「クリシュナ帰郷の準備」

(戦車に乗るクリシュナとウッタラー)
アシュワッターマンの卑怯な行為 (1-16)
(1)スータは語りました:
パーンドゥの息子達(パーンダヴァ)はクリシュナと共に、彼らの婦人らを先頭に、死者を弔う儀式を執り行うためにガンジス河に向かいました。
(2)亡くなった人々の魂に、供物と水を捧げる儀式を執り行い、嘆き悲しんだ後で、彼らはハリ(ヴィシュヌ)の足下から涌き出て、彼の御足の塵によって神聖にされたガンジス河で再び沐浴を行いました。
(3-4)それから、召集された聖仙と一緒にクリシュナは、諸行無常の理を説いて、悲しみに覆われた全ての信者を慰めようとしました。すなわち宮殿に座しているドリタラーシュトラ、兄弟と共にいるクル族のリーダー、ユディシュティラ、カウラヴァの悲嘆に暮れている母ガーンダーリー、パーンダヴァの母クンティーと、彼らの妻であるパンチャーリーです。
(5-6)ドゥリヨーダナによって奪われた王国は、今やユディシュティラの統治に帰りました。ドラウパディーを引き摺り回した王族は、彼女の死の呪いによって、今壊滅しました。ユディシュティラの高潔な名声は、三度の馬祀祭 (Aswamedhas) の挙行によって、インドラ神自身の名声のように、至るところに広がっていきました。
(7-8)彼の信者がこれらすべてを成し遂げるのを手伝ってから、シュリー・クリシュナは彼自身の居城ドゥワーラカーへ戻る準備を始めました。彼はパーンドゥの息子達の正式な許可を得て、ヴィヤーサや他の賢者達を崇拝し、また、彼らによって返礼されました。おおブラーフマナ(=シャウナカ)よ、彼は今サーティヤキとウッダヴァらに伴われて二輪戦車に乗り込もうとしていると、ウッタラー(アルジュナの息子アビマニユの未亡人)が非常な恐怖に襲われて駆けて来るのに気がつきました。
(9)ウッタラーが言いました:
世界とすべての神々の主よ! 至高のヨーギよ! あらゆる者が互いに殺し合いに従事している時に、私はあなた様以外にいかなる避難場所もありません。
(10)おお主よ! 鉄の固まりが溶けたような恐ろしいミサイルが、凄まじいスピードで私に向かって飛んできます。そのミサイルに、私を焼き尽くさせましょう。それは避けられないことです。でも私の中にいる赤ちゃんは守りたいのです!
スータが言いました:
(11):ウッタラーの言葉を聞いて、主は彼女に向かってくるものが、この世からパーンダヴァの家系を抹殺するために、ドローナの息子によって再び放たれたブラフマー・アストラであることを理解しました。
(12)同時に5人のパーンダヴァ兄弟は、赤く灼熱するミサイルが向かってくるのに気づき、武器を取りました。
(l3)心と魂を彼に捧げ切っているパーンダヴァの危機的状況を見て、主は彼の強力な武器である円盤スダルシャナで彼らを守りました。
(l4)ヨーガの師にして一切に内在するものである主は、ウッタラーの胎児を再生させて、彼の神聖な力で守りました。その胎児は、パーンダヴァ家を存続させる唯一の跡継ぎでした。
(15)いかなる武器によっても防ぐことができないブラフマー・アストラは、ヴィシュヌ神の優れた威力によって、ことごとく消滅せられました。
(16)不生にして不変の存在、驚異の中の驚異、創造と維持と破壊を自身のマーヤーの力によって行う主の、この行いほどの驚異はどこにも見られないでしょう。
クンティーの賛美 (17-43)
スータは語りました:
(17)息子と彼らの妻ドラウパディーと共にブラフマー・アストラから救われたパーンダヴァの母、クンティー・デーヴィーは、ドゥワーラカーに発とうとしていたクリシュナに挨拶しました。
クンティーは言いました:
(18)私は創造されない始源の存在、至高の人、一切の主、プラクリティを越えている一者に敬礼いたします! 生きとし生けるものの内と外に内在するにもかかわらず、直接貴方を見ることは誰にもできません。
(19)貴方の神秘的な力であるマーヤーのスクリーンの翳に、あなた御自身がお隠れになっている時に、いかにして私のような無知な者が、感覚を超越し、不変なる霊である貴方を知ることができましょう? 無知な観客が、舞台衣装を着ている俳優を識別することができないように、無知な人々の目から貴方は隠されているのです。
(20)神聖な愛(バクティ)による霊的交渉の本当の意味を教えようと今の御姿をとり行動なさっている貴方を、超越的な純粋さに到達し、全てを知っているパラマハンサ達でさえ理解することなどできないのに、私達のような女性がなぜ理解できましょうか。
(21)ヴァスデーヴァとデーヴァキー(クリシュナの両親)の間に生まれたクリシュナへ御挨拶いたします! 牛飼いナンダの里子として顕現したウパニシャッドのブラフマンそのものである貴方に繰り返し御挨拶いたします。
(22)へそが蓮で飾られた御方に御挨拶いたします。蓮の目を持ち、蓮の花輪で飾られた御方に御挨拶いたします。御足に蓮の徴を持つ御方に御挨拶いたします!
