時間の果実



      
   

   8 音ノナイ街

 四人が現れたのは、見知らぬ街だった。
 夜ではあったが、奇妙に明るい月明かりが石畳に反射していた。その街の建築物の風情は、明
らかにザールブルグのそれとは違っていた。ザールブルグでよく見る煉瓦造りや、ハーフティン
バーの家屋は一軒もなく、代わりに石材をふんだんに使った重厚な建築物が立ち並んでいた。建
物の高さは総じて高く、屋根の角度も急だった。入り口や窓は、ザールブルグよりも小さかった
が、どの家も採光のための小窓がかなり高い位置についていた。エルザは、きょろきょろと周り
を見回しながら言った。
「ここはどこ、ミリュー?」
 ミリューは言った。
「ダマールス王国の王都、のはずです」
 ヴェルナーは言った。
「の、わりには……人っ子一人、いやしねぇな……?」
 ミリューは言った。
「……ここはまだ、エンクレーヴの中なんです。先ほど、時空域の近いところに出すぎて、ライ
オスさんに見つかってしまいましたので、もっと深いところで止まってみました。……ですから、
ここでは、僕たちからも街の人々の‘現実の’姿は見えませんし、もちろん、街の人々からも、
いえ、力のある術者にも、僕たちの姿は見えません」
 ヴェルナーは言った。
「ふ〜ん、……ま、いいさ。とりあえず、どこか一休みできるところを探そうぜ、ミリュー?」

*


 街で一番大きい宿屋の中、四人はテーブルを囲んでいた。リリーは言った。
「ねえ、ミリュー。本当に、私たちの姿は、街の人たちには見えないの?」
 ミリューはうなずいた。
「はい。……位相が違うところにいるので、僕たちの姿は街の人々には見えませんし、それに僕
たちの行動が、街の人たちに影響を与えることもありません」
 エルザは立ち上がって、目の前のパン籠を指差すと言った。
「あ! ってことは、このパンなんか、食べても大丈夫なのね?」
 ミリューはうなずいた。
「そうです。現実の‘意味作用’が及ばないので、ここで僕たちがここにあるものを食べても飲
んでも、現実の次元にいる人たちの世界では、食べられたことにはなりません」
 エルザは嬉しそうに言った。
「良かった〜! ちょうどお腹が空いてきたところだったの! じゃ、このパンと、ここの台所
の大鍋に入ってるシチュー、もらっちゃいましょう、リリー!」
 リリーも、微笑みながら言った。
「ええ、そうね、そういえば、急にお腹が空いて来たわ! ……って、ミリュー、エンクレーヴ
の中にいる場合、あたしたちは空腹を覚えないんじゃなかったかしら?」
 ミリューは言った。
「僕たちはあちらこちらの‘外’に出ました。そのときの作用でしょう……。いえ、本当だった
ら、ずいぶんと長い間飲まず食わずの状態のはずなのに、この程度なのですから……?」
 ヴェルナーは立ち上がった。
「ま、いいさ。ただで問題なく食事がとれるんだったら、とっておいたほうがいい……。どうせ
この先、どうなるか分からねぇからな、ミリュー?」
 そう言って、ヴェルナーは棚からブラウワインを取り出した。
「ほう、ブラウワインの年代ものだ。やっぱり、行商人は、シグザール領にも出入りしているか
ら、領内の酒も入って来てるってことか?」
 リリーはヴェルナーに尋ねた。
「……ヴェルナーのお店にも、ダマールス王国からの行商人が来ているの?」
 ヴェルナーは、ふっ、と笑った。
「ああ、もちろん、来てるさ」
 リリーは言った。
「国交がないのに?」
 ヴェルナーは言った。
「関係ないさ。商売人はな、そんなこと、お構いなしに出入りするもんだ。もちろん……そんな
ことは、王室には逐一報告しやしねぇけどな」
 エルザは、ミリューに言った。
「ねぇ、手伝って、ミリュー! このシチューのお皿をテーブルに運んで!」

