7月18日 「フィールドは危険がいっぱい」 

 最初におかしいな?と感じたのは、10日ほど前のことだった。

 新しい調査地での調査は、順調だった。7月に入ってすぐ、子どものいる巣を発見し、定点観測に入っていた。夜間撮影後、早朝に機材を回収するのだが、その機材の設置ポイント付近に、毎回同じ男がうろうろしている。

 夜明け直後のまだ薄暗さの残る河川敷に、訪れる人はまずいない。最初は偶然かと思っていたが、長さ数100m、幅数10mの河川敷の同じ場所、同じ時間、同じ服装(黒いパーカー、赤い半ズボン)、さらに黒い子犬を必ず小脇に抱えて(!)現れる偶然が5回も6回もあってたまるか!

 何の目的でうろついているのかがわからない。2度、思い切ってそばまで行って声を掛けたが、完全に無視された。 「なんや。」とか、ちらっとでもこちらを見るとかしてくれれば対処のしようもあるが、とりつくしまもない。20代後半〜30代前半の小柄で、やせ形、色黒。 わかった。こいつは変質者だ。

 「変質者君」の態度はその後徐々に大胆になってきた。10mほどそばの草陰に隠れて待ち伏せるなど、身の危険を感じるようなったので、一度ダンナについていって貰うことにした。

 「じゃ、先に行って。ぼくは少し遅れてついて行くから。」

 そう言われて、堤防から河川敷に降りる砂利道を歩き出した。下流から上流に続く一本道で、向かって右手が調査地、左手が農地だ。100mほど歩いて、問題の撮影ポイントに着く。やはり、変質者君はいた。撮影ポイントから10数mほど離れた、川縁の護岸コンクリートの上をぶらぶらしている。

 少し経つと、ダンナがやってきた。何食わぬ顔で、男のいる方に歩いていく。変質者君は、いつの間にか私の視界から姿を消していた。 どうなったんやろ、と思いながら機材を撤収していると、ダンナが戻ってきた。

 「どうやった?」

 「コンクリの上で、何回も立ったり座ったりしてた。挙動不審やな。こっちの方を気にしてる感じはなかったな。」

 このころには、空もだいぶん明るくなり、散策の人も増えてきたので、安心して帰った。

 その後、もう一回ダンナ同伴で行ったが、変質者君は現れなかった。

 まったく迷惑なハナシだが、河川敷は事件・事故の現場になりやすい。実際、去年私の調査地の一つで、殺人事件があった。(事件を知ってテレビをつけたら、捜査官がカヤの巣がある辺りの草を刈っていた・・・(涙))たまたま居合わせなかったから良かったものの、下手をしたら第一発見者になっていたかも知れない。まして、事件の当事者になるなんて、まっぴらごめんだ。

 「そう言うたぐいの男は概して気が弱いからねー。君にダンナがいるって判って、失恋したんじゃない?」

 K先生は至って気楽だ・・・・(がっくり)