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お初にお目にかかります。
星屑きらら(仮名)と申します。
雑文を少々書かせていただきました。
成田から11時間、スイス航空169便がチューリッヒ・クローテン空港への降下体制にはいり大きく旋回すると、白く輝くアルプスの山並みが、緑の台地の彼方に広がってくる。初めてのヨーロッパ、しかも個人旅行。6ヵ国語会話集と地図、そして時刻表を片手に巡った9日間の夏休みは、感動的で刺激的な旅となった。
鉄道ファンである私は、観光地よりも、スイスの鉄道乗車に主眼をおいたプランをた
てた。9月初旬はもうシーズンオフなのか列車はどれもガラガラ。団体客の押し寄せ
る、ユングフラウヨッホへ登る電車さえ、4人掛けボックス席に1人という具合だ。
現地で買った時刻表を駆使して工程を練り、駅の掲示板を確認して電車に乗る。慣れてしまえば簡単で、到着初日チューリッヒ空港駅で、危うく反対方向行きの列車に乗ってしまいそうになったことを除けば、さしたる問題もなく、5日間スイス国内を乗りまわれた。
時間には正確と聞いていたスイスの列車だが、滞在中はなぜか5分程度の遅れが目立った。シュビーツという駅で待った列車は15分位到着が遅れた関係で、どうやら何か変更があるらしい。2回ほど構内放送があったがドイツ語なのでさっぱり(自分の語学力では英語もわからないと思うが)。時刻表に記されたホームには、どう見ても違う列車が停まっている。やがて反対側のホームに列車が入ってきた。急いで見に行くと、車体の行き先板と進行方向から判断して、目的の列車であることがわかった。事前にたまたま地図で進行方向を確認しておいたのが功を奏したのであり、その後の乗り換えの際には、必ずどっちへ走る列車に乗るのかを予習するようにした。スイスには目的地とは反対方向に向かって駅を出てから、ぐるっと半周して向きを変える路線も多く、なかなか判断できないのだ。また、スイスの山を越える路線の中には、3回もぐるぐるループ線をまわって高度を稼ぐものや、日光いろは坂のようなぐねぐねヘアピンカーブで山を登るものもあり、地図を見ないで乗っていると、方向感覚が麻痺してしまうので要注意。
初めて見たアルプスの山は、「すげえすげえすげえ」
初めて見た氷河は「すげえすげえすげえ」
初めて見たアルプスの山は「まるでハイジみたい」
山は高く、谷は深く、空は青く、氷河から流れる川は白い。日本の景勝地で見る風景 と、そこの絵ハガキとの間にはかなりの相違が感じられるが、スイスに関しては全く同一である。絵ハガキそのままの世界がそこに開けている。緑に覆われた麓の牧草地帯から真っ黒な岩壁がそそり立ち、真っ白く錐をなす山頂へと続く稜線は、群青に近い真っ青な空との間に見事なコントラストを描き、月並みな表現ながら、「まるで絵のよう」。気がついたらフィルム何本分も山を撮っていたほどだ。
ゴミが全くないのもすばらしい。列車の撮影がてらハイキングコースを10キロ程歩いたが、吸い殻ひとつ、空き缶ひとつとして落ちていなかった。変な看板やら広告やら、危険防止の柵やらも一切無く、あるのは必要最低限に整備された道だけである。人々のマナーも当然のことながら、自然に対する正しい考え方、正しい接し方について、日本は多くを学ばなければいけないと思った。(もう遅いかもしれないが)そういえば、飲料やタバコの自動販売機は街中にさえ、全くと言っていいほど見かけない。コンビニなんて、スイスの国中捜しても存在しないのではないだろうか。現地の人はあらかじめ駅のKIOSKや街のストアーなどで飲料を買い、持ち歩いている。初めての日は事情がわからず脱水症状になりかけたが、郷に従ってからは、特に困ることはなかった。
日本から予約していったホテルは、航空券とセットになった初日と最終日、あとは現地での飛び込み手配。これもなんとかなるもので、ほとんどがフロントでの直接交渉でOK。路頭に迷うということは皆無であった。駅があるところでは、他に何もなくてもホテルだけはあるのがお国柄のようで、実際、標高2000mを越える山中の駅舎がホテル兼用で、周囲には人家ひとつなし、などというのも珍しくないようだ。
物価の高いスイスではあるものの、1泊朝食付きでシングル4000円〜9000円。どのホテルも部屋は清潔かつそこそこの広さがあり、少なくとも同価格の日本のビジネスホテルよりはるかに快適だ。気軽に旅行できる土壌が備わっているのである。
泊まったホテルは全て朝食付き。とはいっても固いパンとバターやジャム、チーズとコーヒー、以上。安いホテルにばかり泊まったからかと思ったが、あるホテルで、ホテルスタッフ(オーナーと思しき人も)も同じ内容の食事であることが判明し、別のホテルでも同様だったことから、スイスの朝は一般的にこのように質素なものであろうと推測される。貧乏旅行の自分にとっては、ホテルの朝食は貴重なエネルギー源であり、かなり物足りない思いをした。後日利用したウィーンのホテルでは、コーンフレークやフルーツ各種のバイキング、ヨーグルトまでもが備えられ、非常に喜んだのであるが、スイス風朝ごはんにすっかり慣れてしまっていたので、納得のいく量を食べらず残念であった。