立花暉夫先生講演(2)
 一般に8割の方は胸の写真でサルコイドーシスが見つかりますが、目だけの方や皮膚だけの方 もおられます。皮膚の場合は、目でみるだけでは駄目で、やはり組織をとって顕微鏡でサルコイドーシス の変化をみなければ正確な診断をつけることが出来ません。皮膚だけだと思って安心しているという わけにはまいりません。60歳位の男性の方でしたが、最初は皮膚だけでしたが、後に心臓に病変が あることがわかったという場合もあります。ですから、目だけだとか皮膚だけだと安心せずに全身の 検査を受ける必要があると思います。

 次に脳の話に移ります。脳、脊髄の病変です。脳の場合には、尿ほう症といいまして、 1日に尿が何リットルも出てたくさん水を飲まないといけないという方がおられます。大阪でも 1000人中4人位の方がおられます。尿ほう症は若い方に比較的多くみられます。それから、 激しく頭痛を訴えられて、最初は脳腫瘍を疑ったのですが、結局サルコイドーシスであったという 例もあります。しかし、頭痛というのは、ありふれた症状ですからサルコイドーシスの患者さんが 頭痛がするからといってすぐに脳の病気を考える必要はありません。それから脊髄の病気で脊髄腫瘍を 疑われて手術をし、組織検査をしてみるとサルコイドーシスであったという例もあります。脊髄腫瘍を 疑われた場合は、症状としては、上下肢の運動障害があるというケースがあります。それから神経の 障害の場合には、顔面神経麻痺が一番ありふれています。ところが顔面神経麻痺はいろんな原因で 起こりますので、顔面神経麻痺があるからといって必ずしもサルコイドーシスということは考えら れません。サルコイドーシスによる顔面神経麻痺には特徴があります。熱が出て、葡萄膜炎によって 目がかすんで、唾液を出す耳下腺が腫れ、おたふく風邪のようになって、口がゆがんで顔面神経麻痺 になるケースがあります。これはサルコイドーシスに特徴的な症状ですが、頻度は少なくまれです。 神経の症状はいろいろありますが顔面神経麻痺が最も多く発生します。

 次に心臓の話をします。心電図で房室ブロックといいまして、心臓には心房と心室があり、 心房から心室へと刺激が伝わるのですが、その心房と心室の間の刺激が伝わりにくくなることが あります。このV度の房室ブロックという状態になりますとめまい発作が起こります。 それと、脚ブロックという心電図の異常がありまして、完全と不完全という2種類がありますが、 これがV度の房室ブロックに移行することがあります。脚ブロックがあってそのまま10年も20年 も変わらない方もあります。中には、房室ブロックに移行して、脳に血液が送りにくくなって、 めまい発作が起こる場合があり、そうなりますとペースメーカーを埋め込む必要があります。 心室が激しく動いて、心室頻拍と言いますが、脈が早くなって、心不全になりむくみが出てくると いう症状が出る場合もあります。これらは、発生する頻度は少ないケースですが、心臓は非常に 重要な器官ですので、注意する必要があります。年間20人から30人位の方が心臓の病変で 命をなくされています。しかもその半分位の方はサルコイドーシスであるという診断がつかない まま亡くなっておられます。ですから、サルコイドーシスの患者さんは年間2回くらいは必ず 心電図とって経過を調べておく必要があると思います。心臓の変化で注意しなければならないのは 60歳以上の女性の方です。年間20人から30人の方が心臓の病変で命を亡くされると言いました が、そのほとんどは60歳以上の女性の方なのです。しかしながら若い方にもおられます。現在、 私が一番関心を持っているのは、心臓の変化をいかに早く見つけて、不幸なことにならずに済む ようにするために、どのようにすればよいかという事です。

 次はリンパ腺の話をします。胸の写真をとると肺門リンパ節が腫れている場合が多いのですが、 ほかのリンパ腺はどうかといいますと、サルコイドーシスの患者さんの場合は、肺以外のリンパ腺が 腫れるというケースは少ないのです。首のリンパ腺や足の付け根のリンパ腺、肘のリンパ腺が腫れる 場合がありますが、これらの組織をとって顕微鏡で調べるとサルコイドーシスによる変化であると いう事が解る場合があります。

 次におなかの事に話題を移します。まず肝臓の問題ですが、肝臓の異常は血液をとって 調べれば肝臓の働きが悪い事が解ります。黄疸が出ますと解りやすいのですが、黄疸が出ることは まれです。血液検査をして肝臓の働きが悪いことが解ると、次に腹鏡検査をします。 おへその上を少し切ってカメラを入れ肝臓の表面を観察します。肝臓の働きが正常な8割の方が 肝臓の表面にミリサイズの変化が数個から数多くみつかります。その組織を少し取って調べると サルコイドーシスが見つかります。1960年代に肝臓の働きが悪い患者さんを腹鏡検査しますと、 非常に派手な異常が見つかったので、患者さん全てに入院してもらって検査すると、肝機能が正常な 患者さんでも8割の方に変化が見つかりました。これは、もう全ての患者の持つ変化だと考えても よいと思います。別におなかをさわっても肝臓が腫れているというわけではありません。他の変化が 治っていくと同時に肝臓の変化も治っていくので、さほど心配することはないと思います。最近は 超音波の検査が出来るようになり、肝臓を超音波で調べるとサルコイドーシスの病的な変化が かたまりになって見つかるという方が出てきました。CTで調べても確かに変化が見られるのですが、 サルコイドーシスを治療するとさっとその変化が消えてしまうので、肝臓の変化は悪性のものでは ないということがわかります。

 次に脾臓の話です。脾臓は体の左側にありますが、超音波で調べると肝臓と同じように 腫れている場合、あるいは脾臓に病的な変化が見つかる場合があります。しかしこれも治療すると なくなります。

 次に腎臓の話です。腎臓の場合は非常にまれですが、腎臓にサルコイドーシスの変化が あってむくみが出来たり、腎不全という状態になって透析を受けておられる方も何人かおられます。

 次に胃腸です。胃の場合は、吐血して、胃潰瘍や胃ガンを疑われて、手術をすると、 サルコイドーシスであることがわかったという方がおられます。しかし、最近は胃カメラで胃の組織を 少し採って、生検をすることが出来るようになりましたので、それでサルコイドーシスが見つかるように なりました。東京地区で、腸のサルコイドーシスで手術を受けられた方が2人ぐらいおられます。

 次に骨、筋肉の話です。骨の場合には、リウマチの患者さんのように指の形に変形をきたす という場合があります。筋肉の場合は、かたまりをつくる場合があります。近畿地区の方で足の ふくらはぎにこぶし大のかたまりが両方に出来まして、手術をしてはじめてサルコイドーシスであることが わかったということがあります。こぶし大のかたまりとなりますと、手術しても運動障害が残る場合があります。 小さい筋肉のかたまりだと、手術してそのかたまりを取って経過が良好な方もおられます。 これはかたまりを作るタイプですが、そうではなく足の動きが悪く、筋力低下という形で出る場合があります。 これは筋肉の炎症を起こす筋炎という病気です。

 それから、関節です。関節はまれですが、千葉県の子供さんだったと思いますが、 両側の肺門リンパ節が腫れまして、両手首が腫れ、その組織を少し採って調べますとサルコイドーシスが わかったという方がおられます。


前のページへ ホームページへ 次のページへ