来なかったけれど。
朝食を食べて、トランプをして。1日中観鈴と晴子で過ごす。
8/6。晴子は夢の内容を聞きたがるが、観鈴は決して話さない。過去のものでもいいから、どうしてもとせがまれて、観鈴はしぶしぶ祭りの夢を話した。遠くから見ているだけの。
もうすぐ現実でも夏祭りの日。行きたがる観鈴に、絶対に連れて行くと晴子は約束した。
電話が鳴って、晴子は取りに出た。観鈴はそらに偵察を頼んで来る。そらは観鈴の部屋を出て居間へ。
晴子の電話の会話からすると…こんな時に。多分観鈴の父だ。晴子が来るなと怒鳴りつけているが、すぐ近くまで来ているらしい。晴子は電話を切ってそのまま外に飛び出した。
偵察を頼まれていると理解しているそらはついて行く。
武田商店の前まで来た。1人の男と対面する。
……あのー。この人、診療所前で芸する往人にショートケーキ渡したサラリーマン…(たかが通行人みたいなキャラなのに何で立ち絵があるのかとは思っていたんだ…そういうことか…)。
やはり観鈴の父親だったか。こんなタイミングで…観鈴を連れ戻しに来てしまったらしい…。1人に戻るのが嫌なら見合いを世話すると言っている。
晴子は彼の実家の前に10日も座り込んで許可を得て来たと言っていたが、それは彼の両親が座り込みに根負けしてやったこと。父親自身は承諾したわけではないと言っている。
晴子はそれ以上話し合いをする気がないと言わんばかりに無視して家に戻って来てしまった。そらを連れて。
家の前で晴子はそらに語りかける。往人からそらへ、そして晴子へ。観鈴のそばにいるという役目のバトンは、自分がアンカーだと思っていた。最後まで走りたいのに。
観鈴の部屋に入る。少し落ち込んでいる晴子に理由を問いただそうとする観鈴。晴子は観鈴に、橘の家に戻りたいかと訊ねた。答えは、もちろんNo。
何か話をしてとせがまれて、晴子は観鈴が赤ん坊の頃の話をした。そのうちに寝入ってしまった観鈴を見ながら思い出していた。ここに観鈴が預けられてから今までのことを。
8/7。出かけようとする2人。同時に口に出た行き先は海だったけど、部屋から出ることすら出来ずに終わる。
夜、観鈴が苦しみ出した。晴子はそばにいる。痛いならさすってやると言う晴子に「無理」と観鈴。痛むのは、多分、翼だから。そう言われても晴子は冗談だとしか思っていないが。
観鈴は痛みに耐えながら必死に晴子に話した。もし朝起きて、観鈴が変わってしまったとしても、晴子の笑顔は覚えているから…。
晴子にはその意味が理解出来ない。まだ、今は。
寝付いた観鈴の背中を、晴子は一晩中さすり続けた。
8/8。観鈴の記憶が飛んでいる。足が動かないことを不思議がり、ママは「とおくにいっちゃった」。そらの名前すら覚えていない。ただのカラス。
トランプをしている観鈴。でも、ルールに乗っ取った遊びをしている訳ではなく、並べたりバラしたり片付けたりしているだけ。札に触れていれば安心出来るようだ。
晴子はそのそばで溜息だけをついていた。途方に暮れている。「お母さん」とすら呼んでもらえなくなってしまった。
トランプ一緒にしようと話しかけても嫌がるだけ。1人で占いをしようとするが、そのやり方すら忘れている。
晴子はゲームをすることを諦めて占いに付き合うことにする。トランプの本を見ながら、次に札を置くべき場所を観鈴に指示する。母親はいないと言う観鈴に自ら、嫌っていたはずの「おばさん」という言葉で呼ばれることにも甘んじている。
晴子は、自ら観鈴がお母さんと呼んでくれる日までそれでいいと思っていた。
その日、晴子は車椅子を借りて来た。散歩しようと誘うが、晴子と一緒に行くのを拒む。何度も何度も頼まれて、観鈴はジュースを買ってくれることを条件にしぶしぶ散歩を承知した。