*


「で、ライオスってのは、何者なんだ、ミリュー?」
 ヴェルナーが尋ねると、ミリューは言った。
「……エルフの隠れ里にいたころの、姉様の幼馴染みです。僕にも、とっても優しくて、良い方
でした。それが……こんなことになるなんて……」
 ヴェルナーは言った。
「まあ、誰しも急に、ころっと変わっちまうなんてことは、よくあることだからな。そう、考え
込むもんじゃないさ」
 ミリューは首を横に振った。
「違うんです……。ライオスさんがああなったのは、テウルギーの書のせいかもしれないんです」
 ヴェルナーは言った。
「何だそれは……?」
 ミリューは言った。
「……以前、ダマールスの王から僕たちの里に、テウルギーの書を発見したから、解読して欲し
いという依頼が来ました。サジエス義兄様をお呼びだったのですが……そのとき義兄様はエルフ
の大賢人を継がれるため、里を留守にしていました。そこで父様は、ライオスさんに名代を頼み
ました。ライオスさんは、里の中ではサジエス義兄様に次いで賢い方だったのです。しかし、そ
れっきりライオスさんは帰って来ず……後はご存知の通りです。書に読み負かされたのが原因だ、
と姉様は言っていました……」
 リリーは、目を大きく見開いた。
「書に、読み負かされるってどういうこと、ミリュー……?」
 ミリューはうなずいた。
「はい。そのテウルギーの書は、三冊から成る魔術書なのですが、普通の本ではありません……。
第一の書は、‘真と偽’を統べる書、第二の書は、‘善と悪’を統べる書、第三の書は、‘美と
醜’を統べる書、と言われていますが、……いずれも、相当の魔力を持った者にしか読むことは
できません。しかしながら、書はそれ自体が呪術の力を結集させたものであり、もし読み手が力
不足であった場合には、書の呪力に負け、心を書に奪われてしまうのです」
 リリーは、さらに尋ねた。
「……つまり、その本は、普通に読んで分からないとかって話じゃ、ないのよね?」
 ミリューは、神妙な顔でうなずいた。
「はい。三冊の書は、神聖語で綴られているのですが……、その言葉はすべて、事物に命令を与
える力を持っています。読みこなすには相当の知識が必要なのですが、それだけでは書に負けて、
書を‘読む’のではなく、逆に書に‘読まれて’しまう、のだそうです。なぜならば、三冊の書
は、自らの読み手を選ぶからです……。書は自らが読み手と定めた者以外には必ず災いをもたら
す、といって、義兄様は、書庫の第一の書には封印の鍵をかけていらっしゃいました。その鍵は
……僕が護っている時間の果実を奪わなければ開けられません。しかも、その果実の魔力が弱い
うちは、開けるのには不十分なのです。だから、ライオスさんは僕を生け捕りにして、僕と一緒
に宝珠の力が育つのを待つつもりなんです」
 ヴェルナーは言った。
「……ふ〜ん、そうか。その本っていうのは、普通の本じゃなくて、魔導書みたいなもんなのか、
古代にあったっていう?」
 ミリューは微笑んだ。
「よく似ていますが……しかし、少々魔導書とは性質が違います。魔導書は、書き手の意志を結
実したものですが……三冊の書には書き手がいません。書は、自らが意志をもって、歴史上に現
れては消え、またあるときになると、突然現れる、ということを繰り返しているのだそうです。
ある時期から三冊とも、エルフ族の大賢人のところに結集したため、われわれの手で約千年の間
守って来たのですが……先々代の大賢人様のとき、エルフ族の間で内紛が起きて、第二の書と第
三の書が、紛失してしまったんです。しかも、サジエス義兄様の書庫にあった第一の書まで、ラ
イオスさんに奪われてしまって……。僕が、僕が管理を任されていたのに……」
 リリーは尋ねた。
「……そういえば、エメさんもサジエスを呼び戻すのどうの、と言ってたけど……、その、サジ
エスさんっていうのは、エメさんの旦那様なんでしょう? どこに行っちゃったの?」
 ミリューは目に大粒の涙を浮かべた。
「……義兄様は、このエンクレーヴの最深部に行かれました。父様が急に亡くなって、僕が宝珠
の‘力’を受け継いだものの、……僕はそれに相応しいだけの修行を積んでいなかったのです。
力不足の者がこの宝珠の魔力を身に受けると、心身が時間から弾き飛ばされてしまう……つまり、
消滅してしまいます。それで、義兄様は自らエンクレーヴの最深部に降りて行かれました。……
僕を助けるためです。その場所で義兄様は、この宝珠が司る時間の基軸を支えて下さっているの
です。僕がきちんと護り手としての力を身につけて、義兄様を呼び戻すことができるまで、ずっ
と……」
 ヴェルナーは言った。
「なるほどな、事情は分かった。ま、とにかく、今はおまえの姉さんを助ける方法を考えようぜ、
ミリュー。あのライオスってヤツは、どうやらおまえを殺すつもりはなさそうだし、おまえをお
びき寄せるまでは、エメは大事な人質だ。……危害を加えることはないと思うぜ?」
 ミリューは、その大きな瞳を潤ませながらうなずいた。
「そ、そうですよね! 姉様を助けることを考えなくっちゃ、ですよね、ヴェルナーさん!」
 そのとき。
「れ〜ぇ、リリーぃ! いっしょにこれ、のみましょうよ〜ぉ〜!」
 エルザが、酒瓶を片手にリリーに言った。
「ど、どうしたの、エルザ、急にそんなに酔っっぱらって!」
 リリーが言うと、ヴェルナーは、ひょい、とエルザの手から酒瓶を取り上げた。
「……ハタンキョウ酒か……。悪酔いする酒だな?」
 しかし、エルザはおかまいなしに、リリーに抱きついた。
「リリーぃ〜、も〜、あたし〜ぃ、あなたが大好きらの〜! いちば〜ん上の姉さんとおんなじ
くらい、大好きよ〜ぉ……」
 リリーは冷や汗をかきながら言った。
「あ、ありがとうエルザ! ……でも、今日は、もう寝たほうがいいと思うわ!」
 エルザは、とろん、とした目で言った。
「ん〜……、らったら〜ぁ、リリーも一緒に〜寝ましょ〜!」

