さまざまな日常の断面                          青木春菜

 「献水」は自分にとってのヒロシマ≠しっかり見据えている作品で、祈りの思いが伝わってくる。「これっぽっちの水で/(略)/どうやって癒されるというのだろう」の呟きに確固とした視点。
 「自由帳」ののびやかな発想。どんなふうにでも使える空白の紙面、のイメージは心の在り方も示唆しているよう。ただ自由帳=自由蝶の部分、もうひとひねり欲しかった。
 「一本のピン」での、落ちていたピンの在りどころを探していく過程の緊張感が、読み手を引き込ませる。「この一本のピンは俺なのか」が重い手応え。ほかに「雨のあと」(桑原広弥)「算盤先生」(大江豊)「湯花」(ChiyoMeg)の作品も印象に残った。

 


沸き立つ想像力を                            市川 清

 久しぶりの新人賞選考。残念ながらハッとするような作品にはめぐりあえなかった。全体的に想像力のはばたきが不足しているように思えた。
 入選作『献水』は非常によくかけた作品で、叙述も的確だ。ただそのことと、詩的昇華とはイコールではない。今後、題材から沸き立つものをすくいとってほしい。佳作二篇。『自由帳』は多彩な連想は結構だが、同じならこの連想を徹底すればもっと面白くなっただろう。少々まだるっこい。『一本のピン』。途中での「爆発」に期待したが、結論はありきたりになった。
 他に佐々林氏『十月の影』の詩的冒険性に注目。評論では、磐城氏と高遠氏の論証にむずむずした。


視点の鋭さ                               黒鉄太郎

 高さんは、昨年後半から自由のひろばに投稿を始め、その一篇が優秀作品に選ばれた。テーマは戦争に使われた兵器だが、「献水」も核兵器である。しかし、被爆の悲惨さは言葉にしていないが、「献水」という行為を通し被爆者の無念を伝える力(視点)は鋭い。
 石田さんの「自由帳」は、リズムがありトントンと読ませてしまう魅力があった。岩崎さんの作品は、一本の小さな「ピン」が、機械を動かしていく上で大きな役割を果たしていることを伝えているが、最後の一行の一工夫で作品の光はもっと増したと思った。
 選外にMAWASさん、加さんの作品が、評論では「閉ざされた詩魂―長谷川龍生」(宮下誠)が印象に残った。


共に書き続けたい人たち                         小森香子

 入選は大学生、佳作は35才の主婦と50才の会社員。私たちの新人賞がいかに多彩かを思わせる。応募600を越す中には7才1417才から7080代まで。「自由のひろば」で熱心に書き続けた典子さんは構成もイメージも確かで、それとなく現在なお大きな影に通過される世界の平和を警告する。石田美穂さんの自由帳の発想や表現の自由さは楽しい。願わくは子供と書かず子どもと書いてほしい。岩崎さん「一本のピン」は現場労働者の感覚と今問題の派遣や解雇の非人間的政治問題まで感じさせて鋭いと思い私は強く推した。それぞれに、自分らしいタッチと感覚、熱いハートで作品ととりくんでいる。連帯の握手を贈る。


層の厚みが魅力                             鈴木太郎

 小学生から八〇代まで、応募者の層の厚みが魅力です。今回も新鮮な感覚の多くの作品にであいました。
 入選の高典子さん「献水」は、広島の原爆慰霊祭に献水される、その水の源流である蒲刈島を主題にした力のこもった見事な作品。「ぼくら」の熱い心が直に伝わってきます。
 佳作の石田美穂さん「自由帳」。散文形式のイメージ豊かな作品。「帳」が「蝶」になるという発想がいい。岩崎明さん「一本のピン」。工作機械の一部であるピンへの思惟の深さが結実した作品に共感。
 ほかに、清水美保子「夜汽車」、村瀬継弥「神戸の空」、宮下誠「帰郷」など、力作がそろっていました。



資質に期待する                             米川 征

 みずから設定した課題に腰を据えてしっかりと取り組んだのでしょう。高典子さんの「献水」は原爆献水碑に跪く思いを整った作品に成し得ていてみごとでした。受賞を機にさらに踏み込みのある作品形成を期待することもできると思い、入選の票を投じました。
 文章の不整理や、用語の恣意性など、それぞれ改善の余地を残しているように思いますが、石田美穂さんの「自由帳」、岩崎明さんの「一本のピン」はともに思いを形象化して読み手を引き入れ、読後に印象を残す力のある作品でした。両者の佳作受賞に期待を込め、賛同しました。選外になりました加早苗さんの「七夕様」、清水美保子さんの「夜汽車」も心に残りました。

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新人賞
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詩部門
典子 石田美穂  岩崎 明 
評論部門
今回、入選・佳作はありません