車椅子で外へ。もちろんそらも一緒。散歩しているうちに犬に会ったりして観鈴も楽しんでいた。
が。会ってしまった…観鈴の父親。
車椅子の娘を見て驚いている。原因を聞きたがるが、晴子にだって判らない。症状を聞きたがるけど「教えたら病院送りにする」と晴子は渋っている。最後には仕方なく足と記憶のことだけを伝える。
父親は、晴子の所に観鈴を預けた理由を話し出した。大勢の人の中にいることが出来ない観鈴。だから人の少ないこの街に観鈴を住まわせたかったのだと。
その策は失敗だったと彼は言った。いい病院を知っているから連れて帰ると頑なになる。観鈴との約束だからそれはダメだと晴子は断る。
自分もこの子といたいから、絶対に渡さないと晴子は突っぱねる。でも観鈴の方は「おばさん」としか呼んでいない。父親----敬介は、観鈴自身に「これ以上晴子と一緒にいたいか」を訊ねようとした。
今の観鈴が「いたい」と言ってくれる保証はない。それに気付いているのか、晴子はその質問を遮って、3日だけ時間をくれと敬介にすがった。敬介は仕方なく承知した。
8/9。晴子は、車椅子に乗せた観鈴を海に連れ出そうとした。でも、海まで辿り着かないうちに観鈴は暑いから帰ると言い出した。せっかくお弁当も作って来たのにと何とか説得しようとする晴子。どうしても嫌がる観鈴。
晴子は怒ってその場に観鈴を放棄して立ち去ってしまった。
観鈴は1人で車椅子を操作して帰ろうとして、転んでしまう。自分ではどうしようも出来なくて「おばさん」と呼びながら泣き出しかけた頃、晴子は戻って来た。
結局海に行けないままに家に。
観鈴は部屋に1人。「おばさん」がいないことを一瞬不思議がる。そらは、晴子を探しに行く。
台所の奥で、自分がしていることは母親ごっこに過ぎないのではないかと絶望していた。観鈴を見捨てて離れてしまった自分を嫌悪して。
悲鳴が聞こえた。慌てて晴子とそらは観鈴の部屋に。セミが入り込んだらしい。取って欲しいと怯えている観鈴。何処かに隠れているらしくセミは見当たらない。
晴子は、セミを取るまでここにいていいかと訊ね、観鈴もいてくれると安心だと答える。
やがて出て来たセミを晴子は追い払う。それで彼女の役割は終わり、観鈴はまた1人でトランプの札を並べたり崩したりし始めた。晴子が話しかけても答えようとすらしない。
セミを捕ったら用なしか、出て行かなきゃならないのか、そんなことを繰り返した後、諦めたように晴子は出て行きかけた。
観鈴が晴子を呼び止めた。トランプの並べ方を聞いて来た。晴子はただカードの位置を示すだけ。それだけのコミュニケーション。
8/10。約束の3日目。1日中一緒にいるだけ。
晴子は甘い卵焼きを作るが観鈴は食べてくれない。晴子はあっさり諦めて自分で食べて自画自賛。観鈴もその様子に食べる気になったらしく、久し振りに2人で仲の良い食事になった。
そして、晴子が位置を指示してのトランプ占い。晴子が手伝うことを素直に受け入れている。それだけの1日。
8/11。敬介が今日来て、晴子と一緒にいたいか? と訊ねた時、恐らく観鈴の答えはNoだろう、そう晴子は思っていた。最後の1日になると決めて晴子は笑顔を絶やさないことにしたようだ。
起きた観鈴の機嫌はいいようだ。朝ごはんを一緒に食べて、同じようにトランプをして。
夕方までそうして過ごして、観鈴に「出かけよう」と言う。敬介に会うためだが、観鈴にそうとは言わない。
車椅子に乗せて外へ。観鈴はうたた寝してしまっていた。
敬介が現れる。観鈴を起こして質問をしようとするが、晴子がそれを止めた。もう手放す覚悟は出来ていると。ただし、最後に2人で行きたい所があるから時間をくれと敬介に頼んだ。その場所は、海。
車椅子では砂浜は無理なので、おんぶして浜へ行く。寝たままの観鈴と海を眺める晴子。眠っている観鈴に「うちは忘れない」と話しかけながら。
