3−F 北海道エアシステムの再編成

Ref.No.2018.04                                                                       2018.04.01

北海道エアシステムの再編成

  • 報告の目的

前報告Ref.No.2018.03「MRJ導入後のANAウィングスの将来」にて、ANAウィングス(AKX)の主力機材がDHC-8-Q400からMRJ90と交代する時、その影響を強く受けるのは北海道内路線となると考えられ、道内航空路線網の現状維持すら難しくなる可能性を示唆した。 加えて北海道内の基幹交通機関であるJR北海道が、いつまで現在の線区を維持できるのかと言う問題が提起されている。 当所は前報告にてその対策として北海道エアシステム(HAC)の増強を提案しているが、具体策には踏み込んでいない。 そこで本報告でHACを増強して北海道内の高速交通網を維持する構想を提案することにする。

  • 現在の北海道内長距離移動交通機関

北海道内主要都市間の長距離交通機関は、JR北海道の経営する鉄道網、ANA/JALグループが運航する航空便及びバス会社が運行する長距離バスがあり、基本的に札幌へ集中する路線を運行している。

現在の北海道内長距離移動機関(2017年4月現在)

区間

輸送機関

備考

JR北海道

航空

長距離バス

札幌〜根室

千歳線、石勝線、根室本線

新千歳〜中標津(AKX)

札幌〜根室

バスは夜行便

札幌〜釧路

千歳線、石勝線、根室本線

新千歳〜釧路(AKX)

丘珠〜釧路(HAC)

札幌〜釧路

バスは夜行便

札幌〜網走

函館本線、石北本線

新千歳〜女満別(AKX)

新千歳〜女満別(J-AIR)

札幌〜網走

札幌〜帯広

千歳線、石勝線、根室本線

なし

札幌〜帯広

札幌〜旭川

函館本線

なし

札幌〜旭川

札幌〜稚内

函館本線、宗谷本線

新千歳〜稚内 (AKX)

札幌〜稚内

札幌〜函館

千歳線、室蘭本線、函館本線

新千歳〜函館 (AKX)

丘珠〜函館(HAC)

札幌〜函館

バスは夜行便

第 1  表

  • 鉄道による移動手段の危機

北海道内の長距離移動手段としての鉄道の現状は前掲の第1表のようになっているが、近い将来に鉄道と航空が撤退する区間が発生する事態が予想されてきている。 今提起されている鉄道問題は、2016年(平成28年)11月18日にJR北海道が公表した「当社単独では維持することが困難な線区について」と言う声明書にある。 それによると、鉄道線区は@輸送密度が200人未満(片道100人未満)の線区、及びA輸送密度が200以上2,000人未満の線区に分類されているが、その中で維持することが困難と言う線区がある。

  註:輸送密度とは、旅客営業キロ1km当たりの1日平均旅客輸送人員をいう(線区輸送人キロ/営業キロ/日数)

第2表にJR北海道の線区整理案の対象となっている輸送密度が200以上2,000人未満の線区と航空サービスの関係を掲載する。

JR北海道の線区整理と航空区間の関係

線区

区間距離

影響区間

航空区間

運航会社

備考

宗谷本線 名寄〜稚内

183.2km

札幌〜稚内

新千歳〜稚内

AKX

根室本線 釧路〜根室

135,4km

札幌〜中標津

新千歳〜中標津

AKX

根室本線 滝川〜富良野

54.6km

航空は無関係

根室本線 富良野〜新得

81.7km

旭川〜釧路

旭川〜釧路

HAC

航空便は現在廃止

室蘭本線 沼ノ端〜岩見沢

67.0km

航空は無関係

釧網本線 東釧路〜網走

166.2km

航空は無関係

日高本線 苫小牧〜鵡川

30.5km

航空は無関係

石北本線 新旭川〜網走

234.0km

札幌〜網走

札幌〜網走

AKX、J-AIR

富良野線 富良野〜旭川

54.8km

旭川〜釧路

旭川〜釧路

HAC

航空便は現在廃止

札沼線 北海道医療大学〜

    新十津川

47.6km

航空は無関係

留萌本線 深川〜留萌

50.1km

航空は無関係

第 2  表

第2表に示すようにJR北海道の線区整理が現実になると、札幌から稚内、根室及び網走への直行地上交通手段はバスだけになる。 JR北海道の一部区間廃線の危機の原因は鉄道事業の経営難にあるとされ、第1図にJR北海道の近年に於ける鉄道事業の営業損失の推移を示すが、毎年増加する傾向にある。

第 1 図

第1図を見ると、JR北海道が現在の鉄道網を維持するには、毎年500億円以上の助成が必要のようである。 JR北海道が提起した問題に対して、何らかの解決策が地方自治体とJR北海道との間に成立した話は今まで聞いていない。 これから提起される問題は、AKXの撤退とJR北海道の線区整理が現実に発生するのか、それもどちらなのか、それとも両方が同時に発生するのかと言うことである。 それらがどのような形にせよ発生するならば、直ぐにはその対策を講じることが出来ないと考えられるので、今からそれを予期して準備する必要があると考えるのである。

4.現在の北海道内航空ネットワーク

現在の北海道内航空ネットワークは次のようになっている。

北海道内航空便の現状

区間

航空会社

使用航空機

基準運航便数

提供座席数/日

2016年度運航実績

新千歳〜稚内

AKX

DHC-8-Q400(74席)

2便/日

296

50,642人(50.4%)

新千歳〜女満別

AKX

DHC-8-Q400(74席)

3便/日

444

80,389人(51.0%)

J-AIR

Embraer 179(76席)

3便/日

456

101,184(人68.4%)

新千歳〜中標津

AKX

DHC-8-Q400(74席)

3便/日

444

101,951人(65.3%)

新千歳〜釧路

AKX

DHC-8-Q400(74席)

3便/日

444

102,050人(46.7%)

丘珠〜釧路

HAC

Saab340B(36席)

3便/日

216

70,556人(70.9%)

新千歳〜函館

AKX

DHC-8-Q400(74席)

2便/日

296

61,300人(58.6%)

丘珠〜函館

HAC

Saab340B(36席)

6便/日

432

100.955人(73.0%)

