8月17日 ETAP−6前半
8:00スタート
8:00というと、ちょうど日の出時刻。今日はビバークの移動がある為、真っ暗なうちからビバーク内がざわめく。今まではウランバートルからドンドン離れていたが、今日からラリーはゴールのウランバートルへだんだん近づいていく。後半戦へ突入。ゾーモットを離れる為なのか?あと3日間しかないからか?なんだか切ない気分の朝を迎えた。
身体は昨日の事がウソの様に調子良い。「ウース」「ウース」と朝のあいさつはこんな感じだが、斎木校長先生には
「おはようございます」と、キリッとしたあいさつをする。未だ先生という言葉に、条件反射してしまう。
朝食の時にも、「あと3日しかないのか」という声が多く、みんな同じ気持ちだった。
ブリフィーング時に山田徹さんより、
「いよいよ後半戦です。今日は距離も長く、途中に険しい山岳路、後半は川渡りも多くなります。みなさんが早くビバークに着けるよう、レストコントロールも30分といつもより短く設定しました。あっ、そうそう、CAP走行も多いですから。」
と、発表があった。CAP走行が多い=ナビゲーションが難しい。
それにしても今日は身体の調子がいい。どうしたんだろうか?なんかいけそうな気がした。ちょうど太陽が顔を出し始めた8:00、トップのガントルガがその太陽に向かってスタートした。緊張の時。46分後、GSとともにゾーモットのビバークをスタートする。しばらくは朝焼けの中、前走者の巻き上げる砂埃と逆光でオンコースを探りながら、サンド路面を往く。
「よーし、やっぱり今日は乗れてる。」 体調が良いだけではない。実は昨日ゴール後、HPN田中隊長からOHVフラットツインでのサンド路面の重心の位置や荷重バランスのレクチャーを受けていた。それを早速試したら、目からウロコで昨日までのドタバタがウソの様にスムース。

夕方ではありません。朝焼けの中です。
「なんだよ、もっと早く聞いて置けばよかったのに。」 元々GSはパワーがあるので、うまく操れればサンドでも速い。
「これだ。これだよ!ウッシャアー!」 気合いも入る。何台ものエントラントをパスする。オンコース上でトラブっていない人をパスするのはETAP−1以来だろうか。「もしかしたら今日はライディングハイになれるかも。」 真剣にそう考える程絶好調だった。
先にスタートしたバカミーズ#23馬場さんの姿が、砂煙の向こうに見える。馬場さんはR80GS,私はR100GS。パワーに差もあるし、乗れているのでグングン近づく。「パスして、いいんですか? いいんです!」by川平慈英
そんな事をつぶやきながら走行。(アブナイ奴)
45Km地点。80Km/hで走行。突然、ヘルメット大の岩が目の前に現れる。馬場さんの砂煙で発見が遅れパニック。フロントはまぐれで、回避。しかし、リアタイヤが跳ね上げられ、身体が投げ出される。今回は巴投げの様に背中からでなく、スーパーマンの様に飛び出す。 「ダメだっ!」 胸から地面に叩きつけられ、逆エビ固めの様になる。
そんな自分の姿を上から見ている自分がいて、スローモ−ションの様に見えた。
「こりゃ、終わったな。へたすりゃ、ヘリで緊急輸送だ」と思った。一瞬の出来事の間に、そんな感覚を体験する。
起き上がる前に、手、足を動かす。(すぐに、そうしたのか? しばらくしてからそうしたのか?今でもわかりません)
今までの転倒では、自分の身体よりマシンの心配をまずしたが、今回は自分の身体が先。なんとか大丈夫そうだ。
GSは? GSを起そうとすると、右胸から右わき腹にかけて激痛が走る。「やっちまったか!?」 小学4年生の時にジャングルジムから落ちて、肋骨を折った事があるが、その痛みの記憶がよみがえった。折れたんだろうか?まあ仮に折れていても、肋骨くらいではとてもじゃないがリタイヤは出来ない。痛みを無視する。マシンを起し、チェック。全く問題ナシ。GSは本当にたのもしい。ヘルメットの中が砂だらけになったので、ヘルメットを脱ぐ。
「あれっ、頭も打ったのかな?」 ヘルメットの左側のペイントが剥げている。砂をはたき、再び被ろうとすると、パコパコと音がする。「ヘルメットの中に何かはいっているのか?」パッドをはずしてみると、
「???!、なんで?」 なんと、インナーの発泡スチロールがパックリと割れている。インナーが割れる程の刺激は全く感じなかった。首も痛くないし。・・・・でもペイントが剥げ、インナーが割れている。「まあいいや、とにかく助かった」
それ位、ヘルメットというのは、頭を保護してくれているという事だが、次に頭打ったらと思うとゾッとした。
それにしても毎日毎日、いろんな物が壊れる。マシン、装備品、ついに身体までもが・・・・。
でもそんな出来事が楽しくて、楽しくて。(タフなのか?それともただのマゾ?)
