3−D HACのJALグループ化の意味するもの

                                     2015.05.05

HACのJALグループ化の意味するもの


1.報告の目的

 今年の4月に(HAC JALグループ化記念「HACチャーター乗りまくり2日間」)と言うツァーに参加した。

北海道エアシステム(HAC)は、周知のように主として北海道内を運航している日本航空(JAL)と北海道内地方自治体との合弁会社である。 ただ経緯を辿るとHACは元々日本エアシステム(JAS)と北海道の合弁会社であったのが、JASがJALに吸収されたので自動的にJALの子会社となったものである。

 それ以来HACがJALグループの正式な一員とされたのかどうかはともかくとして、JALグループと密接な関係にあったのは事実である。 昨年の10月からHACは正式にJALグループ入りとなったそうだが、今それを改めて宣言する意図はなんであろうか。 本報告はそれを推測し、もってHACの将来を予測しようとするものである。

2.HACの地位

 それではHACのJALグループ内に置ける地位はどんなものなのだろうか。 JALの国内線時刻表の「時刻表の見方」のページに、所属航空会社とその使用航空機の表が掲載されている。 ところが今年の6月号の時刻表に記載されているのは第1表の5社であって、そこにはHACはない。 実は時刻表にない会社がもう一社あって、それはJALエクスプレス(JEX)である。 但し、JEXはJALのから運航受託しており、機材にはJapan Expressと社名が書かれているが、時刻表ではJAL自身の機材との区別はされていない。

JALグループの使用航空機

JALグループ

ANAグループ(参考)

所属航空会社

役割分担

所属航空会社

役割分担

日本航空(JAL)

国際線、国内線

全日本空輸(ANA)

国際線、国内線

ジェイエア(J-AIR)

国内長距離低需要路線

ANAウイングス(AKX)

低需要短距離国内線

日本トランスオーシャン航空(JTA)

沖縄関連路線

エアージャパン(AJX)

ANAの委託運航

日本エアコミューター(JAC)

西日本地域の小型路線

琉球エアコミューター(RAC)

沖縄諸島内路線

第 1 表

JALの時刻表には当然のこととしてHACの運航便も掲載されており、丘珠発の路線は明らかにHACが運航しているのであるが、今年の6月版時刻表の運航会社別機種説明のページにはどこにも北海道エアシステムの名前もHACの略号の字は見当たらない。 しかし運航便を掲載したページにはHACの運航便であることが説明されている。 またグループ会社ではないが、コードシェアをしているフジドリームエアラインズ(FDA)と天草エアライン(AMX)については運航便の記載ページに、そう説明がついている。 そうして見ると単に表記上のことかも知れないが、HACはグループ会社扱いではなく提携航空会社扱いになっている。

 そう言う取り扱いとJALグループ入りを宣言することとの整合性とはどんなことなのであろうか。 それはHACの将来に係ってくるのか、単に表記上のことだけなのか、それがこの報告を検討する理由である。  

 昨年の10月にHACがJALグループ入りする時に、報道によれば北海道は利尻島や奥尻島の離島路線の維持の保証を求め、JALは了承したようである。 また最近の4月23日付けの日本経済新聞電子版の記事に「HACの桑野社長が運休中の路線-函館〜釧路、函館〜旭川及び丘珠〜女満別線を再開する方針を示した」とある。 この内容は地元としては歓迎すべきことと思うが、一方での現在のHACのプレゼンスの希薄さからは「本当なのかいな」と言う気持ちがぬぐい去れないのである。

 現在のHACのJALグループ内に占める比重を調査すると第1図のようになり、HACのシェアはなきに等しいくらいである。 これではHACの存在が希薄であっても仕方が無いようにも思える。

第 1 図

 これを旅客収入で見たらどうなるのかを示したのが第2図である。

第 2 図

 旅客数にせよ旅客収入にせよHACのグループ内での貢献度はきわめて小さい。 またこれを各社のシェアでは無く実数で表すと次の図のようになる。 JALグループに於いてはJAL本体の存在はきわめて大きく、子会社は補完的役割しか演じていないことが明白に読み取れる。

第 3 図

第 4 図

 これらの図からJALグループが2008年度から2010年度にかけて、その収益力を大きく落としていることが見て取れる。 そして次図に示すようにJAL本体の企業力は大きく減退している。 

第 5 図

第 6 図

 そしてANAとの格差は広がるばかりで、そこにJALの焦りもあると思うのである。 それでJALグループ全体での対抗策に乗り出したと見るのである。 ANAは統計的にはANA一社でしか現れてこないので、それとJALグループと比較すると第7図のようであり、むしろJALグループがわずかに優位に立っている。

第 7 図

第 8 図

 しかし、ここに別のからくりがある。 それはコードシェアの存在である。 ANAは第2表に示すように5社とコードシェアを行っている。 統計上はANAが販売した分も運航航空会社に計上されているので、それを加えれば実際のANAの販売分は多分JALグループと同等か、或は上回っているかも知れない。 