新千歳〜利尻

AKX

Boeing737-500(126席)

1便/日

252

21,865人(74.8%)

丘珠〜利尻

HAC

Saab340B(36席)

1便/日

72

18,850人 (69.7%)

函館〜奥尻

HAC

Saab340B(36席)

1便/日

72

10,107人(41.2%)

28便/日

3,424

719,849人

註:1.新千歳〜利尻線は4ヶ月の期間運航。 2.なおHACは丘珠〜三沢間の道外路線も運航している。

第 3表

5.AKXの将来動向の予測

しかし、前報告Ref.No.2018.03「MRJ導入後のANAウィングスの将来」において示唆したように、近い将来には低座席利用率のため道内路線から撤退する可能性があると考えられる。 

第 2 図

また、近い将来に輸送旅客数が劇的に増加するような要因も予想できないので、2020年以降使用機材がDHC-8-Q400(74席)からMRJ90(88席)と交代するとなれば、総合座席利用率は50%程度にまで低下し、路線収支が赤字になるのは必至と予測される。 AKX、J-AIRとHACそれぞれの輸送実績の総和として区間輸送実績の近年の実績を第4表に示し、加えて第3図にグラフ化して示している。 

北海道内運航路線と区間輸送実績

 

運航会社

2013

2014

2015

2016

札幌〜利尻

HAC

35,222

35,201

36,294

40,715

札幌〜稚内

AKX

48,948

47,503

46,258

50,642

札幌〜釧路

AKX,HAC

145,336

151,542

146,478

172,606

札幌〜中標津

AKX

98,699

98,973

158,623

101,951

札幌〜女満別

AKX,J-AIR

172,508

175,954

182,004

189,573

札幌〜函館

AKX,HAC

123,314

150,103

150,483

162,258

函館〜奥尻

HAC

10,076

10,950

10,274

10,107

634,103

670,226

730,414

727,852

第 4  表

第 3 図

第3図に見る通り、女満別線、釧路線及び函館線は増加傾向にあるが、中標津線、稚内線、利尻線及び函館〜奥尻線は需要が全く固定化している。 比較的座席利用率の高い中標津線、女満別線及び函館線は、一般的には採算はギリギリであろうと推測しているが、AKXのコスト水準が低くてこれら3路線は黒字であり、その余裕をもって低座席利用率の稚内線と釧路線も維持出来る可能性も全く否定することもできないが、当所はそれを検証出来る能力を持ち合わせていない。 しかし、一般的感覚としてAKXの道内路線運営は採算割れの可能性が大であり、機材がより大型のMRJ90と交代するならば確実に採算割れになると推測しており、本報告はそれを前提として組み立てている。 一方では、需要の伸びのない路線だけ廃止したらどうかと言う考えもあるが、北海道への使用機材回航コストや空港のハンドリング費用を分散する旅客数が減少して旅客あたりのコストが増加するので、それで道内路線の採算性が改善できるのかどうか不明である。 

現況のままであれば、AKXにとってはMRJ導入後、北海道内路線にもMRJを投入して維持する積極的な理由は見出せないと推測する。 もしAKXは北海道内路線から撤退すれば、約5機の機材を浮かすことができるので、他の収益性の良い路線での活用や、場合によってはその分の機材手当を減らすことによって、相当の合理化が期待できる。 それ故にAKXの道内路線からの撤退は、蓋然性が高いと考えるのである。

6.JALグループの将来動向予測

一方、JALグループによる道内航空サービスも、将来に渡って継続されるのか疑問がある。 将来のJALグループの道内路線経営のやり方として、HACは清算してJ-AIRのやれる路線だけを継承する方法と、HACを残してJ-AIRと分担して道内路線網を運営すると言う方法の2通りが考えられる。 HACに道内路線を全面的に運航させるには、現在の3機体制を拡張する必要がある。 フリートの増強には、同じグループに所属している日本エアコミューター(JAC)がSaab340Bの退役を始めているので、それを購入するのが最も容易な方法である。 JACはSaab 340BとDHC-8-Q400の退役を開始しており、将来的にはATR42-600に機種統一すると見られる。 しかし、JACは今までに退役したSaab340Bは海外に売却しているので、そこから現在のところJALはHACの拡大を考えていないと推測する。  HACはSaab340Bの運航支援については全面的にJACに依存しているので、JACがSaab340Bを全機退役させてその運航支援体制を解散するとなれば、HACはSaab340Bの運航を維持できるのかと言う問題が発生する。 HACもATR42-600に機種交代すると言う考え方もできるが、北海道内市場の規模から考えてJALがそこまで踏み切れるか疑問である。 HACが、Saab340Bフリートを拡大し今後も長期的に使用するとなれば、自前の運航支援体制を構築せねばならず、それには特に整備部門の大幅な人員増を必要とし、その採用、教育・訓練には相当な期間がかかるが、今までそれに着手した気配はない。 但しAKXが道内路線から全面撤退することが見えてきたら、JALはHACの運航支援体制を拡充して道内路線の運航体制を強化することを考える可能性も残されている。 またATR42-600を導入する可能性も考えられないではないが、J-AIRフリートが近い将来にEmbraer 170/190を50機体制にまで増強する計画があるので、むしろその時には現在札幌〜女満別線にだけ投入しているJ-AIRの道内運用を拡大する可能性の方が高いと当所は考える。 

現在AKXはDHC-8-Q400(74席)を運航しているのだから、AKXに代わって J-AIRがEmbraer 170(76席)を投入すれば、現在のAKXと同程度の座席利用率は確保できる見込みがある。 問題は函館〜奥尻線にあり、奥尻空港の滑走路長が1,500mなのでEmbraer 170では冬季運航が難しいことも考えられる。 またこの区間の需要は概ね1万人くらいしかないので、Embraer 170では大きすぎると言う問題もある。 従ってJALグループが道内路線をJ-AIRで運航する場合でも、函館〜奥尻線は廃止される可能性がある。 

