2月20日 「カヤニストへの道(後編)」
2000年最初のカヤ日記です。今年一年が良い年でありますように。
滋賀県には湖岸道路という、琵琶湖をぐるりと取り囲むようにして走っている道路がある。琵琶湖のすぐ脇を通っているので、ロケーションは抜群だ。しかし、野生動物にとっては、これ以上最悪の道路は無い。
というのも、湖岸のヨシ原と田園地帯の間を道路が完全に分断しているので、野生動物が行き来できないのだ。冬、オギやヨシが枯れてしまうと、カヤネズミは、近くの田んぼのあぜや土手に他種のネズミが掘ったトンネルで越冬する。しかし、湖岸道路が移動を阻んでいる上、大部分が護岸されているので、逃げ場所がない。特に湖東・湖南地方は見る影もない。
![]()
「いやー、噂には聞いてたけど、ひどいねー。」
「そうですね。ここのヨシ原なんか、結構いそうなのに。」
朝からずーっと探しているのに、今日はさっぱりだ。湖岸道路沿いを探すのはとっくにあきらめて、休耕田と堤防にねらいを付けて捜索しているが、未だに一カ所しか巣を発見していない。湖北は、調査ポイント全てで巣を発見して、意気揚々としていたのだが、湖東には、カヤはいないのだろうか。
「じゃあ、そっちの水路の端から順に見ていって。私は反対の方から見ていくから。」
「わかりました。」
すでに日は傾きかけている。今日はもう、ここまでかなぁ、と半分あきらめかけていた時、
「ありました!」
とSクンの声。ようやく、本日2カ所目の生息確認。結局本日の成果はこれでおしまいだった。
![]()
今回の調査で、カヤネズミの生息地が非常に少ない事を実感した。滋賀県はさすが米どころだけあって、盆地には広大な面積の田畑が広がっている。カヤにとっては一見天国のようなところだ。
しかし実際は、休耕田はたくさんあるが、オギ・ススキの群生は少ない。水路の土手や畦部分も草刈りされていて、カヤネズミが巣を作るのに適当な植生は非常に少なかった。しかもこれらの生息場所は、耕作が開始されると失われてしまうため極めて不安定で、容易に地域的絶滅を引き起こす可能性がある。
また河川・湖岸では、カヤネズミの営巣場所として適した、オギ・ヨシ群落があるにも関わらず、巣が見つからないことが多かった。カヤネズミの本来的な生息地であるこれらの場所で巣が見つかりにくいことは、憂慮すべき事態だ。
さらに今回の調査ポイント全てで護岸や改修工事が着々と進められており、巣があまり見つからなかったことと無関係では無いだろう。滋賀県は、カヤネズミにとって、もはや住みやすい土地ではないのかも知れない。
カヤネズミは水と縁が深い生き物だ。カヤネズミの生息地を守ることは、琵琶湖と、そこに流れ込む大小さまざまな河川の水環境を守ることに他ならない。貴重な種がまた一つ失われる前に、河川の自然環境の復元など、早急に何らかの保護対策を立てる必要がある。
![]()
・・・・・というようなことを報告書に書いておいたのだけれど、どこまで採用されるのか分からない(笑)ので、カヤ日記に書いておきます。いえ、決して信用してない訳じゃないんですよ(笑)。
最後に、お手伝いいただいた方々へ。
一日中クルマで走り回り、ヤブを見つけたら入り込んで巣を探しまくる強行軍にも関わらず、良く手伝ってくれて本当にありがとう。
このページに訪れたみなさんが、今年度の「いきもの総合調査」や「滋賀県レッド・データブック」のカヤネズミの項を見たとき、日記に書いてあることをちょっと思い出してもらえれば嬉しいです。