(1)シャウナカは語りました:
偉大にして神聖な賢者ヴィヤーサは、ナーラダが彼にアドバイスを与え、出立してからどうしたのでしょうか?
(2)スータは語りました:
多くの聖人が集まるサラスヴァティー河西岸に、霊的な瞑想に最適なシャムヤープラーサと呼ばれる特別に神聖な場所があります。
(3)バダリー樹の木立に囲まれた麗しい彼のアーシュラマ(庵)に座って、注意深く清めの儀式を行った後、賢者ヴィヤーサはサマーディ(三昧)に入りました。
(4)清められ、神聖な愛に貫かれ、集中された彼の心は、至高の存在と彼に依存しているマーヤーの力に関する完全な洞察力を得ました。
(5)人間が、実際は自由な魂にもかかわらず、自身を3種のグナから成る肉体と誤解して、サムサーラ(輪廻)のなかで、あらゆる苦しみを招くのはマーヤーの力によってなのです。
(6)彼はまた、アヴィディヤー (Avidya:マーヤーの、無知を生み出す面)によって引き起こされたこれらの苦しみに有効な万能薬が、主への献身であることを悟りました。このように理解が啓けた賢者は、それ故に、自身の霊的な本質に対して無知で卑屈に振る舞っている人々の利益のために、サットヴァ・サムヒター(信仰の経典)としても知られているバーガヴァタ・プラーナを生み出しました。バクティ(献身)こそが無知の暗闇を追い払い、人間の霊的な栄光を復活させる唯一の方法であるということを教えるために。
(7)その研究を始めたり、あるいはそれを聞いたりするだけでも、人の心は至高の主へのバクティ(献身)、つまり信仰を発展させます。そしてそれは人々のあらゆる悲しみ、心酔と恐れを破壊します。それならば、その研究や聴聞に専心するならば、その効果はいかばかりでしょうか!
(8)バーガヴァタ・プラーナを編纂して、慎重にそれを校正した後に、賢者は放棄の権化であった彼の息子シュカにそれを伝授しました。
いかにしてシュカはバーガヴァタを学んだか(9-11)
(9)シャウナカは語りました:
シュカは卓越した瞑想者で、アートマンに没入する以外にはなにものにも興味を持たない完全なる放棄者です。では、いかにして、彼はこのきわめて広範な経典の勉強を行ったのでしょうか?
(10)スータは語りました:
アートマンに没頭する賢者が、経典の学習を必要としていないことは本当です。けれども彼らは、利己的な願望から離れた、自ずから湧き出るような信仰を授けらているのです。 シュリー・ハリ(ヴィシュヌ)の本来の魅力が途方もないので、自らのアートマンに浸っているこのような瞑想に専念する人々さえも、彼に惹きつけられるのです。
(11)というのもバーダラーヤナ(ヴィヤーサ)の息子であるシュリー・シュカは、信者と彼らの集いがとても好きなうえに、主の素晴らしさに強く魅惑されていたので、(それを詳述することによって、彼は主と信者に仕えようとして)広範な文献を学ぶという困難を選んだのです。
アシュワッターマンの復讐(12-29)
(12)私はシュリー・クリシュナの伝記の背景として、王仙パリークシットの出生、活躍と死、そしてパーンドゥの息子達の出発、経歴、帰還についても、今物語りましょう。
(13-15)カウラヴァとパーンダヴァの一族の英雄達が、英雄の本望、すなわち、戦場にて死を遂げている時のことです。ドリタラーシュトラの息子であるドゥルヨーダナが、ヴリコーダラ(=ビーマ)の棍棒によって腿を打ち砕かれて伏している時に、ドローナの息子であるアシュワッターマンは、主人ドゥルヨーダナを喜ばせようと、野営で眠るパーンダヴァの5王子の息子達の頭を、人目を忍んで切断しました。しかし彼がこれらの頭を差し出した時、ドゥルヨーダナでさえも、喜びませんでした。なぜなら、誰であろうとも、このような非常に極悪な行為には満足してないでしょうから。パンチャーリー (=ドラウパディー)は、彼女の年若い息子達が虐殺された極めて残忍な方法を聞いて、深い悲しみに途方に暮れ、涙滂沱として流れ、泣き叫びました。
そこでリースで飾られた王冠を持つ英雄アルジュナは、彼女を慰めようとしました。
(16)「私が卑劣なバラモンであり、殺戮者アシュワッターマンの頭を、強弓ガーンディーヴァから放った矢で打ち落とし、あなたの面前に置き、それを踏みつける時に、あなたの息子の供養がすむのです。その後あなたは儀式にのっとって沐浴し、おお、素晴らしき御婦人よ、そうして初めて、私があなたの悲しみの涙をぬぐう時なのです」と。