JALグループが、JACが導入しているATR42-600をHACに持ち込めばこの問題は解決するが、今まではHAC分までATR42-600を手配していない。 結論としてAKXが北海道から完全撤退することが見えて来たら、J-AIRが取って代わるケースはあるかも知れないが、HACを増強して残す可能性は低いと考えている。 J-AIRはすでにEmbraer 170を青森、秋田、花巻、仙台及び新潟の実に5ルートで新千歳と内地空港を接続しているので、機材の回航には余裕がある。 そしてEmbraer 170フリートは最終的には30機になる予定であり、加えて少し大型のEmbraer 190も20機を調達する計画なので、今後Embraer機が運航する路線は増加すると予測される。 但し、全路線に参入するのではなく、機材に合わせて選別が行われる可能性が高いと見ているが、その中で道内路線では釧路線、女満別線及び函館線の3大路線だけを運航することも十分考えられる。 それに第5表にANA/JALグループの道内空港への展開状況を示すが、全体的に見て北海道路線に対する積極的な展開の意があるようには見えないのである。 即ちJALグループの道内路線網は、事業戦略に基づいて展開したと言うより、日本エアシステム(JAS)との合併により止むを得ず道内路線を継承したのが本当のところであろう。 それがHACの経営主体の変動にも伺える。 JASがJALに併合されるに伴って、HACは自動的にJALの子会社として運営されてきたが、2010年1月のJAL経営破綻により、2011年3月から経営の主導権が北海道に移り、2014年10月に再びJALグループに復帰した。 しかし外目からは、JALがその経営戦略の一環としてHACを 再度子会社化したと言うより、北海道からの要請を断りきれなかったので、現在に至ったように見えるのである。 

ANA/JALの北海道内空港の利用状況

空港

ANAグループ

JALグループ

備考

路線

便数/日

路線

便数/日

稚内

羽田〜稚内

1

新千歳〜稚内

2

紋別

羽田〜紋別

1

女満別

羽田〜女満別

2

羽田〜女満別

3

中部〜女満別

1

新千歳〜女満別

3

新千歳〜女満別

3

中標津

羽田〜中標津

1

新千歳〜中標津

3

釧路

羽田〜釧路

3

羽田〜釧路

3

新千歳〜釧路

3

丘珠〜釧路

3

帯広

羽田〜帯広

3

羽田〜帯広

4

旭川

羽田〜旭川

3

羽田〜旭川

4

中部〜旭川

1

函館

羽田〜函館

5

羽田〜函館

3

中部〜函館

1

関西〜函館

1

伊丹〜函館

1

伊丹〜函館

1

新千歳〜函館

2

丘珠〜函館

6

函館〜奥尻

1

奥尻と重複

利尻

新千歳〜利尻

1

丘珠〜利尻

1

ANAは季節運航

奥尻

函館〜奥尻

1

第 5表

その根拠として考えられるのは、JACにはSaab340BとDHC-8-Q400の後継機としてATR42-600を導入し、機種統一と事業構成の再編を進めているが、HACについては2017年夏にSaab340Bの客室座席を更新して、当面のサービス向上を図っただけである。 第5表に示すANA/JALグループの道内空港への展開状況からも、JALグループがANA以上の積極的な道内路線への展開の意志は見えてこない。(道内路線は赤字)

現在JACに全面依存しているHACの運航支援体制の強化も、HACのホームページを見ても運航乗務員と運航管理者だけの増員は予定しているが、整備員は募集していないところから自前のSaab340Bの運航支援体制の強化に乗り出しているようには見えない。 たまたま見た業界紙の2018年1月31日付け「Wing」紙に掲載されていたHAC桑野社長の談話では、「2020年度には機材更新を図りたい。 機種は未定である」とある。 少し考えれば、新造後継機を導入するならATR42-600以外はありえず、機種未定などと言うぼんやりした話にはならない。 まして2020年には導入したいとするならば、既に準備を開始していなければならない。 それから推測すると、まだJALはHACの将来構想を示していないか、Saab340Bの後継機問題には触れないようにしていると見るのである。 

 

7.航空サービスが必要な理由

前述したように、北海道内の航空交通網の将来が不透明なので、何らかの対策を講じる必要がありそうであるが、それに着手する前に北海道内航空ネットワークの必要度はどのくらいなのかと言うことを改めて確認しなければならないと思う。 北海道は日本の47都道府県の中で最大の面積を持っており、離島区間を除けば、日本で唯一、行政区域内に航空路線が存在している都道府県である。  そして日本の他の地域と同じように、地上交通機関としては鉄道の比重も大きく、その鉄道サービスには相当に所要時間の長い区間が存在する。 一般的な通念として、鉄道利用と航空利用の選択の分岐点は、鉄道での所要時間が概ね3時間と言われている。 第6表に札幌から道内主要都市への所要時間を掲載したが、7都市のうち5都市に於いて鉄道所要時間が3時間を超過して居り、それらは現在既に航空サービスが並存して道民に利用されている。 それ故にもしAKXやJ-AIR/HACの撤退が現実のことになったら、その影響は大変なものになると推測する。

