△ 「宇宙海賊とヒミツの星」シーン13


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照明が上手明かりに。スライスが椅子に座り、周りにフェンネル、ジャスミン、アーモンド、僧侶二人、
メイ、ジルバーンがいる。

スライス 「ああ、愛するあの人にさえ会えれば…」写真
フェンネル 「さっそくマルティネスさんに。」
マルティネス 「わかった。」

マルティネス、スライスに近づく。

アーモンド 「これでこの前世の人が誰だかわかるんだね。」
フェンネル 「マルティネスさんの前世が信用置ける人だといいけど。」
マルティネス 「それじゃ失礼して…」

マルティネスが触れようとすると、スライスは悲鳴を上げて退く。

スライス 「うわああああ!!熊だ!!熊がいるぞ!」
アーモンド 「熊?!」
コメッツ 「お師匠様の前世って熊だったのですか?!」
スライス 「しかもなんだこの熊?!白黒じゃないか!」
コメッツ 「白黒?」
アーモンド 「それってパンダじゃない?!」
マルティネス 「自分の前世は見えなかったが、まさかパンダだとは…」

コメッツが前に出てスライスに

コメッツ 「落ち着いて下さい。パンダはおとなしい熊なんですよ。」
スライス 「だれだ?…声は聞こえるがどこにいるんだ?」
コメッツ 「え?ここですけど…」
メイ 「見えてないみたいです。」
コメッツ 「見えていない?お師匠様、僕の前世って?」
マルティネス 「ビフィズス菌だ。」
コメッツ 「ビ…!」

コメッツ、ひざまずく。

アーモンド 「ビフィズス菌…」
ジャスミン 「それは見えないわね。」
マルティネス 「何を落ち込んでおる。」
コメッツ 「だって、菌って…菌って…」

マルティ、コメッツの肩を優しく叩く。

マルティネス 「菌から人間に転生だぞ。きっと宇宙一素晴らしいビフィズス菌だったに違いない。」
コメッツ 「お師匠様…全然嬉しくありません…」
フェンネル 「せめて少しの間でも元のスライスに戻ってくれたら…」
マルティネス 「それなら自由に触れられるがな。」
メイ 「いつ戻るかさっぱりわかりません。戻ってもすぐにまたこの人格に…」
ジルバーン 「こうなったら押さえつけて強制的に…」
マルティネス 「だめだ。精神が落ち着いていなければ見る事はできん。」
フェンネル 「私の治療と同じね。」
ジャスミン 「今わかったのは。イギリス北部の訛りがある事。パンダを知らないって事は20世紀前半以前の人間って事。」
メイ 「凄い!もうそこまで?」
ジャスミン 「個人の特定には程遠いわ。何か他に情報はないかしら?」
メイ 「う〜ん…」

海賊たち(ティモシー、バーディー、ハルバール、ピヨ、ロジャー)が帰って来る。

ティモシー 「いや危なかったです。」写真
ジルバーン 「どうだった?」
ティモシー 「やはり全員の服に発信機がついていました。」

ティモシー、ジルバーンにコートを返す。

バーディー 「あの短時間に全員に付けるとは、かなりの凄腕だな。」
ジャスミン 「しかも私にまで。」
ティモシー 「とりあえず、奴らが追いつく前に処理できて良かった。」
ジルバーン 「追ってくるのは間違いない。ティモシー、迎撃と惑星ワープの準備を頼む。」
ティモシー 「アイアイサー。」

ティモシー、モバイルを操作。

アーモンド 「え?そんな凄い事、手元で操作できちゃうの?」
ティモシー 「ええ。」
メイ 「そこまでできるのはティモシーさんだけですけど。」
ティモシー 「迎撃準備完了。」
アーモンド 「早っ!!」
ティモシー 「惑星ワープも30分後にはスタンバイできそうです。」
ジルバーン 「了解。」
ピヨ 「それよりキャプテンはどう?」
ジルバーン 「中々うまくいかないが、ジャスミンさんの腕は確かだ。」
メイ 「みんな、この人格の人の情報を何か知らない?」
ジャスミン 「些細な事でもいいわ。好きな物とか嫌いな物とか。」
ロジャー 「そういえば、クラシック音楽をよく聴いてたりしてますよね…」
メイ 「聴きながら大声を上げて泣いた事もありました。」
バーディー 「そうそう。あんときゃなだめるのに苦労したよな。」
ジャスミン 「その時の曲ってわかるかしら?」
メイ 「えっと、多分。」

メイ、モバイルで調べる。

ジルバーン 「確か歌もあったな?」
メイ 「ええ。あ、これだと思います。」

メイ、みんなにモバイルを見せる。

アーモンド 「アニー…ローリー?」
ジャスミン 「有名なスコットランド民謡だわ。」
フェンネル 「スコットランドって事は…」
ジャスミン 「やはりイギリス北部の人間ね。」
ハルバール 「スコットランド…」

