第38回詩人会議新人賞作品紹介
詩部門佳作
山田よう

1953年群馬県生まれ。学校講師。

詩人会議、山形詩人会議、日本詩人クラブ。


受賞のことば


 
このたびは、思いがけず新人賞佳作の受賞となり、有り難く感じるとともに、たいへん恐縮しています。

 東京や、遠く秋吉台の詩の勉強会に、突如出かけて消えてしまう母親を見て、“わけのわからないもの書いて、何してる?”と訝し気だった思春期の娘たちが、一番喜んでくれました。

 今回、詩を書き続ける大きな励ましを頂き、詩人会議の皆様、詩の先輩、友人たちに、心から感謝します。
虚構の中へ 山田よう



勤めを終え

夕食の仕度も済んで

これから向かう

劇団の稽古場


車を走らせアクセルふかす


信号待ちの時間は

変身の時間


最初の信号待ち

貧しい農家の健気な一婦人に

だんだんなっていく


目つき、姿勢、しゃべり方

誰もいないのをいいことに

大声で台詞を言う

「ねー、とーちゃん、とーちゃんてば」


二度目の信号待ち

舞台装置を思い描き

演じる自分を想像する


信号待ち三番目

頭の中で効果音と音響が

鳴り響く


最後の信号は

どうやら待たずに通れるが

台詞がくるくる脳みそをかき回す


現実世界を脱ぎ捨てろ

嘘の自分になってるか

役者してるか


虚構は楽しい




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