札幌〜その他都市間の地上交通機関の実態

行き先都市

地上交通機関

鉄道区間距離

所要時間

航空サービス

根室

札幌〜釧路〜根室/JR北海道特急+普通

483.9km

6時間49分

新千歳〜中標津

釧路

札幌〜釧路/JR北海道特急

348.5km

4時間00分

新千歳/丘珠〜釧路

網走

札幌〜網走/JR北海道特急

398.3km

4時間22分

新千歳〜女満別

稚内

札幌〜稚内/JR北海道特急

396.2km

5時間10分

新千歳〜稚内

旭川

札幌〜稚内/JR北海道特急

136.8km

1時間25分

なし

帯広

札幌〜稚内/JR北海道特急

220.2km

2時間48分

なし

函館

札幌〜函館/JR北海道特急

318.7km

3時間27分

新千歳/丘珠〜函館

第 6 表

そのような現状から見ても、北海道内の航空サービスの必要性は、改めて議論する必要はないと言って良いと思う。

  • 新地域航空会社設立の必要性

将来、AKX/J-AIR/HACのいずれか、或いは全部が北海道内航空路線から撤退するとなれば、道内の航空交通網が大幅に縮小或いは全廃されることになる。 万一、そんな事態が発生したら、それにどう対応しなければならないのだろうか。 問題の発端がANA/JALグループの撤退に始まるのだから、その対策にANA又はJALグループに依存することは考えられない。 また北海道内路線の需要規模や区間距離を考慮すると、コスト的に有利なのはターボプロップ機であると考えられるが、ターボプロップ機を運航している既存の地域航空会社は全て第三セクター会社か、実態的にそれに準じる会社であり、関係のない地域に進出してくる理由がない。 AKXは近い将来にDHC-8-Q400はリージョナル・ジェットのMRJ90と交代することが予想され、JALグルーブで道内路線に進出しているJ-AIRは完全リージョナル・ジェットだけの運行会社であり、将来もターボプロップ機を運航するとは考えられない。 将来に於けるJR北海道の線区維持も航空による道内航空路線網の維持も今の所約束されていないが、北海道にとってはこれらの輸送サービスが不要とは言えないので、何らかの対策を講じる必要がある。 しかしANA/JALグループ以外の既存の航空会社-例えばスカイマーク、エアドゥ、ソラシドエア及びスターフライヤーが北海道内路線に進出して来る可能性は、これらの会社が幹線及び主要地方路線の運航を事業としているので全くないと思う。 それで将来も北海道内の航空交通網を維持しようとするには、新たに北海道内をターボプロップ機で運航する地域航空会社を創立する以外方法がないと考える。 その方法として全く新規の会社を設立するのは費用、準備時間、要員確保などで非常な困難が予想されるので、HACを買収して道策航空会社として運営するのが最も現実的な方法であると考えるのである。 HACは現在JALグループに属しているが、前述したようにJALは将来的にはHACを清算したいと考えているのではないかと見られる節があり、会社売却に応じる可能性は十分あると見ている。 元々HACは、道内路線の運航のために北海道とJASとの合弁会社として創立されており、現実に道内路線を運航しているので、事業体制を再構築する必要がない。 HACを買収できれば、それを例えて言えば、レストランを居抜きで買収するようなもので、即日営業開始できると言う大きな利点がある。

9.HACの再編

当所はHACを買収して道策会社として再編成し、航空サービスを維持する方策を第8章で提案しているが、この章でその具体案を提示することにする。

  • HACをJALから買収して、北海道内路線を運航する道策第三セクター会社として運営する。 
  • 主基地は札幌市内の札幌飛行場(丘珠空港)とする。
  • 営業上はJALグループとのコードシェアによりそのネットワークの一翼を担当し、JALの予約システムに加入し、よって営業上の継続と経営の安定を確保する。 
  • 路線は現在HACが運航している路線を継承して運航し、以降AKX/J-AIRが路線を廃止するならばその都度継承して運航することにする。 また将来的には札幌以外の都市間路線の開設も検討課題とする。
  • 機材は当面Saab340Bを延命して継続使用する。但し現在の3機体制ではAKX/J-AIRの廃止する路線を継承する余裕はないので、日本エアコミユーター(JAC)から中古機を購入し、それに伴いHAC自前の運航支援体制を確立する。 JACは2018年初頭現在で8機を運航しているが、2017年12月現在の”Saab 340 Semi-annual Reliability Reportによれば、JAC保有の最も高稼働の機体でも57,035 cycle/40,330 Flight hourであるが、機体寿命限界は90,000 cycle/60,000 flight hourなので、どの機体でも今後10年位の使用には問題なさそうである。 

またSaab340Bは現在も世界で242機が運航されており、Saab Aircraft社のProduct Supportも継続されている。 しかしAKXが本当に撤退するのか、撤退するとしてもそれはいつなのか、全くわからないのが本当の問題である。 そしてAKXがもし道内路線から撤退するとしても、撤退表明から実際に撤退するまでどのくらいの時間があるのかと言う問題もある。 航空法第107条の2、3項で、路線廃止は原則として6月前に国土交通大臣に届け出しなければならないとあるので、それから読めばAKXがまさに6月前に届け出ることも十分考えられる。 そしてAKXが北海道から撤退すると決めたなら、一路線ずつではなく一斉に撤退すると予想されるが、その時にHACがAKX撤退の穴埋めを準備する期間は6ヶ月しかない場合が予想される。 それ故に、今から前述のHACの道策会社への転換を行い、新生HACの経営方針の確立と自前の運航支援体制の構築を急がなければならない。 またAKXが道内路線から撤退するとしても、その時期を当所は正確には予測できないが、当所は近い将来のDHC-8-Q400が90席級のMRJ90に交代する時が一番可能性は高いと予測する。 現在道内路線は74席のDHC-8-Q400で運航しているが、その座席利用率からみて採算が取れているのかどうか疑問であり、そしてさらに使用機材が大型化すれば、道内需要の増加は期待できないので採算割れになるのは必至と見られる。 故にANAがよほどの低コストで運営できるか、採算度外視で全国ネットワークを維持しようとするのでなければ、道内路線からの撤退は避けられないと思う。 またJALグループの最小機材は76席のEmbraer 170なので、90席級のMRJ90の場合よりましではあるが、現在のAKXより採算性の良い運航ができるとは考えられないので、JALグループも基本的に同じような状況にあると見ている。  前述したように、JALグループから道内路線事業を拡大する意図は伺えないので、HACがAKX撤退後の受け皿になる可能性は極めて低いと考えるのである。 

なおAKXが道内路線を開設していない空港が2空港あり、それは帯広と紋別である。 帯広はJR北海道の札幌〜帯広間の運行が石勝線経由となって、特急が2時間50分以内で往来するようになって、航空の出番がなくなった。 札幌〜紋別はAKXが2002、2003及び2005年度に運航した経歴があるが、2002年度で1万4千人台、2003及び2005年度では7千人台の輸送実績しかなく、その後路線は開設されていない。

新生HACもこれら2空港に就航する可能性は低いと言わざるを得ない。 

10.道策会社としての運営方針

前章でHACを第三セクター会社として再編する構想を提案した。 形としては創立当時のHACに戻すようであるが、今回の構想は前回と大きく違う点がある。  創立当時、道策第三セクター会社としたのは、商業的に採算がとれる自信がなかったからで、あからさまに言えば北海道からの補助金を当てにしていたのである。 今日までHACが経営して来られたのは、その支援の遺産による部分が極めて大きいと思う。