ハルバール、何か思いつきそっとハケる。

アーモンド 「それってどんな曲?」
ジャスミン 「出せる?」
メイ 「はい。」

メイがモバイルを操作すると「アニー・ローリー」の曲がかかる。

アーモンド 「あ、聞いた事ある!」

歌が始まるとスライスが泣き始める。

スライス 「ぶあああああ〜!」
メイ 「いけない、まただ!」
ジルバーン 「止めて!」

メイ、曲を止めてスライスの元へ。

メイ 「ごめんなさい。大丈夫ですよ。落ちついて下さい。」
フェンネル 「なるほどこうなるわけね…」
ジャスミン 「メイさん、この歌の歌詞って出せる?」
メイ 「え、あ、はい。」

メイ、モバイルを操作。

アーモンド 「歌詞がどうしたの?」写真
ジャスミン 「今、彼が反応したのは歌が始まってからだった。だから歌詞の方にヒントがあるかも。」
メイ 「これです。」
ジャスミン 「ありがとう。(歌詞を読み出す)『マクスウェルトンの丘は美しく、朝露に濡れるあの丘で…』」

スライス、また泣き出す。

スライス 「ぶあああああ〜!」
メイ 「あああ!落ち着いて下さ〜い。」
アーモンド 「これって…」
ジャスミン 「間違いない。歌詞の方ね。」
アーモンド 「この続きを読んでショック療法で思い出してもらうのはダメ?」
フェンネル 「精神的に危険すぎるわ。」
マルティネス 「なんとか気を引かせて、私が後ろからそっと触れるというのはいかがかな?」
フェンネル 「信用のおける人間と会話してもらうとか?」
ジャスミン 「この中で彼に信用されてるのは?」
ロジャー 「そうですね…メイとハルバールが比較的。」
バーディー 「確かに…あれ?ハルバールは?」
ティモシー 「あ、さっき出ってたけど。」
バーディー 「なんだよ肝心な時に。」

ハルバール、皿を持って戻って来る。

ハルバール 「皆さんすみませ〜ん!」
バーディー 「戻って来た。」
ハルバール 「あの、もし良かったらなんですが、彼にこれを。」
ジルバーン 「なんだそれ?」
ハルバール 「ハギスというスコットランドの伝統料理です。」
アーモンド 「いいにお〜い。」
ハルバール 「彼がスコットランド出身と聞いたので、これを食べれば何か思い出すかもと…」
ジャスミン 「気を引くにはもってこいかも。それやってみましょう。」
フェンネル 「メイさんは話しかけて。」
メイ 「はい。」
フェンネル 「ハルバールさんは料理を。」
ハルバール 「はい。」
フェンネル 「マルさんはそ〜っと後ろから。」
マルティネス 「了解。」

メイ、ハルバール、スライスの横に座る。

メイ 「あの、そろそろお腹減って来たんじゃありません?」
スライス 「え?お腹?…そう言えば…」写真
ハルバール 「お口に合うかわかりませんが、これ、いかがです?」
スライス 「ん?…この匂いは…」

スライス、ゆっくりと一口食べる。全員固唾を飲んで見守る。

スライス 「美味い!!」
みんな 「おお!!」
スライス 「美味いだけじゃない。これは私の好物だ!なんという料理なんだ?」
ハルバール 「ハギスです。」
スライス 「ハギス!思い出した!そうだ、これはハギスだ!」
ピヨ 「凄い!一つ思い出したよ!」
ハルバール 「良かったらもっと召し上がって下さい!」
スライス 「ああ!」

