11月5日 「チュータ・・・」
ここ数日、京都は急に寒さが厳しくなり、山並みの紅葉も一段と色濃くなってきた。ウチのカヤカヤ(カヤの複数形(^^;)にも、冬支度をさせないとなー、などと思うものの、調査が忙しくてなかなか時間が取れない。2週間前から追っている子カヤは、そろそろ巣立ちの時期で、今が一番目が離せないときだ。今回の観察地は、春に草刈りされた例の調査地で、家から少し遠いため、往復のクルマの運転と夜間のテープ交換、翌日のテープチェックで連日睡眠不足が続き、そろそろ体力的に限界に近い。

深夜0時半、2度目のテープ交換から帰宅後、いつものようにエサをやろうとして、チュータの食器に、好物のエサが手つかずのまま残っているのを見つけた。いやな予感がした。
チュータのケージを開け、中を調べる。大丈夫、他のものはなくなってるし、と自分に言い聞かせながら巣材を取り除いていく。やがで、丸まったまま、動かなくなったチュータを見つけた。ピンポン玉より一回り小さい、オレンジ色の毛のかたまりは、ふっくらとして、つややかで、今にも目を開けて動き出しそうだった。自分ののどに、何か固まりがつかえたような気がした。それを飲み下して、チュータをそっと取り出す。チョロリンの時と同じように、体重と各部の測定を順にやっていく。データ取りが全て終わった後、やはり同じように、チュータも冷凍保存した。

もしかしたら、寿命だったのかも知れない。野外でのカヤの寿命は、約半年といわれている。あるいは、急な冷え込みに適応できなかったのかもしれない。他のカヤは上手にほっこりした巣を作っているが、チュータはうまく作れなかった。
それでも、忙しさにかまけず、もう少し気を付けて見てやれば、変化に気づいてやれたかも知れない。もっとも、気づいたとしても、私に出来ることはせいぜい巣材を増やしてやることくらいだっただろう。

チュータは、私が初めて捕獲したカヤネズミだった。捕獲地から連れ帰るとき、もう二度と野生に戻せないことを思うと、胸が痛んだ。毎日の観察で、行動やエサの好みなど、野外調査では知ることが難しい、いろいろなことを学んだ。そしてなにより、カヤが大好きになり、野外調査をつらいと思わなくなっていた。
「チュータは、少なくとも、チョロリンや野外のカヤに比べて、おなかが減ることも、寒い思いもしないで死んだんと違うかなぁ」
そうダンナに言われて、喉の固まりがゆっくり溶けていき、私は少し泣いた。