 ANAは5月5日の朝日新聞朝刊の記事にANAの上席執行役員が「エアドゥなども独立した航空会社だ」と強調していると報道しているが、実態はANAのコントロール下にあるとしか見えない。 JALグループはAMXとFDAとコードシェアしているが、両社の輸送力は小さいので態勢を変えるまでには成るまい。

JAL/ANAの国内線事業の概要

JALグループ

ANAグループ

グループ内会社

JAL,J-AIR,JTA,JAC,RAC,HAC

ANA.AKX,AJX

グループ外コードシェア会社

天草エアライン(AMX)、フジドリームエアラインズ(FDA)

エアドゥ(ADO)、IBEX(IBX)、ソラシドエア(SNA)、スターフライヤー(SFJ)、オリエンタルエアブリッジ(ORC)

運航空港数

52空港

59空港

第 2 表

 一見して、JALグループは基本的に子会社によってグループ路線を運航しているが、ANAはグループ外会社とのコードシェアを多用して運航路線と便数を増やしている。 我が国で定期便の就航している空港数は76空港であるから、両グループとも凡そ7割前後の空港に運航していることになる。 JALグループの方が多いのは鹿児島以南の薩南諸島、奄美諸島及び沖縄県の先島諸島関連の路線が多い為で、内地路線は大差がない。 しかし北海道内路線を見ると、ANAグループの6路線に対してJAL本体は1路線しかない。 

 それで、HAC便4路線を、そのうちの函館〜奥尻線は社会的認知度にかけるところがあるにしても4路線を追加すれば、JALグループの路線数は5路線に成り、路線数ではANAグループに迫ることになる。 

3.HACの存在理由

 それではJALグループ内に於けるHACの存在理由はなんであろうか。 その回答はネットワーク戦略にあると見るのである。 この見方は実はANAの北海道内路線の検討から得た結果である。 ANAは北海道内に6路線を運航している。 しかしその使用機材はDHC-8-Q400(74席)は路線の需要規模に対して大き過ぎてずっと年間座席利用率は50%程度に留まっている。 常識的に言えば採算が取れているとは考えられないので、以前、当所はANAが早晩に道内路線から撤退すると予想していた。 

 しかるにANAは依然としてこれらの路線を維持している。 それで路線の維持には採算性以外の理由があるのではないかと考えるようになった。 それで考えついたのが、ネットワークの充実と維持が目的ではないかと言うことである。 ANAが全国的にそのプレゼンスを示すことは、いくつかの路線の赤字よりも無形ではあるが大きな利益をもたらすと見ているのではないかと推測する。 そう見るとANAがこれらの採算性の良くない地方路線を維持し、他社とのコードシェアを手広くやっていることの説明がつく。

 それでJALも同じ戦略を取ろうとしているのではないかと推測する。 HACの輸送力は小さいが、仮にHACがないとしたらJALグループは道内に新千歳〜女満別線しか路線を持っていないことになる。  

 それでは到底ANAに対抗出来ない。 HACをJALネットワークにあることで、JALグループは北は女満別から南は与那国島に至るまさに全国ネットを持つことになる。 それはANAグループの稚内から石垣島にわたる全国ネットに完全に対抗できるものであろう。 

4.HACの将来計画

 HACのJALグループ入りで北海道内市場での競争力を強化しようとするのは当然と見るが、現状のHACを加えただけではJALグループがANAグループに対抗出来る競争力を持つようになるとは到底思えない。 

 それでANAグループに対抗できる勢力を北海道内に構築しようとするにはHACの強化が必要であると考えるが、まだJALはこれからHACをどのような使い方をするのかを公表しておらず、最近のJALの動きもそうはなっていない。 その理由は今年の3月26日にJACの保有していたSaab340B、JA8887をオーストラリアへ売却したことが判ったからである。 HACを強化しようとし、そしてJACのSaab340Bに余剰機材がでるとしたら、その機材をHACに移管するのが最も手っ取り早い処理の仕方である。 

 この一件で見る限り、JALはHACを強化する計画は持っていないとしか考えられない。 その一方でグループ入りを宣伝する意図は何か、理解に苦しむところである。

5.HACの将来構想の提案

 JALグループはまだHACの将来計画を持っていないようなので、ここで当所としてのアイデアを提案したい。 当所はHACの経営不振は北海道内の基本的な経済力の低さ及び札幌経済圏とその他の中都市経済圏の格差に起因すると見ており、札幌市以外の函館、釧路、北見、稚内等の都市の経済活動が盛んにならなければ、道内交通の更なる繁忙は期待できないと考える。 そしてHACの苦境の原因の最たるものはその小さな事業規模による非効率にあると見るのである。 HACがJALグループ入りしても、北海道は第2位の株主として残っているので、第三セクター会社としての性格は残る。 それでHACの今後の進路は、第三セクターに期待される役割を果たしつつ、JALグループのネットワーク強化に貢献出来る道を模索することと思う。 ANAの道内路線の輸送実績を見れば、その量は現在のHACの輸送能力を遥かに超えているので、ANAに対抗出来る市場競争力を持てたならば、そして市場需要の配分を変えられれば、まだ発展出来る余地は十分にある。  そしてHACが生き残り、JALグループの業績にも貢献出来る方策として、次のようにするのが適当と考える。

