時代に必要な言葉

赤木比佐江

 おぎぜんたさんの「ノー!」は多様です。笑って、酔って、ポリスから逃げて、女の子が泣いて、マリファナを吸いながら…のノー。ノーと言わないマラヤの無言が悲しみをそそります。ケニアを描いていますが戦争・金権・環境破壊・企業の横暴、この言葉「ノー!」が今の時代に強く訴えかけます。
 今岡貴江さん「てのひら」は安定が恐いとてのひらからすり抜けていくわが子への思い。母の心が巧みに表現。
 「エントリーシート」坪井大紀さん道端で何度も轢かれている白い花。それを両手で川に流す。仕事が決まらない鈍色の日々の作者の心と重なる。
 他に工藤遥平さん、葛原りょうさん、堀田郁子さんも良かった。


新しい力

秋村 宏

 おぎぜんたさんの「ノー!」にある荒々しいエネルギーは、いまの詩に不足しているものだ。貧困のなかにあるアフリカの社会、人間をみつめたところから湧きでた力は、外側からではなく、内側からのものであり、そこに希望がみえる。
 今岡貴江さんの「てのひら」は、若い母親としての初々しいおもいがでている。子どもを異なる個としてみ、ともに生命の意味を感じようとするふるえ≠燗`わってくる。
 坪井大紀さんの「エントリーシート」は、失業者の意識を白い花に托して表現し、リアリティーがある。
 ほかに式たかお、小作久美子、でみんぐ、中村紗帆のみなさんに惹かれた。


三様の作品

渋谷 卓男

 おぎぜんたさんの「ノー!」は、荒削りながら勢いとリズムを感じさせる作品でした。詩は求心力で書かれるものがほとんどですが、この作品は強い遠心力を持っています。アフリカの悲惨な現状を踏まえながらも、単に手を差し伸べようとするのではなく、彼らの中にこそ希望を見出そうとする、そのまなざしの確かさに惹かれました。
 今岡貴江さんの「てのひら」は、光を感じさせる作品です。それは生命が持つ本源的な光であり、子供を産み育てるという個を超える営みを通して、作者が手にしたものでしょう。
 坪井大紀さんの「エントリーシート」は、言葉を刈り込めばさらに良い作品になるでしょう。タイトルも再考を。


作品というオトシマエ

高鶴 礼子

 おぎぜんた「ノー!」には赤道直下に鳴り響く音楽のような、昂揚とたくましさを感じた。向日性の混沌と混乱、猥雑さが刻み出すリズムは作者がリアルタイムで呼吸しているアフリカそのものであろう。
 今岡貴江「てのひら」は《ゆらぎ》が魅力的。終行も効いている。ただし、*などの用い方については一考の余地ありか。
 坪井大紀「エントリーシート」は手馴れた作品。終連の爽やかさに惹かれる。
 以上に加え、工藤遥平の不思議な言語空間、SATSUKI・Kの毒、南徳英の真が心に響いた。
 作品は書き手が自分の生き様につけるオトシマエである。向き合うことを辞さない勇気と、検証を自己に課し続ける誠実さを肝に銘じたい。


言葉が走るとき

都月 次郎

 おぎぜんた氏「ノー!」は、アフリカの苦悩を鋭く描いた。「誰もがお前たちの望む黒人に/なりたいわけじゃない」という言葉が光っていた。
 坪井大紀氏「エントリーシート」も日本の現実を見事に切り取った作品。労働の哀しみと失業の侘しさが、雨上がりの街に、美しい音楽のように流れている。


心を惹かれた詩三篇

南浜伊作

 おぎぜんた「ノー!」には強い意志表示があり、あらゆる押しつけを拒み、自力で主体的に生き、生きようとする人びとの生命の躍動感が感じられる。魂の叫びや要求に共感する作者の詩がある。それが魅力であった。
 今岡貴江「てのひら」には、たくさん学び身につけてきたようで、実はほんの僅かな智恵や暮し方、それと引きかえに失ったものも多いことをわが子を見ていて思い知らされる若々しい母親のやさしさがあった。
 坪井大紀「エントリーシート」は、蹂躙される小さな生命へのいつくしみが沁みとおってくる。
 今年も評論は入賞作が出なかった。王維論に心動かされたが、読者への配慮がなさすぎた。

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