これからはそうは行かないが、あえて道策第三セクター会社にと言うのは、北海道の道内交通政策に対する道主導を明らかにするためで、経営に当たっては純商業的に採算をとれる経営戦略を取らなければならないのは言うまでもない。 そしてその方策は、AKXの北海道から駆逐して道内路線運営の独占体制を構築するしかないと考える。 その方策は次のように考える。

  • Saab340Bを増機し、その機材量を持って丘珠〜函館線及び丘珠〜釧路線を増便して利便性で圧倒的優位に立つことを目指す。 丘珠〜函館線は少なくとも12便/日及び丘珠〜釧路線は10便/日程度の運行を行う。
  • 運賃は現行運賃より2割安とし、AKXの運賃に大きな格差を明示できるようにする。 一方、販売方法を工夫して運賃収納率を現在の60%台から80%台に向上させる。 それで総収入額は現在水準を維持できるはずである。 運賃割引より基準運賃の値下げの方が顧客へのアッピール度は大きいと思う。

もしAKXを新千歳〜函館線及び新千歳〜釧路線から撤退させられれば、AKXは道内路線から全面撤退する可能性が高いと推測するが、それが出来れば道内路線はHACの独占市場になる。 丘珠を主基地とすることは、新千歳空港に於いて本土路線からの接続客を獲得しにくいと言う問題も予想されるが、本土空港からは羽田または伊丹/関西空港を経由して道内空港へ接続するので、この問題は限定的な影響と予想している。

北海道内空港への本土空港からの接続は次の通りであるが、季節運航は除外している。

道内空港への本土空港からの路線

道内空港

道内路線

羽田路線

伊丹/関西路線

稚内

新千歳〜稚内

羽田〜稚内

紋別

羽田〜紋別

女満別

新千歳〜女満別

羽田〜女満別

中標津

新千歳〜中標津

羽田〜中標津

釧路

丘珠、新千歳〜釧路

羽田〜釧路

帯広

羽田〜帯広

旭川

羽田〜旭川

函館

丘珠、新千歳〜函館

羽田〜函館

伊丹/関西〜函館

利尻

丘珠〜利尻

奥尻

函館〜奥尻

第 7 表

殆どの本土空港からは羽田路線があり、道内各地空港へ行くには札幌経由で行く必要がない。 しかし、羽田経由等の経路で道内空港へ到達できない、或いは不合理な経路となる空港もあり、それは青森、大館能代、秋田、花巻、庄内、山形、仙台、福島、茨城、新潟、静岡、中部及び松本等が考えられる。 この内大館能代、庄内からは北海道内空港への路線はない。 もし新千歳空港からの道内路線が無くなると、これらの空港から新千歳以外の道内空港への接続客は、新千歳空港から丘珠空港までは地上交通機関で移動しなければならないが、影響度は小さいとして無視するしか方策がなさそうである。 なお静岡からはフジドリームエアラインズが、丘珠線を夏期の5ヶ月間の季節運航を行っている。

11.AKX路線継承の準備                                    もしAKXとJ-AIRが道内路線から撤退するとなれば、前述のように6ヶ月しか準備期間がない場合も予想される。 現在HACは標準的運航便数14便を3機で運航しているので、1機あたりの稼働は4.7便/日である。 AKXの路線を全部継承して同便数運航するとすれば、5路線13便/日であるので、2.7機、実際上3機の増機が必要になる。 AKXの時と同等の提供座席数を維持しようとすれば、Q400、1便に対してSaab340B、2便を運航する必要があり、6機の増機が必要になる。 6ヶ月と言う短期間にAKXの提供座席数と同じとするに必要な6機のSaab340Bの増機は困難と見られる。 しかし3機の増機だけでも乗務員を最低9クルーは増員する必要があるが、いつになるか分からないAKXの撤退を期待して、その要員を今から抱えている訳には行かない。 AKXの撤退時期の予想としては、現在公表されているMRJの引き渡し予定は2020年とされているので、それ以降のある程度の数のMRJを領収してからになると予想する。 MRJの領収ペースは分からないが、年に数機程度が普通なので、早くても2022年度以降になると推量する。 それで現在のところ、2022-2023年度にAKXは北海道から撤退すると想定して、準備を進めることが現実的だと思う。 それでHACの経営主体が代わったら、状況を見ながら1機ずつ増機して体制を強化して行くしかないと思う。 具体的には、増機分をAKXが2-3便/日しか運航していない函館線や釧路線の増便をして行くのが実際的と考えるが、それが可能かどうか現在の札幌〜函館線における競争力を分析して見た。 今まで当所はAKXの道内路線に於ける低座席利用率にばかり注目していたが、第8表を見るとわかるが、便数も提供座席数もHACが優位なのであるが、輸送旅客数ではAKXが勝っている。 その原因を考えて見ると、それはAKXの低い座席利用率にあるのではないかと思う。 昔、航空機メーカーのダグラス社から聞いたのだが、座席利用率が高いとそれに伴って需要を逃す割合が大きくなることがあると言う。 即ち座席利用率が高いと言うことは、一方では予約の電話が混雑していることが考えられ、そうなると予約電話がかかりにくい利用見込み客は、他社に流れてしまうと言うのである。  ダグラス社はこれを”Passenger Spill(旅客の取りこぼし)”と呼んでいた。 現在の函館線に於けるHACとAKXの関係はまさにそれに当たるように思う。

札幌〜函館線に於けるHAC/AKXの競争力比較

項目

HAC

AKX

使用機材

Saab340B(36席)

DHC-8-Q400(74席)

基準運航便数/日

6(75.0%)

2(25.0%)

提供座席数/日(シェア)

432(59.3%)

296(40.7%)

2016年度輸送旅客数(シェア)

51,649人 (45.7%) 

61,300人(54.4%)