食べ始めたスライスをメイとハルバールが挟み込んで座り、後ろからマルティネスが近づく。

スライス 「う、美味い!ホントにうまい!おふくろの味だ〜!」
ハルバール 「それは良かったです〜。」

マルティネス、スライスの背中に触れ目をつぶる。そして閃き目を開く。

マルティネス 「おお!」
スライス 「ん?」

スライス、後ろに気づきそうになるが、メイがごまかす。

メイ 「おお!肩にゴミが!」

その隙にマルティネスは部屋の端に。

スライス 「…ありがとう。」
メイ 「いえいえ。」

スライス、ハルバール以外、部屋の端のマルティネスに駆け寄る。

ジャスミン 「どうだった?」
マルティネス 「正体がわかりました。彼の名前はウィリアム・ダグラス。今から1300年ほど前の人間です。」

ジャスミン、モバイルを操作。

ジャスミン 「ビンゴ。ウイリアム・ダグラス。さっきの「アニー・ローリー」の詩を書いた人物よ。」
アーモンド 「作詞家だったの?」
ジャスミン 「彼には愛を誓い合ったアニー・ローリーという恋人がいた。でも家同士が政治的に対立していたために仲を引き裂かれた。」
アーモンド 「ロミオとジュリエットみたい。」
ジャスミン 「彼女への想いを書いたのがこの歌の詩。曲がつけられたのはそれから140年も後だけど。」
ジルバーン 「だからあの歌を聴くとあんなに泣いていたのか。」
フェンネル 「彼に名前を教えましょう。連鎖的に記憶が回復するかも。」
スライス 「ご馳走様。是非また作ってくれ。」
ハルバール 「承知しました。」
メイ 「あなたの名前がわかったわ。」
スライス 「ほんとか?!」
メイ 「あなたはイギリスのスコットランドに住む、ウイリアム・ダグラス。」
スライス 「ウイリアム…ダグラス…スコットランド…そうだ…僕はウイリアムだ!思い出せた!」
メイ 「愛するあの人って、アニー・ローリーという人?」
スライス 「そう!アニー!なんで思い出せなかったんだ?アニーだ!愛しのアニー・ローリー!彼女は今どこに?!」
メイ 「落ち着いてウイリアム!私の事はわかる?」
スライス 「…ああ、わかるよオリビア姉さん!」
メイ 「姉さん?」
ジャスミン 「ウイリアムのすぐ上の姉。オリビア・ダグラス。」
スライス 「君はうちのコックのアベル?」
ハルバール 「え?」
フェンネル 「前世でもコックだったのね。」
ジャスミン 「2人は前世でも関りがあったから信用されてるわけだ。」
スライス 「でもなんだか若返ってる。確か40過ぎてるのに、まるで20代だ。」
ハルバール 「に、20代?」
スライス 「後の人たちは…知ってるような知らないような。」
ジャスミン 「もしかしてみんな若い?」
スライス 「みんな20代に見えるが。」
ジャスミン 「なるほど。」
アーモンド 「どういうこと?」
ジャスミン 「恐らく彼に見える我々の姿は、前世の人間の20代の頃の姿ね。」
フェンネル 「こりゃすごい。学会に発表したら大騒ぎだわ。」

スライス、フェンネルを見て

スライス 「あ!お前まだいたのかジェフ!」
フェンネル 「ジェフ?」
スライス 「アニーの付き人だ!こいつがアニーの父親に僕の悪口を!根も葉もない悪評を流していたんだ!」
フェンネル 「私の前世も悪役として関わっていたのね。」

スライス、フェンネルに迫る。

スライス 「お前のせいで僕とアニーは…!」
メイ 「落ち着いてウイリアム!」

スライス、後ろのマルティネスに気づく。

スライス 「く、熊だ!熊がまだいるぞ!」
コメッツ 「熊じゃなくてパンダですって!」
スライス 「誰だ?今誰がしゃべった?」
アーモンド 「見えない見えない!」
コメッツ 「そうでした…」写真

みんなマルティネスを隠す。コメッツ、マルティネスに耳打ち。

スライス 「みんな気をつけろ!後ろに熊がいるぞ!」
メイ 「ち、違うわウィリアム、よく見て!」

みんながどくと、マルティネスがうつ伏せに大の字に寝て、口を開いている。

メイ 「毛皮のカーペットよ。」

スライスじっと見る。

スライス 「…なんだカーペットか…」

みんなホッとする。

ジャスミン 「これでこの人格の素性や心情ははっきりしたわね。」
ジルバーン 「凄い。たった10分程でここまで…」
ジャスミン 「問題はこれからよ。こうなった原因と元のスライスに戻す方法を突き止めないと。いつからこんな事に?」
ジルバーン 「ちょうど2週間前だ。」
ジャスミン 「なにかきっかけは?」
ピヨ 「一つだけ思い当たるのは、私の作ったサプリメントを飲んだ直後だった事。」
ジャスミン 「サプリメント?」

ピヨ、サプリを取り出す。

ピヨ 「ジニアス能力1UPサプリです。」
アーモンド 「ワンナップ?」
ピヨ 「ジニアス・シンドロームは今は薬で治せますが。実はその薬、病気の進行を止めているに過ぎません。」
ジャスミン 「知ってるわ。同時に上がっていくジニアスの能力もそこでストップする。」
ピヨ 「もし薬を投与しなければ、能力はアップし続けるけど、一年以内に必ず死んでしまう。」
ジャスミン 「まさかそのサプリ…」
ピヨ 「このサプリは病気の進行を止めたまま、能力だけを1UPする事ができるんです。」
ジャスミン 「凄い…それをスライスに飲ませた?」
ピヨ 「先に海賊団全員に飲んでもらいました。そして全員に効果があり、副作用も出なかった。」
ジャスミン 「スライスにだけ副作用が出たって事?」
ピヨ 「調べましたがサプリによる副作用はありませんでした。」
フェンネル 「データを見たけど、精神に作用する成分はなかったわ。」
ピヨ 「でも前世の人格なんて薬学の範疇じゃないですから、さっぱり…」
アーモンド 「そういえば、僕の能力が必要だとか言ってたけど。」
メイ 「ええ。キャプテンがそう言ってたけど、人格が戻らないと詳しく聞けないし…」
フェンネル 「ちょっと待って彼の様子が…」

スライスが頭を抱えて唸っている。

スライス 「うううう…」
メイ 「あ、これって!」
スライス 「ぶわっ!」

スライス、元の人格に戻る。

(作:松本じんや/写真:はらでぃ)

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