*


 宿屋の二階で、寝付いたエルザを見ながら、リリーはヴェルナーに言った。
「ふ〜……。じゃ、あたしたちも、休んでおきましょうか、ヴェルナー?」
 ヴェルナーは、窓の外を見たまま、返事をした。
「あ? ああ」
 リリーはヴェルナーの横顔を見ながら言った。
「……何、見てるの?」
 ヴェルナーは言った。
「いや……。あの、でかい建物な。……あれが有名はダマールス城かと思ってな」
 リリーはふと、窓の外を見た。
「ああ、あれ! さっきから気になってたんだけど……ごつごつした岩の上に作られた大きな建
物、あれ、やっぱりお城なのね。……ずいぶん、シグザール城とは違うわね?」
 そう言ってリリーが指差した方向には……、三方を断崖にかこまれた巨大な岩の丘の上に、石
の城塞が築かれていた。ヴェルナーは言った。
「ああ。俺もそれを考えてたところだ……。噂には聞いていたが、すごい城だな」
「あのお城、有名なの?」
 リリーが尋ねると、ヴェルナーは、くすりと笑った。
「……有名さ。商人の間じゃあな。あの城……あんな風に断崖の上に建てられているから、難攻
不落だって話だぜ?」
 リリーはうなずいた。
「たしかに、言われてみればその通りよね……。あの城門のところを閉めたら、崖を登るしか、
入る方法はなさそうだわ」
 ヴェルナーは言った。
「そうだな。基本的に、外敵の侵入を第一に想定して作られている城だ……。ま、ダマールス王
国は、シグザール王国と、いつでも戦争をするつもりでいるらしいからな。……噂にたがわぬ、
ってヤツだな」
 リリーは無言で外の風景を眺めた。
 月明かりが、不気味な風貌の城塞を一層しらじらと浮かび上がらせていた。無意識のうちに、
リリーは身震いしていた。
「静かね……。気持ちが悪いくらいに」
 ふいに、ぽつん、とリリーが言った。ヴェルナーはうなずいた。
「普通の静かさじゃないな。音が、全然しねぇ。まあ、そうだよな。人間がいないんだからな?」
 リリーは言った。
「だから、余計にあのお城、不気味に見えるのかしら?」
 ヴェルナーは、薄く笑った。
「……かもな。でも、ま、せっかくだ。滅多に来られる街じゃないからな。……外へ出てみねぇ
か、リリー?」