2016年度座席利用率

70.9%

58.6%

第 8  表

第8表に示すように、HACは函館線に於いて、便数と提供座席数ではAKXに対して同等あるいは優位にあるが、輸送旅客数ではAKXに負けている。 これはまさに”Passenger Spill”が発生しているのではないかと推測する。 高座席利用率は航空会社にとって良いことではあるが、反面、利用者は予約が取れなくて他社に流れてしまう可能性も考えなければならない。 ここから読み取れる教訓は、競合に勝つためには座席利用率をある程度低く保たなければならないと言うことである。 これは採算性からすると逆説になるが、競争市場に於いては必要と思われ、単独路線と競合路線では、座席利用率の考え方を変えなければならないと言うことにある。 それで考える方策は、増機1号機を函館線に投入して増便することである。 1機の増機で4〜5便/を運航できるので、HACは現在の6便/日に追加して10〜11便/日運航できることになる。 

計算上では座席利用率は40%前後まで下がるが、その上増便により利便性が向上するのでAKXから移動してくる利用客が出て来て、多分それはビジネス客が多くて運賃収納率の改善にも貢献して、十分採算が取れると思量するのである。 それで釧路線についても第9表で同じ分析をして検証して見たが、 この路線は、函館線よりもAKXの提供便数と座席数がHACに近接していて、AKXのHACに対する競合条件が良く、輸送旅客数については圧倒的に優位に立っている。 問題は座席利用率が低下しても採算がとれるのかと言うことにある。 ここで結果を断定できないが、少なくとも輸送単価の改善の余地があると考える。

札幌〜釧路線に於けるHAC/AKXの競争力比較

項目

HAC

AKX

使用機材

Saab340B(36席)

DHC-8-Q400(74席) +Boeing737-800(166席)

基準運航便数/日(シェア)

3(50%)

2+1(50%)

提供座席数/日(シェア)

216 (25.6%)

628 (74.4%)

2016年度輸送旅客数(シェア)

31,312人 (23.5%) 

102,050人(76.5%)

2016年度座席利用率

66.2%

46.7%

第 9  表

輸送単価の削減策としては、例えば施設やハンドリング体制で取り扱い旅客数が増加し、また航空機運航費も減価償却費や間接人件費などの旅客あたりの負担も減少するので、結果として旅客あたり単価は下がるはずであり、函館線の場合と同じくAKXから移動してくる需要を期待して、十分採算が取れる可能性はあると考える。

12.運賃の設定

前章で提供座席数を増加して、座席利用率を下げることの必要性を説明したが、しかし座席利用率を下げて集客力を強化しても返って採算性を悪化させるのではないかと言う疑問も生ずる。 それについて当所の考える対策は、運賃収納率の改善である。 運賃収納率とは正規運賃に対する実収額の割合のことであるが、運賃には大人片道運賃を基準として、小児運賃、往復運賃、団体運賃などの各種の割引運賃が設定されているので、総旅客収入/輸送旅客数の実収運賃は大人片道運賃を下回ることになり、その実収運賃/大人片道運賃を運賃収納率と呼んでいる。 

第 4 図

それでHACの近年の運賃箱収納率を計算して、近年の運賃収納率の変化を第4図に示したが、HACの2016年度の推算運賃収納率は平常期料金に対して凡そ65%相当低く、そこから推測するにHACは営業のツールとして割引運賃だけを使っていると思う。 総合的には35%の割引をしていることになるが、AKXと競合している札幌〜函館線及び札幌〜釧路線に大幅に適用したものと推測している。 いずれにせよこれは大きすぎる割引率であり、これは安易ではあるが間違ったやり方で、運賃値下げは際限がなくなる恐れがある。 

むしろ不透明な割引より正規運賃の値下げで対抗すべきであると考える。 参考までに地域航空5社の2016年度における通常期運賃に対する収納率を第5図に紹介する。

第 5 図

第5図に見るごとく、HACの運賃収納率は異常に低いことが分かる。 なお、ORCが100%超過と言う異常値を示しているが、それはORCがANAとコードシェアをしており、ORCとANAでは販売運賃が違うからである。 例えば長崎〜福江間ではORCから航空券を購入すれば11,000円であるが、ANA便として購入すると通常期運賃で14,000円になるので、ORC運賃を基準とするとこのような数字が出てくる。 

AMXもJALとのコードシェアで同様の運賃設定しており、福岡〜天草間でAMXからは13,200円だがJALで購入すると15,400円になってしまう。 しかし、HACでは便名がJALコードとなっており、このような二重運賃の設定はない。 HACは分かりにくい割引でAKXに対抗するより、むしろ運賃を下げて対抗し、その他の方策で運賃収納率の改善を図るべきであると考える。 例えば運賃収納率を5%上げられれば、平均運賃を同じ割合で下げても同じ年度収入が得られることになる。 そして競合路線に於いては実際には旅客数が増えると考えられるので、むしろ増収になる可能性もある。 HACに於いては、ビジネス客が増加して運賃収納率が5%upするとなれば、それは2016年度試算で203百万円の増収になる。 そして希望的観測をすれば、函館線や釧路線では運賃値下げによりAKXの需要が移ってくる可能性も出てくる。 競合路線での運賃値下げはすでに実績があり、HACは2000年4月の運賃設定では、AKXに対して釧路線は1,000円、函館線では1,500円安くしている。 

札幌〜函館線の平常期運賃の変遷(単位:円)


2001

2002

2003

2004

2005

HAC

12,500

12,500

12,500

14,000

14,200

ANK

15,000

14,000

12,500

14,000

14,200

第 10 表

札幌〜釧路線の平常期運賃の変遷(単位:円)


2001

2002

2003

2004

2005

HAC

15,500

15,500

14,900

16,500

16,700

ANK.JAS

16,500

16,500

14,900

16,500

16,700

第 11表

考えてみれば、DHC-8-Q400に対してSaab340Bが同価値のサービスを提供していると考えたとしたら、それはHACの思い上がりであろう。 利便性と安い運賃でAKXに勝ってビジネス客が増えれば、運賃収納率が向上して多少の割引をしても実収ベースでは相殺される可能性は十分あると思うし、むしろそういう戦略を考えるべきだと思う。 第10表と第11表に示した運賃の変化によって輸送シェアがどう変わったかを第4図と第5図示している。 最初に札幌〜函館線の場合を第4図に図示する。 

第  6 図

札幌〜函館線では機材差、提供座席数の違いが大きいせいか。運賃の影響は大きく出ていない。 一方札幌〜釧路線では増加傾向にあったHACの市場占有率が、2003年度をピークに下降に転じており、それは運賃の影響ではないかと推察するのである。 