敬介がやって来る。晴子は観鈴を引き渡した。眠っているうちに別れたいと晴子は言った。恐竜のぬいぐるみと、例のジュースも渡す。
遠くなる背中を、そらも見送っていた。…なのに。
観鈴が目を覚ました。と思ったら、敬介の腕から逃げ出した。
敬介は恐竜とジュースで観鈴を宥めようとするが、それも全て振り払われてしまう。観鈴は、必死に這っていた。
やがて、よろよろと立ち上がる。歩けなかったはずなのに、ゆっくりと歩き出していた。そして、観鈴は「ママ」と呼びかけていた。晴子に向かって。
敬介はその姿を見て晴子を母親と認めたらしい。ここから連れ出すのを諦めたようだ。ただ、信頼している医者をよこすから、診察だけは受けさせて欲しいと頼んで来た。晴子はそれを承知した。
8/12。夏祭りは明日に迫っていた。
晴子は、一連の出来事は全て、自分が観鈴の本当の母親になるための試練だったのではないかと思い始めていた。
観鈴は晴子をママと呼んでいる。お祭りで恐竜さん(=ひよこ)を買ってもいいか聞いている。晴子の答えはもちろんOK。
その日、観鈴はまた苦しみ出した。何処か判らない所が痛み出す。晴子が気付いてさすってやろうとするが、何処なのか判らないという観鈴の言葉に困惑する。
けど。晴子は思い出す。以前にも同じことがあった。「翼」なのだ。
それを思い出して背中をさすっているうちに、晴子はさらに昔に聞いた言葉を思い出した。この家にいた居候が話していた、その当時は意味のまるで判らなかった言葉。
あるはずのない痛み。そして全てを忘れてしまう。そして最後の夢を見た朝に、彼女は死んでしまう。
符号し過ぎる状況にやっと意味を理解した。晴子は観鈴に必死にすがる。寝たら死んでしまう。夏祭りに行けなくなる。もう会えなくなる。
観鈴はよくは判っていないみたいだが、ママと会えなくなるのは嫌だからと、眠らないようにトランプをし続けることにしたらしい。
晴子はまた1人台所でうなだれていた。そらにだけ呟き続ける。あの子だけは幸せにしてやらないと。そのためにも、せめて夏祭りだけは…。
2人は徹夜していた。トランプをめくる音だけが部屋に響く。
8/13。祭りの朝は、雨だった。台風直撃…。祭りはどう考えても中止と思えたが、それでも何か策はないかと晴子は焦っていた。
観鈴には天気のことを言わないまま、時間まで頑張れとトランプを持たせてやる。
そして午後。観鈴を神社に連れ出した晴子。目の前にあるのは、やっぱり雨の神社。来てみたら何かがあると思ってここまで来てみたけれど。
がっくりと肩を落とす晴子の目に何かが引っかかる。捨てたはずの恐竜のぬいぐるみ。境内で『神様』の代わりをしていたもの。
晴子は「恐竜の赤ちゃんがいる」と観鈴に話しかける。一緒に捕まえようと。
ともすると眠りそうになる観鈴は、それでも晴子の手を借りて懸命に手を伸ばした。その指先にやっと恐竜が触れた。2人で捕まえた。プレゼントだと晴子は笑い、観鈴も素直に喜んだ。
その夜、晴子は観鈴のベッドのそばで眠りそうになっては起きて観鈴に謝っていた。観鈴は眠ったら死んでしまう。だから自分も起きている気でいたらしい。
観鈴は「もう痛くないよ」と晴子に告げた。だから一緒に寝ようと。
晴子はその言葉に安心して、観鈴が眠るのを見たら一緒に寝ると言った。目を閉じる観鈴を見て、安心して晴子も眠りに就く。
だがすぐに観鈴は目を覚ました。寝てはいけないのだと判っていた。「ゴール」は青空の下で晴子と迎えたいと思いながら。
8/14。観鈴は笑顔で起きて、晴子に夢の話をした。秘密だったはずの夢の話。自分の背中に翼があって、空を飛んでいた。楽しそうだけど、悲しい夢だった。
夢は今日で終わり、と観鈴は言った。晴子はそれを「(何かを)最後までやり遂げた」と解釈して喜んだ。