(17)どうにかして、このように心地よく美しい言葉で、愛しい妻を慰めて、クリシュナを友人として、そして二輪戦車の御者とするアルジュナは、強弓ガーンディーヴァを手に取ると、猿の旗印を持つ二輪戦車に座り、師ドローナの息子であるアシュワッターマン の追跡を始めました。
(18)遠くから急速に接近するアルジュナを見て、幼児の殺戮者であるアシュワッターマンは、かつてルドラ神を恐れて逃走したブラフマー神のように、身の危険を感じて震えながら戦車に乗り、あらん限りのスピードで逃走しました。
(19)バラモン出身のアシュワッターマンは、馬は疲れ切り、避難すべき助けさえも得られないことを知り、今自らを救う唯一の方法は、ブラフマー・アストラ(ミサイル)であると考えました。
(20)ブラフマー・アストラを撤回する方法は知らないが、生命の危急のときに直面しているアシュワッターマンは、必要な清めの儀式を行い、精神を集中して、その神聖なミサイルを放ちました。
(21)凄まじく、全てを覆うほどの輝くエネルギーを放射するミサイルを目の当たりにして脅威を感じたアルジュナは、クリシュナに次のように語りました。
(22)おお、クリシュナよ! 力強き腕を持つ御方よ! 信者の救済者よ! サムサーラ (輪廻)の炎に焼かれる人々にとって、汝は唯一の安全な避難所です。
(23)汝はすべての起源であり、一切を知れるものであり、プラクリティを越えている主御自身です。
汝の霊的な潜在力(チット・シャクティ)によって、汝の中にある物質的な潜在力(マーヤー ・シャクティ)には、汝御自身は影響されません。このように、すべての変化に影響されない汝は、普遍の真我として留まります。
(24)汝は自らの恩寵によって、マーヤーによって生み出された無知に屈服している人類に、徳行や他の修行によって特徴づけられる霊的な向上の手段を授けるものです。
(25)この度の化身もまた、この世の人々の重荷を取り除く一方、まさに汝に一心な愛を捧げる信者に、瞑想の対象を与えるためです。
(26)おお、一切の主よ! ここに凄まじい恐怖を起こさせる大いなる輝きが向かって来ます。あらゆる方向に向かうかのように首を種々にのばして! それが何であり、どこからやって来たものか、私には分かりません!
(27)バガヴァーン(クリシュナ)は語りました:
これは破滅の予感に襲われたドローの息子によって放たれたブラフマー・アストラです。 彼はそれの熟達者ではないので、どのようにそれを取り消すべきか知りません。
(28)このブラフマー・アストラを打ち落とすことは、他のいかなるミサイルでも不可能です。これらのミサイルを放ったり回収したりすることに、あなたは熟達しています。そこで、あなたもブラフマー・アストラを放ち、かのミサイルを迎撃し破壊しなさい。
アシュワッターマンの運命(29-58)
(29)スータは語りました:
主クリシュナの言葉を聞いて、敵にとっての恐怖であるアルジュナは自らを清め、クリシュナへの崇拝を示すためにシュリー・クリシュナの周りを回ってから、敵のブラフマー・アストラを破壊するために、ブラフマー・アストラを放ちました。
(30)二機のミサイルの輝く火炎が衝突し、その光輝が全天を覆いつくさんばかりに広がっていくさまは、あたかも宇宙の溶解時の太陽の輝きのようでした。
(31)三界を焼き尽くす輝きを見て、人々は、本当に宇宙の消滅を引き起こす炎であるかと考えました。
(32)シュリー・クリシュナの見解を確かめてアルジュナは 、このままではこの世の生物全てに大いなる絶滅と苦しみを引き起こしかねない双方のミサイルを撤収しました。 (33)それからアルジュナは、怒りで目を真っ赤にして、残酷なアシュワッターマンに接近して、生け贄の動物であるかのように、彼をロープで縛り付けました。
(34)主は怒りを湛えて、縛り上げて自陣に敵を引きずって来たアルジュナに語りました。
(35)おおアルジュナよ! この極悪なるブラーミンは恩赦に値しません。彼を殺しなさい。彼は夜間、罪の無い子ども達が寝ているところを虐殺しました。
(36)正しい行為を知っている人は、酔っ払い、心身喪失者、寝ている人、子供、女性、白痴、難民、おびえている人々、あるいは戦闘において戦車が壊れた者を、たとえ敵であっても殺戮してはいけません。
(37)他者の殺戮によって栄えようとする無慈悲な犯罪者に与えられた死は、まさに恩恵です。なぜならもし彼が生き続けるなら、彼は自身の残酷な性癖によって、より一層堕落することでしょう。