第 7 図

基本的に北海道内路線は2社が競合するほどの大きさのある市場ではないので、それを前提に北海道に残ろうとするなら、競争相手を追い出す工夫をしなければならないと思う。 そのためには格差運賃も研究の対象と思うが、現在のHACは外見的には割引だけでAKXに対抗しようとしているとしか思えない。 

13.道外路線の取扱い

現在、HACは丘珠〜三沢線と言う道外路線を運航している。 かつて函館〜仙台と言う道外路線を運航していたこともあるので、これだけが例外ではない。 しかし、道策会社として運営するとなると、問題がない訳ではない。 この路線で赤字が出た場合、誰がその補填をするのかと言うことである。 相手先の地方自治体にして見れば、HACが勝手に進出してきたのであるから、その赤字を負担する理由はないと言うが、北海道にしては相手先地域のいいとこ取りではないかと考えても不思議ではない。 それでは事前に赤字の場合の財政負担を取り決めておけば良いという声もあろうが、相手側自治体は財政援助を行う大義名分に悩むことになろう。 丘珠〜三沢線もそう言う問題をはらむ危険はあるのではないかと思う。 この路線の開設に至った理由は定かではないが、丘珠〜女満別線が休止になってその代わりに開設されたように見え、多分女満別線運航をJ-AIRに集中するためにHACを撤退させるにあたり、浮いた機材の使い道として開設したと推測している。 それでは丘珠〜三沢線を唯一の例外とするのか、北海道〜東北地方路線くらいまでをHACの守備範囲とするのか、将来財政支援をする必要が生じた場合に備えて、その経営戦略を確立する必要はあると考える。 現在の丘珠〜三沢線以外の北海道〜東北地方路線の現状を第12表に示すことにする。

丘珠〜三沢線以外の北海道〜東北地方路線(2017年4月)

区間

運航会社

運航便数/日(使用機材)

2016年度輸送旅客数

2016年度座席利用率

判定

新千歳〜青森

ANA

JAL

2(DHC-8-Q400)

3(Embraer170,CRJ200)

118,262

53.3%

地域航空が適当

新千歳〜花巻

JAL

(Embraer170)

85,643

54.9%

地域航空が適当

新千歳〜秋田

ANA

JAL

2(DHC-8-Q400)

2(Embraer170)

98,034

47.5%

地域航空が適当

新千歳〜仙台

ADO

ANA

JAL

4(737-700)

4(737-500,737-800,Q400)

5(Embraer170,CRJ200)

725,789

68.7%

地域航空の範囲外

新千歳〜山形

FDA

1(Embraer170)

実績なし

実績なし

新千歳〜福島

ANA

1(737-800)

66,584

56.5%

地域航空が適当

第 12 表

第12表に示すように、北海道〜東北地方路線は仙台線を除き、地域航空運航の方が適当ではないかと考える。

但し、もしHACがここに進出しようとするならば、事業戦略上の位置付けを確立する必要がある。

14.北海道の航空交通政策

思い起こせば、HACの創立の趣旨は、札幌以外の都市間の交通利便を良くすることであった。 航空と地上交通機関利用の分岐点は、一般的には地上交通機関利用の所要時間が概ね3時間と言われるので、現在航空サービスのない区間で、地上交通機関利用の所要時間が概ね3時間以上の区間を第13表にまとめて見た。

第12表に8区間を挙げたが、そのうち6路線は過去に航空路線が開設された歴史があり、その実績を第6図に図示する。 問題なのは、全路線が開設時に最も旅客数が多く、それから毎年減少して行き、最終的に路線廃止されていることである。 その原因は何なのだろうか。 その究明は当所の手に余るのでインターネットで調べたら、秦健太郎氏の「北海道経済低迷の原因-統計による検証」と言う報告が目に留まった。 

それによると北海道の名目国内総生産は1992年度(平成4年度)あたりから殆ど伸びていない。 その原因は北海道の産業構造にあり、北海道は全国平均よりも二次産業(製造業)の比率が低いのが特色である。 そして問題なのは、一次産業と三次産業は生産物の出荷に伴う物流コストが、北海道では他の地域より高くなると言うハンディキャップがあると言う。 そんなことから各種の企業が札幌に集中しており、道内の市で人口増加率がプラスなのは札幌市と千歳市だけと言う近年の統計がある。 

現在航空サービスのない主要都市間路線開設の可能性

都市区間

地上交通サービス

地上交通所要時間

現在の航空便

過去の航空サービス

網走〜釧路

快速 1往復/日

3時間9分

なし

なし

旭川〜網走

特急 4往復/日

3時間54分

なし

なし

旭川〜釧路

鉄道、普通列車乗継

8時間5分

なし

HACの運航実績あり

札幌〜紋別

バス 3往復/日

4時間35分

なし

AKXの運航実績あり

札幌〜旭川

特急 20往復/日

1時間25分

なし

SKYの運航実績あり

函館〜網走

特急乗り継ぎ

5時間24分

函館〜札幌〜女満別

HACの運航実績あり

函館〜釧路

特急乗り継ぎ

7時間38分

函館〜札幌〜釧路

HACの運航実績あり

函館〜旭川

特急乗り継ぎ

5時間3分

なし

HACの運航実績あり

函館〜帯広

特急乗り継ぎ

6時間20分

なし

エアトランセの運航実績あり

第 13 表

第8図に示した傾向はその結果と思うが、そこから考えると、最早札幌以外の都市間路線は必要ないとするのか、札幌以外の都市の振興のためにそのような路線を開設して置くべきかと言う、鶏が先か卵が先かのような議論になりかねない。