外に出たいと観鈴が言い、晴子は喜んで散歩に出た。
ジュースの自販機で怪しいジュースを2人で飲む。
観鈴は、そらを連れて少し離れて欲しいと晴子に言った。怪訝に思いつつ言う通りにすると、観鈴はそこまでの10mぐらいの距離を歩いてみるんだと言った。晴子とそらをゴールとして。
ゆっくりと歩いて、あと数歩で着くというその時に、何故か観鈴は足を止めた。
もういいよね? 頑張ったよね? と突然晴子に問いかける。
頑張ったからもうゴールしていいよね? と。
最初まるで判らなかった晴子は、観鈴の笑顔が歪んだのを見て、その意味に気付いた。まだ本当は「痛み」が消えてなかったこと。観鈴がやり遂げようとしていたことを、終わらせようとしていること。そして恐らくそれはイコール、2人の別れなのだと。
晴子は必死に観鈴を説得しようとする。まだその「ゴール」ではないと。まだ2人は始まったばかりなのにと。
観鈴は、この夏で一生分の幸せを感じたと微笑んでいた。幸せで、1人ではないゴール。晴子の腕の中に飛び込んで「ゴール」した観鈴は、もう2度と話し出すことはなかった。
泣くだけ泣いたその後に、晴子は敬介と話していた。観鈴との一連の時間は、今までで一番「生きて」いたと。
晴子はあれから、今までの仕事を辞めて保育所で働き出していた。子供たちを片っ端から叱りつけている最中だそうだ(笑)。特に、男の子と女の子でちょっと落ちこぼれているのがいて、目をかけているんだとか。
橘の家に来ないかと晴子を誘っていた敬介も、そんな晴子に何だか安心したらしい。
そらはまだ、観鈴を探していた。消えてしまった少女を。
街で晴子に会うこともあるが、晴子はそらかどうか今少し確信が持てないまま、それでもそらと信じて話した。
もしお前がそらなら、いつまでもいない観鈴を追いかけていてはいけないのだと。観鈴がくれた名前の通り、空を目指すべきだと。人の願いをその翼に乗せて、空へと届けるべきなのだと。
そらは空を見た。観鈴はそこに還ったのだと今のそらには判っていた。そして、自分は彼女を探すのだ。その終わりのない世界から、彼女を連れて戻るために。
そらは決意する。地を蹴って、風を翼につかむ。
----翼を持った少女が大地へと戻って行く。数羽の鳥たちを携えて。
夕陽の砂浜。海岸線の向こうにあるものを確かめに行こうと誘う男の子と、それに頷いて歩き出す女の子。
振り向いた男の子の視界に、眠りこけている男の人と、隣に座る女の人が映る。あの日の往人と観鈴。
自分たちが「始まり」であることを、男の子は知っているようだ。そして彼らが、過酷な無限の終焉であることも。
手を振って告げる。はっきりとした決別を。
さよなら、と。
□■□
あの子供たちにまでそんな伏線あったとは…。
空の少女の無限を終わらせるキーワードは、「最後に幸せな記憶を」であるという解釈で間違ってないかな。
あと、これは何となくなんだけど、心を通わせた相手が死ぬという「呪い」が、初めて効かなかった、という風にも解釈出来るのかなあなんてちょっと思ったり。
まあそれは、残酷なことに、晴子に呪いの力が及ぶより前に観鈴の"病"の進行が進んじゃったせいなんだけど。
でも、病が進行した後に、晴子が母親として素直になったという辺りが、鍵だったのかなあと…何となく、ですが。
往人がそこに果たした役割は何だったんだろう。やはりバトンの運び屋だったのかな。本当の解放のキーである晴子に全てを知らせるための存在だったんでしょうか…。
しかしまあ何と言うか…他ヒロイン2人の存在が(笑)。
かわいそうなくらい差別されてますな。
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