1.      HACの道内路線網をANAに対抗出来るよう、丘珠〜根室中標津線及び丘珠〜稚内線を開設する 

2.      丘珠〜女満別線、函館〜旭川線及び函館〜釧路線を再開する

3.      必要機材はJACの退役するSaab340Bをもって充当し、小型機による運航頻度の増加により市場競争力を向上させる

4.      事業拡大の為にJALから北海道〜東北地方空港路線の移管を受けて運航する

5.      長期的には丘珠〜紋別線の再開、丘珠〜奥尻線や帯広関連路線の開発も研究する

 このような施策を提案する背景には、第一に道内路線に於いてANAに対抗するサービスを提供して市場競争力を強化し、更に事業規模を拡大する狙いがある。 そして東北地方路線の移管を提案するもう一つの理由は、JALが新千歳〜女満別線と新千歳〜青森、〜秋田、〜花巻などの路線にJ-AIRのリージョナルジェットを投入していることにある。 これらの路線は全て500km未満の区間距離であり、リージョナルジェットの運航は非効率である。 旅客需要も概ね10万人未満であり、74席のE170では一日2便しか運航するに足る需要規模でしかない上、既に新千歳〜青森及び〜秋田線はANAとのダブルトラックに成っている。 

 今後もそのような事業環境が拡大されて行けば、座席利用率の低下による採算性の悪化は避けられない。 

 現在はまだ50席のCRJ200も運用されているが退役の方向で、順次E170に交替して行くと見られる。 

 さらに今年3月にE190(104席)を35機も発注しており、道内路線や北海道〜東北地方路線にこの機材を投入すれば、需要の増加が殆ど期待出来ないので条件は更に悪くなると予想される。 それでこれらの路線はHACのSaab340Bに運航させる方が適当であると考える。 この案によりHACは、JALグループの東北地方以北の地方路線を一手に運航することでHAC自身の体制強化に成り、JALグループにとっても小需要短距離路線の運航コストを下げて採算性を改善出来る。 顧客からはジェット機からの格下げの不平も出てこようが、それは運航頻度の増加、運賃値下げなどのサービス向上で対処すれば良い。 

 帯広関連路線の開発を特に取り上げたのは、つぎのような理由によるものである。 帯広は札幌に近すぎる為に航空路線としては成立しにくく、以前に帯広〜函館線を運航した会社があったが、短期間で撤退してしまった。 道内航空として帯広は位置関係が良くないが、道内の空港への公平なサービスとして、例えば帯広〜仙台線のような路線も研究課題になりそうである。

 なお、丘珠中心の路線で良いのか、新千歳空港に移動すれば本土路線との接続もしやすいと言う意見もでそうであるが、当所は当面は丘珠のままで良いと思う。 なぜならば本土からの入り込み客は東京や大阪から道内空港に直接乗り入れ便があるので、新千歳で道内路線に乗り換える必要度が低いことがある。 

 例外は東北地方の各県の空港、新潟空港及び松本空港からはその便がないが、東北6県の空港路線を新千歳利用から丘珠利用に代えることによって道内空港への接続ができるようになるので、HACの丘珠ネットワークにより不便をかこつ利用客は少なく保つことができる。 むしろそうすることによって新千歳空港の混雑の緩和にもなり、札幌市北部の開発にも寄与すると考えられる。  問題は丘珠空港の発着数制限にあるが、Saab340Bは小型機であってその騒音被害も少ないので、ここは札幌市に骨を折って頂いて、必要な発着回数を可能にしたいと思う。

6.総括

 HACはJALグループの一員としての役割を果たさなければ成らないが、第三セクター会社としての側面もあるので、地域の期待に応えつつも北日本の地方路線でANAグループと対抗して行かなければならないと考える。 それにはHACの事業遂行体制の強化が必要である。 事業体制の拡張は勿論であるが、質的にも会社運営が自立できるよう改善する必要がある。 例えば現在、航空機整備はJACからの派遣職員に依存しているが、これなどは言語同断である。 航空機の重整備ならともかく運航整備まで外部委託しているのは、会社の自立運営を始めから放棄しているに等しい。 まず名実ともに自立運営することを図るべきである。 この報告でも前述したように、JACはSaab340Bの退役を開始した。 そのペースは判らないがJACがSaab340Bの運航支援体制を縮小して行くことも予期しなければならない。 JACはその路線から見て、Saab340Bを退役させてもDHC-8-Q400(74席)だけで会社経営が出来ると見ているが、HACはそうではない。 少なくとも当分の間Saab340Bを主力に運航して行く以外道はないと考える。 そしてそれには自社で運航支援出来る体制を整備するのが第一であることを理解すべきである。  

 JALグループ入りしたからと言って、HACは北海道民と無縁になった訳ではない。 第2位とは言え北海道はHACの主要株主であり、過去に多額の税金がHACにつぎ込まれて来たことも忘れてはならない。 

 それ故にHACがJALグループ入りしても、それは道民に対するサービスを減らして良いと言う理由にはならない。 HAC自身の自覚と努力を期待するが、道民としてもしっかりと監視して行く必要があると考えるのである。

以上