(38)その上、あなたは私の聞いている前でパンチャーリーに約束しました。「おお尊敬されるべき夫人よ、私は直ちにあなたの息子の殺戮者の頭を持って来ましょう」と。
(39)それ故にこの忌々しい罪人、子供たちの殺戮者に、今すぐ死をもたらしなさい。彼自身の種族への恥辱です。彼は彼の主人の意見にさえ造反しました。
(40)スータは語りました:
まだアルジュナの正しい行為の判断力を確かめようと為されたシュリー・クリシュナの喚起にもかかわらず、アルジュナは、彼自身の師ドローナの息子であるアシュワッターマン を処刑することを好みませんでした。
(41)次にアルジュナは、戦車の御者であり友人である聖クリシュナと共に、野営地に移動し、アシュワッターマンの捕獲を、アルジュナの悲しんでいる妻に知らせました。
(42)動物のように縛り付けられ、卑劣な自身の行為を恥じてうなだれるアシュワッターマンに会って、高貴なパンチャーリーは哀れみに圧倒されました。 彼らの尊敬すべき師ドローナの息子であった捕虜に、彼女は平伏しました。
(43)縛り付けられているアシュワッターマンを見るに耐えず、彼女はひどく驚愕して叫びました。「彼を解放してください! 彼を解放してください! 彼はバラモンであり、また、我々の師の息子であって尊敬された年長者です!」
(44-45)「息子の姿を取ってあなたの前に立っているその人は、ドローナ師その人です。あなたに全ての武器の技と共に、威力あるミサイルの発射と回収をなす秘密のマントラ全てを教えたその人です。その上、彼の母、クリパの姉妹であるドローナの妻は夫に先立たれながらも、勇敢な息子のためにまだ生きています。」
(46)「ああ! あなたは正しい行為とはいかなるものか熟知しております。グルの家族があなたによって苦しみを蒙ることは相応しいことではありません。むしろ、それは常に、あなたの敬意と崇拝に値します。」
(47)ゴータマの娘にしてドローナの忠実な妻である彼の母が、私のように、亡くした子を思って悲しみの涙にくれることがないようにしてください。」
(48)「もしバラモンの種族が罪深い王の所作によって苛立ったり立腹させられたりするなら、これらの国王と追従者は、苦悩に満ちたバラモンの悲しみで破滅することでしょう」。
(49)スータは語りました:
おお バラモン達よ! パンチャーリーのこれらの言葉を国王ダルマプトラ (ユッディシュティラ) は、あらゆる点で道義に適い、合法的で、慈悲深くて、誠実で、バランスがとれていて、そして称賛に値すると、大いに評価しました。
(50)ナクラ、サハデーヴァ、サーティヤキ、アルジュナ、そしてデーヴァキーの息子である主クリシュナを含めて、男性であれ女性であれ、その場にいたあらゆる人々は、ドラウパディー(パンチャーリー)の嘆願を正当に評価しました。
(51)それからビーマは非常に腹を立てながら語りました:
処刑は、この手の極悪人には、釈放するよりもより好ましい手段である。なぜならば、奴は、主君の目的はおろか、自身の目的にさえも適わないのに、まだ眠っている子供たちを殺したのだから。
(52)ビーマセーナ(ビーマ)とドゥルパダの娘(ドラウパディー)のその言葉を聞いて、友アルジュナの顔色をうかがっていた4本の腕を持つ主クリシュナは、微笑ながら彼に話しました。
(53)バガヴァーン・クリシュナは語りました:
たとえ堕落したバラモンでも、虐殺されるべきではありません。しかし極悪人は処刑されるべきです。両方とも私の命令です。両方とも満足させるような行動を取りなさい。
(54)あなたは妻を慰めるという約束を果たさなければなりません。それはすなわち、アシュワッターマンの頭を持って来ることです。あなたはまた、ビーマセーナ、パンチャーリー、そして私をも満足させるように行いなさい。これらすべてを満たすように執り行いなさい。
(55)スータは語りました:
アルジュナは主の真意を理解しました。そして彼は、アシュワッターマンの生まれながらの特徴である頭頂の房を宝石と共に剣で切り取りました。
(56)幼子の大虐殺の罪によって霊的なオーラを失い、そして頭頂の宝石を奪われて身体の光輝さえも失ったアシュワッターマンは、パーンダヴァ軍の陣営から追い払われました。
(57)堕落したバラモンの処刑は、頭頂の房を切り取ること、財産の没収そして追放にこそ本質があります。肉体の死を課することは禁止されます。
(58)彼らの子供たちの死を嘆いていたパーンダヴァ軍は、クリシュナとともに、火葬や他の儀式に参列しました。