(23)おお主よ 、感覚の支配者よ! あたかも貴方が邪悪なカンサの独房から悲しみに打ちひしがれた母デーヴァキーを救い出したように、幾度も危険から私どもをお救い下されました。
(24)貴方様は私達を数多くの危険からお守り下さいました。ビーマセーナを毒殺しようというたくらみから、カウラヴァ族の放火から、恐ろしい悪魔とラークシャサの脅威から、賭博の集会の屈辱から、森林での生活の様々な危険から、戦闘につぐ戦闘での勇者達の武器の脅威から、そして今はドローナの息子によって放たれたミサイルの脅威から。
(25)おお、全世界の師よ! しばしば苦難に直面させてください。何故なら危険な状況において、私達は貴方の現存を感じるからです。貴方のお姿は、私達を輪廻の生から解放いたします。
(26)貴方のヴィジョンは、貴方という富以外を望まない苦行者によって得られるのであって、生まれ、権力、名声、富、学識やその類のプライドによってのぼせ上がっている人々には、貴方の神聖な御名を唱えても、呼び掛けることさえできません。
(27)所有欲の無い人々の唯一の富である貴方に礼拝いたします! 3種のグナの影響を超越している一者に敬礼いたします! 自身のアートマンの至福に没頭し、全き平安であり、人々に解脱を授ける貴方に挨拶いたします。
(28)私には貴方が、善悪、大小などのいかなる区別もつけること無く活動する一切の支配者、無始無終なるカーラ(時の神)であると存じます。人々の間に不和を引き起こし、全てを破滅に導くのは時間の作用です。
(29)化身となって、人間のように振舞う貴方の行動の真意を理解できるものは誰もおりません。貴方には、特別に親しいものも敵となるものもおりません(ただすべての人間に救いを与えるだけなのです。貴方が敵を壊滅させるということも、そのようにして、彼らに祝福と救済を与えることなのです)。これを理解しないで、人々は不公平だと貴方を難じます。
(30)不生にして不変の霊であり宇宙の魂である貴方が、化身として、聖仙、人間、類人そして水生の生物として行われた見かけ上の誕生や活動は、まさに大いなる神秘です。
(31)子供の時、あなたは土製の凝乳を入れている壺を悪戯して壊してしまいました。貴方のお母様は罰として貴方を木臼にロープで縛り付けました。その時の貴方の目は不安に怯え、両の眼からは、涙が溢れ出たといいます。死でさえも畏れるという貴方を思い起こせば驚異に打たれ、そのお話には煙にまかれたように感じます。
(32)貴方の行動は図りがたく、人々は貴方の化身の目的について様々に語ります。ある人々は不生である貴方を、徳高きヤドゥの家系に生まれ、その王族の家系の名声を広めるために誕生したのだ、と申します。あたかもマラヤ山頂のビャクダンがマラヤ山の名声を広めるように。
(33)他の人々は次のように語ります。ヴァスデーヴァとデーヴァキーが、貴方の両親になりたいと願い、前世で行った苦行と祈りに応えて、彼らの息子として生まれたのだと。それから邪悪なもの共をこの世から取り除き、この世に幸福をもたらすために生まれてきたのだと語ります。
(34)次のように語る人々もおります。地球の重荷(邪悪な、そして罪深い人々)を除いて、地球を救ってほしい、とのブラフマー神の願いに応えての出生なのだと、あたかも転覆しようとしているボートが、余分な荷物を捨てて救われるように。
(35)貴方の化身の目的を、次のように語る人々もおります。輪廻(無知と欲望からなる原因と結果の鎖、願望にすぐさま反応する行いが、生死の繰り返しをもたらす)の中でもがいている人々が、常に「聴き」「思いだし」喜びを見出し、信仰の道の歩みを進められるように、戯れに満ちた貴方の行為の数々を提供したのだと主張しています。
(36)貴方の戯れに満ちた活躍を常に聴き、暗誦し、称え、思い起こし、喜びを見出す者は、生死の輪廻から解放する貴方の蓮華の御足の下に、速やかに達します。