*


 街の石畳は、ザールブルグのそれよりも、幾分ごつごつとしていた。
 宿屋から少し坂を下ったところに、大きな広場があった。おそらく普段は、行商人たちがにぎ
やかに店を開いているらしく、あちこちには分厚い布の天蓋が張られていた。
 リリーは、ふと立ち止まって上空を指差した。
「ねぇ、あれ、あの大きい星は何かしら?」
 その方向を見て、ヴェルナーは言った。
「……ボレアス、北風の神の名前がついた星だな……。ほう、あれがあの位置に見えるってこと
は……やっぱり、ずいぶんとザールブルグから北に来ちまったんだな」
 ヴェルナーは、そう言って、広場にあった石の椅子に腰掛けた。
「ヴェルナーって、そんなことまで知ってるのね?」
 リリーはそう言って、ヴェルナーの横に腰を下ろした。
「……何、おまえが作った天球儀に描いてあったんだぜ?」
 リリーは、空を見上げた。
「あ、あそこにかかってるのは‘Steinbock’、山羊座。ヴェルナーの星座よね。……その、隣に
あるのが‘Wasserman’、水瓶座、で……」
「その隣が、リリー座か?」
 ヴェルナーはそう言って、にやり、と笑った。リリーは心なしか頬を赤らめた。
「え? ……ヴェ、ヴェルナー……、そんなものまで見つけてたの?」
 ヴェルナーは、つ、と上を向いた。
「……毎日回して眺めてたからな。で、どれなんだ、リリー座は?」
 リリーは少しうつむいた。
「……あれは、単なるいたずら描きなのよ……?」
 ヴェルナーは、リリーの顔を眺めながら口端を軽く持ち上げた。
「ほう、じゃあ俺は、不正確な品物を売りつけられたってわけか? 欠陥品だな」
 リリーは、ヴェルナーの顔をにらんだ。
「……だって、あれはヴェルナーが気に入って、うちの工房から持っていったんでしょう?」
 しかし、ヴェルナーは涼しげに言った。
「ぱっと見ただけじゃ、気がつかなかっただけだ。じゃあ、返品するか?」
 リリーは少し頬を膨らませた。
「……分かったわ。ザールブルグに帰ったら、持ってきて。お金、返すわ」
 ヴェルナーは、上の方を見ながら両腕を頭の上で組んだ。
「やなこった。面倒くせぇからな、わざわざそんな欠陥品を持って職人通りを歩くなんて、まっ
ぴらだ」
 リリーは、さらに口を尖らせた。
「もう、何でそんなに意地悪言うのよ!」
 そのリリーの顔を、ヴェルナーは目の端でとらえながら言った。
「意地悪じゃない。何たって、欠陥品なんだからな。じゃあ、責任を持って引き取りに来るか? 
だったら返してやってもいい」
 リリーはうなずいた。
「いいわよ、引き取りに行くわ。あの天球儀、ヴェルナーの家にあるのよね?」
 ヴェルナーは、両手を下ろすと、前を向いて、軽く息をついた。
「……冗談だ。来なくていい」
 リリーは目を丸くした。
「え? いらないんじゃないの?」
 ヴェルナーは言った。
「欠陥品にしたって、気に入ってるからな。返すつもりはないさ」
 リリーは、口を大きくへの字に結ぶと、息を吐き出した。
「……もう、返すって言ったり、返さないって言ったり……。ヴェルナーってときどき、言って
ることが支離滅裂ね!」
 ヴェルナーは、そのリリーの顔を見て言った。
「おまえ、本当に……」
 そのまましばらく黙っているヴェルナーに、リリーは尋ねた。
「何よ?」
 ヴェルナーは、再び前を向いた。
