多彩さを示した受賞作品たち  上手 宰

  第四三回詩人会議新人賞は詩部門、評論部門ともに意欲的な作品が多数集まりました。総じて真剣に人生を捉えようとする姿勢が強く、表現の奇矯さのみをアピールするような作品は影を潜めたとの感想が多くの選考委員から出されました。厳しい経済社会状況の中で、老若を問わず精神的にも変化が現れてきているのかもしれません。熱心な討議をへて詩部門は入選一篇と佳作二篇、評論部門は該当作なしと決まりました。数的にはやや賑やかさに欠けるものの、それぞれ全く違う傾向で、多彩さの現れた結果となりました。

 入選作の高典子さん「献水」はヒロシマの原爆慰霊祭に蒲刈島の水が献じられているということに注目し、その水を実際に訪ねる設定を組み込んで作品化したもの。その水を実際に自分の目で見ようとして山に入っていく姿は原爆や被爆者の中に分け入っていこうとする作者の意志を感じさせるものでした。視点の確さ、筆力で圧倒的な支持を得ました。大学在学中の若い方でもあり期待したいと思います。

 佳作の石田美穂さん「自由帳」はやわらかい感性と自由な想像力で佳作第一席に。蝶のように羽ばたき花壇に落ちれば土や自然に帰っていきたくなる紙が、一方ではこねまわしていると手になじんでしまう人間に親しい存在でもあるといった不思議な「紙論」をさりげなく展開しているあたりも感性の深さを示しています。一選考委員として私は同作品を入選に推しました。

 岩崎明さん「一本のピン」は落ちていた出所不明の一本のピンをめぐってさざめきたつ工員の姿を象徴的に描き佳作第二席に。最初は不明だったものがいつか希望を示す「爆発」に転化していく過程がリズミカルに、労働現場らしい筆致で定着されています。

 評論部門は宮下誠さんの「閉ざされた詩魂――長谷川龍生」が的確な論旨で第三次選考を通過しましたが佳作入りには至りませんでした。福原春雄さんの作詞論、磐城葦彦さんの安部英雄論、高遠信次さんの金子みすゞ論も注目されました。今後に期待したい方々です。


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新人賞
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詩部門
典子 石田美穂  岩崎 明 
評論部門
今回、入選・佳作はありません