転倒、そのリカバリーの間に6台、7台の後続車にパスされた。再スタート。痛みを無視するといっても、シートに腰を降ろすと、振動が肋骨に伝わり我慢できない。幸いスタンディングであれば、痛みがやわらぐ。ペースも落ちる事無く、転倒前のペースを維持できる。ようやくサンド路面も終り、大草原へ。「なんか、久しぶりだな」 昨日だけが全く草原がないルートだったのに、妙になつかしく思える。
しばらくすると、前方にロシア製トラック、マイクロバスの3台が、走行している。
「まだこんな所走ってるんだ。今日中にビバークに着くのかな?」 荷物を積んだトラック、メカニックやマネージャー
を乗せた小さなマイクロバスが、スタート2時間前に出発したのに、まだこんな所を走っている。競技車両と違い最短
ルートでビバークを目指すが、話に聞いていたとおりに外からみても、車両がギャップの度にガツンガツンいっている。
今回、チーム“OVOO”マネージャーでの参加の上西さん(過去2回競技者としても参加)が、「選手の方がよっぽど楽」と言っているくらい最悪の乗り心地らしい。しかもよく壊れるらしい。だがその都度、モンゴル人運転手やモンゴル人スタッフが、少ない工具でどんなトラブルも修理。これには感心するとの事。ただ、一度ストップすると必ず誰かが、動物、虫、植物を採って来て、それを食べ終わらないと出発しないらしい。TEAMスガワラのメカニック、ドイツ人のカイザーさんは、それを見て、いつも怒鳴っていたとの事。ビバークからビバークへのキャラバンも相当に珍道中で、毎日夕食の時には、この話題でおおいに盛り上がる。 (今日も楽しい話が聞けそうだ。早く抜いちゃおっと)
キャラバン隊を早々にパスして、CP−1を目指す。ずっとスタンディング。オフィシャルのヘリコプターが頭上を往く。自分が向かっている視線の先、青空の中にあったヘリが地平線に沈み見えなくなった。しばらくは、前も後ろも誰もいない。360度、真っ平らな草原と青空しか目に映るものは無い。自分とGS以外には、人工物、人の手の加えられた物は全く無い。 「やっぱり今日はライディングハイを経験できるかもな」 だが右胸の痛みがそれをさせてくれない。
「痛みを無視、痛みを無視」と、自分に言い聞かせるが、やはり欲があったり、打算的ではダメ。
CP−1が視界に入る。全く違う方向からXRもCP−1に向かっている。
CP−1(154km地点)到着。XRはRCP目指し即スタート。今日だって充分暑い。#44KTM小林さんが休憩して
いる。昨日と同じ失敗はしない。咽喉がカラカラに渇いている訳ではないが、水分補給。#44KTM小林さんが先に
CP−1を発つ。少し間をおいてRCP目指しフラットツインに火を入れる。
CP−1以降はフラットダート。ハイスピードになるが、途中CAP走行が多い。これがクセモノで、ついついスピードと風景に酔ってしまい、方位の確認がおろそかになる。いくら走っても景色が変わらないのでミスコースに気が付かない。しかもハイスピードの為、気づいた時には、かなりの距離を走ってしまっている。それでも、スピードを出せるセクションではそれをしないと順位もそうだが、設定時間内にCPやゴールに到着できない。
{慎重かつ大胆}この様なバランスがこのセクションで、オーガナイザーが求めている事だろう。六日目にして(遅すぎる)、ライバルや自分自身との戦いだけでなく、こういったオーガナイザーとのかけ引きも、楽しめるようになってきた。
前方に#40DJEBEL上村さん、#35XR600藤野さんが見え始める。順位的には中盤にいる2人。2日目以降、中盤につけているエントラントを走行中に見たこと無かった。今日はなぜか乗れていてめずらしく何人かのエントラントをパスしたが、スーパーマンになった時(ただの転倒)に、また抜き返されたので、おそらくいつもの順位くらいを走行しているつもりだった。「上村さんと藤野さんはトラブッて順位をさげたのか?それともみんなどっかいっちゃったのかな?」