(37)おお全てのものの主よ! 貴方の信者を教化するために、戯れの行為にふける御方よ! 今貴方は、友であり頼っている私達を見捨てるおつもりなのでしょうか? ああ! 怒りと私達への敵意を抱く様々な強大な国家に対して、貴方の御足以外に私達を支えることはできません。
(38)貴方がいなければ、貴方の存在によってもたらされた我々、すなわちヤドゥとパーンダヴァの名声と繁栄が何になりましょう! 魂が肉体から去ったときの、諸々の器官と同じ状態になることでしょう。
(39)この国が貴方の吉兆の足跡で飾られなくなれば、今ある美しく繁栄した土地もまた、滅びることでしょう。
(40)さてこの広大な土地 ――その繁栄している村々、その繁茂した植物、その森林、山と海――これら全ては、貴方の一瞥によって出現した祝祭のようです。
(41)おお全てのものの主よ! おお、すべての魂! おお、全ての姿である御方!(彼らが私の「自分のもの」であるという感じから生まれる)このパーンダヴァとヤドゥ一族への、私の強固な執着をすっかりと断ち切ってください。
(42)おお、親しい主よ! あたかもガンジス河が途切れることのない流れとなって海に向かうように、私の心が、他のあらゆる対象を避けて、貴方が唯一の対象となり、愛と執着の途切れることのない奔流となりますように!
(43)おおシュリー・クリシュナ! おお、アルジュナの友人! おおヴリシュニ族の指導者! 邪悪な種族とこの世に苦しみをもたらす支配者を焼き尽くす炎よ! おお、無尽蔵な力とエネルギーのある御方よ! おお、牛の群れ(Gokula=またクリシュナが幼児を過ごした村の名前でもある)の主! おお、弱者や聖者達の保護者! ヨーガの師! 人類の霊的指導者、全ての主よ! 幾度も幾度も挨拶いたします!
ユディシュティラの憂うつ (44-52)
(44)スータが言いました:
クンティー・デーヴィーが心地よい言葉で彼の栄光を称え終えると、シュリー・クリシュナは彼女に魅惑的な微笑を投げかけました。
(45)そして彼は、彼女が祈願したように、主への愛のこもった献身に到達するように彼女を祝福しました。そして彼はハスティナープラに入り、すべての王室の婦人に暇乞いをして、彼の都市ドゥワーラカに向かって出発しようとしていました。しかしその時は、もっと逗留するようにとのユディシュティラの愛のこもった要請に彼は従いました。
(46)ヴィヤーサのような神聖な賢者やクリシュナ御自身によって、古代からの習慣を示されつつ慰められ、諭されたにもかかわらず、ユディシュティラ王自身が引き起こしたこの壊滅的な戦争の悲しみは、和らげられることもなく、また良心が晴れることもありませんでした。これはまさにクリシュナの不可思議で計りがたい意志によって引き起こされたものなのです。
(47)おお聖者よ! ユディシュティラ王は、無知なる人のように考え、なくなった友人や縁者達への執着と悲しみに圧倒され、語りました:
(48)何と言う惨事であろうか! 私はなんと邪悪で根深い無知の持ち主なのでしょう! ジャッカルとハゲタカの餌にしか過ぎない肉体のために、私は軍隊と無数の人々を破滅に追いやりました。
(49)たとえ何千年間苦しもうとも、地獄の責め苦から解放されるつもりはありません。私は、子供たち、バラモン、友人たち、親類、父親達、兄弟、教師とそれに等しい者達の殺戮者なのですから。
(50)「国民を守るための正義の戦いで敵を殺害しても、それは罪とはならない」と、言われています。だが私は納得はできない。
(51)私のせいで家族をなくした女性達の大きな苦しみは、家住者によっての何らかの儀式や、慈善、そして生け贄などで償えるものではありません。
(52)堅くなった土は、柔らかい土を洗い流すことができません。酔っているときに、さらに大量に飲んだからといって、その酔いが治まることはありません。そのように、人が無知故に引き起こした死は、犠牲祭を行い大量の生け贄を捧げたとしても、その罪を償うことはできません。