立花暉夫先生講演(1)
 大阪府立病院内科と立花と申します。サルコイドーシスという病気は、 昭和30年頃に、東京大学と大阪大学の内科で10人位の患者に、肺門リンパ節が 腫れるという妙な病気があるということに気がつきまして、それが日本の内科的な歴史の始まりです。 以前は北に多く南に少ないというのが常識でした。ところが、人口を調べてみますと、東京都の次に 大阪府が多く、約800万人ぐらいです。実態調査によると、サルコイドーシスの患者さんは、 人口10万人あたり数人という頻度です。北海道に比べて大阪は面積は狭いが人口は多く、それだけ 患者の数も多いわけです。北に多く南に少ないという考えは、取り消さなければならないと最近考えて おります。大阪には奄美や沖縄出身の方がたくさんおられまして、私も何人かの方を診させてもらって います。

 さて、最初に全般的な事、次に検査の事、サルコイドーシスがどのような 経過をたどっていくかという事、治療に関する事、それと生活が不自由な方は どういうことで生活が不自由なのかという事、サルコイドーシスの合併症の話をさせていただきます。 まず全般的な事ですが、サルコイドーシスの患者さんは20歳代の方が一番多いのです。 20歳代は男女だいたい同数です。20歳代の方は、集団検診で発見されて、自覚症状が ない方が多いです。それに反して、40歳代以上の方は自覚症状があって発見される場合が多く、 女性の方が男性の方よりも多くおられます。男性は20歳代が最も多く、女性の場合は 20歳代の次に40歳代の方が多いようです。サルコイドーシスは全身病ですので、 たまたま集団検診で胸の写真に異常があるという事で発見された場合でも、いろいろな症状や 病的な変化が全身にあります。

 何の病気でもそうですが、サルコイドーシスの場合も全身症状と局所症状という 2つに分けられます。例えば、胃の病気でしたら、胃に関する症状は局所症状ですが、 発熱とか体がだるいとか体重減少とかいうものが全身症状としてあるわけです。 サルコイドーシスの場合は、胸の写真で肺門リンパ節が腫れている場合に、40歳以上の方ですと 体がだるくて、体重が減っているという方がおられますので、最初に診察した医師が サルコイドーシスを考えないで何か別の悪性の病気ではないかと考えることがあったりします。ですから、 40歳以上の方は体がだるいとか体重減少とかいう全身症状がある方が多いわけです。 ただ発熱はめったにみられません。発熱がある場合は、むしろ他の病気を考える必要が あるのではないかと思います。

 次に胸、目、皮膚、脳、心臓といった局所の症状について述べたいと思います。まず サルコイドーシスで一番頻度が高いのは胸の異常です。肺門リンパ節が腫れているとか肺に陰 があるという方が約8割ぐらいおられます。しかし、両側の肺門リンパ節が腫れている場合は、 まずサルコイドーシスであることを疑いますが、全てがそうであるとは言えません。腎臓ガンが 胸に転移しますと両側の肺門リンパ節が腫れます。ですから、両側の肺門リンパ節が腫れている からといってすぐにサルコイドーシスと考えるわけにはまいりません。やはりいろいろな検査を する必要があります。若いかたの場合ですと白血病で肺門リンパ節が腫れる場合もあります。 結核の場合も、肺門リンパ節が腫れて肺門リンパ節結核というものがあります。ただ結核の場合は ツベルクリン反応をみると強陽性が出ますので、区別がつきます。サルコイドーシスの場合、 肺門リンパ節は多くの場合は両側が同時に腫れますが、まれに片側だけが腫れて、後に両側が 腫れることもあります。肺門リンパ節が腫れて上の方の肺に陰があるという場合は、結核を疑う ことが多いですが、サルコイドーシスにもみられる場合があります。それから全部の肺が真っ白 になることもあります。しかし、このような場合でも自覚症状が全然ない場合もあります。時には、 息切れや階段の登り下りの時に息苦しいといったこともあります。まれに水がたまる場合もあります。 それは、大阪を中心に千人近い方の中で3人ぐらいという割合です。気胸といいまして肺がしぼんで しまうということもまれにあります。これも千人に3人ほどの割合です。

 次に眼の病変についてですが、これはサルコイドーシスの患者さんの中で全体の約3割の方が おられます。主に視力障害とか眼がかすむということです。眼球の前の方、これを前眼部といいますが、 これに病変がありますと葡萄膜炎という病名になります。虹彩炎と言われる場合もありますが、 一般には葡萄膜炎と呼んでいます。それと網膜に病変が及んでいる場合もあります。葡萄膜炎の場合 には前眼部の病変だけなのか、網膜にも病変が及んでいるのかに注意する必要があります。40歳以上 の場合は5割の方に眼の病変があります。

 次に皮膚の変化について申し上げます。全体の1割の方が皮膚に変化が出ます。 どういうところに出るかと申しますと額にコイン大のものが出来たり、顎に赤い斑点が出たりする ような顔面に皮膚病変が出る場合があります。それから、上下肢、手や足に赤い斑点が出る場合があり ます。胸とか背中、おなか、おしりに赤い斑点が出る場合があります。それと診察の際には必ず膝を 診るようにしています。膝のところに転んだりした時に出来る、擦りむけた跡のような形で赤い斑点 が出る場合があります。膝の関節より少し下のところに赤い斑点が出来て、少ししこりがあって若干 痛むという場合もあります。それから、赤い斑点ではなく、小さいしこりが手や足、おしりなどに 出来る場合もあります。これを皮下結節と言い、赤い斑点を紅斑と言います。まれに、指がしもやけ のようになる場合もあります。皮膚病変は40歳以上の場合は3割の方にみられます。

 小児の方にはサルコイドーシスは、非常に少ないですが、私の診察した例では、小学校6年 生の男子の患者に眼底出血があったという重症例があります。しかし皮膚病変については、小児の方 にはあまりみられません。


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