8月22日 天敵
「カヤ日記」の読者(定期読者の皆さま、いつも更新遅くて恐縮です)から、「カヤネズミの天敵は何?」という質問をよく受ける。カヤネズミは家ネズミと違ってあまり人の目に触れる機会もなく、また他種の野ネズミと比べてとても小さいので、意外に想像がつきにくいのかも知れない。
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カヤネズミの天敵は多く、ヘビ、イタチ、フクロウ、ネコ、など様々な動物たちに捕食される。その中で最も脅威なのは、恐らく「ヘビ」だろう。国内の文献や手元に寄せられた報告例では、ヘビによる捕食がトップだし、私自身、ヘビが直接カヤの巣を襲う例を何度か目撃している。
カヤの巣を直接襲うのは、比較的小型のヘビだ。直径1cm程の巣穴からもぐり込んで、赤ん坊を丸飲みしてしまう。母親は命からがら逃げ出せても、自分では身動きのとれない赤ん坊はひとたまりもない。
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ある時、観察用のモニターを眺めていると、母カヤが大慌てで巣に飛び込んできた。3頭の子カヤは先ほどから外出していて、巣は空っぽのはずだ。おかしいな、と思い、注意して見ていると、必死になって内側から巣穴をふさぎ始め、みるみるうちに、母親の姿は見えなくなってしまった。
モニターには巣を大写しにしているので、どうにも様子がわからない。もう観察を中止しようかと思ったその瞬間、急に激しく巣が揺れだした。何が起こっているのか、画面のこちらからは伺い知れないが、尋常ではない揺れが、大変な事態が起こっていることを告げている。
5分ほど揺れが続いただろうか。ピタリと静かになった。息を詰めて見守っていると、巣穴からズルリと黒っぽいものが這い出てきた。ヘビだ!ゆらゆらと鎌首を揺らしながら、巣の表面にまとわりつくようにモニター画面の右下から左上まで横切り、ゆっくりと視界から姿を消した。
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ヘビは巣を襲った時点では、捕食に失敗したのだと思う。捕食すれば、腹がふくらむので容易にわかる。しかしこの日以来、カヤ母子は巣に戻ってこなかった。数日後、この巣のすぐそばで母カヤとおぼしき個体を見かけたが、3匹の子カヤの姿は見ていない。巣の外で食べられてしまったのかも知れないし、あるいは母親が危険を感じて別の場所に移動したのかもしれない。
翌年の春に再び調査地を訪れると、巣のあった場所一帯は、市の駅前開発の土砂捨て場になっていた。数キロ離れた山の中に、わざわざ土砂を捨てに来るのだ。オギやススキが群生していた場所には重機が入り、前の年、たくさんのカヤの巣が出来ていた土地は、巨大な泥の山になっていた。あの母子がそれからどうなったのか、もはや確認するすべもない。
カヤにとっての本当の天敵、それは私たち人間だ。