第 8 図

そして札幌以外の都市から札幌以外の都市間の直行路線の開設が要望されたと言う話は、少なくとも当所は聞いた事がない。 それから考えると、これは交通問題と言うより政治問題はないかと思う。 札幌以外の都市の振興が北海道の政策としての優先度はどのくらいなのか、振興策が必要としても、その方策の一つとしてこれら都市間の航空路線開設が必要なのかと言うこともある。 今までのところ、札幌以外の都市間の直行路線がそれほど道民に期待されているとは伺えない。 当所は、近い将来にANAまたはJALグループ、あるいは双方の道内路線からの撤退が行われる蓋然性は高いと考えるが、もしそれが本当に発生するとしたら、それ以後も北海道内の航空交通ネットワークは必要なのか、また必要としてもその重要度はどのくらいなのか、どこかの航空会社の進出を期待して待つことにするのか、道策会社を創立してまで維持する必要があるの等、北海道としての政策、JR北海道の線区整理の進展とも併せて今から考えておく必要があると考える。 AKXの撤退がもしあるとすれば、2022年度あたりから始まる可能性が高いと予測する。 そしてそれからも北海道内の航空交通ネットワークを維持しようとするならば、準備のための時間がそんなにある訳ではない。 AKXのMRJの運航が始まる2020年までには基本方針を設定し、2022年あたりまでにはHACの買収、再編成等具体的な行動を開始する必要があると考えるのである。 

15.地域航空としてのHACの将来展望

本報告で北海道内の航空網とHACの将来発展の道を探求し、HACの再編を提案した。 この提案が時宜に叶うことを願っているが、仮にそうであったとしても多分この方策が有効なのはせいぜい10年くらいではないかと思う。 即ち延命策を講じたSaab340Bの経済寿命と同程度ではないかと考えるのである。 その理由として道内人口の減少、旅行回数の減少などの生活様式の変化、出張からテレビ会議への移行などのビジネスの進め方などの変化が考えられる。 地域航空の将来については国も関心を持っており、2016年6月に「持続可能な地域航空のあり方に関する研究会」を立ち上げた。 それ以来この研究会は会合を重ねているが、まだ結論には到達していないようである。 ところが2018年3月22日付けの読売新聞に研究会が最終報告を取りまとめたとの記事がでた。 それによると、JALグループのHAC、JAC、ANAグループのAKX、0RC及びAMXを経営統合や合併の対象として国主導で関係者の協議を2018年中に結論を出すべきだとしているらしい。 NCAとRACは対象外になっている。 当所はこの報告通りにANA/JALが動くかどうか疑わしく思っている。 今まで当所報告でANAもJALも小型機事業の底上げを図っており、JALがHACを存続させる意図を持っているとは考えにくいし、ANAもORCとの関係を現在のコードシェアより進めるつもりがあるとは思えない。 JALとAMXの関係も同じである。 要するにANA/JALは現在の関係で何の問題もないので、わざわざANAがORCの経営責任を持つ必要はないし、JALもAMXを抱え込むより熊本県等の地方自治体で支援されているAMXとの提携で良いと考えているに違いないと推測する。 研究会の目論見は、HAC、ORC及びAMXの経営責任を、地方自治体からANA/JALに肩代わりさせようとしていると見られるが、これは2000年に行われた航空の自由化の動きに逆行するものである。 ANA/JALが進めようとしている小型機事業はAKXとJ-AIRのリージョナル・ジェット化促進であり、30/50席級機の世界の拡張であるはずがない。 そのような小型機による地域航空はあくまでも地元のニーズと主導で進めるべきで、国が主導するものではないと思う。 仮にANA/JALがこれら地域航空会社は引き取るが、その運用はグループの営業戦略に一任してくれと言い出したら、どうするのだろうか。 そうなった方がよほど地域航空の持続的発展の障害になるに違いないと確信する。 国もそれほど地域交通が重要だと考えるなら、航空以上に地域に密着している鉄道の維持になぜ乗り出さないのか不思議に思う。 国が地域航空の維持が大事だと思うならもっと財政支援をすれば良いので、例えば現在離島航路だけが対象になっている航空機購入や運航費の補助も地域航空全区間に適用すれば良いのである。 また過去に提案しているが、大手航空会社から一定の金額を拠出せしめて地域航空支援の基金でも作れば良いのである。 航空運送業界の意見を聞きたいものである。 一方で当所は、地域航空は将来にも現在のような単純な輸送手段提供だけに特化していて良いのかと言う疑問を持っている。 そのような動きには前例がある。 かつて国際間移動は船舶輸送であり、大型客船が定期航路を運行していた。 しかし、航空輸送の台頭で船舶による定期旅客輸送は壊滅したが、今やクルーズ事業に転換してかってないほどの活況を呈している。 我が国の鉄道を見ても、「ななつぼし」や「四季島」などの豪華観光列車に活路を見出そうとしている。 航空運送事業は極めてスケールメリットに敏感な業種であるので、現在のような単純輸送手段の提供に固執していると、事業が先細りになってより割高なコストになるのは避けられないと思う。 その対策としてFDAとIBXは大部分の運航を大手の航空会社とコードシェアとしているが、さらにFDAは、夏季を中心にチャーター便を盛んに運行している。 2017年7月現在11機で33便/日を運航しているが、これだけでは稼動が低すぎるので、当所はFDAが0.5〜0.7機分くらいをチャーター便に充当していると推測する。 HACも2015年4月に「HACチャーター乗りまくり」と言うツァーを催行したことがあるが、あのような企画を定期便の余裕機材使用ではなく、専用機を用意して固定した事業分野とすることも一考に値するのではないかと思う。 例えば搭乗客数を窓際席だけに限定した北海道の空の「ななつぼし」として、地域とタイアップして北海道観光振興活動の一翼を担うことは考えられないだろうか。 今や新たな事業戦略が必要と考えるのである。

16.総括

本報告で北海道内の航空サービスの維持についての懸念を表明した。 しかしそれは当所が懸念しているだけで、実際に発生しないこともありうる。 そしてこの報告が単なる狼少年的警告には絶対ならないとは言えない。 しかし、かつて航空機の大型化の進行により、今や800m滑走路で定期路線が開設されている空港は、新中央航空が19席のDornier 228で運航している伊豆諸島路線にしかない。 この次に来るのは地域航空のジェット化である。 ANA/JALグループのターボプロップ機で運航している路線でリージョナル・ジェット機に転換される路線が増加する見込みがあり、その時現在の路線が全て継続することが保証されている訳ではないことを思い起こす必要があると思う。 北海道内路線の将来はまさにこれに当たる。 その時に地域はどう対応するのか、今から考えておく必要があると考えるのである。

以上