「……何でもねぇよ」
 静けさが、二人を覆っていた。虫の声も、風の音もしないこの街は、ただ黙々と月や星の光を
浴びていた。ふいに、リリーは言った。
「ごめんなさい、ヴェルナー……」
 ヴェルナーは、え? と言ってリリーの顔を見た。
「何がだ、リリー?」
 リリーは、小さくため息をついた。
「……あたしが余計なお節介をしたから、こんなことに巻き込んじゃって……」
 ヴェルナーは、軽く吹き出した。
「そんなことか。大したことじゃないさ。それに……おまえがお節介なのも、今に始まったこと
じゃねぇだろ?」
 リリーは言った。
「……目的地に着くの、遅くなっちゃったわね? それどころか……大変なことになっちゃって
……」
 ヴェルナーはリリーの顔を見た。
「おい、俺は、あのときミリューを助けることに賛成したんだ。別に無理矢理巻き込まれた訳じ
ゃない。だから、この話はこれでお仕舞いだ。分かったな、リリー?」
 リリーはうなずいた。
「分かったわ」
 ヴェルナーは、目を細めた。
「それからな」
 そう言って、彼はリリーのリボンで括られた榛色の髪の毛の束を、指先でつまんだ。
「目的地の‘最果ての地’だって、俺が一緒に行きたいって言い出したんだぜ?」
 リリーは言った。
「そういえば……そうよね。ねえ、どうして、ヴェルナー?」
 ヴェルナーは、彼女の頬を手の甲で軽く撫でた。
「それは……、まあ、後で話す。別に、大した理由じゃないさ」
 そう言って、ヴェルナーがリリーの小さな顎に指をかけ、顔を近づけようとした、そのとき。
「リリーさ〜ん! ヴェルナーさ〜ん!」
 向こうから、息を切らせて走ってきた小さな影があった。
「どうしたの、ミリュー!?」
 驚いて、リリーが振り返った瞬間、
「ぶっ!?」
 ヴェルナーは、勢いよく回転した彼女の頭に鼻先をぶつけられ、その場で顔を押さえた。
「……リリーさん! こちらにいらしたんですね、ちょうど良かったです! 僕、ついに、サジ
エス義兄様と連絡を取ることに成功しそうなんです! この間から、ずっとお知恵を借りようと
呼びかけていたのに駄目だったんですけど……やっと、やっと出来そうなんです! 場所は、こ
の広場の中央がちょうどいいみたいなので、走って来たんですけど……あれ? ヴェルナーさん、
いかがなさったのですか?」
 ミリューは目を丸くして、顔を押さえながら自分をにらんでいるヴェルナーを見た。
「……何でもねぇ。そうか、良かったな、ミリュー。それでどうした?」
 ミリューは、首を傾げると、おどおどした口調で尋ねた。
「……ぼ、僕、ヴェルナーさんにそんな恐い顔でにらまれるようなこと、しましたか?」
 リリーは、ミリューの肩に手をおいた。
「気にすることないわ、ミリュー。ヴェルナーの目つきが悪いのはいつものことよ! それで、
どうすればいいの?」
 ミリューは、リリーの顔を見るとうなずいた。
「僕、ここで時間層の扉を開いてみます……! そうすれば、少しの間だけ、サジエス義兄様と
お話できるはずなんです! 義兄様なら、きっと、何かいい方法を教えて下さるはずです!」
 そう言って、ミリューはその大きな青い瞳を輝かせると、嬉しそうに微笑んだ。


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