3月27日 5%の贖罪

 T・・・さま

 お元気ですか。もうすぐ桜が美しい季節になりますね。
 私の方は、4月から大学院ドクターコースに進学することになりました。 あと数年は、カヤネズミとおつきあいすることになりそうです。 ひょっとすると、一生縁が切れないかも(笑)

 それから、3月からシカの調査もやっています。 野山を走り回ってひたすらシカの痕跡探しという、泥臭い仕事ですが、足跡やフンを見つけるのも、結構面白いものです。

 2月の末に修論を提出してからこちら、何だか少し疲れてしまいました。
 何もやる気が起こらず、何をやっても面白くなくて、こんな状態で春からフィールドワークを再開できるんだろうかと不安でした。 最近ようやくエネルギーが戻りつつあります。まだまだローテンションだけど。

 ウチで飼っていたカヤネズミは、春を待たずにみんな死んでしまいました。
 たぶん寿命なので仕方ない、と思う反面、もう少しこまめに面倒見てやれば春までもったかも知れない、とも思います。 何より、たとえ研究のためとはいえ、野生で生きてきたものたちを自然から引き離してしまったことに、ずっと申し訳なさを感じています。

 ただ、彼らと出会わなければ、こんなに深くカヤネズミに愛情を感じることはなかったし、研究も薄っぺらいものになったでしょう。だからせめてもの罪滅ぼしに、カヤネズミが少しでも安心して暮らしていけるように、彼らの生活を守れるように努力するつもりです。

 10年かけて、ようやく自分の進むべき道に戻ってきたような気がします。私は今、「中継ぎ」になりたいと思っています。私たちの100年後の世代の子どもたちに、もうずいぶん荒廃してしまったけれど、せめて今の状態のまま自然を残してやりたい。ようやく自然を守る努力が為され始めましたが、まだまだこの国の取り組みも、人々の意識も未熟です。だから、息の長い運動を闘っていかなければならないでしょう。

 そのために、私は次の世代にバトンを渡す「中継ぎ」になりたいのです。そのために、「動物の立場」から声を上げていきます。「人間の立場」で考えてくれる人はたくさんいるので、少しくらい動物側の秤の一方を重くしたっていいと思います。

 とりとめのない話になってしまいました。
 どうしようもなくつらい時、なぜかあなたの事を想い出してしまいますが、あまり気にしないでください。たぶん私の中では、あなたがいつまでも少女時代のあなたで、私の心の唯一の希望なのでしょう。あの頃そうであったように。

 時間があれば、またそちらの近況など聞かせてください。
 長くなりましたがこの辺で。