「IT技術」という言葉
IT の T は technology ないしは technologies のことでしょう。technology
は科学技術と訳されるのだから、「IT 技術」というとなんだか、「馬に乗馬する」「骨を骨折」式の冗語のような気もします。
ですが、IT を何かの略語と捉えるより、シンボリックなひとつの語とみなすと、おかしくはありません。それどころか、(聞いたことは無いですが)IT
美術や IT 文学もあって不思議ではないのではないでしょうか。
すなわち、現代社会の一面としての情報化社会の技術的側面に焦点を当てたとき「IT技術」という言葉を用い、この情報化社会特有の美術を「IT
美術」と呼べば良いわけです。だいたい口頭で「アイティー」と言われるより、「アイティー技術」の方が聞き取りやすくはないですか。
私は長らく、IT は Information Technology の略で、訳すならば「情報技術」だ、と思ってきました。また、多くの辞典類でも、そう定義されていると思います。
が、どうやら近頃の用法では Communication が入った意味とみなす方が適切なようです。すなわち「情報通信技術」(Information
Communication Technology =この英語で正しいのかは疑問)と解釈した方がピッタリしそうです。例えば、内閣の「IT戦略本部」は「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」の略称のようです。他にも近年の政府関係の文書では「情報通信技術(IT)」といった使い方が見られます(*1)。
いつからそうなったのでしょう(*2)。どこかで統一でもされたのでしょうか。あるいは当初から「通信」の意があったのに私が知らなかっただけなのでしょうか。
*1. なんといっても英語に強いであろう外務省のホームページでは、現在、
トップページ > 分野別外交政策 > IT(情報通信技術)
という階層があります。
*2. 沖縄サミット2000での発表文書「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」では明確に「情報通信技術(IT)」とされています。この頃から「通信」を表に出すようになったのでは、と想像するのですが、よくわかりません。なお、この文書では情報格差(デジタル・デバイド)を解消することも、うたっています。
デジタル・デバイド
もはや遠い昔のような気がしますが「2000年問題」で大騒ぎした後、次いで主テーマとなった情報化に関する問題はデジタル・デバイドだったと思えます。
当時の米国クリントン政権による問題提起の強い印象のため、私には、人種間での情報格差がまず頭に浮かびます。が、もちろんご承知の通り人種間だけでなく、地域や国家間、年齢、教育水準、あるいは身体障害の有無など、さまざまな面でデジタル・デバイドは存在します。所得格差拡大や雇用機会の不均等化のみならず、「情報」への接触度合いや容易性に起因する富裕と貧困との乖離を、「デジタル情報化」(端的にはインターネット)が促進しているならば、それはすべてデジタル・デバイドです(*3)。
*3. 軍事力はもちろん、自然災害・事故など緊急事態への対応の差もデジタル・デバイドによって生み出されます。
残念ながら、「彼を知り己れを知れば百戦殆う(あやう)からず」と情報を重視した孫子には、間諜(スパイ)という人的情報通信手段しかなく、デジタル・デバイドは存在しません<笑>。
前節『「IT技術」という言葉』の末尾にコメントしたように、2000年の沖縄サミットで発表された文書に「デジタル・デバイドの解消」というテーマが掲げられ、次のような努力を各国に求めています。
- 誰もが情報通信ネットワークにアクセスできること
- そのための環境整備、技術開発に各国が力をそそぐこと
- IT関連能力の教育・訓練を行なうこと
私がおもしろいと思ったことは、この「デジタル・デバイドの解消」に関連して「中小企業及び自営業者」という言葉が出てくることです。すなわち、この文書では学校のオンライン化や教員への訓練と並び、「中小企業及び自営業者がオンライン化し、インターネットを効果的に利用するようにするための支援及びインセンティブの提供を目的とした措置」を追求することを宣言しています。このような国際合意文書で「中小企業」や「自営業者」といった言葉が出てくるのは、あまり無かったのではないでしょうか。
残念ながら、翌年(2001年)のジェノバ・サミットではこれらの言葉は消えているようです。代わって「起業家」や「創業」という言葉が現われ、それらへの支援が奨励されました。
国内での企業間デジタル・デバイドの解消には、国や地方公共団体の施策や、各種団体の活動が大きく役立っています。そして、何よりも中小企業経営者自らの努力によって改善が進められています。前述の国単位での努力項目を借りると、次のように状況は良くなってきました。
- 誰もが情報通信ネットワークにアクセスできること
- 高速な公衆通信網が安く一般に利用できるようになった。
- インターネット・サービスプロバイダが、より一般への普及に努めた
- そのための環境整備、技術開発に各国が力をそそぐこと
- 規格、仕様の標準化が進展
- 税制面での優遇や、利用範囲の拡大
- より使いやすいハードウェア、ソフトウェアの充実
- IT関連能力の教育・訓練を行なうこと
- 学習機会が多く提供されている(民間の教室や各地の商工会議所などで開かれる「インターネット講座」や「ホームページ作成講座」など)
- 学習のための参考書は、選択に困るほど売られている
いろんな面で「廉価に、利用しやすくなった」わけですが、では、大企業と中小・零細間のデジタル・デバイドは縮小しつつあるのでしょうか。IT技術(*4)の爆発的発展に、中小・零細は付いていっているのでしょうか。
うさぎと亀の競争は、うさぎが昼寝をしてくれるからこそ亀の勝つ目も出てきます。近道を亀が発見したというわけではないのです。うさぎが走り続けているならば、なかなか逆転の目はないと思います。
大企業の情報システム部門や情報関連子会社は、たまに昼寝をしていたとしても、すぐにたたき起こされ走り始めます。中小・零細は「たまには休みなさいよ」と周りに言われるほど働きづめですが、いかんせん余裕無く、ITなんて不急のものは棚に放り上げておく状態です。
もちろん大企業と中小・零細が同じ土俵で戦う必要はありません。大企業や先進的な企業がいろいろと試した後、落ち着いてから要るものだけをいただく、という手もありましょうし、そもそも
IT なんてと背を向けるのも立派な姿勢だと思います。中小・零細ならではの生き方が、個々にはあるわけです。
ただ、中小・零細企業全体として知らぬ間に不利益をこうむらないよう、デジタル・デバイドの拡大を警戒、注視しておくべきだと考えます。IT
は事業を営む上でのインフラですので。
*4. あえて、技術面を強調しています。参考:前節『「IT技術」という言葉』
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このページ最終更新日 : October 28, 2003 |
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