エムドゲイン

原理

 歯の発生において産生されるエナメルマトリックスタンパク質は、硬組織を無細胞性に誘導する働きがあります。エナメルマトリックスタンパク質とはアメロジェニンを主成分とするタンパク質の複合体です。
 従来の研究ではエナメル質を石灰化させるための基質としてみられていましたが、近年では無細胞セメント質の形成にも深く関与していることが知られてきました。エナメルマトリックスタンパク質がどこから分泌され、どのように作用するかの詳しい解説は、歯の発生の項目を参考にして下さい。

 象牙質表面にエナメルマトリックスが存在すると、歯根膜にある未分化の間葉組織がセメント芽細胞(=せめんとがさいぼう ; セメント質の元になる細胞)に分化し、線維を出します。この線維を型紙にして石灰化(=せっかいか ; カルシウムとリン酸からなるハイドロキシアパタイト結晶が形成され、硬い組織になること)が起こります。セメント芽細胞は外側へ移動し、細胞を含まない硬いセメント質、すなわち無細胞セメント質が形成されます。
 エナメルマトリックスは象牙質とセメント質を強固に結合させる働きがあります。
 また、歯肉上皮の根尖側増殖を抑制する働きもあります。

 エナメルマトリックスが存在しないと、歯根膜にある未分化の間葉組織がセメント芽細胞に分化する程度は低いと報告されています。セメント芽細胞は周囲に線維を出しますが、細胞自身も含まれた形で石灰化が起こります。すなわち有細胞セメント質が形成されます。セメント質の中に取り込まれたセメント芽細胞をセメント細胞と呼びますが、栄養供給が絶たれているために変性し、最後は小さな空間になります。
 象牙質とセメント質は弱く付着している状態です。

 失われた歯周組織を再生させるための方法として、GTR法が挙げられます。これは歯根膜由来の細胞からセメント質が新生される空間を確保しているだけですので、象牙質と弱く付着しているだけの有細胞セメント質が形成されます。

 

エムドゲインとは

 そこで歯の発生をヒントにして象牙質と強固に結合している無細胞セメント質を形成させ、真の歯周組織再生を行う方法が検討されてきました。これは幼若なブタの歯胚(=しはい ; 歯の元になる組織)からエナメルマトリックスを取り出し、人間で拒絶反応が起こらないように一旦、滅菌と凍結乾燥を行ったものを溶解液で溶かして用います。
 エナメルマトリックス抽出物(Enamel Matrix Derivative ; EMD)により付着の獲得(gain)を得る方法です。商品名でエムドゲイン(EMDOGAIN)といいます。

 ここでひとつ注意すべき点は、エムドゲインは歯周病を治す薬ではないということです。きちんとした歯周治療を行い、(歯周外科を併用することで)健康を回復したけれども失われている歯周組織を再生させるための材料であるということを忘れてはなりません。

 

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最終更新2013.1.10