「ということは、順位のジャンプアップチャンス!」 そう思うとやけに気合がはいる。(完走目的で楽しもうと思っていたのに、つい欲が出て順位を意識しました。まだまだ修行が足りません)
#40DJEBEL上村さん、#35XR600藤野さんに再び離され、いつの間にか2人とも見えなくなる。そしてコマ図に“IMP”のマークが記入されているポイントが近づく。“IMP”は重要ポイントの印なので、ミスコースしたら取り返しのつかない事になるが、その分慎重になる為、案外ミスはしない。なんでもない所で、ミスコースする事の方が多く、しかもミスコースした事に気づきづらいので厄介だ。 IMPポイントをコマ図の指示に従い、90度の角度で右に折れる。右に折れても、全く風景が変わらない。、その場に立ち、目をつむって体を回転させ、再び目を開き、今どの方角から来て、どこに向かうか聞かれても絶対に判らなくなる様な地点だった。日本であれば、建物や木などの方角を判断する対象があるだろうが、360度どこを見ても草原と青空のみ、草のはえ方、雲の形まで同じに見える。走行しながら、
「あんな所でGPSが無いとしたら、どうやって方向を判断したらいいんだろうか?・・・そうだ風だ!・・・いや太陽だ!・・・でも無風で曇ってたら?」(相変わらず、集中してない)
またまた、#40DJEBEL上村さんともう一台が視界に入ってくる。RCPが近づく。ここからRCPまではCAP走行。距離メーターの数字がどんどんと、RCPに近づいていく。そろそろコントロールゾーンのフラッグが見えるはずだ。
「んっ、んん?」 メーターではRCPを過ぎている。上村さんともう一台(誰かは覚えてません)は、そのまま直進する。
「ヤベッ、ミスコースだ。CAPとおりに来たはずなのに?」 どこで間違ったのか全く判らない。今まではミスコースしても、「あの地点か?」と思いあたる場所があったが、今回はそれがなかった。GPSは直進を指示している。
「距離的にはRCPを過ぎてるから、GPSの示すポイントはRCPではなく、次のポイントを指してるかもしれない。」(めずらしく、冷静な判断?いやこれが当たり前です)
GSを停め、GPSポイントをRCP地点に再入力し、RCPへ向かう。オンコースから外れているので、クレーターやクレバスに最大の注意を払いながらの走行をしていると、その先からオフィシャルのヘリが飛んでくる。
「ラッキー!こっちであってるんだ」
コントロールゾーンのフラッグとは全く逆方向からRCP(296km地点)へ到着。転倒したり、ミスコースもあった割りには、中盤の順位。「みんな、やっぱり迷ってんのか?」 少しすると、上村さんも到着。「いや〜、RCP手前から、わけわかんなくなっちゃった」との事。四方八方からエントラントが、やって来る。
今日のRCPは30分の休憩。500mlの水の配給。気温は44℃。「昨日よりも5℃も涼しいのか」 44℃もあったが、昨日があの暑さだった為、それ程暑いとは思わなかった。(慣れって、スゴイ)
バカミーズの#22HPN田中隊長はすでにRCPを発っていた。#21F650ダカール田中ユキさんは10分前くらいに到着したらしい。「馬場さんは?」と尋ねた。なにもなければ先に着いてるはず。「なんかね、ミスコースして、GPS走行でショートカットしたら、そこがものすごいガレてて、そこで転倒したらしいですよ。その時にヘッドカバー割っちゃって交換していたそうですよ」 「交換して、走ってるんでしょ?」 「たぶん・・・。」 (馬場さんなら絶対、戻ってくる。)

右上RCPを発つスバル・フォレスター、RCPにてパンを食す
30分間の休憩なので、ランチパックをそそくさと食べ、後半に向け準備をする。
後半は、さらにナビゲーションが難しくなり、山岳コースに加え、川渡りも多い。テクニカルな設定。BigOffには辛そうだ。
マシンをコントロールゾーンへ向け、オフィシャルのカウントダウンを待つ。前方には険しそうな山々が見える。
「あの山だな!」
ETAP−6後半へ続く。
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